ポスト#MeToo時代の恋愛事情。女性からアプローチしてほしい男性たち。

Society & Business 2023.10.09

「#MeToo」運動が起きてから、男性が女性にアプローチするやり方も変化した。どうしていいかわからないと戸惑う男性もいれば、相手に敬意を払いつつ、新しいやり方を探る人もいる。フランスの「マダム・フィガロ」によるリポート。

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#MeToo運動から6年経ち、恋愛に慎重な男性が多い。photography : Getty Images

2023年の夏、パリ近郊のマルリー王領博物館で17、18世紀の服装をテーマにした展覧会が開催されていた。レースのシャツにかつら、顔に化粧して美しく着飾った貴族の男性が、扇子を手にいそいそと美女をくどきに出かける17世紀の絵などが出品され、当時の世相がよくわかる。
翻って、パリのカルティエ財団では2023年6月から11月まで著名彫刻家ロン・ミュエク展が開催され、壮大なインスタレーション『Man in a Boat』が現代人のビジョンを提示する。宇宙の真ん中に浮かぶ小舟の舳先にただひとり、裸の男が前傾姿勢で座り、不安げなまなざしで未来を見つめる。

この2つの美術作品はあまりにも対照的だ。17世紀の絵画作品は恋の戯れ、要するにナンパをしに出かける典型的な遊び人、口説きのテクに長けた生意気な男性を描いている。超写実的なロン・ミュエクの作品は男性を観察する男性を描く。その男は男性性の神話から分断され、深い孤独に陥っている。

精神科医のトミー・ビュルテは現在の状況について、「最近、"男性苦難の時代 "という言葉をよく耳にする。男女の関係はぎくしゃくし、男性は女性とどう向き合えばいいのかわからなくなっている」と言う。男女関係にまさに文化革命をもたらした#MeToo運動から6年経ち、多くの男性が途方に暮れている。フランスのシンガーソングライター、エディ・ドゥ・プレトはヒット曲『Kid』の中で「過度の男らしさ」を風刺し、男性に固定観念を捨てようと呼びかける。歌や映画の中でも、SNSや街なかでも、男らしさは疑問視され、分析解体される。フランスの社会学者、哲学者のピエール・ブルデューの言葉、「男性であることは特権でもあり、罠でもある」が今日ほど当を得たことはない。

#MeToo論争やハラスメント騒動を通じて男性側にも迷いが生じている。とりわけ男性が不安に思うのは、街なかやパーティーで、女性に声をかけたら不審者扱いされないだろうかということだ。「ナンパは機転を利かせることが必要なハイリスクの行為」と言うのはパリ在住の40代の写真家アレクサンドルだ。「セクハラや性的暴行の暴露が続き、男性のイメージは失墜した。女性の多くが怒っている。だから男性も女性の気を引くためにやっていたこれまでのやり方を見直し、女性たちが何を求めているのかに耳を傾けるのは当然だ」

トミー・ビュルテによれば、#MeToo運動は男性のナンパ行動を一変させた。「慎重な男性に対する抑止効果は絶大だった。逆にナルシスト的な男性たちは、限界を超える快感を味わおうと、これまで以上に過激なナンパを始めた」とのこと。どちらも女性から敬遠される行為であることは変わりない。残る大多数の男性は、相手に敬意を払うことをこれまで以上に意識しながらどうアプローチしようか、迷いながら手探りしている状況だ。50歳のデザイナー、リュドヴィックによれば「以前は、パーティーやカフェ、時にはメトロで女性に声をかけたりした。無言のゲームと言おうか、ボディランゲージや交わされる視線や笑みが手がかりだった。彼女の方から合図があれば近づいていた」と言う。この「合図」というのが大事だ。セックス・セラピストでもある心理学者のエレオノール・ベレニはその仕組みを次のように語る。「大事なポイントです。ハラスメントになるかならないかのぎりぎりの境界線は同意があるかどうかなのです。明確な言葉による同意に先立ち、やりとりを始めてもいいかどうかが相手の顔の表情の変化から読み取れます」

