仕事と子育ての両立は本当に可能? フランス女性の働く事情。

Society & Business 2022.01.18

仕事と子育てを両立し、ヴァカンスも謳歌。信念を持って起業する女性も多い。私たちが抱くパリジェンヌのイメージはワーキングウーマンのお手本! でも、フランスって本当に働きやすいの? マダムフィガロの編集者に、フランスで働く女性の実情を聞きました。


フランス女性はみんな働いている、というイメージがある。2011年のフランス国立統計経済研究所の統計によると、18歳から59歳までの女性(学生を除く) の働く割合は86%。「原則として、すべての女性は学校を出て働くというのがフランスの基本的な考え方。もちろん専業主婦はいますが、世間の目が冷たくて、働いていないことに胸を張るのは難しい。『家事も子育ても仕事だから』と言い訳するような形になってしまう」と話すのは、本国フランス版マダムフィガロのビジネスページ副編集長モルガン・ミエル。社会&カルチャーページ編集長のヴィヴィアンヌ・ショカは、フランス女性が働く理由は、第一に、男性同様、生活するお金を得るため。そして、自分の人生に意味を与えるため。この国の女性たちには、本当の意味で自立したいという願望があります」と言う。

01-french-womens-worker-210107.jpgphoto: iStock

労働時間は日本と同じでも、ヴァカンスは5週間。

働く女性の比率が高いのは、働きやすい環境が整っているということなのだろうか。まずは、基本的な条件を日本と比較してみよう。日本では、厚生労働省の定める労働時間は週に40時間。一方でフランスは、2000年に1週間の労働時間が39時間から35時間に短縮された。

「これは法律上の規定であって、誰もが当てはまるというわけではありません。たとえば、上級管理職は労働時間という観念のない給料体系なので、多くの人が週に35時間以上働いています」(モルガン)

「好きな仕事なら労働時間は気にしない、という風潮もあります」(ヴィヴィアンヌ)

フランスでも、労働者の30%が週に平均15時間は残業をしているという数字もある。なかでも、IT関連、マーケティング、銀行、保険業界は残業時間が多い業界と言われている。いずれにせよ、フランス人の実際の労働時間は日本人とはそれほど大きく変わらないようだ。

では、有給休暇についてはどうだろうか。日本では10日以上の年次有給休暇が付与され、勤続年数が増えるごとに日数が加算されていくが、フランスは勤続年数にかかわらず、年間5週間(30日、ただし土曜日も含む)と決まっている。また、労働時間が週に35時間以上とされる職種では、JRTT(時短休暇)という形で休暇の日数が増えるケースもある。

「フランス人にとって、有給休暇は神聖なもの。5週間の休暇は、フランス人のメンタリティに深く根を下ろしています。ほんの一部の例外を除けば、取得率は100%」(ヴィヴィアンヌ)

ヴァカンスの国というイメージどおり、誰もが遠慮することなく休暇を取る。

また、ベビーシッターや家事代行の利用が浸透しているのも女性の社会進出を後押しする要素として見逃せない。アイロンがけや掃除など、週に1、2回家事代行サービスを利用するという家庭が多い。

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産休と育休制度、フランスは意外とシビア!?

フランスでは、妊娠中の女性が産後に仕事復帰するのは当然とされるが、それでも女性のキャリアにとって、子どもの誕生が最大の変化であることに変わりはないという。

「出産を機に、キャリアに本当の意味で男女格差が生まれます。子どもふたりまでは同じ職場で仕事を続ける女性がほとんどですが、3人目となると職場を去る女性が出てくる。それが後になって、年金受給額の男女格差に繋がります。女性の年金は、男性より平均27%も低い。これは、キャリアが子育てで断片化されているせいです」(ヴィヴィアンヌ)

フランスの産休制度は、母親が産前に6週間、産後10週間。2021年の改正で、父親の産休もぐっと増えて28日までとなり、そのうち取得義務は、産前3日、産後4日になった。とはいえ産休の日数は日本とそれほど変わらない。意外な違いが見えてくるのは、育児休業の取り方だ。

