世界で百寿者が集中している地域「ブルーゾーン」の秘密とは?

Society & Business 2023.10.01

米国のジャーナリスト、ダン・ビュイトナーは、1990年代から、世界で百寿者が集中している5つの地域の生活習慣を研究してきた。Netflix配信のドキュメンタリーシリーズにもなった、ブルーゾーンの長寿の理由とは?

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米ジャーナリスト、ダン・ビュイトナーは、百寿者が多い地域の生活習慣を明らかにした。Photography : Thomas Barwick / Getty Images

1980年代のことだ。青年スタマティス・モライティスはギリシャで育ち、大人になってからは米国で暮らしていた。肺がんで余命6ヶ月の宣告を受け、せめて生まれ故郷で死のうと先祖代々の土地、イカリア島に戻ってきた。ところが歳月が経っても元気なままだった。亡くなったのはそれから約40年後、103歳の時だった。どうしてこれほど長生きできたのだろうか。イカリア島の環境が関係しているのではないか。アメリカ人ジャーナリスト、ダン・ビュイトナーはそんな疑問を抱いた。それから30年近くにわたり、百寿者の多い地域、通称「ブルーゾーン」を調査してきた。ダンの研究成果はネットフリックスで配信中のドキュメンタリーシリーズ『100まで生きる:ブルーゾーンと健康長寿の秘訣』で紹介されている。

ブルーゾーンの住民がなぜ長寿なのかを解明するためにダンはサルデーニャ、日本、ギリシャ、カリフォルニア、コスタリカを訪れた。そして各地の食生活、地質学的条件、歴史について数えきれないほどの科学研究を参照した。これらの地域の住民のライフスタイルが健康にどのような好影響をを与えているのかを解明するため、医師にも取材した。2009年にはミネソタ州アルバート・リーで、アメリカにブルーゾーンを作りだす大規模実験までおこなった。学んだ教訓に従って住民の生活習慣を整えたところ、1年後の地域の平均寿命は2.9年延びた。それでは長寿になる生活習慣とはどんなものだろう。

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自然と体を動かす環境

ダンが調査した地域のすべてで身体活動は人々の生活に不可欠な要素として自然に取り入れられていた。。百寿者は、「スポーツをするためにスポーツを」しなくても、体を動かさなくては暮らしていけない環境にいた。例えば、サルデーニャ島では、村の急な坂道を村人は日々行き来している。百寿者の数で世界一は日本の沖縄だ。2015年の「沖縄百寿者調査(OCS)」によると、人口10万人あたり81名の百寿者がいる。対して米国は20名だ。沖縄の家には家具がほとんどない。1日に何度も座ったり立ったりすることで人々は日々、スクワットエクササイズのような動作をしており、それが深層筋を鍛え、柔軟性やバランス感覚を培っている。

このドキュメンタリーでは、ブルーゾーンの住民が毎日おこなう手作業が多いことにも焦点を当てている。農作業、ガーデニング、料理など“自然な”身体活動の源でありながら、現代社会では機械化されることが多いこうした作業をおこなうことで、活動的で勤勉なライフスタイルを送っているのだ。

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野菜中心のバランスのとれた食生活

ブルーゾーンの生活習慣を構成するもうひとつの要素、それは栄養たっぷりの果物や野菜をたくさん使った食生活だ。人々の食事のベースにあるのは黒豆とカボチャ、トウモロコシだ。いずれも抗酸化物質、ビタミン、ミネラルを豊富に含み、組み合わせることで、動物性タンパク質と同等のアミノ酸の栄養素をあますことなく摂取できる。しかもコレステロールや脂肪の心配もない。ドキュメンタリーの中ではカリフォルニア州ロマリンダのアドベンチスト派コミュニティも紹介されている。カリフォルニア州の平均寿命よりも男性は平均7.3年、女性は4.4年長生きする。1日の摂取カロリーのうち、肉、魚、鶏肉からの摂取はわずか5%で、平均的なアメリカ人の3分の1だ。

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大切なのは社会とのつながり

ダンによれば、長寿をもたらすもうひとりの要因、それは近隣社会のつながりが保たれている点だ。彼が訪れたすべてのブルーゾーンで結束力の強いコミュニティが存在していた。健康的な生活を送る人たちに囲まれていると、知らず知らずにそうした習慣が身につくものだ。「身近にベジタリアンがいれば、そうした食生活をどうやって無理なく取り入れるかを学ぶことができる」とダン。同様の結論に達したのがロバート・ウォールディンガーだ。この学者はアメリカの精神医学界の権威で、人生を幸せにするのは何かを非常に長期に渡り、研究指導した。2023年6月、フランス版「マダム・フィガロ」誌の取材に応じ、「良い人間関係は、人を生涯幸せにしてくれるだけでなく、長生きして年取っても健康を保つ効果がある」ことを語った。

悪い生活習慣もまた伝染する。ドキュメンタリーでダンが紹介している通り、2003年に「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」誌に発表された研究によれば、友人のひとりが肥満になると、私たちが肥満になる確率は57%増加するという。孤独や喫煙も、友人や家族間で伝染するそうだ。

社会的結束力は孤立が特に悪影響を及ぼす人生の終末期において非常に効果を発揮する。サルデーニャでは老人ホームはなく、住民たちは自分たちで年寄りの面倒を見る。家族が交代で高齢者の食事を作ったり、手助けしたり、話し相手になったりするのだ。

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いくつになっても社会の一員

長寿の最後の秘訣は私たちが高齢者に対して持っているイメージと直結している。ブルーゾーンでは、現役世代と引退世代を区別しない。沖縄の島では、「引退」という言葉すら聞かれない。その代わりに、人々は「生きがい」について語る。つまり、生涯現役であることで、自分の存在を意味あるものにしたい。それがブルーゾーンに住む人々の信念であり、百寿者になっても地域の仕事に参加し続ける。しかも社会に溶け込んでいる。「自分たちが必要とされていること、重要な存在であることを常に周囲から意識させられている」とダンは言う。カリフォルニア州ロマリンダでは他地域同様、定年退職があるが、高齢者は非常に活動的で、特にボランティア活動への参加率が高い。老化防止と、定年になって社会と突然断絶してしまうことを防ぐためにダンはボランティア活動の積極活用を提案している。

 

text: Louise Servans (madame.lefigaro.fr)

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