【乳がんと闘うエミリー】仕事と闘病の両立へ。

Society & Business 2021.11.17

2020年10月、インフルエンサーで企業家のエミリー・ドーダンはトリプルネガティブ乳がんを宣告された。乳がんのなかでも進行が速く、再発リスクが高いタイプだ。フランスで年間9000人近くの女性が発症している。彼女はどうやって仕事と闘病の両立を実現させたのか。

ちょうど1年前、エミリー・ドーダンの生活は激変した。数ヶ月の間、何度か誤診を受け、診断が下ったのは2020年10月1日。ふたりの子どもを持つインフルエンサーのエミリーはトリプルネガティブ乳がんを宣告された。

乳がんのなかでも稀な(乳がんの15~20%に当たり、フランスで年間発症数は約9000人)、進行の速いタイプだ。とくに40歳以下の女性に多く見られるトリプルネガティブ乳がんは、治療が難しく、治療後3年以内の再発率も高い。ルーアン出身の企業家で、SNSでは@emiliebrunetteの名で知られるエミリーは、若干33歳でこの想像を絶する闘いに挑まなければならなくなった。小さな子どもを持つ母親は闘病中も仕事を続けた。


emilie-daudin.jpgトリプルネガティブ乳がん研究促進のために日々奮闘するエミリー・ドーダン。photo: Sarah Lemarcis

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エミリーはビジネスライフの質を維持しただけでなく、この1年間に多くの新たなプロジェクトに着手した。ほとんどワーカホリックのように、休みなく働いた。彼女がとくに力を注いだのが乳がん予防のための闘いだ。「始めはつらかった。11月に抗がん剤治療を始めましたが、最初の頃がいちばんつらかった。薬の影響で体調も崩しました。この頃は何も思うようにならなかった」と彼女は当時を振り返る。抗がん剤治療2クール目は前回ほど症状は重くなく、2021年初めには彼女はエネルギーを取り戻し、さまざまなプロジェクトを開始する。

病気の啓発のため、そして闘病中の女性たちに「希望を与える」ために、彼女はポッドキャスト「トリプル・ネガティフ(Triple négatif)」を開設した。初めてのコラボレーションにも挑戦し、ライフスタイルブランドのマイ・トラベル・ドリームスとTシャツ「Mama Warrior」を制作する。収益はがん研究を支援するためにARC基金に寄付した。こうして最初のステップを踏み出した彼女は、その後も活動の幅をさらに広げていく。
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自分の命以外に失うものは何もない。

「これまでもいろいろなことに手を出してきましたが、いまはより一層エネルギーいっぱい。人の役に立つさまざまなプロジェクトを進めることが、健康の維持につながっています。すべて最後までやり遂げるつもり。私には失うものは何もありませんから、自分の命以外は……」と、ブログ「パルロン・ママン(Parlons maman)」で彼女は語っていた。

並行して、彼女は自分の闘病についての本を書き始めた。出版は2022年9月の予定だ。「自分自身のことを中心に書くか、むしろ社会活動に力点を置くか、まだわかりません。まだ考えているところです……」と彼女は話す。いずれにせよ、『Liberté, égalité, maternité(自由、平等、母性)』に続く彼女の2作目の著作となる。

ここ数カ月はトリプルネガティブ乳がんの啓発活動と、研究促進のための資金集めに奔走した。とくに彼女が活動を共にしているのが「トリプレット(Triplettes)」というグループだ。グループのメンバーはみな彼女と同じトリプルネガティブ乳がんを患っている女性たちで、フランス国内の患者たちがより革新的な治療方法にアクセスできるようになることを目指して日々活動している。彼女たちはまさに最初の勝利を勝ち取ったところ。11月初めに新しい治療薬のトロデルヴィが承認されたのだ。この薬によって、従来の抗がん剤治療に比べて生存期間の延長が期待できる。

 

 

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ピンクリボン月間の10月には、セザンヌ、ローザ・カダック、オルタ、エリーズ・シャルマンなど、第一線のブランドとのコラボレーションを次々と発表した。毎回、収益の全額あるいは一部を、トリプルネガティブ乳がん研究支援として、ギュスターヴ・ルシー基金コンパス研究プログラムに寄付している。

ローカルから全国まで、あらゆるメディアで啓発活動を行なったエミリーの次の狙いは政府の力だ。彼女の目的は、中学校から女子生徒たちを対象にした乳がん教育プログラムを組み、彼女たちに触診の習慣を身につけてもらうこと。彼女の取り組みを阻むものは何もなさそうだ。彼女の闘いぶりを見たエマニュエル・マクロン大統領もSNS上で彼女に称賛を送った。

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仕事をするしかなかった。

1年経ったいま、つらかった日々を改めて振り返ってみて、仕事がとても励みになったと彼女は言う。「選択肢はなかった。仕事をし、生活を続けなければならなかった。保険に加入していなかったので、会社をストップするわけにはいかなかった。それに自分のプロジェクトも進めなければならなかった」。友人のエミリー・ル・ギニエクと共同で開設したポッドキャスト「Pow[her]」で、自分の病気をテーマに語った際に、彼女はそう説明している。

「一方で、現実を見せることが私自身にとって励みにもなった」と彼女は続ける。「だって朝になれば、起きて、着替えて、メイクをする。あるいはしない。私は自分の日常を公開することにしました。普段の生活のちょっとしたシーンや、髪の毛が抜けた頭や、抗がん剤治療の後の日々を。それでも生活は続いていて、私はできることをやっているということを見せたかった」

少しずつエミリーは調子を取り戻している。いまは落ち着いていると彼女は言う。「体調は良好です。現在は自分の会社の事務所の開設を準備をしているところです。私はページをめくります……。病気のことは以前ほど考えなくなりました。診察予定日を忘れてしまうくらい!」と彼女は冗談めかす。がんを患うすべての人たちに向けて、普通の生活を続けるために、仕事を続けたほうがいい、あるいは何か一生懸命打ち込める活動を見つけるといいと彼女はアドバイスする。

抗がん剤治療を終えた4月12日に自身が運営するポッドキャスト「トリプル・ネガティフ」で、すでに彼女はこう語っている。「ここ数ヶ月間に起きたことをすべて実感できているかどうかはわからない。仕事のおかげで救われたと思う。これは本心です。何時間も仕事に没頭していると、1日があっという間に過ぎる。一瞬たりとも退屈しなかった。見たいドラマや読みたい本がずいぶん溜まってしまったくらい……。仕事のおかげで落ち込まないでいられた。がんとふたりきりにならずに済んだ……」
 

Text: Marion Joseph(madame.lefigaro.fr)

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