30代に降りかかる「人生の危機」とは?

Society & Business 2023.09.09

30代になると男女問わず、仕事のことや家族のこと、住まいのことなど、さまざまな面でなりたい自分とあるべき自分とのギャップを感じ、もがくことになる。どうしたらいいのだろう。

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30代は家族、個人、仕事など、さまざまなプレッシャーに直面する年代。illustration : Getty Images

「まだ定職にもつかずにフラフラしているの?」「結婚はまだ?」「子どもができてこそ一人前だ」等々。インスタグラムアカウント@latrentainetmtcは、かわいいイラストと共に30代の本音を語った投稿で、21万4000人以上のフォロワーに支持されている。アカウントの持ち主は33歳のジュリー*。とにかく30歳を超えた途端、周囲からも社会からも、こうしろああしろと言われはじめるのが30代という年代なのだ。

 

 

ちゃんとした相手を見つけて、家庭を築き、仕事をバリバリこなし、人脈を広げ、不動産をそろそろ購入……こんな「やるべきリスト」をこなしながら自分のケアも怠らない。押しつけられる理想像と自分がやりたいことの狭間でもがく30代。目指すは充実した人生だ。でもそこにたどり着くには時間がかかるかもしれない。精神分析医のアナイス・ルブラン=ベリーは、「この象徴的な10年は人生の転機のひとつ。30代になった人は、どのように生きていけばいいのか悩むことになる」と語る。

新たな進路

社会学者のマルク・ロリオルによれば、30代が人生の転機とみなされるようになったのはそう遠い昔のことではない。「1970年代末から、若者とみなされる年齢が徐々に上がってきた」そうで、その根底には学業の長期化と就職難がある。「X、Y、Zの各世代は、どんどん就職難になっていった。その結果、就職、自活、第一子の誕生といった“大人になったこと”を象徴するライフイベントの起きる年齢がだんだん遅くなってきている」とマルクは言う。

2019年にフランス経済環境社会評議会(CESE)が発表した報告書によれば、フランスにおける就職の平均年齢は1975年に20歳だった。2019年には27歳に上昇した。1970年代半ばには結婚するのも早かったようだ。フランス国立統計経済研究所(INSEE)の研究によると、2015年においてフランス人女性は平均28.5歳で第1子を出産しており、これは1974年より4年半遅い。

そのため、30代の子どもを持つ親のなかには、子どもたちがのんびりしすぎているのではないかと、口出しする者も出てくる。こうした親からのプレッシャーは、社会からのプレッシャーと相まって、当人の精神状態に大きな影響を与える。「耐えられなくて精神的に不安定になる若者もいる。不安を訴える相談も増えている」と精神分析医のアナイス・ルブラン=ベリーは指摘する。仕事ではこれが燃え尽き症候群や転職願望につながることもある。

 

 

親と同じような生き方

30代の生き方は2つのパターンに分かれることが多い。一方は学業を終えて就職し、親元を出てパートナーを見つけ、家庭を築くパターン。セラピストのアンヌロール・ビュフェに言わせれば、一般的に「勝ち組」パターンと呼ばれるものだ。「深く考えることなく、親と同じ生き方をなぞっている。家族仲が良く、きょうだいがいることも多い。親と同じ道を歩むことに対しては、もっと後、40代に入ってから疑問を抱くようになるかもしれない」とアンヌロールは言う。

パリ在住の38歳のシャルロット*は30代をハイスピードで駆け抜けた感じがしている。「最初の出産は30歳、2人目は32歳、そして直近では36歳でした」と言うシャルロットは今年で結婚10年を迎える。「仕事では、妊娠と出産休暇の合間に順調に出世し、現在は管理職です」とのこと。彼女の夫の仕事も順調で、ふたりで初めてのアパルトマンを購入した。その後売却してもっと大きい、3ルームのアパルトマンに住み替えた。「振り返ってみると、考える暇もなく、自分にとっての重要項目にチェックを入れて人生突き進んできた感じです。そして今日、トンネルの終着点が見えたような気がしています。もしかしたら別な誰かがそこにいるのかもしれません」とシャルロットは心のうちを語ってくれた。

飽きっぽい性格

親とは違う道を歩む者もいる。長期留学に行ったり起業したり、あるいはひんぱんに職を変えたり、パートナーを変えたり、引っ越したり。「落ち着きがないように見えますが、そうとも言いきれません」とセラピストのアンヌロール・ビュフェは言う。ボルドーの法律事務所に勤める31歳の弁護士、カサンドラは独身で子どももおらず、最近パリからボルドーに引っ越した。

「飽きっぽい性格であることは自覚しています。一年ごとにあちこちの法律事務所を転々としています。目新しくてやりがいを感じることがないとすぐに退屈しまうので」とカサンドラ。しかも数年後には転職を計画している。同僚からは理解に苦しむと言われるそうだ。「なんで10年も勉強したの?」と。

カサンドラの態度は恋愛でも徹底している。「いつどうなるかわからない。だから何事も真剣にならない。恋愛もそう。何人もの男の子と同時に付き合っていても誠実に関係を築くことは可能。伝統的な恋愛のプレッシャーから解放されるのだからむしろ健康的」と強気でいるが、ずっと独身でいることに対して周囲からやんわりと非難されることもある。「父がソファーに座っていて、聞こえよがしに母に急に言いだすんです。“我々もいつかはおじいちゃんおばあちゃんになれるのかな”って」

気軽にデートできない

カサンドラは達観した恋愛観の持ち主だが、30代が皆そうなわけではない。精神分析医のアナイス・ルブラン=ベリーによれば、「30代では誰かとつきあいたい、それも長続きする関係がいいと思っている人が多く、そうならなかったときの不安を抱えている」とのこと。こうして30代は恋愛においてもさまざまなプレッシャーを抱える。冒頭で紹介したインスタグラマーのジュリーも「30歳を過ぎると、いい人を見つけなきゃと思いはじめて気軽にデートできない」とこぼした。仕事以外でも30代は独身でいるべきか、誰かとつきあうべきか、どう暮らしたいか等、さまざまな悩みを抱えることになる。

悩みがピークに達すると、「30代の危機」と呼ばれる状態になる。精神分析医のアナイス・ルブラン=ベリーの説明によれば「個人的な悩みから、家族問題、仕事などさまざまなプレッシャーが積み重なった挙句、すべてを投げ出してしまう状態」だそうだ。インスタグラマーのジュリーも似たような経験をした。30歳のとき、ジュリーはそれまでのパートナー、パリの住居、正社員の職もすべて投げ捨て、「コスタリカに旅立って、そこでダイビングのインストラクターになりました」と当時を振り返る。インストラクターは長続きしなかったが、これがきっかけでジュリーはフリーランスとして働くようになった。

女性の精神的負担は10倍

女性の方が幼い頃からさまざまな制約に囲まれ、30代になってもプレッシャーは大きい。精神分析医のアナイス・ルブラン=ベリーは、「出産可能性のある女性というだけで社会や仕事でさまざまな差別的扱いを受け、雇ってもらえないことすらあるなど大きなプレッシャーを受けている」と指摘する。

30代の女性の多くが選択を迫られる。キャリアを優先させるか、仕事は一旦棚に上げて子どもを産むかの二択だ。子供を選べば「キャリアを犠牲にせざるを得ないことが今でも多い」と社会学者のマルク・ロリオルは言う。家庭を築こうとすると第一子誕生直後から女性の負担が加速度的に増え、夫婦間での負担は平等ではない。精神分析医のアナイス・ルブラン=ベリーは「女性の精神的な負担の方が10倍であることがわかっている。女性は仕事と家庭と育児の両立に大変な苦労をしている」と言う。グローバル・マーケティングリサーチ会社のイプソスが2018年に発表した世論調査によると、女性の55%が、家事の大半を自分が担っていると感じている。

なかには伝統的な家族形態から脱却して子どもを持たない選択をする人もいる。フランス世論研究所(Ifop)の世論調査によると、25~34歳の35%が母親になる「必要を感じていない」そうだ。そこには多くの独身女性も含まれている。彼女たちの周囲は生物学的なタイムリミットをほのめかしがちだが。

制約から解放される

精神分析医のアナイス・ルブラン=ベリーは、まず「自分の選択をじっくり吟味する」ことを勧める。「自分自身に耳を傾け、なぜそのような決断をするのかを理解する必要がある」そうだ。つまり、本当に自分が選択したのか、その選択をする前にたくさんの制約を考慮しすぎなかったかを自問する。大切なのは枠に自分をはめることではない、自己実現することだ」

場合によっては他人の人生を知ることで一歩を踏み出す勇気が出ることもある。37歳のジャーナリスト、ジュディス・デュポルタイユは非配偶者間人工授精を選択し、現在、双子を妊娠中だ。インスタグラムで3万2000人のフォロワーを持ち、過程を記録している。さらに「ロマンチックな愛は、もはや家族を持つための条件ではないはずだ」という自説を述べた書籍『Maternités Rebelles(原題訳:反抗する母性)』を執筆中だ。

 

 

人生で最も幸せな時期

さまざまな制約から解放されれば30代は人生で解放された年代、もしくは最も幸せな年代にもなりえる。「ソーシャル・インディケータ・リサーチ」ジャーナルに掲載されたベゴーニャ・アルバレス教授の研究によれば、30歳からの4年間が人生で最も幸せな時期であるそうだ。「個人が真に自立し、将来が可能性に満ちたものとして捉えられる時期に相当するという仮説を立てることができる」と同教授はスイスの週刊誌「リリュストレ」の取材で語っている。そして責任が重いと感じたら、いつだってインスタグラマーのジュリーのように、笑い飛ばして気分を軽くすることだってできるのだ。

*仮名を使用しています

text : Chloé Friedmann (madame.lefigaro.fr)

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