インターネットの普及で、ヴィンテージファッションが品薄の危機?

Society & Business 2022.10.20

ヴィンテージファッションが品薄傾向にある。年月を経たアイテムがかつてない熱狂を呼んでいる……。ただしヴィンテージはもともと数に限りがある。

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今後ヴィンテージアイテムが品薄になる? photo: Getty images

新品の一極支配はもう終わり。近年は消費者の間でセカンドハンドの服の人気が高まっている。ファッション・ネットワークの調べによると、中古衣類を購入したことがある人はフランス人の29%に上る。2018年の調査では16%だった。需要は伸びているが、供給はそれに追いついていない。別の時代の空気を継承し、消滅した職人技や、いまはもう製造されていないスタイルを反映するヴィンテージアイテムだが、その数は徐々に減って行く運命にある。実際、最近の古着熱によって、ヴィンテージアイテムの供給量にすでに影響が及び始めている。現状を調査した。

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ヴィンテージの流行と値段の高騰

ファッション愛好家でコレクターのマリー・ラブカリエは2017年に「Nina Gabbana Vintage」という名前でヴィンテージ業界に足を踏み入れた。1990年代末のブランド品を掘り出し、ファッションショーの写真を添えて販売している。彼女が扱うニッチアイテムに関心を寄せる愛好家の数は年々増加し、いまやリアーナのスタイリストや、「セックス・アンド・ザ・シティ」や「エミリー・イン・パリ」で衣装を手がける有名スタイリストのパトリシア・フィールドのようなプロもやって来る。Fripouille、Kouni Bouni Vintage、Safripsti Vintage……。彼女のように自分が見つけた掘り出し物の販売に乗り出した女性たちは枚挙にいとまがない。その多くはインスタグラムでの直接販売というスタイルを採用している。

Kilo ShopやKiliwatchを傘下に収める古着卸売業者D.B. INVESTグループのリテール・ディレクターを務めるエリック・レーも、古着需要が増加傾向にあることは確かだと言う。グループの卸売部門の総売り上げはここ数年で2倍に伸び、店舗売上も競争の激しい市場であるにもかかわらず30%増加した。一方で、商品の値段も上昇している。

前述のラブカリエも古着販売を始めた翌年には値段の上昇を実感した。希少性がますます高まっているのは明らかだった。この実感を裏付けるように、高級ハンドバッグの中古市場はこれまでになく高い利益率を記録している。事業開始から5年で限界に直面したと彼女は言う。「サイトに品物を掲載すると、2秒で売れてしまう。委託販売はもう手が出ない状態。オークションでも掘り出し物にはもう出会わない」と嘆く。仕入れが困難になり、営業利益を上げるために必要なマージンを取ることもままならない状況だ。「いたって単純な需要と供給の問題です」とレーは話す。供給量に対して需要があまりも大きいというわけだ。
 

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古着はシックなものになった

たしかに、セカンドハンドのイメージは大きく変化した。かつては経済的な理由から古着の購入を検討したものだが、いまは多くの人たちが、環境問題への取り組みの一環として、中古品の購入を有意義な行為と考えている。これは再販プラットフォームのマーケティングキャンペーンの効果によるところが大きい。また、お買い得品を探すにはこつがいるし、良い品物を見極めるには知識も必要だ。使い捨てファッションの普及もあって、ものを買うことに恥ずかしさを覚える人さえいるいま、古着購入はそうした現象の対局にある、胸を張って行える行為なのだ。

新しい傾向として、最近ではスターたちもこのヴィンテージブームに一枚噛んでいる。レッドカーペットで目立つためにオートクチュールブランドの過去のアイテムを掘り起こすセレブもいる。その最も顕著な例は、2022年METガラでマリリン・モンローのドレスを着用したキム・カーダシアンだ。古着の民主化は小売店にも波及しており、いまやヴィンテージ専用スペースが設けられ、既製服と変わらない丁寧な扱いを受けている。パリの百貨店プランタン・オスマンの中古品専門コーナー「セカンド・プランタン」がその一例だ。「デパートではマーチャンダイジングがしっかり行われているので、品物がセカンドハンドであることに顧客が気づかないほど」とレーは冗談交じりに話す。こうしたイメージの変化のおかげで、ユーズドアイテムが一躍注目されるようになったわけだが、その人気に拍車をかけているのがSNSだ。

