Culture 連載

きょうもシネマ日和

映画界の詩人ロウ・イエ監督が放つ極上のメロドラマ・サスペンス『二重生活』

きょうもシネマ日和

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第65回カンヌ国際映画祭 ある視点部門のオープニング作品として上映され、その大胆な展開で会場を驚きの渦に巻き込んだ話題作。


1月も半ば、皆さんはそろそろお正月気分は抜けましたか?
私は......はっきり言ってNO。抜けるどころか、お正月に飲んだ日本酒がやけに美味しく、デパ地下や酒屋はもちろん、コンビニでさえ、気づけば日本酒コーナーの前に立ち、達筆な文字で書かれたラベルを見つめている始末。あぁ、毎日酔っ払って、酔っ払い続けて過ごすことはできないのだろうか?
こんな社会人失格者のようなことを本気で考えている。ね、抜けてないでしょ。(ね、じゃない)

が、今回ご紹介する『二重生活』を観て、私の心は一気に現実に引き戻されてしまった。と同時に冬眠していた感性も刺激され、まだボケーっとしている頭では「う、わぁ〜」という言葉しか出でこないのだが、心はジンジン......。

早速ストーリーからご紹介しよう。

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ロウ・イエ監督は『天安門、恋人たち』で中国から5年間の映画製作禁止処分となるも、その後に発表した『スプリング・フィーバー』でカンヌ国際映画祭の脚本賞を受賞、『パリ、ただよう花』も海外から高い評価を得ている。まるでドキュメンタリーのようなリアルさと、独特の撮影スタイルも魅力。

◆ ストーリー

優しい夫、可愛い娘、夫婦で共同経営する会社も順調で、幸せな生活を送っている女ルー・ジエ。しかし、あることをきっかけに、彼女は自分の夫ヨンチャオが、娘アンアンと同じ幼稚園に通う男児ユイハンの母サン・チーと"二重生活"を送っていることを知る。夫の浮気を知ったジエはある行動に出る。その事が、これまで平穏だった三角関係を大きく揺るがす大事件へと発展してしまう......。

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ルー・ジエ役のハオ・レイは『天安門、恋人たち』の主演女優、ヨンチャオ役のチン・ハオは『スプリング・フィーバー』の主演男優。特にハオ・レイの演技は計り知れない実力を感じさせる。

◆ 予測不能、美しくも残酷な愛が交錯するメロドラマ

このストーリーだけを追うと、申し訳ないがお昼のメロドラマである。同じ幼稚園のママ友同士が"男"の妻と愛人って......。旦那さん、もっと色々配慮できたんじゃないの? いや、そもそも映画界の詩人と名高いロウ・イエ監督にしては、下世話な話じゃ......。

しかし、そんな懸念はオープニングでさっそく一蹴される。女性歌手が中国語で歌うベートーベンの第九「歓喜の歌」が流れる中、私たちはショッキングな現場を目の当たりにするのだ。そこから、あれよあれよと、登場人物たちの濃密な人間関係に引き込まれていく。

そして下世話だと思っていた内容も、ロウ・イエ監督の手にかかれば、洗練された男と女の、女と女の、残酷にして美しい愛のミステリーへと変貌するのだ。

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25日には、ロウ・イエ監督が中国から来日。ライターの雨宮まみさんとのトークイベントほか、さまざまなイベントが開催される。各界の方々の感想や考察もぜひ聞いてみたいところ。

◆ 中国の今を通して描かれる男女の"光と闇"

幸せな日々がある日を境に崩れていったルー・ジエを始め、愛人のサン・チーも、二重生活を送っていたヨンチャオも、事件の真相を追う刑事も、人として何かが外れてしまっている、歪んでいる。一見、どこにでもいそうな中国の中流階級の人たちに見えるが、その歪みが生々しいこと、この上ない。

そんなリアルな登場人物たちが一体どんな結末を迎えるのか。これまた、ラストに大きなどんでん返しが待っているのである。

中国では、昨年の春「夫婦どちらかが一人っ子の場合は2人目の出産を認める」として、一人っ子政策の緩和が開始され、特に金持ちや権力者が愛人を持つケースも多いのだとか。こうした中国の政治的状況も反映されているのだが、私としては「いや、この状況きっと日本でもあるわ。幼稚園が一緒じゃなければ、きっと沢山あるんだわ」というメロドラマ論、撤回。そして、二重生活を送るという女の敵のようなヨンチャオを、何度か魅力的......と思ってしまった自分を「だからダメなのよ」(なにが?)と猛省。

そして、あんなに他人事だったのに、こんなにもすっかりワタシ自身の現実に落とし込ませるロウ・イエ監督の手腕に感服......である。

読めない時間軸、印象に残る登場人物たちのセリフ、行動、役者たちの愛と狂気の狭間をゆく演技、中国の社会背景、監督の想い......見終わった後にさまざまな気持ちが浮かんでは巡り始め、誰かと話したくてたまらない。あぁ、早く公開してくれないだろうか。私はこの作品について語り合いたくてうずうずしている。


『二重生活』
監督、脚本:ロウ・イエ
出演:ハオ・レイ、チン・ハオ、チー・シー、ズー・フォン、ジョウ・イエワン、チャン・ファンユアン
2015年1月24日(土)より、新宿K's cinema、渋谷アップリンクほか全国順次公開
http://www.uplink.co.jp/nijyuu/

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