Culture 連載
Dance & Dancers
今月の注目公演──魂に語りかける身体性、山海塾『UMUSUNA』『KARA・MI』。動きと空間のアート、上村なおか・森下真樹『駈ける女』
Dance & Dancers
踊り、ダンスに接するとき、人それぞれいろんな観方・好み、があると思う。
ダンスとは美である、ゆえに美しい舞台が見たいのである、という人がいる。見事なテクニックに接すると興奮する、という人がいる。舞踊は、選ばれた身体性を持つ人々が描き出す夢の世界である、それも然り。
でも私は、"言葉だけでは表せない世界"に接することができたとき、鳥肌が立つほど嬉しくなる。それは、単に技術的に振付をなぞった表現からは決して出てこない。そうではなく、踊りの鍛練を通して培われた非日常的なエネルギーを持つ身体・精神から発せられる空間支配力、あるいは、そうした専門性を備えた身体と空間の絶妙な関係が創りだす時間。そこから自分の中に広がる妄想・空想・思考の森に遊ぶのだ。
今月は、そんな表現に出会えそうな公演を、全く異なるアプローチからふたつ、ご紹介したい。
■無か無限か。身体の宇宙、『UMUSUNA』『KARA・MI』
注目の公演、ひとつめは山海塾『UMUSUNA』『KARA・MI』。
山海塾は1980年代から活動し日本の"舞踏"を世界に広く知らしめた、あまりにも有名な集団だ。フランスを拠点に活動していたこともあり欧米での評価・人気が高く、日本では一歩遅れ、逆輸入的な意味で注目されてきた一面もある。また、山海塾を主宰する天児牛大(あまがつうしお)氏は、オペラの演出や、国際的舞踊コンクールの審査員なども行い、1992年にはフランス政府より芸術文化功労章(シュバリエ章)を受章している。
photo:Sankai Juku
今回の公演は、昨年(2012年)9月、リヨン・ダンス・ビエンナーレのオープニング公演として世界初演された『UMUSUNA』と、パリ市立劇場との共同プロデュースにより2010年に製作された『KARA・MI』。『UMUSUNA』は、日本の古語"うぶすな(産土)"と同源の言葉を意味するのだという。さらにこの作品では二回にわたる天児氏のソロも挟まれその舞踊は「繊細に虚空を表現する、混乱する世界に捧げられた指摘で壮大な絵巻物」とリヨンで評された。また、『KARA・MI』は身体と実、つまり形骸としての"からだ"と、その中を満たす精神・生命である"なかみ"の循環を探究したものであるという。
いずれにしても、結成以来貫かれている「誕生」や「死」を巡っての人間の内的本質に迫る試みが、ここでも繰り返されている。
これまで数々の作品を通して、人間という生命、そして身体という神秘を描いてきた山海塾。何度その作品に触れても、いつも新鮮な衝撃に出会うことができるのはすなわち、人間という生命体がそれだけ不思議さ・面白さに満ち溢れているからだ、と言えるのかも知れない。
舞踏、を世界から注目させて30余年。人間を見つめ、表現し続ける山海塾の世界、なかでも舞踏家・振付家・演出家として年月を重ねてきた天児氏の身体から広がる表現は、今回もまた未知なるもの、新たな発見へと観る者を導いてくれるのだろう。
photo:Sankai Juku
●『歴史以前の記憶-うむすな』『二つの流れ-から・み』
演出・デザイン:天児牛大
会場:世田谷パブリックシアター
日程:『うむすな』5月22日(水)・23日(木)・24日(金)19時~、5月26日(土)・27日(日)15時~/『から・み』5月31日(金)19:00~、6月1日(土)・2日(日)15:00~
料金:S席¥4,500、A席¥3,500
問い合わせ先:山海塾 Tel.03-3498-9622
www.sankaijuku.com/tp.html
■異なる個性、未知なる空間。出会いと想像が紡ぐ新たな試み『駈ける女』