「たいていの男性は、こうしたファーストメッセージを読み解くことができます。しかし、用心しなければという気持ちが強く働く現在の社会状況で、男性の多くは自信を失い、自己規制しています」とエレオノール・ベレニは続けた。実際、デザイナーのリュドヴィックも「今は考えすぎてしまって自問自答を繰り返している。実際、自分から声をかけるのはやめた。女性からアプローチしてくるのを待つ方がいい」と悩ましい気持ちを打ち明ける。その一方で、Ifop(フランス世論研究所)の世論調査によれば、10人に9人の女性が、いまだに男性から声をかけてほしいと考えているそうだ。現在の混迷する状況はこうした相反する願望が存在する矛盾を反映しているし、社会が変わりつつあることを示してもいる。最近のインタビューで、映画監督のマイウェンは「通りで男性から口笛を吹かれるような、いい女で生涯いたい!」と挑発的に語っている。ある意味、2018年にル・モンド紙に掲載され物議を醸した記事と同じ発想だろう。その記事では精神分析医で作家のサラ・シシュ、作家のカトリーヌ・ミレおよびカトリーヌ・ドヌーヴが、「しつこかったり不器用であってもナンパは罪ではないし、女性に言い寄るのは男尊女卑的な攻撃でもない」と主張していた。人の好みは実にさまざまだ。

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新しいルール

取材に応じてくれた男性たちの多くは、#MeToo運動後に起きた議論のおかげで必要かつ前向きな変化が生じたと考えている。「だけど同時に、今を生きる男性としては、女性たちが男性にどんな期待をしているのかを知り、自分たちのポジショニングを見つけるのに苦労している」と言うのは、フランス人ラッパーミュージシャンのUSKYだ。政治学と社会学の学位も持つこのミュージシャンは「リードしてくれる男らしい男性が好きと言う女性が多い一方で、超繊細でフェミニンな男性がいいという女性もいる。なんだか訳がわからない」と戸惑う気持ちを語り、今日の男らしさの正確な定義とはなんだろうと自問する。「ストレートの男性であることは時に気づまりだし、別れを切り出されないために献身的に尽くすことを恥ずかしく思う男性もいる」

精神科医のトミー・ビュルテは、昔ながらの男性像は今や過去の遺物だと言う。「今日、男らしさはある意味で笑いの対象だ。ナルシストだったり、平気でルールを破ったり、#BalanceTonPorc、すなわちフランス版#MeTooのハッシュタグをつけられるような男性は。だから多くの男性は、変な目で見られたくないと思い、男らしさに対する拒否反応が起きている」

男らしさを自問することは現状を問い直すことでもある。作家のミカエル・ベルジュロンは、エッセイ『Cocorico(コケコッコー)』(Somme toute出版, 2023年)で、公平かつ健全な社会を実現させるために男性性の定義を考えなおそうと男性に呼びかけている。「私たち男性は、誰にとっても有害なステレオタイプに自分自身を閉じこめている。つまり、映画やテレビドラマ、歌などの大衆文化に登場する強い男のイメージだ。だから自分たちの既成概念を覆す必要がある。男性は女性と共に公平な社会を実現するため、積極的に動こう。例えば、性差別的なジョークを言ったり、しつこく言い寄ったりするのはやめよう。すべては我々次第だ」
哲学書『Vies vides(空虚な人生)』(Armand Colin出版)の著者で哲学者のエルザ・ゴダールは目下、社会の急激な変化が起きていると指摘する。「一方では多くの男性が、もうやってられない、女の子なんか口説けやしないと言う。でも賢い男性は過去の不健全なやり方に頼らず、新しいやり方を模索しはじめている。#MeToo革命によって、これ以上は許容できないと女性たちがみなす限度が設定された。多くの若者はこれを理解し、新しい基準に基づいて行動している」とエルザ・ゴダール。そして女性を口説くやり方も一新された。「最近よく聞くのはどうすれば“エレガントな口説き方”ができるかということだ。女性を持ち上げたり、きれいで魅力的だと思っていることをスマートに伝える方法を男性は研究している」
このような新しい態度は、「消費主義的な態度」から脱するひとつのやり方だと彼女は考えている。男女間の距離を縮めるのに役立つのは尊敬と気配り、そして相手の話をよく聞くこと。自分とは違う相手という存在を受け入れることが大切になってくる。

