「日本の女性が子どもを産まなくなった理由は......」フランスではどう報道されている?

Society & Business 2023.02.03

日本は未曾有の少子化に直面している。日本在住のフランス人ジャーナリスト、西村カリンに話を聞いた。※当記事は「マダムフィガロ」フランス版の翻訳です。

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日本では2022年の出生数が80万人を割り込む見通しとなった。これは19世紀末以降、最低の数字だ。photography: Getty Images

先週、日本の岸田首相が自国の出生率の急激な低下に警鐘を鳴らした。2022年1月から10月までの出生数は669,871人(厚生労働省の統計による)。これは、19世紀末以降で最低の数字だ。比較すると、同様に減少傾向にあるフランスの人口は日本のほぼ半分。一方で同じ期間の出生数は606,996人だ。不況も出生率低下の一因だが他にも要因はあると、20年以上日本に住むフランス人ジャーナリスト、西村カリンは語る。

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--先週、岸田首相は日本が「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている」と演説した。それほどひどい状況なのだろうか?

憂慮すべき事態になっており、人口統計を取りはじめた1899年以降、前代未聞の数字だ。しかし驚くことではなく、40年前から出生率が低下している日本では当然の現象と言えよう。ひとつかふたつ前の世代の出生数が減れば、20年後に子どもを産める女性の人数が減るのは道理だ。

--出生率低下の原因は?

いろいろな要因が絡んでいる。現在の経済状況や労働市場は子どもが欲しい人に優しくない。働く女性は増えているが、やむなくパートタイムなどの補助的業務についている人もまだ多い。そのため、女性は収入で結婚相手を選ぶ傾向がある。一方、男性の仕事は以前のように安定していない。数十年前までは定職があれば一人で家族を養うことができたが、不況で事情が変わった。保育施設不足も子育てを阻む要因のひとつだ。保育園は無償化され、定員も増えたが、それ以外の保育方法がない。日本人は他人に子どもを預けたがらないので、乳母を探しても見つからない。

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日本社会は子どもに不寛容になった

西村カリン

--少子化の一因は女性がキャリア志向になったからなのだろうか?

そうとも言えない。実際、キャリアを積んだ女性ほど、子どもの数が多かったりする。その一方で、伝統的な役割分担が根強い場合の出生率は低い。ひとつ忘れてはならないのは、出世を望む女性は増えているのに、女性管理職の割合はまだ低いということだ。女性役員はさらに少数派で、たとえば国会で女性議員数は10%に過ぎない。しかも明るい未来も見えない。いま、出産適齢期の世代は不況の中で生まれ育った。子どもの経済的なコストや親になることに伴う負担を考えると、カップルも二の足を踏む。

--つまり家庭を築くことに魅力を感じていないということ?

と言うよりも、自由でいることを優先しているのではないだろうか。ベビーシッターは見つからないし、夜間保育もほとんどないため、親になると社会生活も不自由になり、映画やコンサートを観に行ったり、レストランに行ったりすることが大変になる。しかも母親には一切自由な時間がなくなる。仕事が終わったらすぐに子どもを保育園に迎えにいかなくてはならない。保育園に提出する就労証明書には勤務時間が記載されているのでごまかしが効かない。そんな生き方に疑問を持つ女性が増えている。そのうえ、日本社会は子どもに不寛容になった。子どもは迷惑がられる。たとえば「12歳以下のお子様はご遠慮ください」と入り口に掲げるレストランがあれば、保育園建設には近隣住民の反対運動が起きることもある......。

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日本では家事のほとんどを女性がまだ担うことが多い。photography: Getty Images

--あなたは2020年に、女性の精神的負担が非常に大きいことを指摘したが、そのせいで出産をためらう女性もいる?

確かに。幸い、親となる若い世代は、明らかに進化している。コロナがきっかけで変わった部分もある。テレワークで在宅の父親も多くなり、これまでよりも家の中のことに関わるようになった。それでも女性には「完璧な母親」のプレッシャーがいまだに重くのしかかる。毎朝子どものために美味しい「お弁当」を用意する姿からも、そのことは一目瞭然だ。こうした精神的プレッシャーに加え、日本社会の性差別も女性を苦しめる。最近、与党の某大物政治家は、少子化最大の要因は女性の晩婚化だと発言し、「女性が楽しみを求めすぎる」ことをほのめかした。

--出生率を上げるために近年、どんな政策が実施されたのか?

主に金銭的な施策だ。出産費用は自己負担であるため、約3,500ユーロの出産育児一時金(ほぼ出産費用の金額)が夫婦に支払われる。また、保育園の定員を増やすことにも力が注がれている。2019年からは、認可保育施設や幼稚園の利用料の一部無償化が始まった。この他にも地方自治体によってはスタディクーポンなどが支給される場合がある。

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残業前提の男性の働き方を改革しなくては。ゆとりが生まれれば、子育ての負担を分散することができる。

西村カリン

--いま、日本政府が状況を変えるためにはどうすればいいのだろう?

もっとお金を出し、「子どもは負担になる」というイメージを変えていかなくてはならない。もちろん、母親がもっと自由になることも重要だ。とにかく残業前提の男性の働き方を改革しなくては。男性にゆとりが生まれれば負担を分散することができ、女性も自分のキャリア形成が可能になる。やるべきことはとても多い。

text: Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)

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