オンラインIT人材育成事業を通して、女性がもっと稼げる社会を。【BWAアワード2024受賞者:やまざきひとみ】

Society & Business 2024.11.20

「こうあるべき」にとらわれず、自分の感性や思いを大切にしながら働くことを通して社会にインパクトを与える次世代のロールモデルたちに光を当てるフィガロジャポンBusiness with Attitude(BWA)Award。4回目となる今年のテーマは、「新しいスタンダードを築き上げる女性たち」。

社会や業界の課題に向き合い、自身の熱い思いを胸に、新しい生き方、働き方の可能性を発信する女性たちのストーリーを紹介します。


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やまざきひとみ
【 Ms. Engineer代表取締役 】

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やまざきひとみ:1984年、東京都生まれ。大学卒業後、サイバーエージェントに入社。アメーバで仮想空間アバターコミュニティサービス、アメーバピグの立ち上げをプロデュースし、1年半で500万人の会員を獲得。女性向けキュレーションメディアの編集長などを経て2015年独立。16年、PRを手がけるアタラシイヒを設立。21年4月に女性のためのコーディングブートキャンプ、ミズエンジニアを立ち上げ。https://ms-engineer.jp

少子高齢化で女性の労働力に期待が集まるが、日本の女性の労働環境は豊かとはいえない。非正規雇用率は5割を超えており、諸外国と比べると依然として男女の賃金格差は大きい。「日本の女性はもっと稼いでいい」と、Ms.Engineer(ミズエンジニア)代表取締役のやまざきひとみは言い切る。

「女性が男性と同等に稼ぐことをスタンダードにしなければ、次世代に格差を引き継ぐことになる」

2021年創業のミズエンジニアが運営するのは、オンラインでのアクティブラーニングを取り入れた女性のためのコーディングブートキャンプだ。女性にエンジニアというキャリアの選択肢を与えることで、ジェンダーギャップや地域と都市の格差の解消を目指す。基礎コースからスタートして高難度のブートキャンプに進めば、約半年で経済産業省が定義する高度IT人材のレベルに到達できる。ブートキャンプの修了者は3年間で約150人。ほとんどがエンジニアとして就職を果たしており、未経験でも卒業後の平均年収は480万円。日本女性の平均年収より100万円以上高く、キャリアアップに繋がることを実証した。

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ミズエンジニアのブートキャンプの様子。オンライン開講で地方在住の受講者も多い。

ミズエンジニアが力を入れるのは、女性のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を解くこと。

「日本の女性は本当に自信がない。自らのバイアスによって思考や行動に制限をかけてしまう。ミズエンジニアのブートキャンプは、同じ目的を持つ女性が集まり学ぶため心理的安全性があり、バイアスのない環境での学習が可能です。スキル面とマインド面の両方が育つことを重視しています」

派遣で医療事務に従事していたある女性は、ブートキャンプに参加したことでキャリアシフトを果たし、現在はミズエンジニアで働いている。派遣として勤務していた当時は年収も低く、先々の展望が見えなかったという。

「女性を低賃金に固定化し、目標を持つ権利を奪うような社会は本当に問題だと思います」

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ブートキャンプを経てエンジニアとして活躍する女性。受講生の9割が転職に成功している。

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やまざきがジェンダー格差の解消にこだわるのは、小学校から大学までエスカレーター式の女子校で、ジェンダーバイアスのない環境で育ったから。

「長くキャリアを生かせる仕事がしたいと思っていたのに、いざ社会に出る時のジェンダー格差に違和感があったんですよね」

実力で評価してくれる企業で働きたいと、サイバーエージェントに入社。アメーバのメタバースサービス、アメーバピグのプロデューサーとして技術者と一緒にゼロからサービスを立ち上げ、何百万人ものユーザーを獲得するという成功体験を得ることができた。たくさんのチャンスを与えてくれる環境にいられたことは非常にラッキーだったと振り返る。

こうして20代をがむしゃらに働いてきたが、30歳を迎える頃、身体を壊してしまう。女性が何年も走り続けることの体力的な難しさを痛感し、15年にやむなく退社。人生で初めての挫折だった。引きこもるように家で過ごす間、読書に没頭し、映画に夢中になるうちに気力が戻った。この体験がやがてミズエンジニアに繋がっていく。

「いま考えるとリスキリングだったんです。経済の仕組みとか哲学とか何も知らなかったことに気付いたんですよね。新しいことを体系的に学び直すのは楽しかったし、私が抱えている苦しさは私のせいだけではなく、社会構造的な矛盾があるからだということに気付き、モヤが晴れました」

いつかリスキリング事業をしたいと周囲の人と話をするうちに、女性のエンジニアを育てることに行き着いた。エンジニアはテレワークが可能なため、地方に住む女性たちにもチャンスが広がり、女性の経済的自立とIT人材不足の双方を解決できる。

「これはもう絶対立ち上げなければダメじゃん、っていう事業領域を見つけてしまったわけです。みんなが稼げるようになってみんなが幸せになることが本質的な施策だと考えています」

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やまざき自身、経済的な自立が選択肢を広げると知っている。5歳の娘を育てるシングルマザーとして、仕事を応援してくれる母親の助けを借りながら、日々奔走する。多忙ではあるが、「家族と健康より大事な仕事はない」がモットーだ。会社は週休3日制を導入し、土日のほかに水曜日も休みで「毎日が休みの前の日か、休みの次の日なんですよ」と笑う。

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やまざきがバッグに常備しているお風呂道具。多い時には週7日銭湯に通い、ストレスを解消しているという。

ジェンダーを解放し、歴史を変える──それがミズエンジニアが掲げるミッションだ。

「男女の賃金格差や女性の生きにくさを変えるには、歴史を変えることが必要です。ミズエンジニアのチームで歴史を変えるのが目標。いつか朝ドラの題材になるといいなと思っています」

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"未来を担う女性たち"の輩出を目指すミズエンジニアを支えるスタッフたち。セールスや講師、メンターなどさまざまな役割を担う。

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Judges' Comments

小山薫堂(放送作家/脚本家)
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「日本中の女性が活躍する」という言葉を体現している方。エンジニアの働き方こそ女性に向いているという発想が新しく、学びの場をオンラインで提供し、地方と東京の格差をなくしているという工夫も素晴らしい。豊かに暮らすための、人生の選択肢になりうる。

浜田敬子(ジャーナリスト)
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男女の賃金格差、都市と地方の女性の経済格差の解消に繋がる点を評価。日本で圧倒的に不足するエンジニアを増やすという意味でも影響が大きい。女性もエンジニアになれるという希望を次世代に持ってもらえるようなロールモデルを作っていただきたい。

モルガン・ミエル(仏「マダムフィガロ」誌 ビジネス担当編集長)
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科学、ことにAIの分野で活躍する女性が非常に少ないという現代の根本的な課題に取り組む事業。男性優位の社会モデルに戻ることのない未来を、彼女たちなしでは描けない。「新しいスタンダードを築く」という今年のテーマに、すべての点でぴったり当てはまる。

BWA Award 2024の受賞者一覧を見る

photography: Ami Harita text: Atsuko Koizumi

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