【BWA AWARD 2023】新たな選択肢を創り出す、 女性たちの物語。 「お手伝い」と「旅」を掛け合わせ、地方の働き手不足を解消していく。

Society & Business 2023.11.20

「美しく豊かな働き方」を実践する次世代の女性ロールモデルを讃えるフィガロジャポンBusiness with Attitude(BWA)Award。3回目となる本年のテーマは「新しい選択肢を創り出す女性たち」。既存の選択肢にとらわれず、新たな価値観を切り拓き、これからの働き方をより豊かにしてくれる5人の取り組みを紹介します。


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永岡里菜
【 おてつたび代表取締役CEO 】

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永岡里菜(ながおか りな):1990年、三重県尾鷲市生まれ。千葉大学卒業後、イベント企画・制作会社にディレクターとして入社。官公庁やEC大手企業のプロモーションやイベントの企画提案、プランニング、運営を担当。退職後フリーランスに。半年間はノマドワーカーのように過ごし、全国を巡る。地域の人手不足で困る事業者と、「知らない地域へ行きたい!」と思う地域外の若者をマッチングするウェブプラットフォーム、おてつたびを2018年7月より運営。https://otetsutabi.com

少子高齢化による労働人口の減少、大都市への人口流出などの要因が重なり、地方の事業者は深刻な人手不足に悩まされている。その人手不足と旅行者を結びつけた新たな仕組みとして注目されているのが、人材マッチングサービス、おてつたびだ。事業者が募集する内容は、たとえば農作物の収穫や旅館での手伝い、イベントの臨時スタッフなど。旅行者は用意された宿泊場所で寝起きし、手伝いをして報酬を得ながら、その地域での滞在を楽しむことができる。この仕組みが生まれた原点は「どこ、そこ?」といわれるような地域にスポットを当てたい、という思い。

「でも、理想的なサービスがありませんでした。だから自分で始める選択をせざるを得なかった」と、おてつたび代表取締役CEOの永岡里菜は起業した経緯を振り返る。

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おてつたびで人材を確保する群馬県川原湯温泉の山木館にて。「スポット的な求人でも参加者みなモチベーションが高く、土地への興味も持って働いてくれるので助かっています。おてつたびを通して宿のファンになってくれる人が増えれば」と15代目当主の樋田勇人(左)。

大学の教育学部で学んだ永岡は、教師になろうと考えていた。だが教育実習を経て、「社会のことをよく知らない自分が子どもたちに何を伝えられるのだろう」という疑念を抱く。3年間だけ民間企業で働こうと思い、イベント系の企画・制作会社に就職。クライアントのニーズに合わせ、ゼロからイチを作り出す仕事に従事した。その後、よりエンドユーザーの顔が見える仕事を求めて転職。そこで地域活性化にまつわる業務を担当する。

「2社目では全国各地を飛び回る日々。その中で、日本には知名度は低くても魅力的な地域がたくさんあることを知りました。自分の出身地である三重県尾鷲市も素敵な場所なのに、一般的には『どこ、そこ?』と言われてしまう。そんな地域の魅力を伝えるために何かをしたい、という思いが湧き上がりました」

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江戸時代に創業、八ッ場ダム建設により移転した老舗旅館の山木館。草津と伊香保のいいとこ取りといわれる良質な湯に魅せられた常連客も多い。

予定していた3年が過ぎ、社会人4年目で会社を退職。永岡が選んだのは教師になることではなく、いまの思いを実現する道だった。とはいえ、具体的なソリューションがあるわけではない。手がかりを掴むべく、夜行バスに乗り、見知らぬ地域を巡ることに。東京の家を解約するほど覚悟を決めた旅だった。

「地域の人が本当に困っていることは何か。見知らぬ場所で何に触れると自分の心が動くのか。約半年間、さまざまな地域を訪れるうちに、やるべきことの輪郭が見えてきました」

「どこ、そこ?」と言われるような地域では、人手不足という課題を抱えていた。永岡は手伝いをしながら人との触れ合いを重ねるうちに、地元の人と一緒に仕事をすると、より地域に溶け込めることを知った。一方で、そのような地域は旅行者からどう見えているのか。ヒアリングをすると、見知らぬ町に興味がないわけではない。行かないのは、あえて旅先に選ぶだけの動機がないから。さらに観光名所がない地域は価格競争が起きにくく、交通費が高くなりがちという理由もあった。では、手伝いという新しい目的を作ったらどうか。報酬があれば旅費を抑えることもできる──。

アイデアは固まった。だが、事業として形にするのは簡単ではなかった。

「おてつたびは、新しい価値を届けるサービスです。まずは地域の事業者に賛同してもらう必要があるのに、具体的な事例を示せる実績がない。だからおもしろいと思っても、みんな尻込みしてしまう。しばらくはこちらの熱い思いだけが空回りしている状態でした」

それでもトライアルにこぎつけ、ひとつずつ実績を積み重ねるうちに、口コミでも評判が拡散。軌道に乗り始めた2018年7月に、法人として事業をスタートさせた。6年目に入ったいま、全国1200軒以上の事業者と4万6000人以上の利用者が登録しており、その数は右肩上がりに増えている。

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起業後しばらくは永岡ひとりで運営していたが、いまは社員10人体制に。業績は昨年比500%で急成長中。

おてつたびは事業者の人手を支え、旅行者に新たな旅のきっかけを与えているだけではない。受け入れ側は手伝いという触れ合いを通し、旅行者が地域のファンになってくれることを願う。実際、おてつたびの後にプライベートでその地を再訪する人、その地域の商品を買い続ける人、さらにおてつたび先に就職をした人も出ている。永岡は「おてつたびの本質は体験を売っていないこと」という。

「気軽な"体験"ではきれいな面しか見えない。手伝いという"経験"をすると現実を知り、仲間意識も芽生えてくる。だから一歩踏み込んだ関係性が生まれるのだと思います」

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山木館で2週間働いた大学生の二宮いこいは、今回6度目のおてつたび。「地元の人から郷土の歴史を聞いたり、仕事後に観光名所を一緒に回ったり。おてつたびを通して価値観の違う人、さまざまな仕事に出合えるのが楽しい」

永岡のミッションは、誰かにとっての第二の故郷のような特別な地域を創出すること。

「人口が減少する中、ひとり何カ所か好きな地域があれば、ひとりが何役にもなって支え合うことができる。そんな未来を創っていきたいですね」

関係人口の創出という点も大いに期待されるおてつたび。新たな旅の在り方が、地域と人の間に立ちふさがる見えない壁を、軽々と飛び超える起爆剤になっている。

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Judges' Comments

浜田敬子(ジャーナリスト)
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ふたつの課題を同時に解決しようとしているところが素晴らしい。地域の労働力不足は本当に深刻ですが、旅と組み合わせることで、労働をエンターテインメントにした発想を評価。事業が成長している点も評価したい。

小山薫堂(放送作家/脚本家)
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旅行と仕事を掛け合わせたビジネスアイデアを企画実行し、ビジネスとして成立させている時点で大拍手! 旅をテーマにした特集が多いフィガロジャポンだからこそ、こういう女性を応援してほしい。

篠原ともえ(デザイナー/アーティスト)
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取り組みそのものが幸せ感とオリジナルのアイデアにあふれている。若くて発信力もある方なので、大きく広がる可能性を持つ事業だと思いました。ローカルとマスを繋げる新しいロールモデルとなりそう。

BWA Award 2023 受賞者一覧を見る

photography: Ami Harita text: Atsuo Kokubo(Sagres)

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