女性の胎内で育てる必要はなくなる? 人工子宮システムの開発。

Society & Business 2022.02.09

From Newsweek Japan

文/川和田周

法律がこの技術の使用を許可すればの話だが、最悪の出生率に直面する国の未来にとって突破口になるかもしれない、と中国の科学者たちは期待を込める。中国科学院傘下の蘇州医用生体工学研究所の研究チームは昨年12月、人工子宮の環境で胎児に成長する胚を監視し、世話をする人工知能システム「AIナニー(乳母)」を開発したことを発表した。

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写真はイメージ photo:iStock

中国の医療専門誌『Journal of Biomedical Engineering』に掲載されたレポートによると、この「AIナニー」は、すでに多数の胚の世話を進めている。人工子宮あるいは「長期胚培養装置」と呼ばれる容器の中で、栄養価の高い液体で満たされたキューブを並べてマウスの胚を成長させるという。

この技術の応用を進めれば、人間の女性の胎内で育てることなく、体外で胎児を安全かつ効率的に成長させる可能性があると、同論文は述べている。

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2週間を過ぎたヒトの胚の実験研究は禁止。
 

今回開発された「AIナニー」は、24時間体制で胚を上下させながら、前例がないレベルで精緻に胚を監視することができる、としている。胚のわずかな変化の兆候を検出し、二酸化炭素や栄養の投入、環境を微調整する。

またこのシステムは、健康状態や発育の可能性によって胚をランク付けすることも可能だ。胚に重大な欠陥が生じたり死んだ場合は、機械から警告が発され、技術者は容器から胚を取り出す。

現在の国際法では、2週間を過ぎたヒトの胚の実験研究は禁止されている。

しかし、「典型的なヒトの胚発生の生理学には、まだ多くの未解決の謎がある」ためそれ以降の段階の研究は重要であると、タブーとされている領域に踏み込む必要性を、研究を率いた孫氏らは示唆している。

「この研究は、生命の起源とヒトの胚発生のさらなる理解に役立つだけでなく、出生異常やその他の生殖医療問題を解決するための理論的根拠を示すはずです」

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ネットでも議論「少子化解消の最良の解決策」。
 

中国は急激な出生率の低下に直面しており、2016年から5年間で新生児の数がほぼ半減している。国家統計局によると、昨年の人口純増数は過去60年間で最低だった。

その一方、中国の若い女性は中国のひとりっ子政策やその他の国の奨励策が大幅に緩和されたにもかかわらず、結婚と子ども優先な価値観をますます拒否するようになっていることを示す調査結果がある。

少子化は中国だけでなく、特に先進国社会にとっては深刻な問題だ。1月19日、スペースXのイーロン・マスクがSNSで「人口崩壊」に関する懸念を投稿すると、技術に詳しい人物が研究室で作られた子宮を最良の解決策として提案した。女性のキャリアを守り、出産に伴う苦痛、リスク、コストを軽減できるからだ。

中国のSNSにおいても、人工子宮や人口動態を逆転させるための最新技術の利用について議論が盛り上がっている。

孫氏らは論文で、この「AIナニー」は人間の目には見つけられない現象を検知し、そこから学習することができるため、「体外での長期胚培養技術の最適化と反復」が加速されると述べている。
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ヒツジもサルもマウスも。
 

人工子宮の技術は近年急速に発展している。特に早産児の成長をサポートする技術は進んでおり、2017年には米国フィラデルフィア小児病院の研究チームが、人工子宮システム「バイオバッグ」の中で早産のヒツジを正常に発育させることに成功した。

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Fox News-Youtube

胚の段階から人工的に育てる研究は、2019年、北京の動物学研究所の研究チームが、サルの受精卵を人工子宮の中で臓器形成段階まで持っていくことに成功。霊長類の胚が母親の体外でここまで発育が進んだのは初めてのことだった。

同年にはオランダの科学者たちが、未熟児を救うための人工子宮を10年以内に完成させるとBBCが報じている。

2021年3月にはイスラエルのワイツマン研究所のチームが、着床直前に妊娠中のマウスから抽出した胚を5〜11日生存(ネズミの妊娠期間は約20日)させた。胚は胎児の段階にまで成長し、後肢とそのすべての主要な器官を形成したという。

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人工か自然かで差別が生じる?
 

ただ、人間に胚の段階から「AIナニー」が使われるまでには様々な壁が立ちはだかる。北京の首都小児科研究所の研究者は言う。「問題になるのは技術ではなく、中国国内外での法的・倫理的課題でしょう」

現在、中国では代理出産は法律で禁止されている。現行の解釈では、人工子宮の技術は病院を代理親にすることになる。「どの病院も責任を負いたがらないと思います」と、前出の研究者。

人工子宮で胚から子どもを育て産むことは人口を維持するのに役立つかもしれない。しかし、社会的、心理的な影響は避けられない。「もし、すべての人がこの方法で生まれてくるのであれば、それはそれで結構なことです。しかし、ある子どもは親が産み、ある子どもは「AIナニー」が産むとしたら、大きな問題が生じるでしょう」

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text: Toru Funatsu

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