【イベントリポート】文系女性の可能性を広げる、エンジニアという選択肢。
Society & Business 2022.05.25
ビジネスの力で日々の暮らしの課題解決を目指すコミュニティ、フィガロジャポンBusiness with Attitude(以下、BWA)事務局では、より良い日常をつくるため、さまざまな課題の解決に取り組む起業家や専門家の活動を紹介するオンラインセミナーを定期的に開催している。
5月10日の第4回定例セミナーでは、ソフトエンジニアとして働きながら、一般社団法人Waffleでプロボノとして活動し、社会人女性に向けたプログラミングブートキャンプを運営する「Ms.Engineer」の共同創業者である神谷優さんをゲストに迎え、ご自身の取り組みについてざっくばらんに語ってもらった。以下、神谷さんのお話を抜粋してお届けする。
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ソフトウェアエンジニア。2008年に株式会社サイバーエージェントに新卒エンジニア職1期生として入社。2010年より黎明期のスマートフォン向けサービスをリードエンジニアとして複数立ち上げ、同時に新卒エンジニア育成やエンジニアマネジメントにも従事。2013年には社会人大学院生として修士課程を修了。2015年以降は3度の育休を挟みつつ、定額制音楽配信サービス、子ども向けプログラミングサービスにてフルスタックエンジニアとして開発に携わる。業務外ではIT業界のジェンダーギャップ解消に興味があり、女子学生にSTEM教育を提供する一般社団法人「Waffle」にてプロボノとして、また女性向けプログラミングブートキャンプを運営する「Ms.Engineer」に共同創業者として参画。
■文系だった神谷さんがエンジニアになったきっかけは?
現在はサイバーエージェントでエンジニアとして活躍している神谷優さんだが、もともとは“ド文系”で、理系科目が得意だったわけではなかったという。しかし「なんとなく新しいことがやれそう」と思って選んだ大学の「ネットワーク情報学部」は、ふたを開けてみると理系と文系が半々。当時自宅にPCもなかった神谷さんは、「CPU」「マザーボード」などの用語に面食らう日々だったという。
「一番と言っていいくらいの落ちこぼれで、C言語の単位は2年連続で落としてしまうほど。『これはまずい』と思い、カラオケ店のアルバイトをやめて、小さなWeb系の制作会社にアルバイトとして飛び込んだんです。そこでPHPというプログラミング言語を使い、オンライン英会話のシステムや、Webのショッピングカードなどを構築する仕事をし、自分が普段使っているインターネットサービスを作れることに面白みを感じました」(神谷さん、以下同)
カラオケ店でのアルバイトなどを通して、営業のような仕事は得意ではないだろうと感じていたため、将来のキャリアとして「エンジニアっていいじゃん」と思い始める。「手に職」があれば、子どもが生まれるなどライフステージが変わっても、ワークライフバランスを保ち続けられるイメージも持てた。
そんな時、大学の先輩からサイバーエージェントが新卒でエンジニア職の採用を始めると聞き、新卒エンジニア職第1期生として同社に入社。一人前のエンジニアを目指して入社後も勉強に励み、途中3回の産休・育休を経て、現在もソフトウェアエンジニアとしてキャリアを磨いている。
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■日本でテック分野に女性が少ない理由は?
ジェンダーギャップにまつわるデータはさまざまあるが、日本のIT企業における女性エンジニアの割合は20.4%というデータがある(※1)。これは、OECD加盟国の中で35位というかなり低い数位だ(※2)。なぜ、このような差が生まれてしまうのだろうか?
「実際には私のように文系でもエンジニアにはなれるにもかかわらず、『エンジニアは理系出身じゃないとなれない』という思い込みがあると思います。そして、『理系には男性が多い』というイメージが、それに拍車をかけています」
さらに理系に男性が多いのは、進路を決めるときの周囲の何気ない一言に要因があると神谷さんは指摘する。「女子が進路に迷っている時に『女子だから文系でいいんじゃない?』といった何気ない声かけや雰囲気があると思います。加えて、ロールモデルが不在なのも要因のひとつ。数学や理科の先生が男性ばかりというのも、『理系科目は男性』という印象付けを強めてしまうと考えています」
社会にある何気ない同調圧力......。女性側に確固たる意志がなければ、「理系は男子が多そうだから」「友だちも文系だから」といった雰囲気に流され、なんとなく文系に進んでしまう女子学生も多そうだ。
※1 2019年版情報サービス産業基本統計調査/一般社団法人情報サービス産業協会
※2 OECD 2018
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■さまざまな活動を通して、神谷さんが目指す世界は?