フランスの育児休業は、両親どちらも子どもが3歳になるまでの間に最長1年で2度まで取得可能。ただし、「統計を見ると、父親の取得率は1%未満と極めて低く、女性でも14%の取得率にすぎません」と、ヴィヴィアンヌは指摘する。一方で日本では出産後も仕事を続けた母親の育児休業取得率は8割、父親の取得も推進する動きが加速している。日本の母親は産休と育休合わせて1年以上休むことが一般的だが、フランスでは出産した女性のほとんどが産後10週間で職場復帰しているのだ。

「女性たちは育児休業を取ることを怖いと感じています。ただでさえ、妊娠、出産はキャリアにおいて不利なもの。育児休業で職場を1年も空ければ、復帰後に同じポストや給与が待っているとは限らない。もちろん法律上は保証されていますが、現実は違います」(ヴィヴィアンヌ)

「産休中は会社と社会保険制度から給与が得られますが、育児休業中は無収入。それも大きなネックになっています」(モルガン)

worker-02-211227.jpgphoto: iStock

だが、産休明け早々に職場復帰するには、生後2、3カ月の子どもをどこかに預けなくてはならない。妊娠と同時に女性たちの頭を支配するのは「crèche(クレッシュ)」という言葉だ。クレッシュとは、2カ月から3歳までの子どもを預かる施設。自治体や親たちの団体による運営、あるいは、資格を持つ保育士が自宅で複数の子どもを預かるタイプなどがあるが、どこも常に空きが不足している。キャリアを諦めない女性たちはさまざまなネットワークを駆使して、その危機を乗り切っているのだ。ヴィヴィアンヌとモルガンも、この危機を乗り越えた経験を持つ。我が子はふたりとも成人しているヴィヴィアンヌだが、出産当時は日刊紙の記者として多忙な毎日を送っていた。

「長女の時はクレッシュに空きが見つかり、16週間の産休後に職場復帰。クレッシュの終わる18時以降は、fille au pair(フィーユ・オ・ペール:住み込みで子どもを預かる女子学生)に面倒を見てもらいました。9時に預けてから、次に娘の顔を見ることができるのは20時。罪悪感でいっぱいでした。ふたり目の時は3歳児と乳児を抱える生活に1年で力尽きてしまい、上司は不満そうだったけど、6カ月ほど時短育休を利用しました。子どもの世話のために通いの保育士を雇ったので、金銭的な犠牲は大きかった」(ヴィヴィアンヌ)

一方でモルガンは、7歳と5歳のふたりの子育て真っ只中だ。

「ひとり目の時は、産休の後に2週間の休暇を加えました。その後もクレッシュに空きがなくて、別の家庭と共同で保育士を雇い、費用を半分に節約したんです。2年後にふたり目が生まれた時は、フルタイムで通いの保育士を雇いました。幼稚園に入ってからは午後からのハーフタイムに切り替えて、家事とお迎え、家族全員の夕食の支度などを依頼。学校休暇期間や子どもが病気の時にも来てもらえる契約を結んでいるので大助かりです。でも保育士の給料は、住宅ローンと並ぶ我が家最大の出費(笑)」(モルガン)

子どもの義務教育は3歳から、幼稚園と小学校はおおむね8時30分から16時30分まで。登校前の時間と下校後から18時頃まで、学校の構内で子どもを預かってくれるガルドリーは、働く母親たちの心強い味方だ。学校休暇中も、一日中子どもを預けることができる。

「フランスで働く母親が頭を悩ませるのは、17時30分から19時30分の時間帯。近所のママ友とお迎えをシェアして助け合うけど、それでも解決できない問題は母親にのしかかってきます。こういうことに対応するのは女性が8割、男性が2割という状況。よほど環境の良い職場は別として、子どもを理由に仕事を抜けるのはかなり難しい」(ヴィヴィアンヌ)

母親同士で連携を取り、プランBを探しながら緊急事態に対応する。子どもを残して仕事に向かうことに罪悪感を持ちながら、家政婦や保育士を雇って大きな出費という犠牲を払う。フランスの女たちも、キャリアを継続するために不屈の努力を続けているのだ。

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なぜフランスでは、女性の起業家が多いのか?

マダムフィガロがビジネス・ウィズ・アティチュードを立ち上げ、女性起業家の支援を始めたのは2016年のこと。ヴィヴィアンヌとモルガンは、このアワードを通して、たくさんの女性起業家と顔を合わせてきた。そもそもフランスでは起業する女性は多いのだろうか?

