集中力が倍増する「ディープワーク」のススメ。

Society & Business 2023.02.02

1週間のスケジュールの中に、長時間継続して作業する時間帯を設けることが、職場でのあらゆる苦痛の打開策になるという。それだけではない。より豊かで穏やか、幸せにあふれた日々も手に入るかもしれない。

23-01-31-deepwork-01.jpg実践者たちによれば、この手法は現代の職場につきものの苦痛を軽減する打開策だという。 photography : Getty Images

午前中の仕事が始まったばかりなのに、さっそく厄介な状況に陥っている。スマホには通知が溜まっているし、同僚(いつも同じ人)があなたのオフィスに顔を出して「いま5分ある?」と聞く。今日はこれで3回目だ。11時には重要な会議があるが、準備の時間が取れなかった。気が重くなり、ますます仕事のペースが落ちる。

オフィスでの典型的なシーンだが、ここにはマルチタスクの最悪の面が凝縮されている。「ひとつの作業が完了する前に他の作業に手を出して同時に複数の作業を処理するというやり方は、仕事がはかどらないばかりか、余計な精神的負担も生み出します」と、コンサルティング事務所「時間とバランス」創業者でビジネスコーチのディアーヌ・バロナ=ロランは強調する。それもそのはず、複数の箇所に注意が分散し、短時間で集中力が途切れてしまっているからだ。奇跡的な仕事術として紹介されることも多い「ディープワーク」は、これと正反対のやり方をすすめている。

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ながら作業をやめる。

名付け親はアメリカのジョージタウン大学情報科学教授のカル・ニューポート。2016年に出版された『ディープ・ワーク』(1)をはじめ、複数のベストセラーを発表してきた著述家でもある。彼はこの著書の中で、ロジスティック業務や単純作業などの付加価値の低い“浅い仕事”と、“深い仕事”とを区別している。

後者は創造、思考、計画に関わる仕事。強度で持続的な集中力を発揮する1~2時間程度の十分な長さの時間が求められ、1日に複数回必要になることも。「複雑な作業に着手するときは、これ以上に優れた仕事の進め方はありません」とバロナ=ロランは続ける。「日常の喧騒をシャットアウトして、比較的長い作業時間を作らないと、この方法は実現できません。ですが、ディープワークの時間帯を一週間のスケジュールに組み込むと、仕事をするのが不快だと感じることが少なくなり、労力や時間の消耗も減ることにすぐに気付きます」

ではまず最初に何から手をつけるべきか? 決意すること、そして段取りをつけることだ。同僚やビジネスパートナーにあらかじめ知らせておく、その日はしかじかの時刻(たとえば重要なレポートの締め切り時間など)以前には電話に出られないと上司に伝えておく、そしてもちろん、ひとりになれる静かな場所を見つける。ベテランはさらに、あらゆる誘惑を遠ざけるために携帯電話をオフにして隣の部屋に置く、波音や風の音のプレイリストを活用するなど、それぞれ独自のメソッドを持っている。

「事前準備を怠ると、その時になって別のことに気を取られる恐れがあります」とコーチは注意を呼びかける。同じように、ディープワークの時間の使い方についても明確化しておくといい。「何を、どんな条件で、何時間かけてするべきか? といったように」とコーチ。「脳はこうした注意力の行程表を必要としています」

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生産性をブーストする。

気をつけてほしいが、ディープワークは瞑想ではない。気が散るような要素を排除するのは、精神をリラックスさせるためではなく、むしろ思考を柔軟にし、いわば長距離走にも似た、精神の強度の能力発揮を可能にするため。

「ディープワークは生産性を加速させるための時間帯です。時間を限定するのはそのためです。とくに最初は1日に1時間のセッションから始め、徐々に増やすといいでしょう。1日4時間まで行ってかまいません」。こうすすめるのはインディペンデント・コンサルタントのユベール・ドゥ・サン=ルーヴァンだ。彼はデジタルツールの負の効果を回避し、最適に利用する方法をクライアントたちにアドバイスしている。

もともとサイバーセキュリティ関連企業に勤務していた彼自身も、バーンアウトと長期の病気休職を経験した後にディープワークを発見した。「効率性の向上に加えて、強度の集中は漠然とした充実感をもたらします」と彼は言う。「ジョギングに似ています。ディープワークを1セッション行った後は、気持ちが軽くなって、本当に活力がみなぎってきます。十分に仕事をしたかどうか振り返ることもない。仕事以外の時間も含め、気分がとても落ち着きます。徐々に注意力が強化されるからです」

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広い視野を取り戻す。

ものごとを広い視野で見るこの感覚は、筋肉のように鍛え直すことができる。大小たくさんの画面を同時に見ることで弱った筋肉が、ディープワークによって鋭敏さを取り戻すのだという。これは社会的な問題でもある。「現代社会では、企業が金儲けのために私たちの注意力を利用しています」とサン=ルーヴァンは続ける。「集中力を鍛えることによって、私たちは視線を再び正しい場所に向けられるようになり、デジタルプラットフォームという逆風に流されることなく、より的確に自分の人生の舵取りができるようになるでしょう」

(1)Cal Newport著『Deep Work』Alisio出版刊。

text : Sofiane Zaizoune (madame.lefigaro.fr)

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