エンジニアの道に進む女性、進みたい女性を後押しするように、神谷さんは数々の活動をしている。ひとつは、女性向けのオンラインプログラミングキャンプ「Ms.Engineer」だ。
「女性のみのクラスなので、ジェンダーを意識せず学習に集中できます。また、価値あるエンジニアを本気で目指すというコンセプトで、日本最難関レベルのカリキュラムを採用しています。受講生はまず、働きながら学べる5週間の基礎講座を受けてから、3カ月のブートキャンプ形式での応用講座に進みます。基礎講座から始めることで、未経験の人でも“向き不向き”がわかります」
そのほか、中高生や大学生の女子向けにITキャリア支援をしている一般社団法人Waffleでプロボノ活動をしたり、ポッドキャスト番組「momit.fm」で、インフラエンジニア出身の女性と2人で母としてエンジニアを続ける実態について発信したりしている。
「エンジニアの仕事をイメージできない人も多いと知り、ライフスタイルを含めてエンジニアについて発信していくのが自分の役目だと感じています。子育てをしながらエンジニアを続けている人の実態が見えにくい状況で、ロールモデル不在という問題を解消していく一助になりたいです」
【セミナーのアーカイブ動画はこちら】
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■エンジニアスキルがゼロでも、文系でも、これからスタートできる。
【Q&A】
イベント最後の質疑応答でも、これからエンジニア職を目指す女性に対し、神谷さんからの心強いコメントがあった。
——学びなおすのに年齢制限はある?
「個人的には、学びなおしに年齢制限があるわけはないと思っています。私自身も、社会人になってから大学院に通ったり、妊娠中にフロントエンド技術の講座に出たりしました。Udemyをはじめ、いまは世界中のオンライン講座が受けられる。制限があるわけはないと思います」
——エンジニアに向いているのはどんな人?
「一つは、問題解決の意識が高い人。エンジニアの世界は常に新しい技術やトレンドが生まれてくるので、現役のエンジニアであってもわからないことだらけ。常に新しく学びなおし、問題を解決する方法を自分で考える力が強い人は特に向いていると思います。また、勉強家だったり、凝り性の性格だったりという人が向いているというふうには言われてます」
——Ms.Engineerの受講生の進路は?
「いま3期生の募集中ですが、0期生より先に受けていた方が、この4月からWebエンジニアとして企業に入社しています。また、応用技術のブートキャンプに進んだ方1名が転職活動中です。ほかに、カリキュラム提携をしているコードクリサリスの卒業生の中には、看護師の方で、スキルを身に着けて医療系のアプリ開発をしている方もいます。キャリアチェンジと言うよりキャリアシフトという形で、自分のいたフィールドで、エンジニアのスキルを新たに身に付けて活躍するというケースですね」
——文系、現在働いているけれど、Ms.Engineerで学ぶことはできる?
「もちろんイエスです。基礎講座は、皆さん働きながら受講しています。エンジニアになるまでの道は決して簡単なものではありませんが、学ぶことはもちろんできます」
セミナー後のアンケートによると、参加者の方にとってエンジニアという職業が今後の選択肢になるきっかけになったようだ。神谷さんのようなロールモデルを通して女性エンジニアが増えれば、その人たちがさらに次世代に良い影響を与え、好循環が生まれるのではないだろうか。
聞き手・ライティング:栃尾江美 / Emi Tochio
株式会社writeln(ライトライン)代表取締役。外資系IT企業にエンジニアとして勤めた後、ハワイへ短期留学し、その後ライターへ。編集プロダクションを経て独立。ビジネス、デジタル、子育て、ライフスタイルなどのジャンルで執筆。2016年よりポッドキャストナビゲーターをスタートし、自分の番組「クリエイティブの反対語」ほか5番組に出演中。2021年に株式会社writeln(ライトライン)を設立。アウトプットに悩む人向けのサービス「アウトプット相談」「アウトプット・コーチング」を実施するほか、主に不登校の児童に向けたサービス「ゲームdeコーチング」を立ち上げ。
個人HP:https://emitochio.net/
【取材協力】
Ms. Engineer
https://ms.engineer/
momit.fm
https://www.momit.fm/
text : Tochio Emi (WriteIn)