有名ブランドもデジタル世界に続々参入! 「メタバース」は未来のファッションになるのか?

Society & Business 2022.03.14

高級メゾンブランドのファッションに身を包むアバターや没入型ファッションショー......。メタバースがファッションの未来形だとしたら? ブランドのデジタル・エルドラド(理想郷)となり得るのか? メタバースで何が起こっているのか見てみよう。

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2019年、ルイ・ヴィトンはゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」のキャラクター「キヤナ」に衣装を提供した。

あなたはもしかしたら気づいていないかもしれない。しかし、2021年の終わりから世界は一変した。正確には、10月28日にマーク・ザッカーバーグが、Facebook、Instagram、WhatsApp、Messengerの親会社を「メタ」(ギリシャ語に由来し、「その後」「超えて」という意味)と呼ぶことを発表してからのことである。

単なるブランド変更ではなく、世界最年少の億万長者が、月初めの株式市場で大暴落したFacebook帝国の歴史の第二章に進むことを意味する。2004年、ハーバード大学の寮の一室で、その新世紀の礎が築かれた。スピーチの中で、マーク・ザッカーバーグは、皆が耳にしたことのない言葉を預言者のように口にした:メタバース。(「メタ」と「ユニバース」を縮約した言葉)。彼によると、これは未来形のインターネットであり、年間100億ドル(約1兆1000億円)以上を投資するつもりだと言う。ブルームバーグの最新の推定市場価格は8000億ドル(約87兆円)だ。

モルガン・スタンレーの調査によると、メタバースは2030年にはラグジュアリー市場の10%、つまり500億ドル(約5兆5000億円)を占める可能性さえあるという。まさにデジタル・エルドラド(理想郷)だ。

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どのようにアクセスするのか?

メタバースとは、SF映画に出てくるようなパラレルワールドのことで、「永続的なデジタル仮想世界」のことである。機械で設計され、VR(仮想現実)ヘッドセットを介して、またはRoblox(ロブロックス)、The Sandbox(ザ・サンドボックス)、韓国のアプリのZEPETO(ゼペット)などの専用ゲームプラットフォームでアクセスすることができる。そんなもの聞いたことがない? 始まったばかりだから、無理もないだろう。現在メタバースという没入型のパラレルワールドでは、自分のアバターが移動したり、友人に会ったり、アイテムを買ったり、コンサートに参加したりできる(2020年にフォートナイトでトラヴィス・スコットが行ったものでは、1200万人のプレイヤーを集めた)。通常の社会活動はすべてそこにあり、3Dまたは、割とベーシックなグラフィックで描かれる。従来のゲームと似ているのは、メタバースがそれにルーツを持つからだ。2000年代に登場した、自分そっくりのアバターを仮想空間で進化させるゲーム「セカンドライフ」は記憶にあるだろうか? また、1992年にアメリカのSF作家ニール・スティーブンソンが小説『The Virtual Samurai(バーチャル・サムライ)』の中で使った造語「メタバー」も始まりのひとつである。

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デジタルファッションは、ファッションの未来形?

新型コロナウィルスによるパンデミックによって、消費者のお金の使い方が変化し加速する中、メタバースはファッションブランドにとって新たな開拓領域であり、真の戦略的チャレンジと言える。と言うのも、多くの人がデジタルファッションにのめり込み、企業ではメタバース最高責任者を設置するほどなのだ。デジタルファッションを作る方法はふたつある。いずれも新たなクリエーションであり、オンラインで購入可能だ。ひとつは、SNS上でバーチャルな自分を変身させる。(Republiqe、The Dematerialised、This Outfit Does Not Exist、Zero10、DressXなどのブランドがファッションアイテムを提供している)。もうひとつは、ビデオゲームを介してメタバースに直接アクセスし、仮想体験を行う方法である。

 

 

