「ベビーカーにボトルを隠していた」 経験者が語るアルコール依存症。

Society & Business 2021.12.27

12月8日にフランスのテレビ局「フランス2」で放映されたドキュメンタリー番組「アルコールと女性」で、依存症を克服した6人の女性たちが、アルコール依存症の地獄でもがき続けた年月について赤裸々に語った。依存のメカニズムから再生まで、女性の間で増加傾向にあるアルコール依存症の内幕を、経験者が語る。

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アルコール依存症を経験した女性たちが、その内幕を語った。photo : iStock

1960年代にはフランス国民ひとり当たりの年間の平均純アルコール消費量は26Lだったが、それ以降アルコールの平均消費量は年々減少しており、2017年は同12Lにまで減っている(1)。

その一方で、女性のアルコール消費量は増加し続けている。アフターワーク、オンライン飲み会、短時間に酔うために多量のアルコールを摂取する“ビンジ・ドリンキング”……。現在、50万~150万のフランス人女性に問題のある飲酒行動が見られるといわれており、毎年1万3000人の女性がアルコールが原因で亡くなっている。男性に比べて発見や治療開始が遅れる傾向があるだけでなく、アルコール依存症による影響も女性のほうがはるかに深刻だ。

このタブーを打ち破るために、映画監督のマリー=クリスティーヌ・ガンバールがパリのサン・タンヌ病院にカメラを持ち込んだ。女性専門アルコール依存症診療を初めて導入した、依存症専門精神科医のファトマ・ブーヴェ・ドゥ・ラ・メゾンヌーヴの診察室がその現場だ。患者の証言を通して、ドキュメンタリー「アルコールと女性(2)」は依存のメカニズムに迫って行く。

ほとんどの場合、最初は付き合いで飲み始め、そのうちにひとりで飲酒する習慣が定着するという。隠れて飲む、酔っている姿を人に見せない。依存に加えて、よい母親、尊敬に値する女性ではないという恥ずかしさにさいなまれる。依存症のことは人に話すべきではない、という思いに囚われ、彼女たちはなかなか助けを求めることができない。その結果、医療機関を受診するタイミングが遅れてしまうケースが多い。

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“あらゆることがアルコールを中心に回っていた”

シルヴィ、ミシェル、イザベル、ステイシー、アリアンヌ。彼女たちはみなアルコール依存症を克服した女性たちだ。何年間も依存症に苦しみ、断酒するに至った彼女たちが、顔を出してカメラに向かう。彼女たちはまず、自分でも気づかないうちにゆっくりと地獄へ落ちて行った過程について語る。

「20歳までアルコールはまったく飲んだことがなかった。私にとっては耐え難いものだった。子どもの頃の家庭環境のせいで、アルコールには嫌悪感を持っていた」とイザベルは話す。幼児期に性的虐待を受けたイザベルは、アルコール依存症の暴力的な母親のもとで育ち、「同じパターンを再生産する」のは嫌だと考えていた。しかし30年後、仕事のプレッシャーと「人に認められたいという強い欲求」から、彼女は依存症に陥る。

ドキュメンタリーフィルムのなかで、メゾンヌーヴ医師が解説しているように、身体的・性的な暴力はアルコール依存症のリスクを36倍高めるという。ミッシェルがそうだった。夫から暴力を振るわれていた彼女がアルコールを飲み始めたのは、殴打に耐えるために「もっと強く」なるためだった。それがいつしか世帯の収入をすべてアルコールにつぎ込むほどになる。「生きている気がしませんでした。すべてがアルコール中心に回っていた」。22年間依存症に苦しみ、現在は断酒を継続している。

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ベビーカーにボトルを隠して

精神科医のメゾンヌーヴによると、アルコール依存症のリスクが高い職種は、医療関係、メディア、教育業界。アルコール依存になりやすいタイプには、完璧主義の人や自己犠牲の精神が強い人などが挙げられる。ストレスやハラスメント、過度の精神的負担を抱えている女性もリスクが高くなる。

家事と仕事の二重の負担を負う女性たちは、1日の終わりには1杯かそれ以上のアルコールでリラックスしたいという誘惑がさらに大きくなる。女性の人生には、子どもの自立などを機に、虚無感が生じやすい時期もあり、「そのときにアルコールは良き友となり、そのうち手強い敵になっていく」とメゾンヌーヴは説明する。

アリアンヌは自分が依存症であることを認められなかったのはアルコールの社交的側面のせいだと話す。貴族階級出身の彼女は長い間、「澄み切った、美しい泡の立つお酒なら、依存症などありえない」と思っていた。上級管理職の彼女はアルコール依存症を隠し体裁を取り繕うために、20年間あらゆる手を尽くした。11年間断酒を継続している彼女は、ベビーカーにボトルを隠したり、「足が付かないように」違う店でお酒を買っていたと明かし、そうした行動を取る自分が恥ずかしかったと回想する。

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病気

「男性が酒を飲むと、人生を謳歌していると言われる。女性が酒を飲むと、堕落していると言われる。尊敬に値しない女性というわけです。それからとくに、悪い母親だと見なされる」と、自分の経験を語りながらシルヴィは分析する。7年間アルコール依存症に苦しみ、夫と仕事を失い、養子に迎えた息子まで失いかけた。自分自身に対して嫌悪感を抱き、自尊心を失っていたと語る。「アルコールは何もかも麻痺させ」、「生きる気力」を奪い、「女性らしさを損う」

9年間アルコールを絶っている彼女は現在、アルコール依存症の予防・啓発運動を行う団体「Janvier Sobre」の活動に参加している。アルコール依存症は病気であり、「人に話すのにもう恥じる必要はない」と訴えるために。

真摯な証言を集めたガンバール監督のドキュメンタリーフィルムをきっかけに、あらゆる社会階級の女性の健康に関わるこの問題についての議論が今後本格化するに違いない。監督が語るように、「この女性たちは“異常者”ではなく、依存症と重い責任に圧迫されてきた人たちなのです」

(1)出典:フランス国立保健医学研究所「フランス国民とアルコール」
https://www.inserm.fr/dossier/alcool-sante/
(2)12月8日22時55分よりフランス2で放映された。

texte : Stéphanie O’Brien (madame.lefigaro.fr)

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