Culture 連載

Dance & Dancers

モーリス・ベジャール没後5年記念シリーズで指導・出演する、小林十市氏に聞く。
『ベジャールの思い出、そして、今、これからの自分』①

Dance & Dancers

壮年期。人生の仕上げにあたるその人の時間を近くで一緒に呼吸していた人。

urano121225_08.jpgダンサー・小林十市は巨匠・モーリス・ベジャールを語る上で欠かせない人物だ。20歳でベジャール・バレエ・ローザンヌに入団。14年間のカンパニーでの活動では、新作における主要な役割を演じ続けた。ベジャール人生終盤の創作活動にインスピレーションを与え続けた、重要な存在である。さらには、1993年からはベジャールの振付アシスタントとしても活躍。氏の創作の現場を一番間近で体験したのだ。

2007年に亡くなったモーリス・ベジャールの没後5年記念シリーズとして、1月には氏と縁の深い東京バレエ団がガラ公演を、そして3月には小林氏とともにベジャールの壮年期を支えてきたジル・ロマン率いるモーリス・ベジャール・バレエ団が来日公演を行う。

※写真はインタビュー日の小林十市氏。

■必要なのは理想に向かうエネルギー、ジルの姿から学んだこと。

「今、くるみ割り人形のリハーサルを東京バレエ団でやっているのですが、つくづく、ベジャールさんの作品は形だけを追っていたのではだめだと痛感しますね。ダンサーひとりひとりが役柄、関係性を考えて表現しないと、薄っぺらい見え方になってしまう」

その日は『くるみ割り人形』公演を目前に控えたある日だった。この公演に始まり1月のベジャール・ガラまで、小林十市氏は東京バレエ団で指導とリハーサルを行う。
「ベジャールさんの作品は、人間の根源に根差したものが多い。もちろん軸にあるのはバレエのテクニックなのですが、そのテクニックの枠から出たところまで行かないと、表現として見えてこない部分もあります。ベジャール作品を踊るからには、"形ばかりに囚われないで、その動きが作品の中で何を意味しているのか? という根源的な部分を考えて"とダンサー達に伝えています」

ついつい、ダンサー達に多くのことを求めちゃいますね、というその意識の向こうには、今年(2012年)2月にスイス・ローザンヌにあるモーリス・ベジャール・バレエ団で見たリハーサル風景がある。
「ジル(・ロマン)のリハーサルを見せてもらったんです。彼の追求の深さに、"なるほどな"と思いました。常に、深い部分からアプローチしていく。根底を変えない限り、表層、つまり見え方も変わらない、というのです。その追求は徹底しています。彼はある種ワンマンですが、それについて行こうとするダンサー達がいて、稽古場はとても熱気に満ちていた」
よい指導者というのは、いい人である必要はないのだ、と。

urano121225_03.jpg『中国の不思議な役人』を演じる、小林十市。photo:Fracois Paolini

■言葉を身体の中に持つ、ということ。

「ダンサーは振付家のニュアンスをどれだけキャッチできるかだと思います。例えば、第一アラベスク、といったら形はただひとつ。しかし、ベジャールさんが何を求め、作品の流れの中に、その形を持ってきたか。それを感じる力が大切です。理屈ではなく、感覚的なところで。僕はそれをキャッチできたから振付アシスタントに任命されたと思うし、ジルもそうです」
振付を改めて指導していると、いかに"ベジャール的であるか"の大切さが、痛感させられるという。

「例えば『中国の不思議な役人』だと、1920年代のハリウッド映画の背景、そういう雰囲気を身体に染み込ませることが大切。無頼漢という名のマフィアのボスや、それに従うゴロツキなど、いろいろな登場人物がいますが、それらの生活背景などを想像し汲み取った上で踊りにしたい。ベジャールさんは、この作品においては"そこにダンサーの立ち姿は要らない"と言っていました。つまり、ダンスである以前に、この作品は演劇なのです。ひと睨みするだけで何かを伝える。動かなくても説得力がある。そういう空気を身に着けて舞台に出てきてほしい」
ベジャール作品には、そうした演劇的要素の強いものが多い。
「でも結局は、バレエとは言葉のない演劇だと思っています。『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』にしてもね」

■ベジャール・ガラ、作品それぞれの見どころ。

1月の<ベジャール・ガラ>で東京バレエ団が上演する4作品の中のひとつ、『中国の不思議な役人』は、小林氏の代表的なレパートリーでもある。

娼婦の娘を買いにやって来る男たちを次々と襲い金品を巻き上げる無頼漢たち。しかし、中国の不思議な役人だけは何度倒しても息の根を止めることができない...。バルトークの難解な音楽につけられたパントマイム劇をバレエにしたベジャールは、ここで何を伝えたかったのだろう。

「不思議な物語です。役人が求めているものはリアリティある性ではなく、何かシンボリックなものですよね。それが満たされた時に、ようやく死ねる。この作品を創った時、ベジャールさんは、役柄についてではなく、ひたすら、動きに関して細かく注文をつけました。しかし、それを正確に行うと自然にストーリーが見えてくるんです。複雑でつかみにくいバルトークの音楽ですら、相手役と振付でやり取りしていると、音がクリアに聞こえてくる。つまりこの作品はバルトークの音を立体化していると思います。ベジャールさんの天才的な音の感性を視覚化したのが、この作品かも知れません」

urano121225_01.jpg『火の鳥』

『ギリシャの踊り』と『火の鳥』は、ダンサーの魅力、輝き、エネルギーが前面に出る作品だという。
「『ギリシャの踊り』は、地中海の海の香りや太陽のきらめきを、ダンサーの身体が醸し出す空気から伝えるような作品。ダンサー自身が楽しんで踊り込むことで、そういう空気が生まれてきます。それこそ、形はあってもそれに囚われたら、こじんまりとして面白くないんですね。ある種、踊るとはどういうことか、を突き詰めた作品ともいえるかも知れません。『火の鳥』は、戦い、死と再生の物語で、生命力あふれる作品。ストラヴィンスキーの音楽も素晴らしいですしね。やはり、ダンサーのエネルギーが要といえる作品でしょう」

urano121225_02.jpg『ギリシャの踊り』 photo:Kiyonori Hasegawa

ベジャール作品には数少ない、女性のための作品が『ドン・ジョヴァンニ』。
「ベジャールさんはたまに、女性のための作品を創ったのですが...いずれも不思議なものばかり。これは、ルードラ・ローザンヌ(バレエ学校)の生徒がよく踊っていました」

urano121225_07.jpg『ドン・ジョヴァンニ』 photo:Kiyonori Hasegawa


次回はバレエ復活の身体づくりや、これからのチャレンジ、そしてモーリス・ベジャールさんについてのお話です。

*To be continued

4
Share:
Business with Attitude
コスチュームジュエリー
35th特設サイト
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • CONTENT STUDIO
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CE MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CE Media House Inc., Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.