ワインをめぐる、南アフリカの旅。 #01

南アフリカの世界一美しいブドウ畑を訪ねて。

特集

これまでにもmadameFIGARO.jpで、世界のさまざまな産地からワインが造られる現場とその味わいを伝えてきたワイン・トラベルジャーナリストの浮田泰幸が、南アフリカのワインの知られざる魅力をレポート。日本で入手できるおすすめの銘柄も紹介!

“エデンの園”アサラ、美しきワインリゾート。

「南アフリカのワイン」と聞いてもピンと来ない? 実は南アは世界第8位の生産量を誇るワイン大国。これは日本の輸入ワインのトップに君臨するチリよりも多い。そして何よりも南アはブドウ畑を含む景観が世界で最も美しいといわれているところ。ちょっと覗きに行ってみよう。

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「アサラ・ワイン・エステート&ホテル」のビストロのテラス席から、ステレンボッシュを一望する。

ワインの世界では「ニューワールド」に分類される南アフリカだが、そのワイン造りの歴史は古く、1655年にオランダ東インド会社のケープタウン総領事、ヤン・ファン・リーベックがブドウ栽培を始めたことに始まる。1990年にはそれまで投獄されていたネルソン・マンデラ氏が解放され、それによってこの国のワインも世界に受け入れられるようになった。

多くの産地は南西部の西ケープ州に集中している。アフリカと聞くと灼熱のイメージがあるが、このあたりはヨーロッパのいくつかの銘醸地とも共通する地中海性気候。これとブドウ栽培に好適な土壌とが相まって、良質なワインを生み出す。

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朝、「アサラ・ワイン・エステート&ホテル」に隣接する貯水池のほとりを歩いてみた。

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ワインリゾートの入口に掲げられた南アフリカの国旗。

代表的なブドウ品種は、白ではシュナン・ブラン。赤ではカベルネ・ソーヴィニヨン。前者からは瑞々しくてテクスチャーのある白ワインが、後者からはスパイシーで飲みごたえのある赤ワインが生まれる。赤ワイン用のピノ・タージュはピノ・ノワールとサンソーのハイブリット品種で、南ア固有の品種。高樹齢の木に実ったよく熟したブドウで造ると、複雑味のあるよいワインになる。また最近では、ピノ・ノワールやローヌ系品種(サンソー、グルナッシュ、シラーなど)にも評価の高いワインがたくさん生まれている。

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南アのスパークリングはシャンパーニュと同じ製法(「キャップ・クラシック」と呼ばれる)で造られている。

“世界でいちばん美しいブドウ畑”が見られるのは南アだと言ったのは、イギリス人のワインジャーナリズム界の重鎮ヒュー・ジョンソン氏。どんな風景に出合えるのかワクワクしながら代表的な産地のひとつ、ステレンボッシュの「アサラ・ワイン・エステート&ホテル」を訪ねた。

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「アサラ・ワイン・エステート&ホテル」で、春の芽吹きを待つブドウ畑。適度な傾斜があるため水はけがよく、健全なブドウが得られる。

ブドウ畑を貫く長いアプローチを登って、貯水池に隣接したエステートの建物へ。中庭を通って池の畔に出ると、花崗岩がむき出しになった岩山を背景に、なだらかな起伏を持ったブドウ畑が幾重にも重なって続く、一大パノラマが眼前に広がった。絶景とはまさにこのこと。ジョンソン氏の言葉は決してオーバーではなかった。

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客室のテーブルにはハーフボトルのワインが。

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ワインリゾートでもジンは大人気。南アのクラフトジンだけで棚一列分ある。

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アペリティフを楽しみながら、夕景を眺める。

「アサラ」にはテイスティングルームやレストランのほか、“絶景テラス”の付いたビストロ、300種類以上のジンを揃えたジンラウンジ、スイーツ各種が揃うデリなどが備えられ、自転車ツアーとワインテイスティングがセットになった「バイク&ワイン」など、数々のアクティビティも用意されている。

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ビストロのメニューから、野菜のポタージュ。

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熟成グラスフェッドビーフのフィレ肉のグリル。ワインはピノ・タージュ、シラーズ、マルベックをブレンドした「ケープ・フュージョン2015」を選んだ。

ワインの中にはブドウが育った土地の風土と人の思いと営為、すなわちテロワールが込められている。ブドウ畑と寝起きをともにするようなアラサでの滞在は、テロワールを身体に染み込ませる時間、ワインとあなたが渾然一体となる時間……。

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ケープダッチ様式と呼ばれる、この地方特有の古い農場の建物様式が取り入れられている。

Asara Wine Estate & Hotel
Polkadraai Road, Stellenbosch, 7600, South Africa
全41室 デラックスルーム3,860ランド〜(参考価格)
Tel. +27 21 888 8000
カード:AMEX、DINERS、MASTER、VISA
https://www.asara.co.za


*1ランド=約7.8円(2018年12月現在)

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南アフリカワインを担う、造り手たち。

では、いま注目の南アフリカのワインとは?  日本でも味わえる銘柄は?  3年に1度、ケープタウンで開催されるプロ向け試飲イベント「ケープ・ワイン」(2018年9月開催)の会場から、選りすぐりの生産者7人をご紹介しよう。

