アリーナ・カバエワ、ウラジミール・プーチンの心を射止めた元体操選手とは?
Society & Business 2022.03.26
女友達たちが最近、ウクライナでの戦争を止めるよう国家元首に説得してほしいと彼女に頼んだらしい、とアメリカの情報サイト「ページ・シックス(Page Six)」が報じた。ロシア大統領のパートナーといわれる女性の横顔を紹介する。
モスクワで行われた会談で言葉を交わすウラジミール・プーチンとアリーナ・カバエワ。(2004年11月4日)photo: Abaca
3月21日、「彼は誰の話も聞かないらしいが、彼女の言葉なら聞くかもしれない」と匿名の情報筋が情報サイト「ページ・シックス」に明かした。この情報筋によると、ウラジミール・プーチンのパートナーといわれるアリーナ・カバエワに、女友達たちがウクライナでの戦争を停止するようロシア大統領を説得してくれ、と強く求めたという。元体操選手は大統領にそうしたお願いができる状況ではないと答えたようだ。
「プーチンは何重にも警備を張り巡らしている」と証言者は続ける。「大統領に近づけるかどうかわからないとアリーナは言っている。たとえ近づけたとしても、再び子どもたちの元に戻れるかどうかわからないと」。この匿名の情報筋によると、彼女は安全な手段で渡航ができるように、異なる名前で登録された複数のパスポートを所持しているという。
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出国を求める署名活動
3月初め、ロシア国家元首がパートナーと目されるカバエワとふたりの間に生まれた4人の子どもたち(3歳の男児の双子と、7歳の女児の双子)を秘密裏にスイスに送り出したと「ページ・シックス」は報じていた。スイスは女児の双子の出生地でもある。それ以後、オンライン署名収集サイトChange.orgを通して、アリーナ・カバエワの出国を要求する署名活動が始まり、これまでに6万3500人以上の署名が集まっている。ロシア国内のメディアはこの件について現在のところ沈黙している。
過去には離婚やカバエワとの交際について、大統領自身に話を聞き出そうとして休刊に追い込まれた新聞社もあるが、そこまではいかなくとも、大半のマスコミはけんもほろろに追い返されている。「他人の私生活を詰まった鼻で嗅ぎまわり、エロティックな妄想を巡らす人々に対して、私はずっと否定的な感情を抱いてきた」と、2008年にロシア大統領は手短に答えている。
しかし当時、大統領周辺では影の女の存在がささやかれ続けていた。その名前はアリーナ・カバエワ。現在38歳(KGB出身の大統領より30歳年下)の彼女は体操選手として活躍した後、現与党の統一ロシアから下院議会選挙に出馬し当選。議員を8年間務め、その後にメディア界のトップにまで上り詰めた。
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「流星のように現れた」
アリーナ・カバエワは1983年5月12日、旧ソ連構成国のひとつであるウズベキスタンのタシュケントに生まれた。父親はプロサッカー選手で母親は一流バスケット選手というスポーツ一家に生まれた彼女は、3歳の頃に体操を始める。しかしキャリアのスタートは順調ではなかった。太り過ぎているため、競技に「適した体つき」ではないとコーチたちから指摘された。両親はモスクワでなら娘の才能が認められるに違いないと1995年に移住。アリーナは12歳だった。ハイレベルなスポーツ選手を目指すにはもう遅すぎるといってもいい年齢だった。
新体操ロシア代表チームコーチのイリーナ・ヴィネルとの出会いがなければ、アリーナはおそらく通常の教育に復帰していただろう。しかしコーチは彼女の指導を引き受けた。ただし、やはり体重を落とすことが条件だった。こうして結ばれた契約はすぐに成果をもたらした。3年後、体操選手としてデビュー間もない15歳のアリーナが新体操ヨーロッパ選手権で優勝を飾った。国中のメディアが「流星のように現れた」アスリートの演技に注目した。その後も、ヨーロッパ選手権で16個の優勝杯を手にし、世界選手権で金メダル9つと銀メダル3つを獲得。2004年のアテネオリンピックでも金メダルを獲得した。
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レオタードを脱いで
シドニー・オリンピックでのアリーナ・カバエワ。(2000年9月29日)photo: Getty Images
しかし「ロシアで最もしなやかな女性」といわれた彼女の輝かしい戦歴に、ドーピング事件が暗い陰を落とす。2001年には国際大会への出場停止処分を受け、名声にも瑕がつく。大衆の人気を失ったアリーナは7年後に引退を表明し、その後、政治そして実業の世界に活動の場を移した。2001年以来、ウラジミール・プーチンの率いる統一ロシアに籍を置く彼女は、まず党の最高評議会メンバーとなった。
2007年に若干24歳でロシア下院議会議員に選出された後、青年委員会副代表のポストにも立候補する。2008年2月15日には政府系大手メディアグループの監査役会のプレジデントとなり、その後、映画制作会社Art Picturesやロシアの主要テレビ局を傘下に置く企業のトップの座に就任。こうしてかつて新体操の世界で覇者となったアリーナはロシアのメディア業界で重要な地位を占める存在となった。
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結婚の噂
政治的な要職に就き、スケールの大きな企業のトップに立ったことで、アリーナとウラジミール・プーチンが同席する場面がしだいに頻繁に目撃されるようになった。ガラディナーではふたり揃って現れることもある。2009年、元体操選手が左の薬指に指輪を嵌めていたことと、彼女にこれまでパートナーの存在が確認されていないことから、アリーナとプーチンが結婚を控えているという噂も流れた。自らのポリシーに忠実な大統領は公式声明で「この件で言われていることに真実はひとつもない」と伝えている。
アリーナが子どもを出産すると、騒ぎはさらに拡大した。2013年3月に彼女は女児の双子を出産しているが、その年、プーチン大統領はマリアとカテリーナのふたりの娘をもうけたリュドミラ・シュクレブネヴァと離婚。ロシア大統領はその頃、何の説明もなく公の場から11日間姿を消している。それまでにない事態だった。大統領は彼女の出産に立ち会うためにスイスに行ったのか? 大統領は子どもたちの父親なのか? と憶測を呼んだ。
彼女のインスタグラムアカウントは現在削除され、当時から関係をうかがわせるような投稿は見当たらなかった。アカウントに掲載されていたのは、新体操選手時代の業績をまとめたアーカイブと、公式セレモニーに出席した際の写真のみ。そのなかにはプーチン大統領の姿もいくつか見受けられた。そのため大統領と元一流アスリートの関係を疑う声はなくならない。当時、アリーナは極秘裏に双子の娘を出産したことを否定していた。
text: Camille Lamblaut et Baptiste Erondel(madme.lefigaro.fr)