50代、専業主婦から再就職した女性たち。

Society & Business 2023.07.13

仕事に復帰するのは何年ぶり、いや何十年ぶりだろうか。長年専業主婦だった人が再就職するのはなかなか大変だ。その一方で、主婦経験は大きな強みになる。

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労働市場の偏見を打破する。photography: Getty

家庭を優先し、仕事よりも母親の勤めを果たすことを選んだ。これはそう珍しい話ではない。「第一子の出産後、仕事があまりに忙しくて子どもの顔さえろくに見られず、仕事を辞めることにしました。夫も私が家庭に入れば安心だと賛成してくれました」とナタリーは言う。彼女はパリ圏に住む54歳の女性で、息子はふたりいる。「だから我が家はいつも夫中心に回っていて、気前がいい夫の会社や仕事を優先してきました。もちろん、離婚なんて思いもよらなかったし、自分の老後のことも全然考えていませんでした。そのうち考えればいいやって」とナタリーはのほほんと生きていた主婦時代を振り返る。

気楽な主婦生活がいつまでも続くとは限らない。幸福な日々はいつか過ぎさり、子どもたちは巣立っていく。離婚の可能性だってゼロではない。そんな事態になったら専業主婦は精神的ショックに加えて経済不安に怯えることにもなりかねない。「夫と離婚してひとり暮らしになり、お金がないからそれまで住んでいた一軒家を手放し、アパートに引っ越すことになりました。家具も買い直して25年ぶりに仕事に出ました。最初はとても辛かった」と63歳のヴェロニクは大変だった時期を語った。3人の娘を育てあげ、いまはロレーヌ地方で年金生活を送っている。

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自信のなさから自主規制してしまう

この20年間で労働市場は変化した。ある程度歳がいってから再就職する必要に迫られても、自信のなさや低い自己評価から、消極的になってしまう女性もいる。中高年の職業訓練と人材紹介が専門の社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)、メリット社の共同ファウンダーのひとり、マキシム・クレルブはこうした再就職組について「結果的に彼女たちは自主規制してしまうのです。他の年齢層と比べて求人への応募もしりごみしがちで、職業訓練もあまり受けていません」と言う。

ナタリーもそうだった。「職業訓練を受けなければ希望するジャンルで仕事が見つからないと言われました。ですが、仕事につながる保証もないのにスキルアップのための受講費なんか出せません。出費したくないと思ったので、方向性を変えてもっと広く、採用してくれそうなところを探しました」と言う。こうして20年のブランクがあったナタリーはバイヤーアシスタントとなった。メリット社のもうひとりの共同ファウンダー、ララ・ガリドに言わせると、「残念ながらとても多いパターンとして“訓練を受けなければ、この仕事は務まらないだろう。だから興味はあるけれど、どうせ受からないし応募するのをやめよう”があります」

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採用側も偏見だらけ

会社は「中高年」に対して偏見を持っている。賃金が高い、作業効率が悪い等々。20年間働いていなかった理由を説明しなくてはならないとなると、ハードルはなおさら高くなる。しかも女性はいつだってダブルスタンダードに悩まされる。「45歳を過ぎた女性は同年齢の男性よりも仕事を見つけるのに3倍の時間がかかります」と、中高年女性の再就職を支援する団体、フォルス・ファム協会のソフィー・フェノ総代表はため息をついた。メリット社のマキシム・クレルブも同意見だ。「失業率が史上最低水準にあるのは事実ですし、採用側もありがたいことに中高年層にも目を向けるようになっています。実際、ヨーロッパの近隣諸国が年金改革を実施した結果、中高年層の雇用率が高まっています。しかしながら、フランスでもヨーロッパでも、労働市場ではいまだに年齢で差別されることが一番多いのです」