1. 冷涼地の特徴をそのまま生かす。
アタラクシア・ワインズ Ataraxia Wines

大西洋から吹く冷たい風と400mの標高の影響で、ブルゴーニュ品種(ピノ・ノワールとシャルドネ)に向く冷涼地として知られるヘメル・アン・アード(「天国と大地」の意)。その中でも最も冷涼な尾根で引き締まった酒躯と奥ゆかしいアロマを持ったワインを造る。オーナーのケビン・グラント氏は南アを代表する腕利き醸造家としても知られている。

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「シャルドネ2014」は蜂蜜と熟れた柑橘の香り。同2016は鉱物的なミネラル感があり、リンゴやカリンのトーンがある。

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グラント氏が手にする「ピノ・ノワール2015」はコーヒーの香りの奥からワイルドベリーやスパイスの香りが立ち上がる。

Ataraxia Wines
http://www.ataraxiawines.co.za


●問い合わせ先:マスダ
Tel. 06-6352-1271
http://southafricawine.jp

2. 南アNo.1に輝いたピノ・ノワール。
ストーム・ワインズ Storm Wines

ヘメル・アン・アードのウォーカーベイ地区はブドウの成熟期の気温がブルゴーニュとほぼ同じで、スパイシーでストラクチャーのあるワインが生まれるところ。ハネス・ストーム氏が3つの畑から個別に造る3つのピノ・ノワールは、最初は物静かだが、飲むうちに多くを語り始め、最後には飲み手を虜にしてしまう不思議な力を持つ。「フレダ・ピノ・ノワール」は2016年に行われたブルゴーニュとのピノ・ノワール対決に南ア代表として出場し、見事1位に輝いた。

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「フレダ・シャルドネ2017」(左)は、洋ナシを思わせるキュートな甘味が特徴。「フレダ・ピノ・ノワール2016」(右)は、スミレやバラの香り。一見物静かだが、訥々と語りかけてくる物語は壮大。

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「リッジ・ピノ・ノワール2016」は乾いた花びらやミネラルのトーンの奥からイチゴのコンフィチュールの香りが覗く。

Storm Wines
https://www.stormwines.co.za


●問い合わせ先:マスダ
Tel. 06-6352-1271
http://southafricawine.jp

3. 古きよき手法で新しいワインを造る。
A.A. バーデンホースト A.A. Badenhorst

小規模ながら意欲的な造り手が多く集まる注目の産地、スワートランドで「異才」と称されるアディ・バーデンホースト氏が個性的なワインを造る。古木の多くは垣根を巡らさない昔ながらの株仕立て。人的干渉を極力抑えて造られるワインはピュアでニュアンスに富むものばかり。

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ラベルも個性的なバーデンホーストのラインナップ。真ん中の「A.A. バーデンホースト ホワイト・ブレンド2016」は、シュナン・ブラン、ルーサンヌ、シャルドネなど12種もの品種をブレンド。滋味そのものの豊かな、それでいてスイスイと飲めるドリンカブルなワイン。

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一度会ったら忘れない、個性的な風貌のバーデンホースト氏。実はシャイで、繊細な心の持ち主であることはワインを飲めばわかる。

A.A. Badenhorst
https://aabadenhorst.com


●問い合わせ先:ラフィネ
Tel. 03-5779-0127
http://www.raffinewine.com

4. ケープタウン近郊の秀逸な白。
ダリア D’Aria

ケープタウンの北東、「ソーヴィニヨン・ブラン・カントリー」の異名を持つダーバンヴィル地区にあるワイナリー。赤、白、泡、ブラッシュ(淡いロゼ)まで幅広いラインナップだが、出色なのはやはりソーヴィニヨン・ブランの白。

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「ザ・フォローイング2016」は、白い花や柑橘のアロマがあり、クリスピーさとエレガンスを兼ね備えたワイン。

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ウォーターフロントのサーフショップで行われた試飲会にて。

D’Aria
https://www.dariawinery.co.za/index.html
(日本未輸入)

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5. 名前は「野蛮(savage)」だけど、ワインは「優美」。
サヴェッジ・ワインズ Savage Wines

大手ワイナリーで長らくワインメーカーを務めたダンカン・サヴェッジ氏が独立し、2011年に立ち上げた、いままさに注目株のワイナリー。サヴェッジ氏の手によるワインは白も赤も瑞々しく、どんどん身体に染み込んでいくよう。この秋から日本輸入も始まり、日本における南アワインの認知とイメージを高める役割を担うことになりそう。

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ラベルは「引き算」的なデザイン。その飾り気のなさ、センスのよさがワインの味わいにも。

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ファンキーな出で立ちで試飲イベントのブースに立つサヴェッジ氏。

