【独占インタビュー】ブリジット・マクロン、自身の闘いを語る。

Society & Business 2022.02.23

入院中の子どもたちのための活動に力を入れている、ブリジット・マクロン大統領夫人。2月5日の「黄色いコイン」募金の締め切りを前に、エリゼ宮にフランスのマダム・フィガロを迎え入れた。自身の闘い、優先事項、人生の哲学について、独占インタビュー。

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ブリジット・マクロンは、ベルナデット・シラクの跡を継いで、2019年6月以来、病院のための福祉財団の会長を務めている。photo : Matias Indijic

2月5日まで、ブリジット・マクロンは、2022年黄色いコイン募金(1)に全力を注いだ。2019年6月以来、病院のための福祉財団の会長を務め、入院中の子どもやティーンエージャーのために一年を通して力を尽くす彼女にとって、大事な瞬間だ。けれどもちろん、4月に大統領選挙を控え、彼女の視線はもう一つのキャンペーンにも向かっている。このインタビュー記事の締め切りの時点で、いまだに立候補表明をしていない候補者。だが、この候補者のキャンペーンにとって、彼女の果たす役割は大きい。この激動の冬、国家元首の妻である彼女は、自身が体現するシンパシーの力をわきまえている。

近寄りやすく、教養があり、ユーモラス。ロマンチックな運命に導かれた、アミアンの文学教師。ブリジット・マクロンは、この4年半で、まれに出演するテレビをはじめ、現場での人々との出会いに豊かな才能を見せ、セレブリティから慈善団体に至るまでのネットワークを築き上げることに成功した。

マダム・フィガロのチームをエリゼ宮に迎え、彼女は左翼に続く扉を大きく開けて、喜んで写真撮影に応じてくれた。1972年にクロード&ジョルジュ・ポンピドゥ夫妻がデザインを依頼した、明るいピエール・ポーランの間から、フジェールの間にある花柄の壁紙のブリジット・マクロンの執務室へ。

ベージュ色の革と木の大きな執務デスクは、マタリ・クラセのデザイン。デスクの上には家族の写真と本が置かれている。この日は、モリエールとともに、カリーヌ・チュイルの『la Décision』、クララ・デュポン=モノの『受け入れたならば』の表紙が見える。ここから、率直でダイレクトなスタイルの1時間30分のインタビューが始まった。話題は入院中の子どもたちからフェミニズム、デジタル、標準の重みまで。ブリジット・マクロンはすべてを明かしはしないが、何かを避けることもない。絶妙なバランスだ。

(1)黄色いコイン募金「Pièces Jaunes」は、元々、黄色いサンチームコインを募金箱で集めることから始まったもので、1989年以来毎年行われている。病院のための慈善財団による募金で、入院中の子どもたちやティーンの暮らしを改善するためのプロジェクトを支えている。現在ではpiecesjaunes.fr、ショートメッセージでの寄付も導入。

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——いまの精神状態を最もよく言い表す言葉は何でしょうか?

闘いです。私たちの活動は、闘いを続ける子どもたち、ティーンエージャー、家族のためのものだからです。病気と闘うにはたくさんの勇気が必要です。医療従事者も同じように、毎日、強い意志と決意をもって、患者のために闘っています。病院のための福祉財団の役割は、彼らがこの難しい時期を乗り越えることを助け、その闘いを支援することにあります。

——「疲労、心配、不確実性」がフランス国民のモラルに重くのしかかっている、とジャン=ジョレス財団(2)の調査が語っています。2年前から、コミュニケーションといえば病院の話題でいっぱいですが、入院中の子どもとティーンのウェルビーイングについての活動を、どのように進めていますか?

パンデミックのせいで、私たちの習慣や確実視していた事柄が大きく揺らぎました。ですが、フランス人の病院と医療関係者に対する信頼は不変です。黄色いコイン募金のような活動が、開始と同時に大きな成功を収めているのも、この事業による資金が可能にするプロジェクトが、いずれも寄付する人たちの目に見えるものだからです。だからこそ、この募金活動が毎年たくさんの人を動員しているのです。

(2)ジャン=ジョレス財団による調査「Une société fatiguée ?」
https://www.jean-jaures.org/publication/une-societe-fatiguee/

——2019年6月に病院のための福祉財団の会長に選ばれました。その8カ月後の20年3月から5月に、パンデミックの緊急事態が起こり、医師たちと常にコンタクトすることになられた。この2年間をどう振り返りますか。