これこそが、最大手のラグジュアリーブランドがいま、熱意を持って取り組んでいることである。2019年、ルイ・ヴィトンはゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」のアバターに、ニコラ・ゲスキエールのサイン入りアイテムを着せることを提案した。2020年には、マーク・ジェイコブスが『あつまれどうぶつの森』に、クリスチャン・ルブタンが韓国のソーシャルゲームアプリ『ZEPETO』に参加した。2021年、有名ゲーム「フォートナイト」をジャックしたのはバレンシアガで、グッチはRobloxで没入型の「グッチガーデン」を訪れる機会をインターネット・ユーザーに提供した。2021年末、シャネルは振付師のブランカ・リーと組んで、没入型のダンスショー「Le Bal de Paris」を開催することを決定した。バーチャル・リアリティのヘッドセットを介して、シャネルのロゴはもちろん、自分の服を選ぶことができるユニークな感覚を体験することができる。

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なぜラグジュアリーブランドが関心を持っているのか?

この種のものとしては初めて、VRプラットフォームのDecentraland(ディセントラランド)が3月24〜27日までファッションウィークを開催すると12月に発表した。ラグジュアリーブランドにメタバースのためのテーラーメイド戦略を提供するエージェンシー、アル・デンテの創設者兼社長のパトリツィオ・ミチェリは、「ブランドの間に一種の熱狂と緊急性が感じられる」と、この動きが加速していると実感している。ラグジュアリーブランドにとって、メタバースは、人々をブランドストーリーに引き込み、新たな世界を展開し、新しい体験をしてもらい、遊びながら消費してもらうための王道であると言える。すでにある贅沢なライフスタイルを再現するのでもなく、現実をコピーするのでもなく、現実から逃避するのでもなく、それを増幅させ、橋をかけるという発想だ。その波は、InstagramやTikTokの登場以上に大きなものになりそうだ。そして、eコマースも好調になることを願っている。

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この新たな世界の買い手は誰?

2021年10月、ドルチェ&ガッバーナの「グラススーツ」というデジタルドレスが、過去最高の100万ドルの値をつけた。専用マーケットプレイス「UNXD」でのオークションは大盛況で、「ジェネシス・コレクション」の9点(ドレス2点、ジャケット3点、スーツ、王冠2点、ティアラ)が総額600万円以上の値をつけた。デジタル作品を購入したラッキーな人物は、ミラノのメゾンの工房でサイズに合わせて作られた「本物」の作品を手に入れることができた。おまけに、1年間ブランドのクチュールイベントに参加する権利も与えられた。パトリツィオ・ミチェリは次のように述べている。「潜在的な顧客は、暗号通貨で財を成し、仮想の土地を購入するなどしてメタバースに投資している人たちです」。

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ドルチェ&ガッバーナのジェネシス・コレクションから、NFTとして発売された9作品のうちのひとつ。

しかしそれだけではない。デジタルファッションは身近な存在だ。デジタル作品は数十ユーロから購入することができるのである。2021年12月、Zaraは韓国のアート集団Ader Error(アーダーエラー)とデザインしたZEPETOのコレクションを発表した。このアバター用のバーチャルファッションは、現実世界のZaraの一部店舗でも物理的に販売された。若者にアピールするのが狙いである。パトリッツィオ・ミチェリは「コミュニティを作り、ボキャブラリーや環境を学ぶことが重要です」と分析する。なぜなら、アルファ世代(Z世代の次に来る世代)はメタバース好きだからだ。2021年第1四半期、ゲーム「Roblox」の月間アクティブユーザー数は1億9900万人(うち67%が16歳未満)、「ZEPETO」のデイリーユーザー数は200万人(うち70%が13歳から24歳の女性)であった。

昨年12月、ナイキは「バーチャル・トレーナー」の制作を専門とする新興企業RTFKT(「アーティファクト」と発音)を非公開の金額で買収することを発表した。同時に、永遠のライバルであるアディダスは、イーサリアム暗号通貨で購入できるハイパーブランチのデジタルアバターのようなコレクションアイテム「Bored Apes」とのコラボレーションを発表した。総額2200万ドル(約26億円)超の特別セール!

