BWA Award 2022:美しく豊かに働く、次世代のロールモデルたち。 北陸の伝統工芸を再編集し、世界の次世代に繋いでいく。

Society & Business 2022.11.18

「美しく豊かに働く次世代のロールモデル」をテーマに、6人の女性が選ばれた第2回「ビジネス・ウィズ・アティチュード」アワード。彼女たちのビジネスの根底にある思いとは? 仕事を通じて実現したい社会とは? 6人の女性が紡ぐ、仕事と暮らしの物語を紹介します。


*Hikari Mori

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森 星
tefutefu クリエイティブディレクター
1992年、東京都生まれ。モデルとして国内外の広告や雑誌などで活躍中。祖母は日本のファッションデザイナーの草分け的存在の故・森英恵。2021年、tefutefuを共同創業。能登の地元住民らと協力し、地元食材のプロデュースや能登半島の耕作放棄地の整備などにも取り組む。途上国の女子を支援する公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンのアンバサダーも務めている。
https://tefutefulab.com/ja

 

「ライフワークとして取り組めるビジネスを始めたばかりの私が、このような賞をいただけたことはとても励みになります。日々、学びの連続ですが、この未知なるフィールドに一歩踏み出した自分を褒めてあげたい」と森星は言った。

モデルとして世界で活躍する彼女は、創業者のひとりとして2021年にtefutefuを立ち上げ、クリエイティブディレクターを務めている。日本の文化や伝統工芸に光を当て、それらをアップデートしながら、国内外に発信していくことが彼女たちのビジネスだ。

「モデルの仕事で度々海外へ行き、そこで日本の文化や伝統について質問されることも多くて。以前の私はそれをうまく説明することができなかった。海外にばかり目が向いていて、日本のことを知ることなく大人になった私は、自分の祖国に世界に誇れる素晴らしい歴史や事柄がたくさんあることを知らなかったんです」

気付きをくれたのはコロナ禍だった。海外渡航が叶わず、国内で過ごす日々の中で、自ずと日本が持つ魅力に興味が湧いてきた。

「コロナ禍で、モデルとしてライフスタイルの提案をできないかと考えていました。そんな時に好きなものを集めたポップアップショップを開催することになり、プロダクトを集めてみたらほとんどが海外製。あれ? 日本にも素晴らしいものがあるはずなのに、それを全然取り入れずに暮らしているなんて!と思ったのがtefutefuを立ち上げたきっかけのひとつです」

もちろん以前から日本の伝統工芸品には興味はあったが、どことなくハードルが高く、自身のライフスタイルと結びつけるのが難しいと感じていた。そこで自分が欲しい、使いたいと思うデザインや色の工芸品を作ってみたいと考えるようになったという。

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漆のタンブラーの色は日本の四季がテーマ。「春を想起させる色が経年変化すると、下から夏を感じる色が出てくるといった仕掛け。色にはとてもこだわっています」

「輪島塗の漆芸家、桐本滉平さんの作品に触れる機会があり、すぐ彼に連絡して能登へ。そこで漆への固定観念が変わりました。経年変化で色を楽しめ、塗り直しや金継ぎにも使える漆は、東洋を代表するサステイナブルな植物。若い人にもその魅力を知ってもらうために、日本の四季を感じる曖昧な中間色の漆を載せたコンテンポラリーなタンブラーを北陸の職人さんたちと一緒に制作しています」

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タンブラーを一緒に制作する漆職人たちと。「北陸では素敵な出会いがいくつもありました」と語る。 

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森が目指すのは、和風でも和モダンでもない。漆の魅力や歴史、ひいては日本文化や情緒、漆が長らく日本で愛されてきた背景までを世界に伝えたいと考えている。世界的にもSDGsを達成するライフスタイルが推奨される中、「ウェルビーイングやサステナビリティというマインドはもともと日本に根付いているもので海外由来のものではない。だからこそ、漆器や和蝋燭など、日本の先人たちの叡智が詰まったものは海外の感度の高い人にも必ずや響くはず。tefutefuは、日本の魅力的なプロダクトやその背景にある哲学、自然と調和する暮らし方も伝えていきたい。そして、実際に生活に取り入れ、小さな豊かさを感じてもらえたら」と語る。

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能登半島の輪島市白米町に広がる白米千枚田で、実際に地域の人と稲作も行っている。

モデル業では自己プロデュースが必須だが、いまは自らがデザインしたプロダクトたちの魅力をどう伝えるかに苦心している。

「自分をブランディングするほうがだいぶ楽(笑)。自分が作ったプロダクトを客観的に見るのが難しくて、いまはその距離感を訓練中。時間も課題です。きちんとものづくりに向き合いたいけど、時間はお金を食べていく。時間と質のバランスが難しい。それでも、これまでになかったものを作りたいというモチベーションで励んでいます。経営者に話を聞いたり、本で学びもしたけど、前例はあっても正解はない。それは自分たちで辿り着くものだと思う」

tefutefuの活動を通し、モデルへの考え方も変わった。いまは服をきれいに見せることに留まらない、さらなる役割も感じている。

「服にはデザイナーの哲学や思想が込められている。それを理解することでより物語を深く伝えることが可能になるし、私自身、彼らのクリエイションにより刺激を受けます。ファッション界は一歩先の空気感や時代の流れを感じることができる場所。好奇心を満たしてくれる私にはいつも欠かせないもの。モデルの仕事でインプットしたものをtefutefuでアウトプットする。私にはこの両軸が必要なので、どちらかひとつに絞ることは考えられない」

現在は能登の伝統工芸品や無農薬野菜の魅力を伝えることに注力しているが、今後日本各地の工芸品にも光を当てたいという。

「小さなご縁や物語が繋がって、大きなうねりになる。いつかそんな“バタフライエフェクト”が起こせたらいいですね」

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tefutefuでは、能登の農産物と珍しい郷土の発酵食品をまとめたフードボックスの宅配も行う。「NOTO 高農園さんが自然農法で作った有機野菜はどれもおいしいものばかり。プラスチック包装は極力控え、能登のシェフたちに考案してもらったレシピも一緒に、コンポストとして使っていただけるボックスに入れてお送りします!」

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<審査員コメント>

多大な影響力を持つ彼女が地域文化の価値観を再編集することで、幅広い層にインパクトを与えている。彼女の生き方そのものが、女性たちが「本当の幸せとは何か」を考えるきっかけになるだろう。

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小山薫堂

華やかなキャリアがありながら、自分が社会に対し何をすべきか向き合うことは容易でないと想像する。その中で、新たな目標を見つけまっすぐに進む姿は、多くの人の背中を押し、励みになっている。

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篠原ともえ

能登半島に光を当て、自らの知名度を生かしつつ、「日本の原風景」の価値を気付かせた発想と企画力。同様な「再発見」がほかの地方でも再現可能なところが事業の将来性を感じさせる。

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長岡義博

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*「フィガロジャポン」2022年1月号より抜粋

photography: Keiko Hamada makeup: Mifune (signo) text: Tomoko Kawakami

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