今の日本のコンテンポラリーダンス界をリードするふたりは、個性も雰囲気も対照的なのに「似ている」と、周りの人々の間で評判だった。相手の名前で話しかけられたことはもちろん、写真に写っている相手を見て「あれっ? 私こんな写真撮ったっけ?」と思ったこともある。・・・そんなふたりが、ついに共演することになったのが『駈ける女』。これは青山にあるスパイラルが、その建築を象徴するスペース"アトリウム"を舞台に、女性ダンサーを紹介するシリーズの第二弾。ちなみに一回目は黒田育世氏だった。
出演するのはクラシックバレエを経てコンテンポラリーダンスの世界で活動を続ける上村なおか氏と、ライブや演劇などジャンルを超えた場へ活動の幅を広げ個性的なダンスを印象づける森下真樹氏。そのふたりが"たっての希望で"振付を依頼したのが、ダンス界のゴットマザーと呼ばれる黒沢美香氏。黒沢氏は幼少時よりモダンダンスを始め80年代の一時期をNYで過ごし、ジャドソン・グループのポスト・モダンダンスに影響を受けたひとり。日本におけるコンテンポラリーダンスのパイオニアでもある。
黒沢美香氏。photo:nogisumiko
世代もキャリアもそれぞれ異なる3人の女性の出会いである。
しかしさすがゴットマザーの黒沢氏、単に自分の振付・イメージをふたりに与えるだけでないところが面白い。稽古では、黒沢氏の指示のモト、互いに互いをイメージした振付を相手に対して行う課題が課され、そこで生まれた動きが一部公演の振付に取り入れられているという。似ているね、と言われ続けなんとなく互いを意識していたふたりが今回初めてタッグを組むだけでも面白いのに、自分に似ている相手の中に、その個性や生い立ち、思考を想像していく。─―互いを想像し動きを与え合うのは、ともすれば凡庸な試みにも終わりそうな気がするけれど、それが"似ているふたり"なんだから興味深い。相手を想像しつつも、そこには不思議な鏡のような効果が出現するのではないか。外から見たらこう見えるかも知れない、自分。それに対しての抑制や願望や嫉妬や憎悪。あくまで想像であるけれど。
いずれにしてもダンサーである彼女らは、癖や長所も含めて、他人から見た自分の中に立ち現れる未知なる自分、という新鮮な発見に多々、出会っていることだろう。そんな風に豊かに進化していく彼女らに出会えるのは、一観客として楽しみ。
上村なおか氏。photo:ハヤシハジメ
そしてこの公演のもうひとつの楽しみは、スパイラルのアトリウムという空間が舞台になる、ということだ。スパイラルの1階、カフェの奥に円形に広がるスペースが舞台となり、それを見降ろすように2階へと続くらせん状のスロープが客席となる。単純に考えただけでも、ダンサーの身体を見下ろすというある種の"制限"を前提に創られるパフォーマンスである。そして、ユニークな空間と身体が出会うことによる、空間芸術としての個性やそこにおける身体の存在感など、興味は尽きない。さらに言えば、舞台のすぐ後ろには、カフェで寛ぐ人々の日常があるのだから。
森下真樹氏。photo:Yoichi Tsukada
『駈ける女』というタイトルは、このプロジェクトが走り出してすぐに決まったのだという。自分の道を走り続けるパワフルな女三人が、世代やジャンルを超えてひとつの作品のもとに集まる。今の時代の"女性美"にも、通じるものがある。
当日は、立見席がおすすめだそうだ。観る方も、パワフルに、でもリラックスして臨みたい。
●POWER OF ART DANCE SERIES VOL.2 『駈ける女』
出演:上村なおか、森下真樹
振付:黒沢美香
会場:スパイラルガーデン(スパイラル1F)
日程:4月27日(土)19時~、28日(日)14時~・19時~、29日(月・祝)14時~
料金:全席自由・立見席¥2,500(当日¥3,000)、座り席¥3,000(当日¥3,500)
問い合わせ先:スパイラル Tel.03-3498-1171、ConfettiチケットセンターTel.0120-240-540
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