ウクライナ侵攻を、ロシアはどうやって自国民に隠しているのか。

Society & Business 2022.03.13

戦争が始まって以来、ロシア当局はメディアを抑圧し、SNSへのアクセスを制限し、政府に近しい少数の女性を通してプロパガンダを行っている。フランス国際関係研究所のジュリアン・ノセッティ準研究員が解説する。

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ウクライナ侵攻を受け、ロシア国内でも反戦デモが起きている。(サンクトペテルブルク、2022年3月2日) photo : Abaca/Aflo

ある国は包囲され、ある国は封鎖される。ウクライナ侵攻以来、ロシアは「特別軍事作戦」という言葉を使い、国民に耳障りの良いプロパガンダを展開している。いくつかの独立系メディアは閉鎖や放送停止を余儀なくされ、外国人特派員もモスクワやロシア国内での活動を停止せざるを得なくなった。SNSはブロックされ、制限され、親プーチンのレトリックであふれかえっている。

プロパガンダの立役者には、プーチン大統領の行動を正当化するために前線に立つことをいとわない女性たちがいる。その中には、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官、人気トーク番組の司会者オルガ・スカベーエワ、そして2月末から欧州連合(EU)によって放送が禁止されているチャンネルネットワークRT(ロシア・トゥデイ)の代表マルガリータ・シモニアンが含まれている。この3人はいずれもEUの経済制裁の対象だ。彼女たちの役割は? ロシア国民がこの戦争の本質と悪事を知るのを防ぎ、その抗議を避けることだという。フランス国際関係研究所(Ifri)のジュリアン・ノセッティ準研究員に話を聞いた。

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——(マダム・フィガロ)手ごわい検閲にもかかわらず、ロシア人は当初からウクライナ侵攻に反対するデモを行ってきました。情報はどのように届くのでしょうか?

(ジュリアン・ノセッティ)主にSNSと、TelegramやWhatsAppなどのインスタントメッセージアプリが使用されています。アプリを使っている人たちは、当局に目を付けられていることも認識しています。ロシア当局は、これらのアプリの普及を認識しており、長い間、アプリを制御、あるいはブロックしようと試みてきました。

——Facebookは開戦の1週間後にアクセスを遮断されましたが......

ロシア当局は10年近くFacebookを制限しようと試みてきました。この状況下で、これまで実行に移せないでいたことを断固として実施できる理想的な政治的正当性を見いだしたのです。

——どういうことでしょうか?

ロシアはメドベージェフ大統領の時代の2010年代以降、インターネットの「主権化」を進めてきました。具体的には、通信経路を国が一元管理することで、ネットに流通するコンテンツや情報を統制することです。2019年12月に採択された法律に基づくプロジェクトは、非常に大きな経済的コストがかかり、ロシア国民に対する過酷な社会政治的対価をも払わせることになりました。2017年以降、モスクワをはじめとする主要都市では、デジタル領域を標的とした一連の抑圧に対して、数多くの抗議活動が行われてきました。

——オールドメディアを対象とする法律もあります。

そうです。そして、ロシア政府は、ここ数週間で新たな一歩を踏み出しました。異論を唱える声を封じるだけでなく、SNSを含め、「戦争」や「侵略」など、事実を表現する言葉の使用を禁じ、法律で15年以下の懲役を課したのです。国営メディアも、クレムリンに近い実業家が支配する民間メディアも公式の発表に忠実です。前例のない、極めて流動的な状況です。

ロシアは鎖国状態です。このことは、数カ月後、あるいは数年後に、私たちがこの国についてどれだけ理解しているのか、という疑問を投げかけるでしょう。現在のロシア政権が存続したとしても、メディアやデジタル領域を封鎖し続けることができるでしょうか?

——自由の残るインターネットが、オールドメディアを補填すると期待できるでしょうか?

この10年、「テレビ派の国民」と「SNS派の国民」の対立が鮮明になってきています。前者は、労働者や年金生活者を中心としたプーチン大統領の支持基盤。一方のSNS派は、主に若者と都会で教育を受けた人々で構成され、デジタル・アクティヴィズムの中核をなしています。しかし、テレビでロシアのナンバーワンメディアであることに変わりはなく、また、政府に楯突くことはない。そして、テレビの視聴者は、都会の若者以上に、投票所に足を運ぶのです。

——この情報戦の標的はSNS派の国民ですか?

主な対象は、ロシア人全般です。政府は、ロシア国民の耳にプーチン政権の正当性に異議を吹き込むような出来事についての情報流出を防ぐことを目的としています。

クレムリンのもう一つの標的は、当然ながらウクライナ人です。大統領が逃げる、あるいは死亡するといううわさをSNS上で流し、彼らと大統領との間にある信頼の絆を切り崩そうとしています。

最後に、ウクライナに対するロシアの侵攻は、ヨーロッパに対する政治戦争でもあります。私たちの事実関係の認識にある程度の混乱を起こし、法の遵守や表現の自由といったヨーロッパの政治的価値観から距離を置くように仕向けることも目的です。

——このプロパガンダはグローバルな問題だということでしょうか?

過去15年間、欧米人はテクノロジーが民主主義のイデオロギーも同時にもたらすという約束と恩恵を前提として、デジタル外交を行ってきました。しかし、2016年以降、米国の選挙運動へのロシアの干渉に見られるように、クレムリンは敵対的なシナリオに対抗し、目的を達成するための手段としてデジタルを利用しています。

我々欧米人の目は曇っていたのかもしれません。テクノロジーは中立ではない。反民主主義的、権威主義的な目的に使用することもできるのです。今回の戦争でも、そのように使用され、重要な役割を演じています。

text: Sofiane Zaizoune (madame.lefigaro.fr)

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