アメリカに登場した新たな社会階層「カレン」とは?

Society & Business 2022.08.01

あらゆることに異議を唱え、身体を張って自分の特権を守りぬき、堂々と人種差別を行う。このような女性をアメリカでは“カレン”と呼ぶ。“カレン”たちはSNSから裁判所まで幅広く波紋を及ぼしている。社会に怒りが渦巻いているのだろうか。フランスのマダム・フィガロがリポート。

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スキャンダルを巻き起こす米国の“カレン”たち。彼女たちの心理とは?*写真はイメージです。 photography : iStock

こんなことがアメリカでよく起きている。多くの場合、白人で比較的裕福な一定の年齢の女性が、自分には特別な権利と義務があると妄想し、自分の生活と自由、自分が属する人種とその優越的な立場、さらに社会秩序までが、目の前にいる赤の他人に脅かされていると思い込み、その人に対し突然暴言を吐きかける。激怒し、相手を罵倒し、自分の支配下に置こうとする。警察を呼ぶとまで脅しをかける。対象は男性であることも女性であることもある。

このところアメリカ、特に東海岸では“カレン”と呼ばれる新たな社会階層が出現している。1960-70年代、白人家庭では「カレン」という名前が際立って多かったことから、彼女たちにこのあだ名がついた。彼女たちは自らを正義の士と位置付け、何の根拠もないのに、ヒスパニック系の労働者に身分証明書を求めたり、敷地内のプールで泳いでいる黒人家族にその家の住人なのか確認したり、自宅の前でレモネードを売っている女の子たちに許可証があるのか問いただしたりする。

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スキャンダルがお好み

2018年には一般的に使われる単語として登場した“カレン”。「彼女たちのほとんどは潜在的な差別主義者で、自分が暮らす生活圏の支配者であると信じ、何かにつけて被害を受けたと声高に主張し、争いを引き起こそうとします。自身が抱えているフラストレーションをむき出しにして、怒りをぶちまけられるシチュエーションを作り出すのです。非常に危険になりうる人物です」とコミュニケーションの専門家、リリアン・グラスは説明する。

不運にもこの種の女性の標的になってしまった人は、自分の身に起きている信じ難いことに抵抗し、非常識な命令を拒絶する。すると“カレン”の怒りはさらにエスカレートし、支離滅裂となり、動画を撮られているとわかっていても、哀れな姿を増幅していく。間もなくその動画はSNSに投稿され、大勢の人の反感を買う。結果、“カレン”は解雇され、弁護士に書かされた謝罪文を胸が張り裂ける思いで読み上げることになる。

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マスク反対の“カレン”

“カレン”のひとりとされるメリッサ・ライン・ライブリー。

コロナ渦以降、多様化した“カレン”たちの中には感染対策に反発する者もいた。「あなたたちのルールを守る筋合いはないわ。私は自由だし、憲法に保証された権利はちゃんと分かっているのよ。弁護士に電話するから責任者を出して!」。店頭でも、病院、空港、飛行機の中でも騒ぎを起こす“カレン”たちはこのようにわめく。

バービー人形風の容貌をしたブロンドのメリッサ・ライン・ライブリーもそのひとり。ある日、彼女は大手百貨店で暴言を吐きながら商品のマスクを次々と床に投げつけ、その姿を自撮りし、SNSに投稿した。店員がマスクの着用を守るよう要請すると怒鳴りつけ、結局警察沙汰になった。

別のビデオでも、白人の女性が「民主党のブタたちめ!」と叫びながら買い物カゴに入っているものを床に投げつけたり、駄々をこねる子どものように床に座り込んで脚をバタバタさせたりする姿が投稿されている。

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危険な被害者意識

“カレン“たちの勢いは衰えることなく、“カレン”という名前がついたインスタグラムのアカウントもいくつか存在する。KarenGoneCrazy, KarenGoHome, StopThatKarenなどだ。

「悪い兆候だとしか思えません」と心理学者のデニーズ・ダッドレーは言う。「“カレン”たちは人種的あるいは階級的優越感に浸り、“身分の低い者”を低い地位に保つためには躊躇なく勝手な行いをするタチの悪い女性です。そして自分は当局から免れる手段をちゃんと確保しておきます。気掛かりなのは、“カレン”達は自分を被害者的な立場の女性だと設定し、それを武器として利用する点です。そして警察が来ても必ず自分の肩を持つと疑わないのです」。“カレン”の存在は、白人女性を危険な黒人男性から守らなければいと社会が考えていた、そう遠くない恐ろしい過去を思い起こさせる。

“カレン”を茶化すインスタグラムアカウントも登場している。

2020年5月にエイミー・クーパーが利用しようとしたのはまさにそれだ。その日彼女はニューヨークのセントラルパークで、リードを付けぬままで犬を散歩させていた(その地区では規則違反)。アフロ・アメリカンの鳥類学者の男性がリードを付けるよう注意すると、彼女は拒否し、警察に電話して「黒人の男に命を狙われている」と訴え、意図的に男性を危うい立場に置いた。この日はミネアポリスではジョージ・フロイドが警官のデレック・ショーヴィンに殺害された日だ。

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自業自得

1カ月後、サンフランシスコにある高級住宅地パシフィック・ハイツでの出来事。ここの住民である50代のリサ・アレキサンダー(化粧品会社のCEO)が住宅地を散歩しいていると、フィリピン系の男性が家の壁にチョークで「Black Lives Matter」と書いているのを目撃する。彼女はこの男性(ジェームス・フアニロ)はここの住民であるはずがないと思い込み、「勝手に個人的な意見を書くな」、そもそもそれは違法行為なのだと注意した。実は、その家は他ならぬフアニロの自宅だったのだが、この住宅の所有者が誰だか知っているのか彼が尋ねると、「知人だ」と厚かましくも嘘をついた!

このストーリーはエイミー・クーパーの事件と同じようにさまざまなメディアで報道され、その結果アレキサンダーは顧客を、クーパーは仕事を失うことになった。23歳のマイヤ・ポンセットは、ニューヨークのホテルで黒人のティーンエージャー男子が自分の携帯電話を盗んだと騒ぎ、その子が持っていた携帯を見せろと叫び、最終的には暴行を加えた。彼女はヘイトクライムの罪で有罪となった。携帯は実はタクシーに忘れたのだった。

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では男性は?

なぜカメラが回っているにも関わらず、彼女たちは醜態をさらし続けるのか。「自分の権利だと思っている人もいれば、一瞬の名声を得るためにやる人もいます。いずれにしろ、感情的コントロールを欠いています。彼女たちは衝動で行動しているのです」とデニーズ・ダッドレーは答えた。

しかし、女性だけをターゲットにするは不当な性差別だと抗議するフェミニストもいる。男性も同じことをしているのに、なぜ“カレン”だけが注目されるのか、と。この問いにリリアン・グラスはこう答える。「男性バージョンの“ケン”という呼び名もあります。しかし一般の人々は、女性がこのような態度を表すことの方に関心を示す傾向があるのは事実です。いずれにせよ、悪い行為に性別などありません」。デニーズ・ダッドレーにとって“カレン”たちは逆にフェミニズムの足かせになるそうだ。「“カレン”というレッテル貼られるのを恐れる女性たちを抑制させてしまう恐れがあるからです」

text: Armelle Vincent (madame.lefigaro.fr) translation: Hana Okazaki, Hide Okazaki

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