
キッチンでクリエイティブに。摘み草料理を楽しむ5月。
5月3日までイタリアは全国区でロックダウン中。
そして学校は9月まで再開しないと言われている。
田舎に住んでいる私たち。
穏やかな芽吹きの季節をいまだかつてないほど満喫している。
ワイルドプラムも花が咲いた後は、桜、リンゴや洋ナシの花が満開に。
この夏、美味しい実をたくさんつけてくれますように。
洋ナシの木に登って夏になったら実をたくさん取るんだ!と張り切っているのは、おてんばの次女みう。
毎日カゴを持って散歩に出かけて、おかずになる葉っぱをたっぷり入れて帰ってくるのが日課。
春から秋、冷え込んでくるまで生えている大好きな野草、イラクサ。
子どもの頃に読んだアンデルセンの童話『白鳥の王子(野の白鳥)』に、魔法を解くためにイラクサの繊維を織り上げて作ったシャツを縫う、という下りがあった。
草を摘んだりタネを集めたり根っこを掘り出したりして何かを作る(魔女の宅急便のキキのお母さんみたいなイメージ)ことに、とても魅力を感じていたので、イラクサでシャツを作るなんて、(想像を絶するくらい大変そうだけど)何て素敵なんだろう!と思った。
でもその野草が刺毛でびっしり覆われていて、触ると劇的に痛くて何日か痛みとかゆみに悩まされる、ということを知ったのはイタリアに来てから。
しかもプロテインやミネラルなど栄養価が非常に高く、デトックスにもとても有効で、有機液肥を作ることもできる、万能な野草だと知ったのは、田舎に来て本気で野草のことを知りたいと思ってから。
イラクサのトゲは火を通せばまったく気にならなくなる。新芽を茹でて生地に練り込んだ緑色の生パスタは、春には各地のレストランのメニューにも登場する。
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うちでイラクサのパスタといったら、緑のペストを絡めたパスタ。
ニンニク、タマネギ、ときにアンチョビを炒めて、イラクサを投入。
少し水を加えて蓋をし、蒸されたらキッチンバサミでちょきちょき(手袋をして刻むのが面倒な時の方法)。
最後に美味しいオリーブオイルとお醤油をたらり。炒って擦った香ばしい麻の実やヘンプシードなど、ナッツっぽいものを加えると味わいもより深くなる。
でもいつか生パスタに練り込んでみようと思っていた。
そしてその日は突然来た。
週一回買い物に行くパオロに頼んだパンを作る用の小麦粉。
その日はオーガニックではデュラム小麦のセモリナ粉しかなかったとかで、 予定変更、パンではなくパスタを作ることにした。それも緑色の。
早速イラクサをたくさん摘んで来て、湯がいて刻んだ。
よく絞って、セモリナに練り込む。どうせなら2色にしようと、ひとかたまりはターメリックで黄色に。
粉100gに対して水50g、EVオリーブオイル少々。
薄力粉でも問題なくできる。
大人ひとり当たり粉65g前後で作って、残ったら冷凍している。
イラクサやホウレン草など加えるときは、大方生地を練ってから加える。
ちなみにボローニャがあるエミリア・ロマーニャ州でよく食べられる幅広パスタ、タリアテッレは卵入りの麺。
レストランで食べたような緑のタリアテッレを作りたかったけど、卵がなかったのとセモリナ粉だったので、作りやすい形にした。
生地を伸ばして細長く切り、両手をこするようにしてねじって作ったのは、ストロッツァプレティ。これもエミリア・ロマーニャ州の生パスタだ。
“牧師の首を絞める” なんて名前のこのパスタ、いままでたまに買っていたけど作ってみたら簡単簡単。
せっかくなので別の形もチャレンジ。サルデーニャのニョッケッティみたいな形。
本当は専用のミニ洗濯板みたいなものに生地を指で押し付けてつけるギザギザは、簾を代用。
慣れて来たら両手でささっと作れる。
三女のたえが2色混ぜてしまったので、思いがけずマーブル模様になって、それもまた可愛い。
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この日はパオロがストロツァプレティをサルシッチャ、ナス、グリンピースのトマトソース仕立てに。
ヴェジタリアンのシェフ、ピーナが毎週水曜日に開催しているオンラインレッスンで教えてもらった生パスタは、生地に花やハーブを挟んで伸ばすというもの。
