自然と共鳴。エルメスのビューティ第4章はフェイスコレクション。
Beauty 2022.03.17
「エルメス・プラン・エア」コレクション
スキンケアとメイクアップが一度に完成。肌には潤いがもたらされ、さらに保護されて。そしてその仕上がりはほのかに色づく光のヴェールをのせたように自然で、まるで屋外で新鮮な空気の中を歩いた後のように肌が生き生きと輝いていたら? これ以上、望むものはなし。日常の暮らしにこんな素晴らしい喜びをもたらしてくれるのが、エルメスのビューティ第4章となるフェイスコレクションの「エルメス・プラン・エア」だ。12色(2色は9月以降発売予定)のバームファンデーション、2種のフェイスパウダー、あぶらとり紙、ブラシで構成されたコレクションである。2020年春に口紅の「ルージュ・エルメス」で第1章を開いたエルメスのビューティは、それに続いてチークとリップの「ローズ・エルメス」、昨年にハンド&ネイルの「レ・マン・エルメス」という色彩の世界だった。「エルメス・プラン・エア」コレクションはその世界を支える基礎を美しく作り上げるという新しい物語の始まりを告げるものだ。
ナチュラルビューティにインスパイアされた「エルメス・プラン・エア」コレクション。日々の暮らしにコンフォートとエレガンスを。©️Joaquin Laguinge
「プラン エア」とはフランス語で「戸外」の意味。アーティスティック・ディレクター、ピエール=アレクシィ・デュマは「このコレクションはありのままの美しさを自由を通して表現するという、メゾン3代目エミール・エルメスの精神に共鳴する」と語る。馬具商として1837年に創業したエルメスでは馬との触れ合いから自然との絆が生まれ、その結びつきは1929年にメゾンを継いだエミールの時代に大きく広がっていった。彼は1920年代の“モダンエイジ”における人々のライフスタイルの変化を敏感にかぎとり、スポーツ、ドライブ、それに飛行機の操縦など外での活動に適したウエアを考案したのである。自分の4人の娘たちが、戸外の時間をすごすのにふさわしい装いをできるようにと願ってのことだ。いまから100年遡る1920年代、パリは新しい風が吹くアヴァンギャルドな街だった。とても昔のことだけど、この時代活躍した革新的な女性アーティストを取り上げた展覧会『Pionnières(女性パイオニアたち)』展がパリのリュクサンブール美術館で開催されている。会場で読み取れる当時のキーワードが屋外の空気を自由とともに満喫するスピード、スポーツ、ムーブメントで、これがどれほどエミール・エルメスのクリエイションにインスピレーションを与えたかを想像するのはとても興味深い。
フランス語でアウトドアを意味する言葉がプラン エア。フレッシュな空気を吸い込んだような、生き生きと輝く肌を作り上げるコレクションの誕生だ。©Stéphanie Davilma
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3月16日から日本で販売がスタートした「エルメス・プラン・エア」コレクション。そのメインはボーム ドゥ タンだ。ファンデーションではなくボームという名がつけられているように、クリームのようなとろりとセンシュアルな感触で簡単に肌になじませることができる。スポンジなどのツールは使わずに、エルメスにおける最高の道具である指で。肌の箇所に応じて使う本数を指がおのずと決めてゆく賢さ! その結果、溶け込むように肌を均一に包み込み、仕上がりはまるで色づく光のヴェールを肌に纏ったよう。まったくべとつきがなく、さらりと軽いつけ心地だ。もしカバーしたい部分があれば、そこにボームをぽんぽんと優しく重ねづけすればいいだけ。透明感あふれる美しく自然な肌は、メイクをしたとは他者が気づかない、自分だけの幸せな秘密になりそう。ファンデーションが苦手な人も一度試したら、虜になるはずだ。
スキンケア効果については、まずヒアルロン酸複合体の配合により、肌に潤いが与えられる。肌を外界の刺激や汚染から保護してれくれるのはツキミソウエキス、オウゴンエキス、そしてホワイトマルベリーエキスという3つの植物由来成分だ。さらに敏感肌も考慮したミネラルベースのフィルターによるSPF30・PA+++。都会の日常生活において肌は紫外線から守られて……ボーム ドゥ タンは保湿に優れたスキンケア製品ともいえる優れものである。