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アルファオスでも白馬の王子様でもなく

このような変革の時代に育った若い世代は、変化を受け入れているようだ。パリ在住の22歳、経済学者の卵のリュカはこんなふうに説明する。「好意を寄せている女の子がどう感じているかはとても大切だ。相手に嫌われないために気を配る。アルファオスらしくふるまったり、映画『スカーフェイス』で主人公のトニーがやったように、知らない女の子の跡をつけたりなんて行動は完全に廃れた。僕らの仲間内でそんなことをする人は誰もいない。セクハラを受けた女性の話をあまりにもたくさん聞かされたからね。いいなと思う女の子がいたら、さりげなくそのことを本人に伝えるやり方を探る。電話番号を聞いてみたり、自分の電話番号を渡して連絡をくれるのを待ったり。よくやるのはSNSでの連絡先を聞くことかな。インスタグラムかTikTokで友達になることに同意してもらえれば、暗黙の了解は得られたことになるから、メッセージをやり取りしたり、共通の話題をシェアしたりして、やがてはデートに誘ってみる」

これは一部の専門家から "現実主義的な恋愛 "と呼ばれているものだ。誤解を避けるために、誰もが自分の気持ちを言語化し、相手が望むスピードに合わせようとする。出会い系サイトやアプリの存在も状況を大きく変化させ、最初のステップを単純化する一方で相手との距離は複雑化した。リュカは仲間に勧められてTinder(ティンダー)などのマッチングアプリを使ってみたことがある。「とても簡単だ。フィルターをかければいいから。みんな求めるものは同じ。アプリでは女の子からのアプローチもとても多い。でも積極的すぎる女の子が多いかも。男性って意外とロマンチストなんだ。ラブレターやラブソングを送ったり、花を贈ったり。それが好きと言ってくれる女の子もいる。なかには、そんなのは古臭いやり方だし、白馬の王子様を待つ受身の女性っぽくて嫌と考える女の子もいるけれど」

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権力と平等

初デートにこぎつけると、割り勘にすべきかという微妙な問題に行き着く。実のところ、割り勘は稀なケースと言いわけではない。Ifop(フランス世論調査所)の世論調査によると、今でもフランス人の65%が、レストランでは男性が払うべきと考えている。だが若い層になると意見が男女で分かれる。この年齢層の男性の60%は自分が勘定を払うべきと考えているのに対し、女性の60%は、男性だけに支払わせるのは問題と考えている。この問題ひとつを取ってみても男女間の行動規範はケースバイケースで変わりつつあることが分かる。
1990年代のハリウッド製ロマンチック・コメディはもう遠く、今の脚本家や監督は薄氷を踏む思いで仕事をしている。自分たちが描く恋愛が「政治的に正しくない」と言われることを恐れているのだ。全世界で10億ドル以上の興行収入を記録したヒット作、グレタ・ガーウィグの映画『バービー』は、フェミニズム的視点のヒロインと、ケンという存在にしかなれないケンを描いている。それはすなわち曖昧な男性性なのだ。トミー・ビュルテは若者に希望を託している。「若い世代の恋愛アプローチ行動はこうした状況の影響を受けている。より平等主義的な新しいやり方を彼らは再構築しているのだ。時間はかかるかもしれないが……」

text : Paola Genone (madame.lefigaro.fr)

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