起業で天職を見つけた、10人の女たち 幼少期から、和の伝統の豊かさに触れ合う機会づくり。
Society & Business 2021.12.19
社会と向き合い、自身の夢を描き、それを起業という形で現実のものにした女性たちがいる。
天職と出合った人の女性が伝える、仕事を始めた理由と、働くことの意義。
矢島 里佳
和える 代表取締役
1988年生まれ。幼い頃から伝統文化に惹かれ、大学4年で、和えるを起業。本社は東京で、自身は3年前に京都に移住。京都の拠点、aeru gojoにて。
https://a-eru.co.jp
子へ引き継ぐ、和の伝統。
日本の伝統を次世代に繋ぐため、多様な事業を展開する、和える。起業は2011年、矢島里佳が大学4年生の時だ。中学校で茶華道部に入部し、19歳から日本各地の伝統産業の職人の工房を訪ね、情報発信をしていた。多くの職人や伝統産業品と出会う中で、その魅力に幼少期から触れられる環境を生み出したいというビジョンが固まり、0歳からの伝統ブランドaeruが誕生。①日本の伝統が未来に繋がる、②“三方良し”以上、③文化と経済の両輪、この3つが達成される、あらゆる事業に挑戦。いま核となるのは、伝統産業をツールに豊かな感性を育む教育事業、地場産業を次世代に繋ぐためのリブランディング事業など。母となった現在も“伝える職人”として前進を続ける。
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ー 起業の際に苦労したことは? どう乗り越えましたか?
最も苦しかったのは起業して2年目に、会社の資金も私個人の貯金も底をついて、職人さんへの支払いができなくなってしまったこと。結果として職人さんたちが助けてくださり、それが家族や親戚のような信頼関係づくりに繋がりました。
ー 起業してよかったことは?
会社勤めの経験がないので、日本社会の当たり前を当たり前と思わずに、素直にいいと思うことを実践できること。転職してきた社員には驚かれるけれど(笑)。たとえば、働く場所や給与などは自分で決められることや、心も身体も健康でないといい仕事ができないから、毎月社員全員が鍼灸を受けられることなど。
ー いま取り組んでいる事業は?
秋田を拠点に、里山をテーマパークとして捉え直すプロジェクトがあります。長年温めていた構想で、やっと2021年にローンチできました。自然とともに生きる、というのが日本文化のベース。多彩なアクティビティを用意し、将来的には伝統産業に必要な原材料供給地にもなるような計画を立てています。
ー これからやりたいことや最終的な目標は?
究極は、美しい社会で生きたい。つまりゴキゲンな人、幸せな人であふれる社会。伝統産業には人の心の豊かさや感受性を育み、優しい気持ちにする力があるので、次世代へ繋げたいです。
ー 憧れの人もしくは目標とする人物を教えてください。
いろいろな人に出会う中で、ちょっとずついいところを取り入れて自分の中で和えた“理想の大人くん”というのが子どもの頃からいます。何をするにも次世代のことを考えて、自分に素直で、心身ともに健康、どこか余白があり、 一歩引いて全体を見ながら、常に最適解を出せる人です。
ー 働くことのモチベーションは?
「生きる」と「働く」が、私の中では一緒になっているので、あまり考えたことがありません。より美しい社会で生きていたいから、自分にできることをやっている感じ。1日24時間をゴキゲンでいられるように考えて、暮らしの時間を心地よく配分しています。
ー 人生のモットーを教えてください。
“三方良し”以上。学生で起業し、経営のノウハウを知らずに10年間続けられたのは、三方良しに忠実に生きてきたから。自分も、相手も、社会もうれしければ継続する。シンプルな経営哲学をひと言で表した先人はすごいと思います。仕事だけでなく、人生の中で何をするにしても、常に大切にしていることです。
*「フィガロジャポン」2022年1月号より抜粋
photography: Yoshiki Okamoto editing: Natsuko Konagaya