Feel good Beauty 最果タヒが思う、「気持ちいい」とキレイの関係。

Beauty 2024.05.26

私は私でご機嫌に

文:最果タヒ/詩人

気づくとそれなりの大人の年齢になり、大体の化粧品や服に対して「勝てるようになってきた」と少し思っている。勝つ、という言い方が合っているのかわからないけど、似合うかどうかとかは気合いでどうにかなる、と自分の中で本気で思えるようになってきたのだ。実際に他人が似合うと思ってくれるかとか、そんなことはどうでもよく、私は私がしたいメイクをして、着たい服を着て、そしてそのことに堂々とできるから、もうそれ以上の「似合う」はないでしょうと当たり前に思えていた。

「似合う」とは引き寄せるもの。他人にもらう称号ではなく、私が引き寄せていくもの。私はアイメイクが好きで、いろんな色が入っているのを使うのが好きだけれど、自分に似合う色というものを探すことをほとんどしなくなって、むしろ付けたいっていう色を大切にするようになった。自信があるから、とか、自分のことが好きだから、とかではなく、自分とずっと生きてきたから。いろんな色をつけてみて、何度も似合う似合わないを繰り返した末に、でもこの色は好きなんだよな、似合わないならどう似合わせるかを考えたい!と思うようになっていたから。周りの評価よりも、自分が「似合う」って思えばそれがゴールだなと当たり前に思えるようになっていた。

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どんなふうに客観的に自分がよく見えるか、ということより、私はそのパレットの持つ物語が好きで、それを纏いたいと思う、そのことの方が大切だから。その色が大好きならそれだけでもう誰よりも「それを身につけるべき人」なのだろう。そうやって堂々と色を乗せたとき、私は私にポジティブだから、服装もアクセサリーもその色味に合わせようとする、そうやってとても大切に「似合う」を演出しようとする。そうやって私はより一層メイクが好きになったし、私自身のこともそれなりに好きになっていった。自分の見た目はともかく、こんな気合いがある私のことが、私は大好きだよ!

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私にだって「理想の自分」がそれなりにあるし、そうはなれない自分に昔からコンプレックスはあった。でもそれはそれとして、現実の自分にもう今はだいぶ慣れ、いつも乗ってる車くらいの愛着がある。乗り慣れると強気になるものです。自分の価値なんて私が一番詳しいに決まってるのではないか?と思えるし、自分に関わるさまざまな主観的評価の審査委員長にいつのまにかほとんど自分が就任していた。私が良しといえば良し。そうはっきり思えるようになってから、私は私であることをとても気分良く受け止めている。私が全てを決められるってとても気持ちいいのです。ナルシスト?って言われると、そうじゃないけど!?と思うけど、「自分として生きることにかなり上機嫌でいる」と言われたらそれはそうかもなぁって思います。メイクや服が似合うかどうかくらいの雑魚な戸惑いなら、レベル上げをこの37年で済ませた私なら楽勝です。私、私でよかったなぁ、と思うたび、化粧をするのも楽しく、服を考えるのも楽しく、そうやってどんどん気持ちよく、「綺麗」も引き寄せ生きています。私は今、自分であることがとても気持ちいいです。自分のことを手放しに好きになるより、それはもっと最高なのでは!? と最近、思います。

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最果タヒ
詩人
2004年より詩作を始め、07年、第一詩集で中原中也賞、15年に現代詩花椿賞などを受賞。近刊に5/30発売の詩集『恋と誤解された夕焼け』(新潮社刊)、エッセイ集『無人島には水と漫画とアイスクリーム』(リトルモア刊)ほか、著書多数。
@saihatetahi

*「フィガロジャポン」2024年5月号より抜粋

illustration: Ikumi Oouchi

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