BWA Award 2022:美しく豊かに働く、次世代のロールモデルたち。 インパクト投資で、「社会の役に立ちたい」という想いを仕事に。

Society & Business 2022.11.18

「美しく豊かに働く次世代のロールモデル」をテーマに、6人の女性が選ばれた第2回「ビジネス・ウィズ・アティチュード」アワード。彼女たちのビジネスの根底にある思いとは? 仕事を通じて実現したい社会とは? 6人の女性が紡ぐ、仕事と暮らしの物語を紹介します。


*Nanako Kudo

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工藤七子
SIIF(一般財団法人 社会変革推進財団)常務理事
千葉県出身。2005年東京都立大学卒業後、三井物産に入社。09年に退社し国際公務員を目指して米クラーク大学大学院国際開発学部に留学。インパクト投資ファンドでのインターンを経て、11年修了、帰国。日本財団に入職し、17年、同財団内でSIIFを立ち上げ、常務理事に就任。19年、妊娠を機に島根県雲南市に移住。主にリモートで勤務しつつ、築70年の古民家をリフォームし、夫と3歳になる息子と奥出雲での生活を満喫中。地域の学生のキャリア支援なども行っている。
https://www.siif.or.jp/

 

事業への投資をとおして社会課題の解決を目指す「インパクト投資」。「投資= お金儲け」というこれまでの常識を覆すこの投資のあり方を日本で広めた第一人者ともいえるのがSIIF(一般財団法人 社会変革推進財団)常務理事の工藤七子だ。
「私たちは経済の中心には、人の幸せや地球・社会の持続可能性があるべきだと考えています」

島根県の自宅でそう語った彼女は、従来の“投資家”のイメージとはかけ離れた、親しみやすく物腰柔らかい、朗らかな女性だった。

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工藤が住む雲南市は自然豊か。「ここに来るまで家事はあんまりしなかった」という工藤だが、いまは庭になる柿やユズ、グミなどでジャム作りに挑戦することもあるという。

2011年日本財団に入職し、以降、日本でインパクト投資の概念を広げていくことに奔走してきた工藤。16年度調査では337億円だったその市場規模は、21年度には1兆3000億円までに拡大した。それでも「市場が拡大した分だけ、本当に世の中は良くなったか?」と自問自答し続ける彼女の働き方の根底には、人のため、社会のために、という強い思いが根ざしている。

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工藤の自宅の本棚には、投資・金融にとどまらないさまざまなジャンルの書籍が並ぶ。

幼い頃から社会貢献に関心があり、中学生の時に緒方貞子が日本初の国連難民高等弁務官に就任したのを見て、ボランティアでしかできないと思っていた社会貢献活動が仕事になることを知った。大学卒業後は国連職員を目指し、国際協力機構(JICA)や国際協力銀行の就職試験を受けるが不採用。「拾ってもらった」三井物産に入社し、「途上国で水道事業に関わりたい」と上司に訴え続け、入社3年目に途上国に関連がありそうな不動産投資部に配属された。

ところが、そこで目にしたのは、限られたプレイヤー間でのみ巨額のお金が動く「金融資本主義のリアル」だった。
「不動産売買をやっていると、建物は変わっていないのに、市況が変化するだけでとんでもない額のお金が動く。それを見て、いくら自分が途上国に行って水道を造ったとしても、この大きな経済構造を変えていかない限りは途上国には全然お金が流れない、と気付いたんです」

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その後三井物産を退社して、留学したアメリカで工藤が出合ったのが、インパクト投資という「金融の常識を打ち破る投資」だった。そのおもしろさに魅せられて研究を始め、卒業後はインパクト投資で国際協力に関わりたいと考えるが夢叶わず、帰国して日本財団に入職することに。当時日本でインパクト投資について語る人は誰もいなかったが、「助成金じゃなくて、投資をやりたい」と最終面接で訴えた工藤の思いに、「それ、僕もやりたかったんだよね」と面接官のひとりで、現在SIIF理事長を務めている大野修一が賛同したのだ。

13年には、社会課題に取り組むNPOや事業に投資して社会にポジティブなインパクトを広げる「日本ベンチャーフィランソロピー基金」を財団内で立ち上げた工藤。この活動が外務省の目に止まり、14年にはパリで開かれた「G8社会的インパクト投資タスクフォース」(現GSG)に出席することに。その際にできた社会的投資推進室が、いまのSIIFの原型となった。

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日本ベンチャーフィランソロピー基金を通じて支援したアズママ代表の甲田恵子と工藤。アズママは顔見知り同士で子育てを助け合えるプラットフォームを手数料無料で提供している。 

SIIFの活動は主にふたつ。ひとつはインパクト投資を実践する人を増やすため、自ら社会課題に取り組む企業や団体に投資すること。もうひとつは、インパクトエコノミーのあり方を議論し、啓発・発信すること。現在は助成も含め、医療や子育て、地域活性化などの課題に取り組む42団体を支援している。それぞれの事業が社会に与えるインパクトを、どう可視化し、指標にするのかを事業者と一緒に考えていくのも工藤たちの大切な仕事。そうすることで、投資家への説得材料になるだけでなく、「自分たちの仕事は社会にとって意味がある!」と職員自身が気付き、自分の仕事へのロイヤリティが高まることも少なくないという。

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SIIFが支援する福祉実験ユニット「ヘラルボニー」のプロダクト。障害のある作家とライセンス契約を結び、作家が生み出すアートを軸に商品企画などを手がける。障害のイメージを変えようと活動する同企業は21年、雑誌「Pen」のクリエイターアワードを受賞。

「正直、私は精緻な作業は向いていないし、アドバイザーからは『もっと金融の勉強したほうがいいよ』とよく言われます(笑)」と語る工藤だが、「社会の役に立ちたい」と声を上げ続け、仲間を見つけ、周りの人を巻き込みながら、誰もやったことのない新領域を切り拓いてきた。軽やかに、しなやかに社会課題に取り組む工藤が考える、これからの時代の美しく豊かな働き方とは?

「昔は仕事の成果にすごくこだわっていたけれど、いまは仲間や、仕事で出会う人たちと一緒に作るプロセス自体に喜びや楽しさ、温かみがあるといいなと感じています。結果はもちろん大切だけど、それだけじゃ人生、楽しくないですもんね!」

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<審査員コメント>

日本のインパクト投資をリードする財団を立ち上げ、理事として責任を担う側面と、島根に住み子育てをする柔らかい側面の両面をしなやかに自分らしく生きている様は、多くの人に知ってほしいモデルだと思う。

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阿座上陽平

「ソーシャルグッドで儲けてはいけない」という日本の凝り固まった考え方に風穴をあけるインパクト投資。正しいことに正しくお金を使う。その感覚を広く発信してほしいし、そんな世の中に自分自身も期待したい。

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柴田陽子

社会を変えたいと起業する人だけでは、その活動は持続できない。工藤さんが立ち上げた起業家を支えるエコシステムができることで、より多くの女性の起業家が生まれる。

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浜田敬子

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*「フィガロジャポン」2022年1月号より抜粋

photography: Yuka Uesawa

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