怒りを上手にコントロールする方法とは?
Society & Business 2024.02.17
怒りによって物事が良い方向に動く場合もあれば、悲惨な結果になることもある。静かに燃える怒り、爆発する怒り。最近、ネットでも街なかでも怒る人が多いのはなぜだろう? 現代人の心理について、フランスの心理学者で精神分析学者のモニク・ド・ケルマデックに「マダム・フィガロ」がインタビュー。
私たちはなぜ怒るのか?photography : Malte Mueller / Getty Images/fStop
職場で何度もひどいことを言われてイライラ、隣家の車が邪魔なところに駐車していることにカッとなり、朝の着替えをぐずぐずしている子どもに声を荒げる。怒りのタネはどこにでも転がっている。家の中でも職場でも公共の場でも。
運転しながら自制心を失うことだって珍しくない。2021年5月21日、フランスのヴァンシ・オートルート社の依頼で世論調査会社のIPSOSがおこなったヨーロッパ安全運転指標調査が発表された。ハンドルを握ったフランス人はとりわけ攻撃的になるようだ。フランス人の65%はほかのドライバーに対し、ののしったことがあるそうだ。ヨーロッパ全体の平均は52%なのに。
どうして我々はカッとなり、怒りに身を任せてしまうのだろうか。現代人はストレスの多い暮らしをしているから、ということだけで片付けられる問題なのだろうか。
臨床心理学者で精神分析学者のモニク・ドゥ・ケルマデックの意見を聞いた。彼女は著書『Oser la colère(原題訳:怒る勇気)』(Flammarion刊)の中で、軽く見過ごされがちな怒りの感情をモンタージュ写真のように分析し、日常の中でそれがどう抑圧され、あるいは逆に表出されているのかを説明している。
怒りというものをきちんと理解し、うまく手なずければ、それは私たちが暮らすうえでの味方となりうる。
----(マダム・フィガロ)近年、世の中に怒りが増大しているとのことですが、それはなぜなのでしょうか?
ここ10年ほどの間に、私たちの経済状況は悪化しました。かつてないほどの政治的分断、そしてコロナウィルスのパンデミック----多くの問題に直面して、未来が不確かなものであること、もはや物事を実はコントロールできていないことを我々は思い知らされたのです。
そうしたすべてのことが、世の中に不安やイライラ感、フラストレーション、怒りをもたらしています。もちろん、怒りは常に存在していましたが、近年の社会の激変によって、個人レベルでより強く感じられるようになったのです。
----この怒りはどのような形で現れるのでしょうか?
怒りの増大に伴って暴力も増えています。今日の世界はまるで火薬庫、我々は日々それを実感しています。学校でのいじめ、家庭内暴力、職場やネット上でも言葉の暴力が平気でたれ流されています。言うまでもなく、各地で紛争も蔓延していますよね。
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----しかし、怒りは有益であり、人々を解放してくれるとあなたの著書にはあります。それはどのような意味なのでしょうか?
どんな感情もそうですが、怒りはネガティブでもポジティブでもありません。怒りは、それがなにをもたらすかによって判断されるのです。
きちんとコントロールされた怒りは、怒りの原因に目を向けさせます。すなわち相手や集団の行為や言動の何が許せないのか、ということに対してです。健全な人間関係の構築や再構築はそこから始まります。
自分の怒りを解放することで、私たちは相手に対し、こんなふうに言っているのです。「ストップ、限界を超えたぞ。自分は苦しんでいる。これはダメだ」とね。そして最初の怒りの感情が収まったら当然、どうして怒ったかの説明段階に移行することになります。その結果、今後は不愉快な状況に陥らずに済むかもしれないのです。
----9月に科学ジャーナル『Global Environmental Change』に掲載されたノルウェーの研究によると、気候変動問題への取り組みに有効なのは希望よりも怒りなのだそうです。怒りがどのように信念へと変わるのでしょうか?
怒りを感じると、私たちのエネルギーは高まります。そして怒りを表現する勇気を持てば持つほど、行動に移したくなる、単純なメカニズムです。
たとえば相手に怒りをぶつけ、自分たちへ敬意を払うよう求める場合、その行動を通じ、私たちは己の力を実感し、自信を持ちます。
アクティビズムということで言えば、ひどい状況の存在を無視する人や政治的状況、あるいは何らかの壁に直面すると、闘志が強まり、もっと声を上げなければと思うようになります。
ただ、そこには落とし穴があります。健全な方法で怒りを表現する手段を持たなければ、言葉でも物理的なやり方でも、危険な暴力に繋がりかねないのです。
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----怒りの感情を抑圧する人もいます。あなたの指摘によれば特に女性はそうだということだが、それはなぜでしょうか?
女性は小さい頃から、怒りの感情を遠ざけるように仕向けられます。社会的に怒りの感情は、女性よりも男性と結びつけられ、男の子は怒りを表に出すことが肯定されるのです。暴力に変容しない限り、怒りは力や権力と結びつく。
一方、女性はひたすら優しくあれと言われ、決して爆発しないよう、怒りを内に秘めることを強いられます。大人になってもそうです。不運にも怒りを爆発させてしまった場合、恥ずかしさと罪悪感にさいなまれることになるでしょう。
----このような抑圧はどうして自他ともに危険なのでしょうか?
このような抑圧は身体に有害になりうることが科学研究で指摘されています。怒りは血圧、体温、呼吸数を上昇させます。怒りを溜めたまま我慢していると、頭痛、高血圧、心血管障害などさまざまな疾患誘発の間接原因ともなりうる。
精神面では、いわゆる「静かな怒り」にとらわれた場合、ストレスや不安を抱え、それがたとえば摂食障害に繋がったりもする。自分の中にある緊張をコントロールする手段が、食べ物との関係になってしまうということです。
フラストレーションを溜めこんでついに爆発し、自分自身や他人に対して暴力的な行動に及んでしまうことも考えられます。
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----どうすれば怒りを上手にコントロールし、建設的なものにできるのでしょうか?
怒りを建設的なものにするにはまず、怒りを感じることを自分に許さなくては。怒りを受け入れましょう。怒りの感情を認め、他人から隠そうとしないことです。
怒りを感じているかよくわからないということであれば、日中にイラっとしたことはないかを考えてみましょう。あったらメモする。これを足したものがあなたの怒りの資本です。
イライラを発散活動で解消することはおすすめしません。発散活動とは、たとえばリラクゼーションエクササイズとかボクシング、あるいは物が壊せるエンターテインメントサービスの「怒りの部屋」など。これはまるで義足にばんそうこうを貼るようなもの。
最良の方法は、何が怒りの引き金になっているのかを突き止め、状況を良い方向に変える行動を起こすことです。もしも誰かとの争いが原因ならば、相手と話し、自分の気持ちをはっきりと伝える。相手と話している途中にキレてしまいそうになった時は、落ち着いたらまた話し合うことを伝え、一旦その場を去る。そうすれば自分も相手も、破壊的な、あるいは暴力的な怒りの伝染から守ることができるでしょう。
text : Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr)