イギリスでセレブ・スタイリストたちが初の労組結成。

Society & Business 2023.09.10

華やかなスターたちの晴れ舞台を陰で支えてきた人々が待遇の改善を求めている。アメリカで俳優労組や脚本家組合がストライキを継続するなかで、イギリスではスタイリストたちが初の労組結成に動いた。

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モデルのジャーダン・ダン、カンヌ国際映画祭にて。(2023年5月24日)photography: Stephane Cardinale - Corbis / Corbis via Getty Images

7月14日、ハリウッドの俳優労組SAG-AFTRA(映画俳優組合-米国テレビ・ラジオ芸能人組合)はストライキに突入し、レッドカーペットは社会闘争の場と化した。プレミア上映会をはじめとする映画イベントは今夏の開催が困難となっている。ハリウッド俳優労組に先立ってWGA(全米脚本家組合)も4月18日からストライキを続けている。ストリーミングプラットフォーム全盛時代にあって、ストライキの目的は報酬アップを含む労働条件の改善だ。この動きはイギリスに飛び火し、今度はエンターテインメント業界で働くスタイリストたちが労組を結成した。

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「セレブリティ・スタイリスト・ユニオン」はイギリス出身のセレブ・スタイリスト、マイケル・ミラーの旗振りで生まれた。セレブを相手にする仕事のスタイリストたちが結成した初の労組だ。マイケル・ミラー自身はこれまで「ゲーム・オブ・スローンズ」の俳優アルフィー・アレンや『アフター』映画シリーズのヒーロー・ファインズ=ティフィンらのルックを担当してきた。その一方で自分たちの待遇を改善したいという強い決意のもと、2021年夏からイギリスのBectu(放送・芸能・通信・演劇組合)と協議を重ねてきた。その結果、「セレブリティ・スタイリスト・ユニオン」の第1回会合が、2023年5月24日についに開催された。前例のない画期的な取り組みだ。セレブ・スタイリストというあまり知られていない職業を営む人々が抱える不満は多い。

 

 

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セレブ・スタイリストという職業

カンヌ国際映画祭での大階段やメットガラでセレブが華やかに登場する。その裏ではどんなことがおこなわれているのだろう。スタイリストのサラ・エドミストンがホストを務めるポッドキャスト「レッツ・トーク・アバウト」に出演したマイケル・ミラーは、セレブ・スタイリストという職業を次のように説明した。「まず準備段階では、一着の服を借りるために40あまりのブランドとメールを150通ぐらい、やりとりする。10社からしか返事がないこともあるし、たった2社のこともある。それから服を送ってもらって試着をさせ、お直しするために職人を呼んだりする。アフターサービスも必要だ。つまり、選ばれなかったブランドに対してはその理由を説明し、選んだブランドとはレンタル条件を交渉する。こうして当日を迎える。終わったあとも服の回収の仕事が待っている」

 

 

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報酬の問題

マイケル・ミラーによれば作業には3〜5日間を要し、報酬は1着当たり平均500ドルだ。プラットフォームのNetflixでは、1人のスタイリストに年間約60着のルックを発注する。仮にこの作業をポンド換算し、時給計算すると、時給6.25ポンドとなる。これは4月1日以降に英国で定められた法定最低賃金10.42ポンドを大幅に下回る。しかも多くの関連費用、なかでも配送費用はスタイリスト持ちだ。「プラットフォーム側だってプロモーション用のインタビューを撮影するカメラマンには、自分で機材を用意させたり、照明代を負担させたりすることはないのに」とマイケル・ミラーは「WWD」誌の取材で不満をぶちまけた。

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ゼンデイヤのスタイリストとして有名なロー・ローチは2023年3月、スタイリスト界にはびこる「かけひき」や「嘘」に対して怒りを爆発させた。(ロサンゼルス、2022年4月20日)phography: OConnor Lisa / OConnor Lisa/AFF/ABACA

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ロー・ローチの告発

スタイリスト労組はひどい待遇や低収入に加え、人々に夢を与える仕事と思えないほど劣悪な仕事環境や慣習を糾弾している。セリーヌ・ディオンゼンデイヤのスタイリストとしてこの業界でスター的存在のひとりだったロー・ローチは2023年3月、ぶちきれた。「かけひき、嘘、誤報にやられた! あなた方の勝ちだ......私はもう降りる」とインスタグラムに衝撃の投稿をしたのだ。その後、「ユーフォリア/EUPHORIA」の出演女優との仕事を再開したものの、ロー・ローチの謎めいた告発は今回のスタイリスト労組が掲げる要求に通じるものがある。

セレブ・スタイリストの待遇改善のために現在、様々な方策が検討されている。契約で遵守すべき諸条件の策定、スタイリストの権利意識の向上、法的支援、業界内の関係健全化のための基準確立等々。これまでずっとスポットライトの陰に隠れていた職業を正当に評価するための試みが始まろうとしている。

text: Mitia Bernetel (madame.lefigaro.fr)

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