質感へのこだわりを持つ日本のラボラトリーで開発され生産される革新的なテクスチャーを持つボーム ドゥ タン。ピエール・アルディがデザインしたシンプルなチューブは使いやすく、携帯にも便利だ。世界中の肌の3つの色調に対応できる全12色(日本では85、95の2色は9月以降に発売予定)。エルメスの歴史を培う自然と乗馬にちなんだ色名がそれぞれにつけられている。仕上がりは新鮮な空気を吸い込んだような軽いつけ心地でとても自然。エルメス プラン エア ボーム ドゥ タン SPF30・PA+++ 40ml 全12色 ¥11,550 photos:(左・中)©️ Studio des Fleurs (右)©️Deo Suveera et Pamela Dimitrov
「エルメス・プラン・エア」コレクションにはこのボーム ドゥ タンに重ねて、あるいは素肌にも使える2種のパウダーが含まれている。ゴールドのイルミネイティングパウダー「プードル エクラ グロー」とトランスルーセントパウダーの「プードル エクラ マット」だ。どちらにも高い抗酸化効果で知られるホワイトマルベリーエキス、そしてエモリエント成分が配合されている。ボーム ドゥ タン同様に肌のケアも考えられたプロダクトで、パウダーといっても実に細かい粒子ゆえ使用後に粉っぽさなしに肌になじむのがうれしい。
両者ともエルメスのエクスリブリスがゴールドに輝く白い容器に収められていて、詰め替え式だ。「ローズ・エルメス」同様にピエール・アルディによるデザインだが、今回は容器の内側の鏡がフルサイズという違いがある。容器を開いた時に気づく人もいるかもしれないが、パウダーを顔にのせると繊細な香りが鼻をかすかにくすぐる。香水クリエーション・ディレクターのクリスティーヌ・ナジェルが「エルメス・プラン・エア」コレクションのためにクリエイトした心地よい魔法の香りの正体は、アルニカ、サンダルウッド、グリーンティーの調合だ。
左: ロングラスティングのフェイスパウダー2種のコンパクトケース。1923年にエミール・エルメスが作り上げたエクスリブリス(蔵書票)がゴールドに輝く。 中: プードル エクラ マット。いかなる肌のトーンにも合うことから1シェードだけ。¥11,990(レフィルは9月以降発売予定) 右: イルミネーターのプードル エクラ グロー。¥11,900(レフィルは9月以降発売予定)©️Studio des Fleurs
このコレクションのビューティアクセサリーとして、ヤギの毛を使用したソフトな天然繊維ブラシ「パンソー プードル」もピエール・アルディによってデザインされた。製造はフランスで1793年に創業のブラシ専門メゾンによる。ボリュームたっぷりの丸い平形の毛先は、ふんわりとヴェールをかぶせるようにパウダーを肌にのせるのにふさわしい。もうひとつのアクセサリー、それは「パピエ ドゥ ソワ」。エルメスのオレンジボックスにおさめられたブロッティングペーパー(あぶらとり紙)で、強くて長い繊維が得られる和紙の原料となる楮(こうぞ)を主原料としている。使いやすいように1枚のサイズが少し大きめ。肌にあたる感触はシルク(ソワ)のように柔らかく、パウダーを取り去ることなく、肌の余計な皮脂だけを吸い取ってテカりをおさえてくれる。1枚ずつに「H」の透かし模様がランダムに入っているので、皮脂を取るという味気ない実用的行為にエレガンスと軽やかさが添えられるというのはエルメスならでは!
左: 木製の軸をラッカー仕立てした手になじみのよいフォルムのパンソー プードル。丸平型の毛先に適量のパウダーを含ませ、顔全体に。¥14,630 中・右: シルクのように柔らかなブロッティングペーパーのパピエ ドゥ ソワ。タンポポの綿毛が飛んでゆくようなイメージでエルエスのイニシャルHが透かし模様で入っている。100枚入り ¥5,280 ©️Studio des Fleurs
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クリエイティブ・ディレクターに就任したグレゴリス・ピルピリス
フランスでは晴天に恵まれたある日、海と松林の上に大空が広がる屋外にて「エルメス・プラン・エア」コレクションのプレス発表があった。これに際し、マスタークラスを行ったのはエルメスのビューティ部門のクリエイティブ・ディレクターに就任したグレゴリス・ピルピリスである。ギリシャ出身でトム・ペシューの第1アシスタントを務めてメイクアップアーティストとして注目された後、ビオデルマに入社したことから“スキンケアブランドの顔”になったことで有名な彼。今後エルメスのビューティ部門でプロダクトのパッケージングをデザインするピエール・アルディと創香するクリスティーヌ・ナジェルとともに、新たなコレクションに関わってゆくにふさわしい経歴の持ち主である。メゾンが目指すメイクアップのビジョンを定め、ビューティ部門を発展させてゆくという彼の存在に、さて「エルメス・プラン・エア」コレクションの次に発表されるのはアイメイク? それともスキンケア?という好奇心が大きくかき立てられる。
大自然の中に忽然と姿を現した「エルメス・プラン・エア」コレクションの発表会場。一部が鏡貼りで周囲の景色を取り込んでいる。photos:Mariko Omura
グレゴリスのマスタークラスから。左: ボーム ドゥ タンは手に少量をとり温めてから。指先でマッサージをしつつ肌になじませて自然な仕上がりに。右: プードル エクラ マットはブラシを直角にしてパウダーをつけ、鼻の周り、目の下、額などマットに仕上げたいところにブラシを大きく動かして入れる。
左: プードル エクラ グロー。転がすようにしてパウダーを含ませたブラシで、骨、こめかみ、鼻梁、キューピッドボウ(上唇の山)を輝かせる。ブラシを使わず指で同様の箇所に使ってもよい。 右: ブロッティング ペーパーはサイズが大きめなので、額や頬など余分な皮脂を取りたい顔の部位に置き、軽く押さえるだけ。photos:Mariko Omura
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遠浅の海。砂浜にはランドアートも
「エルメス・プラン・エア」コレクションのプレス発表会が行われたのは、フランス北部ピカルディ地方の長い砂浜が続くベ・ドゥ・ソムだった。海の向こうは英国という位置にあり、映画の撮影もよく行われ、自然愛好家たちにはアザラシのたまり場、野鳥の観察で知られている。新しいコレクションを発見するだけでなく、発表会の参加者それぞれがウォーキング、乗馬、カレーシュ、ランドセーリングといった戸外での活動を楽しむという、まさに“プラン エア’”なプログラムが用意されていた。
この日はいっとき曇ることがあったものの、ほぼ晴天。広がる青空と爽やかな空気が身体と心にとても快適だ。アザラシに会えるかどうか、海岸を目指す。沼地、松林といったこの土地の典型的な光景がしばらく続き、その後はさらさらの砂丘へと。白い砂が作り上げるラクダのコブのような隆起と隆起の合間から、ブルーとグリーンが混じり合う海が姿を見せた時には起伏の多い道を歩いた後の感動もあいまって、誰からも喜びの声が上がった。モルディブ、ギリシャ、地中海など自分の知る最高に美しい海を口々に例にあげ、この景色をたたえ……。
ハイキングに訪れる人も多いマルカンテール公園の敷地内、遠方には馬や白鳥の姿が眺められる。
自然を存分に堪能。ビーチアーティストが遠浅の砂浜に描いた作品が海岸を散歩する人々を迎えた。満潮時には消えてしまう、泡沫の作品だ。photos:(左、右)Mariko Omura (中)©Stéphanie Davilma
フランスの豊かな自然と新鮮な空気を満喫する1日。ベ・ド・ソムはアンソンという馬(写真右)の種類の誕生の地だそうだ。photos:(左)©Stéphanie Davilma (中、右)Mariko Omura
身体を動かし、すっかり空腹となった参加者たちをテント・レストランで待っていたのはシェフ、アレクサンドル・ゴティエがメニューを練り上げたランチだった。次々と登場する料理はムール貝、牡蠣、ロブスターといった海の幸に、サジー、シーバックソーン、ミヤマカタバミ、サラダバーネットといった地元の珍しい素材が組み合わされ、ひとつひとつに驚きと味わいが込められている。それが最後の特別ミックスのハーブティまで続くのだ。ちなみにデザートに使われていたのは、シーバックソーン・ベリーとエルダーベリー。どちらも美容効果が高く、「エルメス・プラン・エア」と共同で肌に働きかけてくれるという小憎いおまけまで。
アレクサンドル・ゴティエはパリジェンヌたちが週末の憧れの行き先としてあげる、2ツ星レストラン「La Grenouillère(ラ・グルヌイエール)」のシェフである。ベ・ドゥ・ソムから車で約30分の距離に所在するレストランでのディナーの幸運な体験者が興奮して語るには、彼のオープンキッチンはかなり暗めの照明で、そこで働く料理人たちの手元だけがライトで浮かび上がるような趣向なのだと。これって、なんだかエルメスの手仕事を紹介するプレゼンテーションみたい!と聞きながら思ったものだが……まさか、こうしてふたつのサヴォワール・フェールの素晴らしい出合いを体験できるとは。この日のワインはエルメスらしくオレンジワインである。さあ乾杯!
オードブル8種、前菜2種は千切り、薄切り、桂むきなど手をかけて準備された野菜がポエジーを感じさせる料理に仕立てられて、次々とテーブルに。メインのロブスターは部位によってビスク・リゾット、天ぷら、パン包み焼きという3タイプの調理法で登場した。ランチを締めくくったのは、メレンゲの筒にベリーのクリームを潜ませたデザートだった。いくつかの料理には紙を器に使っていたのがおもしろい。photos: Mariko Omura
editing: Mariko Omura