フランスでもヨーロッパでも、労働市場ではいまだに年齢で差別されることが一番多い。

メリット社のマキシム・クレルブ

メリット社によれば、中高年の75%は、就職できるなら希望する給与額を下回っても構わないと考えているそうだ。まずは中高年採用に消極的な採用担当者のハードルをクリアする必要があるが、経験豊富な中高年を雇うことには多くのメリットがある。ナタリーは面接の際、真っ向勝負することにした。「確実に採用されるように、希望給与額は最低賃金で出しました。主婦だった20年が単なるブランクではないことをわかってもらう必要がありました。息子2人を育てあげたのは大きな強みです。人生経験のある点が、会社のニーズとマッチしたのかもしれません。面接では仕事のスキルよりも自分がどんな資質を持った人間なのかを伝えました。」

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求められる人間力

「彼女たちの一番の強みは、臨機応変に対応する力でしょう。さらには視野が広く、落ち着いています。問題対処能力があり、経験が豊富で任されれば全力で頑張る。企業にとって大変有難い人材です」とマキシム・クレルブは分析する。ナタリーがそうだった。「部署では最高齢でした。効率良く動き、失敗から学びました。ひとりで対処しなくてはならなかった主婦生活で培ったスキルや人生経験が役立ちました。責任を持ってきちんと仕事したことが会社から評価されたようです」とナタリー。ふたりの子どもがいるパリ在住の弁護士、50歳のコラリーも同様だ。「何年ものブランクの後で自分に仕事がちゃんと出来るか心配でしたが、すぐに勘を取り戻しました。職場の裁判所は歓迎してくれて、とてもスムーズに行きました」

「ひとりで対処しなくてはならなかった主婦生活で培ったスキルや人生経験が役立ちました」

ナタリー

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50歳過ぎからでも遅くない

たとえ人生後半からのスタートであっても、自分を見つめ直し、働く理由を明確にできればきっとうまくいく。51歳のサンドリーヌには4人の子どもがいる。「子どもがみんな家を出てから人生が空っぽになった気がする」とため息をつく。フランス北部のルーアンに住み、会計士の資格を持っている。夫は薬剤師で暮らしにはゆとりがある。それでもサンドリーヌは再就職したいと思っている。「外に出て、新しい自分を発見したい。人生の新たなステージね」

フォルス・ファム協会のソフィー・フェノ総代表はサポートプロセスをこう説明する。「使えるスキルがあるかは重要です。サポートする女性には、自分のキャリアの方向性を見つめ直してもらい、場合によってはこれまでとは違う道を選択することを勧めます。その結果、起業するなど、現実的な選択をする女性も出てきます」

フランス北東部のロレーヌ地方に住むヴェロニクは50歳過ぎて起業する道を選んだ。「働かなくてはならない事情があり、でも仕事から遠ざかってもう25年間も経っていた。“じゃあ自分に何ができる?”と考えた。若い頃はずっと営業職だったから、不動産仲介業を始めてみようと思った。すごく大変で毎日12時間、必死に働いた。でも最終的にはうまくいって自分を誇らしく思った。実のところプライベートでは別れがあったりしたけれど、起業で人生リスタートしたことは自分の支えとなった」

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疲れて燃え尽きることも

ただ、ある程度の年齢になってから再就職すると仕事のペースに慣れるまで大変だ。メリット社のララ・ガリドによれば「女性はすぐに疲労困憊してしまうかもしれません。男性のフィジカルな疲労はよく話題になりますが、女性の場合はメンタルな疲労が問題です。女性にとって仕事イコール自分の評価やパフォーマンスと考えがちだからです。こうした場合にバーンアウト(燃え尽き症候群)になることもよくあります」

「以前はいくらでも自分の時間があったのに、いまは年に5週間しか休みがありません」とナタリーは不満げだ。「このペースはきつい。もう若くないし、通勤も疲れます。遊びに行かなくなり、週末はワンパターン。しかもほとんどひとりぼっち。まだしばらく、少なくともあと10年はこんなふうに働かなくては。頑張るしかないですね。それでもこの新しい暮らしは悪くないって思います。経済的な自立がなければ自分で何も決められません。これは自由と心の平穏の代償なんです」

※一部の名前は匿名です。

text: Louis Delafon (madame.lefigaro.fr)

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