パリ街歩き、おいしい寄り道。

シェ・マルセルと、ジャコメッティ×リンドバーグ展。

190227-IMG_9148.jpg

190227-IMG_9150.jpg

190227-IMG_9153.jpg

フィガロ.jpのサイト内「PARIS」のページを久々に覗いたら、なんとも魅力的な展覧会の特集記事があった。
ジャコメッティと写真家、ピーター・リンドバーグの作品を展示した企画展。
ファッション・ウィークが始まったら混んでしまうかもしれない、その前に行かねば!と早速予定を組んだ。
金曜日は早起きをして、お昼までにある程度仕事を片付け、ランチは外で食べて、そのまま展覧会へ行こう。
徒歩圏内に大好きなビストロ、シェ・マルセル(chez Marcel 7,rue Stanislas 75006 Paris)がある。
ランチのラスト・オーダーぎりぎりに向かうと、1つだけテーブルが空いていた。
お昼だというのに店内はすごい熱気で、そこに割り込むのも気が引け、とてもお天気が良かったからテラス席に座ることにした。
店主のピエールに今日のお昼は何?とplat du jour(本日のおすすめ)を聞くと、「ホタテはどう?」と言われたけれど、ホタテは味が強いなぁと思い「お肉だったら?」と聞いたら「仔羊のナヴァラン(煮込み)」という。
それで「煮込みがいい!あと、前菜に何かフレッシュな感じのもの」と頼むと「人参とオレンジのサラダを出すね」と返ってきた。
注文を済ますと、途端に、ふわぁ〜っと気持ちがくつろいだ。
スライスしたオレンジの上にキャロット・ラペを盛った前菜には、ネギが散らしてあり、それが思いがけないアクセントで、食欲を刺激した。
大きなジャガイモがころんと乗った仔羊の煮込みは、とても綺麗な味だけれど、綺麗すぎない盛り付けで、それゆえに安心して食べられた。
出てきたときには、スプーンが欲しい、と思ったのに、ジャガイモやお肉に煮汁を絡めて食べていたら、最後にはほとんど残っていなかった。
お皿を下げに来たスタッフのマリーに「デザートは? タルト?」と聞かれ「タルト、半分だけっていうのもアリ?」と尋ねると、頷きながら店内に戻っていった。
いつもの半分のポーションで出てきたタルト・オ・プラランを食べて、大満足でランチを終えた。


ラスパイユ大通りを10分も歩かずに、ジャコメッティ・インスティチュートに到着。
元は個人宅だった建物で、すりガラスのドアの前に立つと、中から係の人が開けてくれた。
サイトで要予約なのは、チケット売り場を設けていない(だから現金が用意されていない)かららしい。
記事で読んだとおり、最初の展示室には視線の印象的なリンドバーグの写真と、ジャコメッティのデッサンが相対するかのように並んでいる。
床や壁、窓の細工が美しい上の間に行くと、リンドバーグが捉えたジャコメッティの作品が展示されていた。
写真の中の彫刻は、いまにも動き出しそうだった。
逆の言い方のほうが的確かもしれない。
それまで動いていたものが止まっているだけかのような感じでもあった。
彫刻の周りにある空気が、まさに一瞬を捉えた、と言わんばかりで、彫像には生命が宿っているかに見えた。
どの写真にも圧倒された。
写真の中に動きはないのに、映画を観ている気がした。
展示室の隅に可愛らしい枠のドアのお手洗いを見つけて、本当にお家だったんだなぁ、と少し高揚していた気分がふっと緩んだ次の瞬間、その脇にある写真に目が止まった。
被写体はスーパーモデルのナジャ・アウアマン。
横の説明を見ると、1996年東京、とある。
写真の中のナジャはコートを着ていた。
96年の夏。
私はフィガロ編集部でアルバイトをしていた。
その、ある日。
大きなファッション撮影があった。
モデルはナジャ。撮影はリンドバーグ。
静かに沸き立つような独特の緊張と興奮が編集部内にあったと思う。
その撮影の2日目だったろうか。
撮影チームにお昼を届けに行くよう言われた。
35度近くある暑さの中、冬物の撮影。
和食を用意したけれど食べなくて、急遽、青山のとあるバーにケータリングをお願いしたという。
それを取りに行き、Bunkamura のほうで撮影しているからそこまで届けて、と。
料理の中身はまったく見えなかったけれど、取り分ける用の白い皿が30枚くらいとステンレスのカトラリーがカゴに入っていたのを覚えている。
現場に持っていくと、撮影の合間だった。
「少し待っていたら、ナジャが出てくるかもしれないよ。せっかくだから見て行ったら?」
そう言ってもらい、待つことにした。
たしか10分後くらい。
そんなに待たなかったと思う。
ナジャが車から出てきた。
足首の少し上くらいの丈の、麻だろうかシルクだろうか、薄手の紫色のキャミワンピを着ていた。
まったく暑そうじゃなくて、ただ歩いているだけなのに、ワンピースの裾をなびかせた姿は、涼しそうにさえ見えた。
その一連の流れが、一気にフラッシュバックした。2019年のパリで。
ぼーっとした。
こじんまりした館内に、けっこう長いこといた。

190227-IMG_9546.jpg

190227-IMG_9547.jpg

190227-IMG_9548.jpg

190227-IMG_9549.jpg

190227-IMG_9558.jpg

190227-IMG_9559.jpg

190227-IMG_9552.jpg

190227-IMG_9553.jpg

190227-IMG_9555.jpg

190227-IMG_9556.jpg

*お知らせ*
野村友里さんがナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組にゲストとして呼んでいただきました。放送はこないだの日曜だったのですが、日本にお住いの方はこちらのサイトから聴けます。よかったらぜひ!

川村明子

文筆家
1998年3月渡仏。ル・コルドン・ブルー・パリにて料理・製菓コースを修了。
朝の光とマルシェ、日々の街歩きに日曜のジョギングetc、日常生活の一場面を切り取り、食と暮らしをテーマに執筆活動を行う。近著は『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス刊)。


Instagram: @mlleakikonotepodcast「今日のおいしい」 、Twitter:@kawamurakikoも随時更新中。
YouTubeチャンネルを開設しました。

ARCHIVE

MONTHLY

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
パリとバレエとオペラ座と
世界は愉快

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories