イッセイ ミヤケの夏の香りができるまで。

Beauty 2019.05.20

イッセイ ミヤケ パルファムは、1995年以来さまざまなクリエイターとコラボレーションし、限定のサマーフレグランスを発売している。今年は、調香師のオーレリアン・ギシャールと、カラーデザイナーのメイ・フア、ふたりが日本の楽園、沖縄の座間味島を一緒に旅をして生まれた4つの香りとボトルが登場する。フィガロジャポン7月号で伝えきれなかった座間味島の魅力とクリエイションの旅の裏側について、ふたりに語ってもらった。

沖縄の那覇から船で約1時間のところにある座間味島。ウミガメが悠々と泳ぐ姿も。

――座間味は、ほかの知っている島とどう違いましたか?

オーレリアン・ギシャール(以下オーレリアン)日本だと思ってイメージして行ったら全然違った。世界の果てのようでした。
メイ・フア(以下メイ)日本にこんな楽園のような島があるとは知らなかった。ほかの南の島とは違うエネルギーがあって、風が吹いて、同時に穏やかで。ふたつのものが同時にある場所でしたね。
オーレリアン 調香師というのは、新しい素材やインスピレーションを求めて旅に行くことがあるのですが、仕事仲間に「座間味に行くんだ」と言ったら、それはどこだ?ってみんなが一斉にzamamiって検索(笑)。すごく羨ましがられたよ。

――おふたりは座間味で初めて会ったんですよね?

メイ オーレリアンは4日間の滞在なのにすごい大荷物で!(笑) サングラスをかけているけど、満面の笑みでやってきた。喜びにあふれるその姿を見たら何も心配することはありませんでした。
オーレリアン 僕はカラーデザイナーという仕事が何なのかを知らなかったんだ。メイは輝くような素晴らしい人。一緒に仕事をすると同時に、この4日間で友人のようになれました。
メイ イッセイ ミヤケが選んだ人だから、お互い何も心配しなくてよかった。私自身、常に人との繋がり、出会いが与えてくれる経験というものをいちばん大事にしていて、そうしたところから何かが生まれるんだと思っています。それはオーレリアンも同じよね?
オーレリアン 香りのインスピレーションは旅で出会う人との中からもらうことが多い。今回はイッセイ ミヤケとの縁、メイとの出会い、座間味という環境との出合いがありました。新しさというのはインスピレーションの宝庫ですよね。何が起こるかわからないわけですから。

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4日間の4つの瞬間をふたりで選んで、4つのフレグランスにクリエイトした。

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――実際、座間味でどんな香り、どんな色を感じましたか?

オーレリアン 香りというよりもインスピレーションを探しに行きました。私たちが一緒に過ごした瞬間、それがインスピレーションになった。島のある場所だったり、メイと共有した感性だったり。
2日目の午前中の海は、ターコイズブルーの色が広がっていた。この時の「水の匂い」というものを表現したいと思ったんです。それが、ロードゥ イッセイ プールオム シェード オブ ラグーンです。

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10時28分にふたりが見たターコイズブルーの浜辺が、色と香りになる。

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砂浜に座って水平線を見ながら、青のニュアンスの違い、グラデーションについて語り合う。

メイ 青は通常冷たい色ですが、座間味の青は素晴らしくて、温かみがある。毎朝、光があふれたエネルギッシュな青の色が見えていました。

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直接砂浜で色のメモを取るメイ。

オーレリアン 僕の仕事は、この座間味の「青」を嗅覚として表現するということ。砂や塩のミネラル、液体の水、空気である風を表現しました。メイが「ターコイズという色は、海面に光が当たり、水深が浅いところで砂に光が反射するからこのような色なのよ」と教えてくれた。諸元素について考えるのは、イッセイ ミヤケのデザインを考える中でとても大切なこと。このフレグランスは、人の手で操る自然界のエレメントです。
メイ クリエイションに私たちが島で感じたことを介在させる、ということが大切だったの。
オーレリアン 実際に香りに使った要素を説明すると、ベチバーは砂に生える植物の根、アンブロキシドが塩気を表現しています。シダーはウッディな側面、光をグリーンカルダモン、ジンジャー、クラッシュしたようなライム。風はサイプレスによって表現しています。抽象的な風という要素はとても大切で、イッセイ ミヤケのオムのフレグランスには常に風の存在が含まれているんです。