最初のロックダウンは濃厚な時間でした。福祉財団のスタッフと電話連絡を密に取り、個人、企業、アーティストたちからもたくさんの連絡がありました。小切手を送ってくれた人、募金運動をオーガナイズした人もいました。フランス国民は大きな寛容を示しました。人工呼吸器などの医療機器を必要とする病院を支援し、精神科や老人養護施設に家族とのコミュニケーションのためのタブレットを4万個提供しました。シェフたちは食事の調理や配給を手伝ってくれました。続いて2021年には医療従事者たちに向けた寄付を募り、彼らが休憩したり、作業療法士や理学療法士によるケアを受けられる場所を用意しました。

——最初のロックダウンで、子どもたちへの暴力が増加しました。財団にはどんな情報が上がり、どのように対応されましたか?

この件については、早い段階でアラートを受け取りました。虐待、乳幼児の揺さぶられ症候群、家庭内での身体的、精神的暴力……。児童精神科医たちから、忌まわしい状況が報告されました。すぐに虐待の犠牲になっている子どもたちの発見、診断、フォローのためのプログラムを立ち上げました。子どもたちは、皆、何らかのタイミングで、病院を訪れるのです。ポイントになるのは、そこで虐待を発見し、こう伝えることです。「身体のこと、心のことを含めて、私たちが力になりますよ」と。

時には、法廷にまで援助が続きます。虐待の専門家である医師や心理学者、看護師、社会教育士から構成されるモバイルユニットを作りました。このユニットは複数の病院に置かれています。現在、他にもアミアン、ストラスブール、ボルドー、マルセイユにも設置を検討中です。チームは病院から病院へと飛びますが、病院以外にも、いじめや自殺未遂などがあれば、学校にも出向きます。これは、入院中の子どもとティーンエージャーに向けての大きなプロジェクトの一環ですが、教育の問題も含んでいるのです。

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エリゼ宮の東翼の扉を大きく開け、マダム・フィガロ・チームを迎えたブリジット・マクロン。photo : Mathias Indjic

「いじめを受けている生徒たちの手紙をたくさん受け取っています」

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——いじめに関する問題には、特にどのように対処されましたか?

この問題に力を注いでいる教育大臣のジャン=ミッシェル・ブランケールからの依頼で、一緒に取り組んでいます。個人的には、早い時期から、いじめにあっている生徒や両親からの手紙やメールをたくさん受け取っています。おそらく、教師という立場から、こういう問題に直面した経験があるだろうと思われるのでしょう。

——やはり経験がおありですか? 教壇に立っていた経験から何を得られましたか?

いじめを受けている子どもは多くを語りません。心の中に、ある種の恥ずかしさや罪悪感が根を下ろしているからです。ですが、発見することはできます。いじめられている子どもは、ある日急に目つきが変わります。時には一夜のうちに。服装も変わります。突然何枚も重ね着するようになったり、いつもはとてもエレガントな子が身なりに構わなくなったり……。

文章を書くことにも表れます。論文を採点すればそれがよくわかるのです。体育教師は、体操着や水着に着替えたがらなくなる生徒に気づく。学食の職員は、昼食を食べなくなる子に気づきますし、看護師や司書の職員も警鐘を鳴らすことがあります。2017年以来、サイバーハラスメントの問題にも取り組んでいますが、それも含めて、兆候を見つけることを学ばなくてはなりません。

「いじめを受けている子どもの目つきは突然変化します。時には、一夜のうちに」

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——グーグル、フェイスブック、ユーチューブ、インスタグラム、TikTokのパトロンたちとも面談されています。何を依頼されたのですか?

行動を起こす時だと言いました。無理難題を持ち出したわけではなく、ただ、13歳という年齢制限の遵守(注:フランスでは、13歳未満の子どもがSNSのアカウントを持つことが禁じられている)、フランス語を話すモデレーターの採用、子どもとティーンエージャーに向けての支援プログラムをお願いしました。また、ある種のコンテンツを迅速に削除できるツールも必要です。

子どもたちの多くは無防備で、我々の財団が支援するE-Enfance協会が運営する全国共通ヘルプライン3018の存在も知りません。SNS界のパトロンたちは問題の大きさを把握しているといいますが、SNSが子どもたちに与える悲惨な影響についての研究に反応してようやく動き始めたばかりです。いじめは中学で広がっていますが、小学校からすでに発生してることもあり、非常に憂慮すべき問題です。心配し過ぎでしょうか? 私にはわかりませんが、確信のようなものが私を行動に駆り立てるのです。私自身はアカウントは持っていません。とはいえ、アンチSNSというわけではありません。

