「わが家の絆は壊れていません!」日本人の妻と夫婦別姓歴20年。
Society & Business 2021.12.08
文/周 来友(ジャーナリスト、タレント、YouTuber)
もとより夫婦別姓の中国で「社会秩序の崩壊」や「家族の一体感の喪失」は一切起きていない──そもそも、いまの日本に強い絆で結ばれた家族がどれだけいるのか。
photo: iStock
今年、私は結婚21年目の年を迎えた。ただ、日本人の妻は旧姓のまま。つまり私たちは夫婦別姓だ。世界で唯一、法的に夫婦同姓が強要されている日本でも、外国人と結婚する場合はその範疇ではない。夫婦別姓に賛成する人たちが望む「選択的夫婦別姓」が例外的に認められているわけだ。夫婦別姓が盛んに議論されているいま、この例外措置を知る人も少なくないだろう。
それでも、日本で20年以上「別姓生活」を送ってきた、しかも男の側の意見というのはなかなか貴重だろうから、ここで言わせてもらいたい。保守派は何かにつけ「夫婦別姓は家族の絆を壊す」と主張するが、わが家の絆は壊れていません!
来日当初、夫婦同姓のことを知った時は、まるで男を持ち上げるためにつくられた制度だと思った。「うちの女房です」なんて紹介し、男の占有欲を満たす。私の生まれ育った中国はもとより夫婦別姓なので、中国より遅れているのかと驚いたものだ。
高市早苗氏ら保守派議員は「夫婦別姓は家族の絆を壊す」と主張するが……。photo: ISSEI KATO-REUTERS
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中国では、結婚で姓が変わることはない。子どもはどうするかというと、どちらかの姓を選ぶ。大半は父親の姓になるが、社会的地位の高い女性が増えていることもあり、母親の姓を名乗ることもある。最近若い世代の間ではユニークな名付け方もはやっていて、母親の姓を子どもの名前に入れる夫婦もいるらしい。つまり、周さん(夫)と王さん(妻)に子どもが生まれた場合、「周王来友(姓が周で、名が王来友)」といった名前を付け、役所に届け出るわけだ。
訳が分からない? 確かに。でも西洋にだってミドルネームがあるわけだし、名前の付け方にもいろいろな選択肢があっていいはず。11月に出版された『夫婦別姓──家族と多様性の各国事情』(栗田路子ほか著、ちくま新書刊)によれば、ドイツでは結婚した際、夫婦同姓、夫婦別姓、連結姓のいずれかを選ぶという。連結姓というのは、自分の姓に相手の姓をハイフンでつなげる方法で、夫婦のうち片方だけが採用できるのだそうだ。
多様化が進む世界で、夫婦別姓を拒否し続けている日本。反対派は「日本の伝統」だと言うが、その歴史もたかだか150年。江戸時代まで日本の庶民は姓など持っていなかった。明治維新が起こり、姓を付けろと言われた人々が、「田んぼの中だから田中にしよう」といった程度の理由で決めたにすぎない。適当に付けた姓と言ったら怒られそうだが、そんな姓がなければ維持されない絆や社会秩序って何だろう。そもそも、いまの日本に強い絆で結ばれた家族がどれだけいるのやら。
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私は保守派の意見に賛同することも少なくないが、この夫婦別姓に関しては、その主張にどうも納得がいかない。夫婦同姓なんて何の役にも立っていないし、女性たちに不便を強いているだけではないか。
もちろん、私が生まれ育った中国も決して完璧な社会ではない。男女平等をうたいながらも、地方では依然、男尊女卑の意識が強く、子どもの大半が父親の姓を継ぐなど父系制が色濃く残っている。それでも、高市早苗氏ら保守派議員が言う「社会秩序の崩壊」や「家族の一体感の喪失」などは一切起きていない。それどころか家族の絆は日本よりはるかに強いものがある。
私の子どもたちはみな、妻の姓を名乗っており、中国人の友人からは半ば冗談で「おまえは子どもが4人いるが、実質的にひとりも残せないじゃないか」と言われたことがある。そんな言葉にいささか寂しさを覚えてしまう私自身、少々保守的な人間だ。でも、夫婦別姓で困るのはその程度のこと。同姓を強いられる人たちが直面する問題には遠く及ばない。今後はLGBTQの問題も絡み、夫婦の概念そのものにも発想の転換が必要になってくるだろう。現政権も多様化を進めると言っている以上、夫婦別姓問題にも柔軟に取り組んでもらいたい。
周 来友
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院修了。通訳・翻訳の派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレント、YouTuber(番組名「ゆあチャン」)としても活動。
text: Zhou Laiyou