アメリカでパイプカットの依頼が急増中。その理由は?

Society & Business 2022.07.23

憲法で定められた権利とされていた中絶。6月末、アメリカの連邦最高裁判所はこれを覆す判決を下した。アメリカの泌尿器科医によればこの判決以降、不妊手術を希望する男性の数が増えていると6月29日付のワシントン・ポスト紙が報じている。

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アメリカの連邦最高裁判所の前で人工妊娠中絶の権利を主張するデモ隊(ワシントン、2022年6月30日)photo: Kevin Dietsch / GETTY IMAGES NORTH AMERICA / Getty Images via AFP

深刻かつ歴史的な判決が下された。6月24日、アメリカの連邦最高裁判所は、1973年以来連邦レベルで人工妊娠中絶の権利を守っていた「ロー対ウェイド判決」を覆した。それ以来、女性にとって根本的な権利を擁護するため、世界中の何百万人もの女性が、アメリカの女性を支持するため声を上げている。男性たちもこの判決に対する問題意識を共有し、中には(俗にパイプカットと呼ばれる)精管切除を行うことでサポートする人もいる。ワシントン・ポスト紙は6月29日付の紙面で、この避妊法の依頼が急増していることを複数の泌尿器科医が同誌に語ったと伝えいている。

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予約が殺到

泌尿器科医フィリップ・ワースマンはロサンゼルスにある自身のクリニックの混雑具合に驚いている。ここ数週間で精管切除のための診察が300%から400%増えているからだ。アメリカの東海岸でも同様の事態が起きている。この業界で「精管切除の王」と呼ばれるダグ・スタイン医師は、以前一日4〜5件の依頼があったところ、いまは平均12〜18件あると言う。

「現在、いままでと比べてはるかに多い依頼があります」とダグ・スタイン医師はワシントン・ポスト紙に語った。「すでに精管切除を検討していたが、ロー対ウェイド判決が覆されたことで背中が押されオンラインで申し込むことにした、と多くの人が話しています」。同様にアイオワ州の医師のエスガー・グアリンも、自身のクリニックのサイトへのアクセス量が200%から250%増え、サーバーがダウンしそうになったと語る。

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「世界は恐ろしい場所」

どのような男性が思い切ってこの決断を下すのだろうか。医師たちによると、子どもがいない30歳前後の男性からの依頼が増えているとのことだ。フロリダ州タンパに住む27歳のトマス・フィグエロアもそのひとり。「最高裁判所で判決が下されたつい最近まで、自分の中の小さな声を無視していました。でもあの判決が引き金となり、 “僕は本当に子どもが欲しくないんだ。精管切除をしよう”と決意したのです」とワシントン・ポスト紙に語った。

近くのホモサッサ市に住む29歳のエリック・ニシは、言葉だけでなく、実行する必要性を感じた。今後、産まない選択が制限される可能性がある中で、ガールフレンドのオメリアンに「妊娠するかもしれないというストレスを感じてほしくない」と思ったそうだ。「世界は恐ろしい場所です。世界は後退している気がするので、何が起きるか分かりません」と米新聞に語った。

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精管切除と交換でミルクシェイク?

大きな出来事が引き金となって精管切除の数が増加するのはこれが初めてではない。ニューヨークのワイル・コーネル・メディカル・センターで、男性生殖医療とマイクロサージェリーセンターのセンター長を務める泌尿器科医のマーク・ゴールドスタインによると、この恒久的避妊法を望む声は2008年の経済危機の際にピークに達したとのことだ。経済的なストレスを抱える中、家族が増えることに疑問を抱く男性が増えたのだとゴールドスタインは見る。

2020年にコロナパンデミックが始まってからも同様で、リモートワークをする男性からの依頼が増えたとアイオワ州の医師のエスガー・グアリンも指摘する。

 

 

子どもが欲しくない、あるいはこれ以上は増やしたくない男性を対象に、もっと身近に精管切除を捉えられるように、いろいろなアイデアが発案されている。先日、連邦裁判所により妊娠6週間以降の人工中絶を禁止する法案が可決されたテネシー州では、これに反対する有名なホットドッグ店Daddy's Dogsが、男性たちに“食いしん坊な提案“をしている。レジで精管切除の証明書を見せるとミルクシェイクを無料でもらえると、7月1日付のザ・テネシー・スター紙が伝えた。

 

 

社長のショーン・ポーターは「パイプカットの後はミルクシェイクが一番」とのコメントを付けたビデオをインスタグラムに投稿した。股間にミルクシェイクを置いて痛みをしのぐ男性客の姿をブラックユーモアを込めて紹介している。短い動画の最後に精管切除に関する情報が得られる専門のセンターを紹介し、おいしいドリンクの予約もどうぞ……と締めくくっている。

text: Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr) translation: Hana Okazaki, Hide Okazaki

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