——SNSは若い世代にとって情報源や支援、慰めになっていることもあるのではないでしょうか…。

もちろんです! SNSはドクター・ジキルとミスター・ハイドです。私はハイド氏の面を語ることが多いですが、ジキル博士を忘れているわけではありません。インターネットとSNSは最高のものをもたらすこともできます。でも不幸なことに、スティーヴンソンの小説はハッピーエンドではありません。ハイド氏が優勢になり、ジキル博士は自分に戻れなくなってしまいます。同じ闘いがデジタルの世界でも起こっているのです。

——いじめは、標準の重みや、他者との違いを罰するという考えに結びついています。教師時代、この問題にどう取り組んでいらっしゃいましたか?

道徳や寛容についての文章があれば、すぐに標準という考えが問題になり、いいこと、悪いこと、という座標軸が生まれます。でもこの標準という考えに私はあまり馴染めないのも事実です。私自身が標準的でないからです。なぜなら、自分に何が標準かを判断する資格があると思えないからです。長い間、こう考えなさい、とか、これはいいことかどうかなどを人に言われ続けたら、私は反抗します。

——確かにあなたの人生はあまり標準の範疇には入りませんね…。

確かに。でも意識してそうしたわけではなく、結果的にこうなったのです。もちろん、自分が行動を起こした瞬間もあります。人生の中には、その後の人生に大きな影響を与える選択をしなくてはならない時があります。選択には決断が必要で、時には痛みを伴います。その時がきたら、頼りになるのは自分自身の構造、それだけです。

——ご自身の構造はどんなものですか?

私は、常にエマニュエルと子どもたちを中心に形成されてきました(エマニュエル、と呼んだのは、大統領としてではなく、夫としての彼のことを言っているからです)。これまでずっとそうでした。難しい局面でも、私は決して一人だったことはなく、いつも子どもたちがそばにいました。世間の目に晒すことになってしまうので、子どもたちについてはあまり話したくないのですが、私にはこの強い柱があります。私の人生は普通ではありません、大統領の妻ですから。でも私を作り上げた基本となる価値観は非常にシンプルですし、これまでもずっとそうでした。

「私の発言、そして発言しないことさえ、全てが伝えられ、解釈される可能性がある」

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——その価値観は、大家族に育った子ども時代から来ているのでしょうか?

私は22歳の年齢差のある6人兄弟の末っ子です。そのせいで、姉や兄にお説教されると、あなたたちは私の親じゃない、と言い返したものです。構造を重んじるきっちりした両親で、私たちを深く愛してくれました。外出を許したり好きなことをさせてくれるなど、ある部分ではクールでしたが、他者を尊重することは絶対の価値観でした。このこと以外は、すべて許してくれました。

私は楽天的な方で、いまの瞬間を全力で生きています。そして、心の中で、死はどんな瞬間にもやって来る、どんなことも、いま、この場所でしか存在しないと確信しています。8歳の時(注:この時、彼女は姉を自動車事故で亡くしている)からそれが頭にあるのです。時間はない、だからさっさとやらなくてはと思うのです。いま、やらなければ永遠にできないかもしれない。これは映画「いまを生きる」のテーマ「カルペ・ディエム」でもありますね。

——エリゼ宮でも、ある意味その考えを当てはめているのですか?

ここでは、自分が思っていた以上に忍耐強い自分を発見しました。誰にでもいつでもなんでも言っていいわけではないと学びましたが、これは、なんでも話してしまう私にとって、本当に大きな努力のいることでした! 私が発言したこと、あるいは発言しなかったことのすべてが伝わり、解釈される。私は、全フランス人の大統領である共和国大統領の妻です。私自身が国民に求められたわけではない、ということはよくわかっています。ですから、自分の場所を見つけ、健康、カルチャー、そして教育の分野で私にできることを行なって、国民を支援するのは私自身の務めです。

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「ランボーは、絶対的、衝撃的な天才」

——なぜ文学に興味を持つようになったのですか?