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ナイキバーチャルスニーカー×RTFKT

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バーチャルバッグを買う理由

昨年は、バーチャルなグッチのバッグ(ディオニソスGGモデル)が、現実の世界よりもデジタルの世界で高く売れたそうだ。475Robux(Robloxの通貨)で売りに出されたものが、最終的には10倍近い35万Robux(約47万円)で落札されたのである。店頭では、2450ドル(約26万円)の高級アクセサリーとして販売されている。では、なぜデジタルグッチバッグを購入するのか? もちろん、メタバースで最初、かつ唯一の着用者になるためだ。 現実世界での贅沢と同じように、ここでの所有はステータスだからである。デジタルファッションの作品は、芸術作品のように、有名な非腐食性トークン「NFT」の中で機能する。ブロックチェーン技術により、ユニークで、トレーサビリティがあり、改ざんができないものだ。NFTの認証を受けたデジタルファッションを購入することは、排他性を買うことを意味する。要するに、メタバースにおける一種のVIPクラブへの入場券だ。心理学者で精神分析医、デジタル世界の鋭い観察者であり、「Réseaux (a) sociaux (社会ネットワーク、発売元:Larousse) 」の著者であるミカエル・ストーラは、「メタバースは、経験が何であるかは問題ではなく、重要なのはそこにいて、それを示すことであるという考えを増幅させるだろう」だと述べる。

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2021年のブリティッシュ・ファッション・アワードでは、メタバースデザインを対象とした初のファッションアワードが授与された。

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模倣品対策は?

昨年1月、エルメスはメイソン・ロスチャイルドと名乗る人物をメタバースでの偽造で訴えた。このアメリカ人アーティストは、「MetaBirkins(メタ・バーキンズ)」と呼ばれる100点のデジタル作品シリーズを、専用プラットフォーム「OpenSea(オープンスィー)」で販売した。これは、同社の象徴的なバッグを「NFT再解釈」したような作品である。エルメス側が提出した47ページの書類には、MetaBirkinsの総販売量は120万ドルを超え、単価は5~15イーサリアム(約176~520万円)であっただろうと記されている。アーティストが芸術的表現の自由を主張するいっぽうで、エルメスはブランドイメージと知的財産の概念に対する攻撃を非難し、これらのNFTを「偽エルメス製品」と表現した。この初のケースは、ハイパースペックなNFT市場を見直し、「ブランド」の概念そのものに疑問を投げかけるものだ。

いまのところ、パリの名門メゾンであるLVMHは、まだ偉大な「メタブランド」に乗り出してはいない。LVMHでも人々は慎重だ。ラグジュアリーグループのCEOであるベルナール・アルノーは最近、「メタバースは純粋な仮想世界であり、我々は現実の世界にいて、本物の製品を販売する」と明言した。それが正しく行われれば、おそらくブランドのビジネスにプラスの影響を与えるだろう。しかし、バーチャルスニーカーを1000円で販売しても、私たちは興味を持たないのが現実である。

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メタバースを恐れるべきか否か

アバター、VRヘッドセット、デジタル・リアリティなど、メタバースは1999年に公開された『マトリックス』の世界に酷似している。機械が人間を奴隷にし、幻の平行現実を作り上げ、人間をコントロールするというストーリーである。マイケル・ストーラは、私たちは間違いなく「世界的ゲーミフィケーション(ゲームの原則をゲーム以外に用いること)」の時代に突入していると言う。明らかに、私たちはすぐに満足できるように生きている。心理学者の彼は、このように超表面的な世界に自分を演出することは、特にティーンエイジャーに社会恐怖症を増長させるという心理的影響を警告している。「現実世界に戻るとき、身軽で身体の拘束から解放された仮想宇宙を離れるとき、一種の脱力感がある。それはエクスタシーへの下降に似ている。最初のSNSは中毒性があったが、メタバースでは、ソフトドラッグからハードドラッグになる恐れがある」と彼は予測する。ということは、もうすぐみなメタバースに酔いしれるのか? それを知っているのは、未来の私たちだけだ。

text: Séverine Pierron (madame.lefigaro.fr), traduction: Hanae Yamaguchi

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