Savage Wines
http://www.savagewines.com


●問い合わせ先:ラフィネ
Tel. 03-5779-0127
http://www.raffinewine.com

6. 新星が手がけるテロワールワインのお手本。
マリヌー&リーウ・ファミリー・ワインズ Mullineux & Leeu Family Wines

ケープタウン出身のクリスさんとカリフォルニア生まれのアンドレアさんのマリヌー夫妻が2007年にスワートランドで立ち上げたワイナリー。後発でありながら、すでにワインガイド誌の「ワイナリー・オブ・ザ・イヤー」に2度も選ばれるなど、圧倒的な実力をワインで示している。「シングル・テロワール・レンジ」は、異なる4つの土壌──片岩(schist)、花崗岩(granite)、鉄分の多い土壌(iron)、石英(quartz)──の畑から、それぞれ3つを選んで白(シュナン・ブラン)、赤(シラー)を造り、別々に瓶詰め、スワートランドの多様な風土を示そうとした意欲作。

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「シングル・テロワール・レンジ」のシラー3種。

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アンドレアさん。夫のクリスさんとはシャンパーニュで出会った。

Mullineux & Leeu Family Wines
https://mlfwines.com/mullineux


●問い合わせ先:ベリーブラザーズ&ラッド
Tel. 03-3518-6730
http://www.bbr.co.jp

7. スワートランドに革命を起こしたカリスマ。
サディ・ファミリー・ワインズ The Sadie Family Wines

マスター・オブ・ワインが選ぶ「ワインメーカーズ・ワインメーカー・アワード」にイーベン・サディ氏が選ばれた時、マスター・オブ・ワイン協会会長のジェーン・マスターズMWは「イーベンはスワートランドと南アフリカをワイン地図に載せた」との賛辞を贈った。2010年、すでに実力派として認められていた彼は、21人の意識の高い生産者を集めて「スワートランド・インディペンデント(SIP)」というグループを結成。地域の個性を打ち出したプレミアムワインを造り、その価値を世界に知らしめていく活動の先頭に立った。

SIPの理念には、醸造中に人為的な物質の添加や操作を行わないこと、樽の使用で果実本来の個性をマスクしないことなど、厳しい条件が含まれている。彼自身のワインはもちろんその理念に適ったもの。価格的には南アのワインの中では高めだが、その点でも世界のワインと伍していくのだというサディ氏の覚悟が表れている。

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単一畑のサンソー100%で造られた「ポフェイダー2017」。野趣とエレンガンスが同居。ジューシーでありながらも余韻が延々と続く。

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2000年のワイナリー設立から20年足らずで世界のトップワインメーカーの仲間入りを果たしたサディ氏。特技はサーフィン。

The Sadie Family Wines
http://www.thesadiefamily.com


●問い合わせ先:ラフィネ
Tel. 03-5779-0127
http://www.raffinewine.com

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ワインを引き立てる、南アフリカの料理と音楽。

融合と孤絶の歴史を持つ南アフリカでは、料理や音楽の世界にも独特のものが育まれてきた。それらとワインのマリアージュをひとたび体験すれば、そこから先はグラスの中で南アを旅することができるだろう。

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土地のワインは土地の食事と合わせたい。

たとえば「ボボティー」は、カレー風味のミートローフといった感じの料理だが、この一皿を見ても、大航海時代の要港として、また植民地として、広くヨーロッパやアジアの国々と繋がりを持ってきた南アフリカの歴史が込められているのがわかる。もてなしの料理の定番は「ブラーイ」と呼ばれるバーベキュー。海産物も豊富。よく食卓に上るのはタラに似たキングクリップやスズキに似たスヌーク。スプリングボック(偶蹄類の一種)やダチョウなど狩猟肉もポピュラーだ。いずれも味付けがくどいということはまずなく、日本人にとっても親しみやすい味。

南アのカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーズはスパイスを利かせた料理に合うし、ピノ・タージュやピノ・ノワールを狩猟肉に合わせるのは妙案だろう。シュナン・ブランの酸は魚の脂と相性がよい。

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羊の骨髄(左)と牛肉のブラーイ(右)。

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マスタードを纏った豚肉のクロケット。

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クルミを散らしたカボチャの煮物(左)と、パーティの料理から、マリネしたチキンのソテー、クスクスサラダなど(右)。

少し古い話だが、30年ほど前にポール・サイモンがリリースし、グラミー賞の最優秀アルバム賞など数々の賞を獲得したアルバム『グレイスランド』は、南アフリカのミュージシャンとコラボして制作されたものだった。当時、まだ南アはアパルトヘイトの只中で、ポール・サイモンの行動は物議を醸したが、このアルバムによって、閉ざされた国の美点のひとつが世に知られたことの意義は果てしなく大きい。

そしていまももちろん南アの音楽は健在だ。ケープタウンのウォーターフロントに行けば、ムバカンガの生演奏を聴きながらシーフードとワインを楽しむことができる。ズールーに起源を持つそのリズミカルな音楽は、軽快でありながらも空の彼方まで響くような、独特の力がある。そして、その力は、この旅で出合ったワインの多くとも共通するように思えるのだ。

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南アで出会う人たちは総じて人懐っこい。

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とあるワイン関連イベントにて、アフリカンポップス系のグループによるライブが行われた。軽快な中に陰影を感じる音楽。

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こちらは重厚感のあるソウルを聴かせる3人組。

取材協力:Wines of South Africa

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photos et réalisation : YASUYUKI UKITA

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