ヴィンテージの新たなメッカとなっているTikTokや、オンラインマーケットのVintedに「haul」(ショッピングの成果を紹介する動画)をアップし、自分が見つけたセカンドハンドの掘り出し物を披露するユーザーたち。特定のブランドやアイテムを探し出すようコミュニティに呼びかけるインフルエンサーたち。Y2Kブーム(注:2000年代回帰という意味)の影響で、たとえば最近では、ジェニファーの最新のラベルと1990~2000年代の「ヴィンテージ」もののラベルの違いを解説する動画が投稿される。熱狂しているのは一部の人だけではない。「Vinted」というハッシュタグが添付された動画の視聴数だけでも10億回以上に上るだけに、流通する品物の数にSNSが及ぼす影響は甚大だ。「TikTokで品物が話題になったら、もうおしまい」とラブカリエは漏らす。大きな変貌を遂げつつある循環型システムにとっては留めの一撃だ。

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ひとつのシステムの終焉

「消費者もだんだんと知識が増え、自分が寄付するものや捨てるものに注意を払うようになっている」とレーは説明する。「かつてならディオールのジャケットを寄付していた人も、いまはもうそんなことはしません。その代わり委託販売店に行く。儲かる見込みがあるからです。消費者がヴィンテージを金脈として認識しはじめ、それが市場を変化させた」。ヴィンテージ販売業者のラブカリエも同意見だ。「みんな、自分が宝物を持っていると感じている。たとえば、再販プラットフォームでも、ジャスト・カヴァリのようなセカンドラインのアイテムがいまはメインラインのロベルト・カヴァリ並みの値段で売られている」と彼女は嘆く。

こうした新しい動きに加えて、時間の影響という避けられない要素もある。「50~60年代の品物は現在、製造からほぼ70年近く経過しています。時間が経てば経つほど、着用には適さなくなる」とレーは強調する。劣化していないものは稀少なため、必然的に値段が上がる。これが中古品市場のキーポイントだ。いま、昔に比べてお話にならないようなクオリティの廉価ファッションが市場を席巻している。「最近の商品は消耗が速いため、再利用がだんだん難しくなっていく」とリテール・ディレクターのレーは指摘する。

市場に流通する品物の数が減少していることで、手を引く業者も出ている。2000年代ヴィンテージの専門家であるラブカリエも、自分の居場所はもうないとこぼす。「私の顧客たちもネットで自分でアイテムを購入できるようになった。いまやもう私を必要としていない」。一方、セカンドハンド卸売業者のレーに、こうした諦めは感じられない。

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別の形のヴィンテージは可能

将来人気が出るアイテムにいま投資するために、トレンドを読むのが彼の仕事だ。グループは世界中の回収ボックスに寄付された衣類を回収する仕分けセンターから中古衣料品を大量に買い集めている。ルーアンにある2万m2の倉庫には、これらの衣料品が保管され、トレンドが回帰し再び脚光を浴びる日が訪れるのを待っている。その好例がリーバイス501だ。10年前に流行から外れたときに、グループはこのアイテムを購入した。これがいまふたたび人気モデルとなり、大量に再販売され純益を上げている。リテール・ディレクターのレーに言わせると、このシステムが終焉に近づいているとはまったく思えない、むしろ逆だ。
 


消費へのインセンティブを抑制するためコーナーでの商業活動はスローダウンする見通しと言うものの、ヴィンテージ業界の行く末を案じてはいない。「20年後にセザンヌのワンピースの値が4倍になることもあり得る」と彼は言い放つ。D.B. INVESTグループのリテール・ディレクターは悲観するどころか、企業のエコシステムの進化を興味深く見つめている。彼にとっては、新進クリエーターたちのアイテムから、H&Mとデザイナーのコラボ商品まで、いま注目を集めるあらゆるものが、将来、希少品すなわちヴィンテージとなる可能性を秘めているのだ。クオリティが高くなくても構わない。「その問題を回避するには、アップサイクルという新しい手段がある」。「ヴィンテージ」の後は、間違いなく「再利用」が次なるキーワードとなるだろう。ファッションに永遠の命を宿してくれそうな動詞だ。

text: Mitia Bernetel (madame.lefigaro.fr)

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