ワクチンが妊娠や女性ホルモンに影響するの?

Beauty 2021.06.18

増富健吉

新型コロナウイルスワクチンの接種は、いよいよ国立、私立含む8大学での接種や職域接種も開始され、日本でも広く世代を超えて加速傾向にある。そんな中で、「副反応に関する懸念」がとりわけ若い世代の間に広まっているようだ。自身も2回の接種を終えた国立がん研究センター研究所の医師、増富健吉先生に、私たちがワクチン接種を受ける前に知っておきたいことについてうかがいました。

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Q. ワクチンの副反応に対する噂の真相は?

文/増富健吉(国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長)

人類が新型コロナウイルスに対するワクチンという極めて優れた「道具」を手にして、まだ半年です。すなわち、1年後、2年後、あるいは10年後に出てくる予期せぬ副反応のことは誰にも解らないというのが、医師として、科学者としては、模範解答になると思います。では、世の中で流れている「噂」についてどのように考えると良いのでしょうか? いくつか具体的な例を挙げて考えてみようと思います。

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photo: iStock

先日、小児科医の友人から、「ワクチン接種後の心筋炎」はなぜ起こるのか?という質問を受けました。「思春期の世代の7人が2回目のワクチン接種後4日以内に胸痛を伴う心筋炎を発症した」という、接種が進んでいる海外の論文報告を受けての質問でした。いまのところ、科学的には直接的な因果関係は証明できなくても、状況証拠から「関連がありそうだ」との理解で医学誌に論文が掲載されているわけですから、根拠のない噂やゴシップとは異なります。今後も、1年後、2年後とこれまで誰も予想もしていなかったような「副反応」の論文報告が続くでしょう。

また、別の友人からは、「ワクチン接種が妊娠や女性ホルモンのバランスに影響がある」という噂を聞いたが本当か、という質問を受けました。正解は解りません。しかし、現在妊娠中の人に限っていえば、(妊娠中期以降の)ワクチン接種により赤ちゃんへの悪影響が出たという報告はありませんし、むしろ、ワクチンを受けて新型コロナウイルス感染を予防することのメリットの方が大きいと報告されています。このことと、5年後の妊娠時への影響や、中長期的な女性ホルモンに対する影響を、同じ次元で議論するのは無理があり、正確な答えは誰も知りません。人類の知恵と知識で知りうる限りの判断では「そんなことは起きないのではないだろうかと思います」というのが精一杯のところです。5年後、10年後の未来の副反応については、今後の追跡調査と解析が必須です。

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最後にひとつ、科学的な観点で予想されないこともない「嫌な副反応」についてお話ししておきましょう。難しい言葉ですが、「抗体依存性感染増強」という現象です。将来的にもしも「さらに新型の」新型コロナウイルスないしは、いまはまだない変異株が出現した時に、今回のワクチンでできた抗体がウイルスの感染を予防するどころか、むしろ、感染を助長してしまうという現象です。あくまで、可能性の話で、不要な恐怖心を煽る気はありませんが、コロナウイルスに似たウイルスのデングウイルスで過去に報告されている現象です。この現象は、ワクチン接種でのみ起こるわけではなく、たとえば、新型コロナウイルスに一度感染した人にも2回目の感染で起こる可能性はあります。ですので、ワクチンを受けずにいることが「抗体依存性感染増強」を避けることになるわけではなく、ワクチンを受けないで、新型コロナに感染してしまえば、結局は同じことになる可能性もあります。

医療行為とはすべてにおいて、リスクと利益のバランスの上に成り立っているものであり、新型コロナウイルスのワクチンとて同じ事です。ましてや、新型コロナウイルスのワクチンは人類が初めて手にしてまだ6ヶ月。人類がこれまで手にしてきた、「文明の利器」の危険性は、長い人類の歴史が物語っています。火、ダイナマイト、放射性物質(レントゲン)などなど、いずれも良いこと、悪いことのバランスで使うしかありません。新型コロナウイルスのワクチンも年齢、性別、職種などの要素で考え方も変わってくるでしょう。さまざまな要素を総合的に判断し、各自の決断を尊重して長い目で見ていくことが重要に思います。

text: Kenkichi Masutomi

増富健吉

国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長。1995年金沢大学医学部卒業。2000年医学博士。2001-2007年ハーバード大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。日本内科学会総合内科専門医、がん治療認定医、日本医師会認定産業医。専門は分子腫瘍学、内科学。東京医科歯科大学大学院連携教授、東京慈恵会医科大学連携大学院教授、順天堂大学大学院客員教授。

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