読書は好きでしたが、最初はいわばボヴァリー夫人のような読書家で、歴史小説や時代小説、人生から旅させてくれるような小説が好きでした。それから少しずつ古典小説を発見し、それが一番好きな分野になりました。夢中になったのはフローベール。彼は圧倒的で、文章の中に言語を閉じ込めてしまいます。詩人で好きなのはボードレールと、絶対的、衝撃的な天才であるランボー。鏡の向こう側に連れて行ってくれるジャリーやイヨネスコなど、不条理文学も大好きです。

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病院のための福祉財団の会長を務めるブッリジット・マクロン。2019年6月にベルナデット・シラクから引き継いだ。 Matias Indijic

——教師は天職ですか?

教師とは、困難で、体力勝負、身体に染みついて離れなくなる仕事です。けれど、私が教師になろうと思ったのはわりと遅かった。3人目の子どもが生まれた時、私はかの有名な精神的負荷に耐えられなくなったんです。私は文学修士号を持っていて、ストラスブールでは教師を募集していた、というわけです。始まりは、中学のクラスでの状況と結果の従属接続節についてのフランス語文法の授業でした。

——「雇用のための天職学院(LIVE)」の会長も務め、LIVEの支援を受けて職業プロジェクトの実現を目指す、困難なプロフィールを持つ大人たちに教えていらっしゃいます。ここではどんなことをわかち合っていますか?

数学、文章や口頭での表現力、デジタルや英語などの授業を受ける人たち、小さなビジネスを立ち上げることを学ぶ人たちにとって、この一歩は非常に勇気のいるものです。ここで私は文学と一般教養を教えています。学院の扉を入ると、大統領夫人から、あっという間に教師に変わる。「ああ…これから勉強するんだ!」と彼らは思うわけです。そこには交流がある。みんな素晴らしい人たちです。中には難しい人生を歩んできた人もいますが、みんな一緒に、立ち上がり、生き生きと、ポジティブに歩んでいます。

——12月に退陣する前、何十年もこの言葉を避けてきたアンゲラ・メルケルが、デュッセルドルフ劇場の舞台で、作家のチママンダ・ンゴズィ・アディーチェと同席し、とうとう「私はフェミニストです」と告白しました。あなたはどうでしょうか?

私は男性とともに歩むフェミニストだ、と言いたいですね。つまり、女性がようやく発言し、自分たちが何であるかを語り、自分たちができることを示し始めたのはうれしいことです。でもこの闘いは男性とともに行うものだと考えています。

——男性に何を望まれますか?

私たち女性の声を聞き、理解し、ともに闘うことです。この闘いには男性の参加が必要です。女性が男性に対して反対しているという風に、男性に思ってほしくはありません。私は男性たちを愛しています。そして私にとって、フェミニズムは女性と男性がともに行う闘いです。

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「当初、買い物に出かけようとして『ノン』と言われ、『いいえ、それでも行くわ』と答えていました」

——15歳から20歳の若い女性たちが、激しい怒りを持って活動することについて、どう思われますか?

激しさはどんなものであっても心配になります。激しさを非難はしませんが、恐れを感じます。男女の関係、エコロジーなど、若い世代に世界が提示する姿は必ずしも彼らの意に沿うものではないでしょう。別のコードで世界をつくりなおそうとしていることは理解できます。

——最後に、大統領が次期選挙に立候補するか否かについて疑問の余地はなさそうですが…。

スクープはありません。私は、ここにやってきた時、「5年間の計画がある」と思いました。その後どうなるかはわからない。来る時が来ればわかるでしょう。

——毎日の暮らしの中で、5年間のエリゼ宮の暮らしで得たものは何でしょうか?

プライベートを守ることが非常に重要で、この件に関して妥協してはならないということ。大統領もそれを肝に命じています。ゆえにエリゼ宮内のプライベートフラットは聖域であり、誰もアクセスできません。ここで私たちは朝食と、公式行事のない時は夕食も二人だけでとります。またボディガードと暮らすことも学びました。当初、買い物に出ようとかネモ(注:マクロン夫妻の愛犬)を散歩に連れて行こうとすると「ノン」と言われ、「いいえ、それでも行くわ」と答えていました。いまでは交渉して、共存の道を見つけています。彼らの任務や責任も理解しています。

——シモーヌ・ヴェイユは「明日私たちを結びつけるものについて、私たちには責任がある」と言いました。あなたにとって、明日私たちを結びつけるものとは、何でしょう?

対話だと思います。どんなことがあっても対話を中断しようとしてはいけない。言葉と、耳を傾けることの力を、私は信じています。

text : Viviane Chocas, Anne-Florence Schmitt, Sofiane Zaizoune (Madame Figaro)

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