「現在、起業の40%は女性によるもので、この10年で10%ほど伸びています」(モルガン)

自身のプロジェクトを起業によって実現させたいという思いは男性と同じだが、女性にとっては労働時間の問題も起業理由のひとつだ。ある調査結果によると、仕事量が多すぎて家族と過ごす時間がなくなるとして、子どもの存在は起業の障壁になると考える人がいる一方で、家族と過ごす時間を作るために起業する女性もいるという。しかし、たとえ家族と過ごす時間を作ることが起業理由であっても、経営コーチが女性起業家にする最初のアドバイスは家政婦や保育士に頼ることだ。

「起業すると女性はたいてい自宅で仕事を始めます。すると、ランチタイムに家事をして、子どものお迎えも自分で行って、家事代行費用を節約しようと考える。でも、あなたは仕事をするために家にいるのであって主婦になるためではないと、コーチはアドバイスするんです。自宅で働くのではなくコワーキングスペースを借りなさい、というのも、よくあるアドバイスです」(モルガン)

しかし多くの場合、女性の立ち上げるビジネスは男性よりも規模が小さく、資金調達もしづらいことから継続が難しいというのが現実だ。

「成功の鍵は資金です。資金調達に成功している女性起業家は全体のたった3%。一方で、そうして資金調達に成功した女性が経営する企業は、男性が経営する企業よりも大きく伸びる傾向がある」(モルガン)

では、女性起業家に投資が集まらない理由はなぜなのだろうか。

「女性の持つビジネスプランに、ポテンシャルを見いだそうとしない投資家が多いから。投資する側はほとんどが男性なのです。人として自然な反応ですが、男性は自分に似ている相手、つまり男性を信用しやすいからです」(モルガン)

男女起業家における資金調達問題の差別をなくす活動を行っている団体SISTAが、投資家が起業家に行う面接での質問事項を調査した結果、男性起業家と女性起業家への質問に違いがあることも明らかになったという。

「女性起業家は、投資家から、予想されるすべてのリスクについて質問されます。でも男性起業家の場合は、予想される発展について質問されるという傾向があります。また女性への投資額は少額で、女性のほうも投資を求めるのをためらう傾向がある」(モルガン)

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パンデミックで、働き方が変わり始めた。

最初のロックダウンで、可能な職種は完全テレワークを行ったフランスだが、現在ではオフィスに戻る傾向が進んでいる。

「最初のロックダウンの時、部屋にこもって仕事をする夫を横目に、多くの女性が子どもの勉強の手伝いから家事までをこなしながら、キッチンやリビングでパソコンに向かいました。女性の状況はパンデミックで半世紀以上も昔に逆戻りしてしまった。彼女たちはオフィスに戻りたがっています。その一方で、20代、30代では、自分の時間を自由に管理したい、会社に行く日を減らして家族や友人との時間を作りたいという人が増えました。まだ平等とはいえないまでも、若い世代では父親の育児参加が積極的になり、家事の分担も進んでいるということなのかもしれません」(ヴィヴィアンヌ)

パンデミックを通して、世代間の働き方への意識が変化しているのは日本もフランスも同じようだ。

「9時前や18時以降には、会議を設定しないという企業が増えています。20年前には、20時に会議を入れられても文句は言えませんでした。いま大きな企業グループの女性管理職たちが、たとえば月に一度集まって問題提起し、意見交換するといったネットワークを作り、企業の意識を変えることに寄与しています。フランスでも、働き方への変化は始まったばかりです」(ヴィヴィアンヌ)

ヴィヴィアンヌ・ショカ/Viviane Chocas
ラジオ局RTL、日刊紙「ル・パリジャン」の記者を経て、「マダムフィガロ」へ。社会・文化担当編集長を務め、ふたりの子どもを育て上げた。小説を2冊上梓する作家の顔も持つ。
モルガン・ミエル/Morgane Miel
「マネージメント」誌を経て、2006 年、「マダムフィガロ」の記者に。働く女性や女性起業家についてのページを担当し、2年前からビジネス担当副編集長に。2児の母。

「フィガロジャポン」2022年1月号より抜粋

text: Masae Takata (Paris Office) photography: Mana Kikuta, Jean Picon (Madame Figaro / Morgane Miel)

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