パリ街歩き、おいしい寄り道。

「メゾン」と、アンリ・カルティエ=ブレッソン財団。

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人気ビストロ「クラウン・バー」のシェフを勤めていた渥美創太さんが独立し、自身の店「メゾン(Maison)」をオープンした。
15日の日曜にオープニングレセプションが開催され、そしてこの水曜に最初のランチ営業をするというので、撮影に行った。
渥美シェフのことは、制作していたドキュメンタリー番組「お皿にのっていない時間」で、かれこれ2年半ほど追わせてもらった。
クラウン・バーのシェフを勤めていた、まだメゾンの場所も決まる前からずっと撮っていたから、番組はもう今年の2月に放送されたのだけれど、形のなかったところからの一歩ずつの歩みを記録したくて、引き続き撮っている。
アトリエ・デ・リュミエールの開館から人の流れが変わって、活気を増しているSt-Maur通りから脇に入って20メートルほどのところにメゾンはある。
可愛らしい店名のロゴは、デヴィッド・リンチのデザインだ。
扉を開けて入ると吹き抜けになっている。
壁も床も一面テラコッタの、体験したことのない空間は、田根剛さんが手がけた。
階段から2階に上がると、8メートルという長さの、これまた目を見張る大テーブルが置かれ、並行して奥にオープンキッチンが備わる。
厨房の真上に天窓があり、そこから差し込んだ柔らかい光が寸胴鍋から立つ湯気に重なっていた。
下拵え中の野菜の横には、伊万里の馬場光二郎さんと信楽の大谷哲也さんの器が出番を待っている。
どちらの工房も、撮影で追いかけて一緒に行かせてもらったから、こうして厨房で実際に見ると、感慨深い。
数日前から干してある豚肉も光を浴びてキラキラしていた。
初日のお昼は6ステップのコース。50ユーロ。
夜は先週2日だけスタート営業をして、コースだけの提供だったが、今週からはアラカルトも始めるらしい。
渥美シェフの料理と、クラウン・バーでも腕をふるっていた小林里佳子さんのデザートはすでに味わったことのある方も少なくないかもしれない。
新たに味わうべきは、パン。これがおいしい。
作っているのは、里佳子さんとともにデザートを担当するルーシー。
この日も厨房で、朝、焼いていた。
密かに、売ってほしいとリクエストした。
レセプションの日に食べて、翌朝、朝ごはん何食べよう?と思った時に、前日メゾンで食べたパンを思い出した。食べたかった。
朝にもぴったりな、重みと軽さの塩梅がなんともよいパンだったのだ。
ただ、営業前の厨房では、その焼きたてのパンが控えめに感じられるほど、スープを取るために煮込んでいた寸胴鍋から漂う匂いがただひたすらおいしそうで、出汁を取った後の出涸らしでいいから食べたかったくらい。
里佳子さんが試作していたデザートも、食べるのを一瞬ためらいそうな可愛さで、でもおいしそうだから食べよう、いや食べたらなくなっちゃうな、とまた食べるのを迷いそうな様相だった。
カメラを回していて、本当にお腹がすいた。


キリのよいところで撮影を切り上げ、最寄駅のRue St-Maurからメトロ3番線に乗り、Temple駅で下車。
アンリ・カルティエ=ブレッソン財団に向かった。
いまやっている企画展がとてもよかったよ、と友人から聞いて、行きたかったのだ。
展示されているのは、アメリカ人小説家であり写真家のライト・モリスの作品。
家の中で撮った椅子やベッド、停まっている車、床屋さんなど、どれも日常にある風景なのだけれど、「なーんか、これ、いいなー」と呟きたくなる写真があっちにもこっちにもあった。
特に、カトラリーを撮った写真は好きだった。
記録に写真を撮ろうとするも、写り込みが激しくて断念。
その分、長いこと観ていた。
奥の間には、アンリ・カルティエ=ブレッソンが西ヨーロッパから東ヨーロッパまで旅をして撮った写真が展示されていた。
そこにも好きな写真が数枚あった。
帰り際にもまた、カトラリーの写真を観て、ゆるやかで温かな波がじんわり心に広がるのを感じながら、会場を出た。

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川村明子

文筆家
1998年3月渡仏。ル・コルドン・ブルー・パリにて料理・製菓コースを修了。
朝の光とマルシェ、日々の街歩きに日曜のジョギングetc、日常生活の一場面を切り取り、食と暮らしをテーマに執筆活動を行う。近著は『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス刊)。


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