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島にある素材をそのまま香りに使うのではなく、抽象的に表現する。

メイ ボトルデザインは、時間が過ぎゆくイメージを大切にしたくて、色をリボンのように巻きました。また、透明な感覚を大切にしています。

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グレープフルーツやライムのシトラスとベチバーやシダーのウッディに、ミネラル感を感じるフレッシュなメンズフレグランス。ロードゥ イッセイ プールオム シェード オブ ラグーン オードトワレ 100㎖ ¥8,316(5/29限定発売)/イッセイ ミヤケ パルファム

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オーレリアン シェード オブ サンライズの香りについても話していい?
メイ 座間味に行った2017年の11月は、台風が3つも来た後だったの。台風のシーズンじゃないのに! そしてまた台風が来るという予報だったので1日目の朝から4時に起きて朝日を見に行ったわ。結局予報が変わって毎朝日の出を見ることができたんだけど(笑)。それは本当に素晴らしい時間でした。日の出の荘厳さ、刻々と移り変わる温かな色合いが印象的で。私たちはこの瞬間をぜひこのコレクションに入れたいと思いました。
私が選んだ色は、オレンジみのあるイエロー。太陽を思わせる温かみ、移り変わり、揺れるようなイエローです。
オーレリアン 僕は夜の闇から朝の光へと移る瞬間を香りにしました。温かさと潮気を含んだ風を感じる、海の音だけが静かに聞こえ、自然の姿がしだいに見えてくる時間です。“光が肌をなで始める”心地よい感覚を表現したくて。
苦みのあるオレンジ色を感じさせる、レモンやベルガモットを自然と選びました。抽象的な花のノートは、ジャスミン、プルメリアの温かみのある太陽を浴びる白い花たち。色の個性を強めるためにキンモクセイ。太陽の個性を表現するアーモンド。潮気を表現するのは、イランイラン、ヘリオトロープの花びら。そしてやわらかさややさしさを加えるためにココナッツミルクを。座間味にはココナッツはないんですけどね。
調香師は文字どおり伝えるのではなく、感じたことを伝えるのであって、見た花や素材というものが必ずしも香水に使われているわけではないんです。
メイ オーレリアンの香りには、イッセイ ミヤケが持つシンプリシティ、というのも感じられると思います。私も生き生きとした色使いをしつつ、色の豊かさを残すように気を付けました。

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ベルガモットとレモンのトップから、温かな白い花、そしてココナッツミルクが肌をやわらかく包む香り。ボトルの5:45は初日の日の出の時刻。ロードゥ イッセイ シェード オブ サンライズ オードトワレ 90㎖ ¥9,396(5/29限定発売)/イッセイ ミヤケ パルファム

――色が香りに影響しましたか?

オーレリアン 調香師は香りを勉強する時に、その香りを覚えるのに色で関連づけをして学ぶことがあります。香りと色はそのエレメントが育った環境に大きく影響を受けています。たとえばレモンやベルガモットは太陽を浴びて育つし、パチュリが暗い香りなのは木陰で育つから。バジルを嗅ぐと本能的に緑っぽいと感じます。
シェード オブ サンライズで使った、イランイランやジャスミンはメイが選んだ色と同じように、私の中ではその色の花を咲かせているのです。クラッシュしたレモンやカルダモン、ジンジャーはターコイズブルーの印象です。そして、ロー マジュール ドゥイッセイ シェード オブ シーのセージやローズマリーのノートは、私の中では強い青の色なんです。

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シトラスに加えたローズマリー、クラリセージのアコードが加わって、深く密度の濃い午後の深淵な海原を思わせる。ボトルの文字の色は、赤いトロピカルフラワーから。ロー マジュール ドゥイッセイ シェード オブ シー オードトワレ 100㎖ ¥8,316(5/29限定発売)/イッセイ ミヤケ パルファム

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――ボトルに刻まれている時間は?

