【乳がんと闘うエミリー】まさか30歳で乳がんに?

Society & Business 2021.11.15

2020年10月、インフルエンサーで企業家のエミリー・ドーダンはトリプルネガティブ乳がんを宣告された。乳がんのなかでも進行が速く、再発リスクが高いタイプだ。フランスでは年間9000人近くの女性が発症している。ピンクリボン月間の10月、エミリー・ドーダンは過酷だったこの1年を振り返った。

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乳がん検診の普及啓発のためにインスタグラムで乳がんを告白したエミリー・ドーダン。@emiliebrunette

ちょうど1年前、エミリー・ドーダンの生活は激変した。数ヶ月の間、何度か誤診を受けた後、診断が下ったのは2020年10月1日。ふたりの子どもを持つインフルエンサーのエミリーはトリプルネガティブ乳がんを宣告された。乳がんのなかでも稀で(乳がんの15~20%に当たり、フランスでの年間発症数は約9000人)、進行の速いタイプだ。とくに40歳以下の女性に多く見られるトリプルネガティブ乳がんは、治療が難しく、治療後3年以内の再発率も高い。ルーアン出身の企業家で、SNSでは@emilebrunetteの名で知られるエミリー。若干33歳でこの想像を絶する闘いに挑まなければならなくなった彼女は、予防を呼びかけるためにがんをメディアで公表するという大きな決断をした。

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がんの最初の兆候が現れたのはいつだったのか。エミリーは時を遡ってゆく。思い当たるのは、2019年9月に娘のペルニーユを出産したときだ。母乳の量がとても多かった。上の子のときにはなかったことだ。「実際に関連があるかどうかはわかりませんが、右の乳房がとても痛かったのと、12月まで鈍い痛みが残ったことを覚えています」。去る2 月、出産育児をテーマとしたブログ「パルロン・ママン(Parlons maman)」のインタビューで彼女はそう語っていた。「1月になって、スポーツをしていたときに、乳房にしこりのようなものを感じました。でもすぐに考えるのを避けてしまった。30歳でがんになるわけがないと思っていました」

しばらくして彼女は助産師に相談する。助産師はしこりは見当たらない、筋肉が裂けたのだろうと言う。結局そのうちに最初のロックダウンが施行され、エミリーは乳房の痛みはもう気にしないことにした。ところが4月、息子に胸を蹴られたときに、強烈な痛みが彼女を襲った。「もう一度助産師に診てもらいましたが、”痛みを感じるならば心配はいらない”と言われ、整骨医に行くよう勧められました。私は言われた通りにし、放っておきました……。彼らの言うことを信用したのは、たぶん診断への恐れもあったと思います……」

 

 

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私は子どもたちを残していくのだと思った。

 

しかし夏になって痛みがぶり返す。痛みはさらに強くなっていた。秋になり、夫と親友に背中を押され、若いママはエコー検査とマンモグラフィを受けることにした。診断が下った。落ち込みはひどかった。「すぐに死のことを考えました。自分は子どもたちを残していくのだと。こんなことは私の人生プランにはない。たった30歳で! と。自分の身にこんなが起きるなんて考えもしませんでした。タバコも吸わないし、食事はビオ。遺伝的要因があったわけでもない……」と、1年経ったいま、エミリーはため息をつく。

その後の2週間はとてつもなくつらかった。散々泣いた。自分に何が起きているのか理解できなかった。「でもある日、私の身体が闘争モードに入りました。生きなければ、選択肢はない、この厄介な荷物を取り去って、抗がん剤治療を受けなければ、と自分に言い聞かせました」。最初の頃は、彼女が「戦場の同志」と呼ぶ、トリプルネガティブを患う女性たちのグループ「トリプレット(Triplettes)」が心の支えとなった。彼女もグループに加わり、トリプルネガティブ乳がんの周知や、研究促進のための活動を始めた。


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自分の身体の声をよく聞いて、少しでも疑いがあれば診察を受けるべき。
 

彼女は夫と相談し、かなり早い段階で、家族や身近な友人たちに病気について話すことにした。「私は隠しごとをするタイプではありませんし、彼らの支えが必要でした。この1年間みんなが親身にサポートしてくれて、私たちは本当に助けられました」。次に直面したのは、自分のコミュニティに対してどういう姿勢を取るべきかという問題だ。彼女はSNSやブログ、そしてポッドキャスト「Pow[her]」に多くのフォロワーを抱えている。

「隠すことは想像できませんでした。とくに治療が始まると外見が変化しますから。予防の呼びかけをしなければとすぐに思い立ちました。SNSの影響力は非難されることが多いが、利点もあるということを証明しなければと」と、エミリーは当時を振り返る。現在インスタグラムに15万人近くのフォロワーを持つ彼女は、自分の病気をテーマにしたポッドキャスト「トリプル・ネガティフ(Triple négatif)」の配信も始めた。「自分でも何か貢献できるかもしれないと思いました。8人にひとりの女性がこの病気に罹っているのです。女性たちがもっと自分の身体の声に耳を傾け、少しでも疑いを持ったら受診するように呼びかける、それが私の目標です」。活動の甲斐はあった。メディアを通して「カミングアウト」してから、彼女の元には何千人もの女性たちから、検査の予約を取ったというメッセージが寄せられた。そのなかには彼女のように、ガンを診断されたという女性たちもいた。

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高い再発リスク。


エミリー・ドーダンが治療の過程を公開し始めてから1年になる。最初の6カ月は静脈内注射による化学療法、そして4月に右乳房を切除する手術を受けた。乳房の再建は手術時には行わなかった。疲労、吐き気、脱毛…。彼女は自分の身体に起きた変化を包み隠さず報告し、2020年末にはスキンヘッドの姿を公開し、春には右の乳房の手術痕の写真も投稿した。

手術の後、エミリーは5月31日から7月2日の期間に放射線治療を25回受けた。現在は体内のどこかに潜んでいるかもしれないがん細胞を除去するため、経口薬による抗がん治療を受けている。これがあと数週間続く。その後は? この1年間の集中的な治療で疲弊している身体を休ませたいと思っている。乳房再建術を受けることを検討しているが、しばらく考えたいとも思っている。何であれ焦りたくはない。

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エミリー・ドーダン。photo: Sarah Lemarchis

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現在、彼女は治療を終え、経過観察期間に入ったところだ。大きな幸福感とともに彼女はこのステップを迎えたが、まだ気を緩めるわけにはいかない。「TN」乳がんは治療後18カ月から3年の間に再発するリスクがあるのを彼女は知っている。「再発すると、もう一方の乳房や手術痕など、別の部位に転移している場合が多く、最悪のケースでは、肝臓や肺などほかの臓器への転移が見つかることもあります。この場合は、残念ながら治療法はありません」

臨床実験に参加する彼女は、腫瘍ができていないことを確認するために、3カ月に1度、CT検査を受けている。その間も、この数カ月間そうしてきたように、彼女は自分の道を歩き続けている。この経過観察期間を有意義に過ごすために、彼女はいつものように、猛スピードで仕事のプロジェクトを進め、過酷な1年に終止符を打ち、新しいページをめくったところだ。

「病気のことを前ほど考えなくなりました。診察日の予定を忘れることもあるくらいです」と彼女は冗談めかす。「時間が経つのは速い。立ち止まって自分がこれからどうなるか考える時間は私にはありません。実際のところ、自分のことを顧みないのは、ひとつの強みです」

text: Marion Joseph(madame.lefigaro.fr)

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