愛のように香る、新生「ミス ディオール」の魅力を紐解く。
Beauty 2017.09.06
クリスチャン・ディオールの歴代クリエイターが提案する女性像を体現してきた名香「ミス ディオール」に、新しい香り「ミス ディオール オードゥ パルファン」が登場した。初代のムッシュ ディオールから、現在のクリエイティブディレクター、マリア・グラツィア・キウリまで、香りに受け継がれる普遍の哲学と、新生「ミス ディオール」に込められたメッセージとは? 来日したパフューマーでありクリエイターのフランソワ・ドゥマシーに聞いた。
© Parfums Christian Dior
― 新生「ミス ディオール」は歴代のものとどう違うのでしょう?
フランソワ・ドゥマシー(以下D):初代の「ミス ディオール」はムッシュ ディオールが提案するモードの世界と近い存在でした。新生「ミス ディオール」は、よりフェミニンでセンシュアル。マリア・グラツィア・キウリが描く女性像に寄り添っています。ガーリーは卒業、大人になった「ミス ディオール」と言えますね。現代女性は、より個性的で自信に満ちあふれています。だから、ベースのローズにスパイシーさをちょっぴり加えて、ひねりも効かせています。
― 今回の香りのテーマとは?
D:「ミス ディオール」の根底に受け継がれているテーマが、ムッシュがこよなく愛した"花と女性"です。彼は、花と女性は世界で最も美しい創造物であると語っています。実は、このふたつを結びつけるものが愛。今回、新しい「ミス ディオール」では、本物の愛にフィーチャーしています。
― 香りの特徴について聞かせてください。
D:3つのアコードそれぞれに特徴を持たせています。最初に香り立つファーストノートにはベルガモットやマンダリンなど、フレッシュでありながらフルーティな"風味"を感じさせる設計に。次のミドルノートは、センシュアルなアコード。ダマスクローズ2種類とグラース産のセントフォリアローズのアブソリュをブレンドしています。ダマスクローズは花びらを思わせる軽やかなイメージで、セントフォリアローズは濃密さ、でしょうか。それぞれを組み合わせることで、奥深い薔薇の芳香を表現できると思いました。ローズは「ミス ディオール」のアイデンティティなんです。
― 確かに、「ミス ディオール」=ローズといった印象がありますね。
D:そしてラストノートには個性的なアコードを加えています。アクセントにピンクペッパーコーンやローズウッドのスパイシーな余韻を。フレッシュさもあって、ローズととても相性がいいんです。ローズを引き立てながら、現代女性の個性を表現してくれるノートだと思います。
― "愛"というテーマにもしっくりくる香りです。あなたなら、どんな女性にどんなシーンで、この香りを贈りたいと思いますか?
D:シチュエーションやオケージョンに関係なく、香りを贈る行為はとても素敵なこと。香水ひと瓶に込められた花は、花束以上に濃密ですし、とても繊細です。香りを贈る人と贈られる人の感性が共鳴する瞬間も優美でロマンティック。香水を贈ることは、デリケートに愛を表現することなんです。私の想像上のミューズは、親しみやすいのに強い個性と意志を持った女性。反骨精神もある、そんな魅力的な女性にこの香りを贈りたいですね。
フランソワ・ドゥマシー
香水の聖地、グラースで幼少時代を過ごし、香水の原料や香水づくりの秘術を学ぶ。2006年ディオールのフレグランス クリエイターに就任。最高級の希少な原料と、ディオール フレグランスの熟達したノウハウとで、豊かなクリエイションを実現し続けている。© Parfums Christian Dior
― 欧米に比べて、日本人の香り使いはまだまだといわれます。上手に使いこなすためのアドバイスをいただけますか?
D:香りは洋服と一緒。素晴らしいデザインの洋服もハンガーにぶら下がっている時はただの布きれです。身に纏って初めてそのデザインが生きるのと一緒で、香水も身に纏ってこそ、その使命が全うされ、存在感が生まれます。棚に飾られたままではただのボトルです。だから香りを身につける習慣を、つまりは、命を吹き込んでほしいのです。どんなに希少な香水でも、香りの個性を作り上げるのは、身に纏うことから始まるのですから。
― 香りとは、常に個性を引き立てるものなのでしょうか。
D:もちろん、個性を引き立てることはできますが、逆に隠すこともできるんですよ。どう纏うかで、香水の個性も、その人の個性も変わってきます。たとえば、自分を守るためだったり、いつもと異なるイメージを表現するために香りを使うなど、香りの個性に隠れることもできます。
― 香りの個性に身を隠すなんて、その発想、新鮮です!
D:服のフォルムに自分の個性を隠すのと同じです。肌に直接纏うという意味では、ランジェリーに近いのでしょうか。でも、隠すといっても個性を失うわけではありません。香りの力を借りるという意味です。香りは本来、とてもパーソナルなもの。日々、一緒に生きていくものですから、もっと自由でいいのではないでしょうか。
ダマスクローズとグラース産ローズドゥメをベースに、フレッシュなシトラスノート、ピンクペッパーやローズウッドのスパイスが効いたクチュールメイドの香り。フェミニンなのに、ときに大胆、愛を語れるフレグランスだ。常に時代とともに進化し、語り継がれる名香のひとつ。ミス ディオール オードゥ パルファン 30㎖ ¥8,640、50㎖ ¥12,960 © Parfums Christian Dior
― 自然環境が厳しさを増すいま、香りの原料となる植物の栽培方法など、メゾンとして取り組むべき課題や、パフューマーとして意識されていることはありますか?
D:香りを使う環境を守ることが大事だと思っています。ニーズがあってこそ、その大切さを後世にどう伝えていくか、真剣に考えるようになりますから。ディオールの場合は、花の栽培を含め、将来の自然環境を考えながら、パフュームづくりを行っています。生産者と長期的な契約を結ぶことで、環境を守りながら香りの品質を維持する、サステナビリティという考え方を大事にしていますし、農薬を使わない方法として、たとえば、てんとう虫による害虫対策や、薔薇の根元に植物を植え、花に窒素が行き渡るようにするなど、土壌汚染対策や自然環境保護への長期的な取り組みも始まっています。香水は特に、原材料のクオリティが製品のクオリティに反映されます。香りの品質を守ることは自然を守ることですし、地球を守ることにもつながっていると思います。品質を維持するためにさまざまな努力を惜しまないという理念は、ムッシュの時代から。私たちは、地球を守ることにも使命を感じているのです。
― 「ミス ディオール」の小さな香水瓶の中に凝縮されているのは、自然の恵みとそこに関わる人々の壮大な愛、ということでもあるのですね。
D:そうですね。きっと「ミス ディオール」を纏うたびに、そんなことも実感いただけると思います。
texte:SAWAKO ABE