起業で天職を見つけた、10人の女たち フォルムを変えるトルソーで、人と社会に寄り添う服作り。
Society & Business 2021.12.20
社会と向き合い、自身の夢を描き、それを起業という形で現実のものにした女性たちがいる。
天職と出合った人の女性が伝える、仕事を始めた理由と、働くことの意義。
オードレー=ロール・ベルゲンタル
Euveka プレジデント
1982年、フランス・パリ生まれ。産業財産権の法律を学び、弁護士への道を踏み出すが、ハーバード大学第3サークルへの留学を断念して現職に転身。企業名のウーヴェカは、いい発想を得た時の「ウーレカ!」という叫びから命名。
www.euveka.com
弁護士から転身! 自在なトルソー作り。
服が体型に合わないと、嘆く人が多いことが気になっていた。服作りの現場で使われるトルソーは、周囲の誰の体型にも似ていない……。弁護士の卵だったオードレー=ロールは、マネキンの並ぶウィンドウの横でするりと開く自動ドアを見て、体型が変化するトルソーのアイデアを得た。デジタル技術と繋げて体型を自由に変えられるトルソーがあれば、単なるサイズ別ではない実際の人体に合わせた服作りが可能になる。
「インパクトを与えるためには服作りの核心を学ばなくては」と、学校でファッションを学び、実際に現場で パタンナーとして働いた。28歳の時、独学で体型を変えられるトルソーを開発。特許を取得し、会社を立ち上げた。トルソーの製造にとどまらず、体型データを集積・分析することで、コスト削減からトレーサビリティまで、さまざまな可能性を視野に入れる。起業10年後のいま、服作りの現場からオンライン販売まで、多様な顧客の心を掴んでいる。
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ー 起業の際に苦労したことは? どう乗り越えましたか?
8年目に訪れた資金調達の苦境です。CESアワードやマダムフィガロのビジネス・ウィズ・アティチュードを受賞し、注文が押し寄せました。 急成長に資金繰りが追いつかず、従業員に給料も払えない倒産寸前に。その時、マダムフィガロが苦境を知って記事化してくれ、出資が集まったんです。連帯の輪が広がったおかげで、苦境を切り抜けることができました。
ー 1週間の仕事のリズムを教えてください。
平日は9時までに仕事を始め、18時30分までに終了。スタッフは南仏のヴァランスにある本社勤務なので、コロナ禍以前からテレワークが基本。週に1度、1泊2日で本社に行きます。
ー 家庭と仕事のバランスは どのように取っていますか?
家族との暮らしは大事。とはいえ、仕事が家族にのみ込まれないことも大切です。今年ふたり目の子どもが生まれたばかりなので、午後はなるべく早くパリ郊外の自宅に戻るようにスケジュールを調整。子どもたちの傍らで、1日の仕事を終えます。もちろんヴァカンスも取得 !
ー 憧れの人物を教えてください。
第2次世界大戦中にアウシュヴィッツの強制収容所に送られた経験を持ち、人工妊娠中絶の合法化など女性解放に向けて闘い続けた政治家シモーヌ・ヴェイユ。勇気、エレガンス、粘り強さから女性を擁護する姿勢まで、お手本。彼女の偉業を思うと、辛い時や落ち込んだ時も大した困難ではないと思えます。
ー 働くことのモチベーションを教えてください。
私のイノベーションは、エコロジーでエシカルだと信じていること。デジタル技術に直結したトルソーを使えば、服が顧客の体型にどの程度の割合でフィットするかを算出でき、生産の段階で発生する売れ残りを減らせます。ターゲットになる地域や年齢層に合わせて、パターンを微調整することも可能。モード界の構造的な無駄を根本から変える技術だと自負しています。
ー 人生でモットーにしている言葉は?
フランスの詩人ルネ・シャールの「チャンスを課し、幸福を握りしめ、リスクへと向かえ。そういう君を目にすれば、周りの人間も慣れるだろう」という言葉です。
ー これからやりたいことや 最終的な目標は?
2022 年にはアメリカ進出が決まっています。 中国でのパートナーシップをステップに、アジア市場も広げたい。いま私たちは、モードのあり方を変えようとしています。でもこの技術と知識を持ってすれば、医療や航空宇宙の分野など他分野にも進出できる。最終的な目標は、フィットデータにおいて世界的なリーダーとなること。
*「フィガロジャポン」2022年1月号より抜粋
photography: Lucie Cipolla text: Masae Takata (Paris Office)