メイ ふたりで見たその瞬間の時間です。光は色の源。光が刻々と変化するということは、一日中、常に色に影響がある。同じ花を正午に見るのと夕方に見るのとでは違う色に見える。おそらく香りでもそうなんじゃないかしら。
オーレリアン そのとおりだよ!

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夕暮れも美しく色が変化する座間味の景色。

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鬱蒼としたジャングルにはトロピカルフラワーが鮮やかに咲いている。

――文字のタイポグラフィと色の関係は?

メイ タイポグラファーと一緒に考えたのですが、時間というアイデアから出発しました。時計の針のイメージです。文字が非常に細いので、私はコントラストで色を使って読みやすくし、同時に洗練されている、ということを大切にしました。文字はモノクロでもよいのですが、このように色の上に色をのせて組み合わせています。

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ハイビスカスやグルマンなラズベリーフラワーが、夕暮れに繊細に香り、余韻を残す印象。ボトルの色は鮮やかな花にも珊瑚色にも見えて。ロードゥ イッセイ ピュア シェード オブ フラワー オードトワレ 90㎖ ¥9,396(5/29限定発売)/イッセイ ミヤケ パルファム

――ところで、カラーデザインとはどんな仕事なんですか?

メイ ものを描いたり、映像を撮ったり、色をつくったり。人間の心を感情とともに開く、ということが大事です。私が最初に感動というものを覚えたのは色を通してだったんです。15年くらい前に色についての講義を初めて受けた時に、自分のものの見方、世界の見方がまったく変わりました。ものが見える代わりに色が見えた。概念としての「もの」ではなく「色」として見えた時、感動を覚えたんですね。メディテーションをするようになってその意味がわかりました。常に精神がしゃべり続けることに対して、色に集中すると静けさの中に入ることができる。色というのは目に見えるけど、同時に目に見えないものへの扉でもある。香りには移り変わる時間軸があるけれど、色はその瞬間。私たちはふたりとも言葉にする以外のものを表現する、ということでは共通していますね。

――オリジナルのロードゥ イッセイのエッセンスを残しながら、違う香りをつくる難しさ、気を付けていることは?

オーレリアン ロードゥ イッセイはプールオムとともに傑作といえる香りです。ですから、変化させることと同時に、オリジナルへのリスペクトが大切です。
今回は嗅覚的に水に色を与える、といった作業でした。このボトルの中に水を入れる、というのは三宅一生さんのアイデアでしたからね。

――旅でそれぞれいちばん印象的だったことは?

メイ 常にびっくりしていたのは風ね。台風の影響もあったのかもしれないけど。それから崖の上から見た初日の日の出は言葉にならないほど感動したわ。いままで見たことのない日の出だった。
オーレリアン 僕と一緒にいたからじゃない?
メイ え!?(笑)
オーレリアン 笑うところじゃないよ!(笑)
僕が印象的だったのは大きさ。いろんなものが大きかった。そして自然の力。座間味は自然が大きく支配しているけれど、そこに住む人は自然と調和しながら過ごしているのが印象的でした。

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右:オーレリアン・ギシャール 調香師
Aurélien Guichard
1977年、調香師一族の8代目としてグラースで生まれる。イギリスの大学を卒業後、ジボダンのパフューマリースクールを経て、世界的なデザイナー、メゾンの香水を多数手がける。近年の代表作に「パルファム プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ」シリーズなどがある。

左:メイ・フア カラーデザイナー
Mai Hua
パリの国立高等装飾美術学校で色彩について専門的に学ぶ。自らの体験を色彩に落とし込み、作品を生み出す。映像作家としても活躍し、ドキュメンタリー映画『Les Rivi
ères』が1月に完成。

※すべて5/22イッセイ ミヤケ直営店先行発売

●問い合わせ先:
イッセイ ミヤケ パルファム お客さま窓口
0120-110-664(フリーダイヤル)
www.isseymiyake.com/ja/news/4621

©︎2019 BEAUTÉ PRESTIGE INTERNATIONAL

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