生地は小麦粉100gに水50g、EVオリーブオイル多さじ2杯。
こねて寝かして伸ばした生地にハーブなどを挟み、さらに麺棒で伸ばす。
それをこの時はマルタリアーティという不揃いなカットにして、具がたっぷりの豆スープで茹でていただいた。
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残りはレモンの皮を擦ったレモンゼストを練り込んで植物油で揚げてみた。
仕上げに粉砂糖をかけたらカーニバルの時期のお菓子、スフラッポレ風に。
今年は4月12日がパスクア(イースター)だった。 いつもなら何家族かで賑やかにお祝いするけれど、今年はファミリーだけで。 でもパスクアの数日前にピーナに教わったナチュラルダイの卵を飾って、友達にパスクアのお祝いメッセージとともに贈った。
茹でてむいた卵を、紫キャベツを煮てミキサーにかけた液と、ターメリックの液と、赤ワインを煮た液に3日ほど漬けた。
赤や黄色いタマネギの皮、ビーツ、紫キャベツに酢、パセリジュース、ティーバッグなどがあれば卵だけでなくいろんなものが染められるので、子どもたちとまた何か染めてみようと思う。
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この時期、庭はタンポポの黄色い水玉模様でとっても可愛い。
カゴいっぱいタンポポを集めて、毎年この時期に作るものを今年も。
花を洗って半日陰干。隠れている小さな虫に出ていってもらい、
ガクをとって花びらだけ集める。
これがいちばん面倒な作業(ゆえ大雑把)。
ひたひたの水から煮て、沸騰したら火を止め、数時間から一晩おき、布で濾す。
濾した液に砂糖を加えて加熱し、好きな濃度に煮詰める。
タンポポシロップの出来上がり。
今回は3リットル鍋に山盛りくらい積んだ花を、3.5リットルの水で煮て、3.5カップの砂糖でシロップにした。
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紅茶に入れたりドレッシングに加えたり。
つぼみは塩漬けに。塩抜きをしたらケッパーと同じように使える。パスタやサラダ、魚料理にもよく合う。
外したガクは葉っぱと一緒にニンニクと炒めてEVオリーブオイルをかけたパンにのせてブルスケッタにしたら、春らしいアンティパストに。
絞った後の花びらは、醤油と砂糖と味噌で甘辛くしてご飯に合う一品に。
タンポポもまた優れた野草で、よく知られているのは利尿作用。イタリア語ではピッシャレット、"ベッドでおもらし"とも呼ばれる。花や葉っぱは生でサラダとしてもよく食べる。葉っぱの形から、デンテ・ディ・レオーネ、"ライオンの歯"とも呼ばれる。そして根っこは乾燥させたらコー ヒーやリキュールに。
ワラビ(次から次へ生えてくる)、からし菜(本気で辛い)、つくし(今年は見つけたのがちょっと遅かった)、ホップ(その辺にたくさん生えていて、夏は絡んで生い茂り相当厄介)、ポピー(花が咲く前の葉っぱはサラダやフリッタータ<卵焼き>に)など、この日もたくさん収穫。
去年までポピーは花が咲くまで生えているのに気付かなかったけど、目が肥えてきてすぐ見つけられるようになった。目のいい子どもたちもあっという間に見つける。ホップも以前は厄介なツル植物だったけど、新芽は楽しみで仕方ない。さっと湯がいてEVオリーブオイルとレモン汁で。
春を丸ごとここで過ごすのは初めてで、ついこの間まで枯葉がついていたケヤキの木、気づいたら新芽が出てきてる、とか、あ、勿忘草(ワスレナグサ)もう咲いてる、とか、1カ月以上前にまいたズッキーニのタネが発芽してきた、とか、この芽吹きの季節をフル体験するのが楽しくて仕方ない。これもロックダウンで森浸り生活をしているからこそ。自然のリズムに同調すると、心も身体も穏やか、安らかになる。
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ロバの親子ノーラとモモに、ひょうきんなヤギのくるみ。朝から夕刻まで歌っている鳥たち。
ロバたちの藁ロールの中に住んでいる野ネズミ。忙しく花々を飛び交うハチやチョウ。
みんなこの緑と花いっぱいの季節を各々目いっぱい生きている。
地球上で人類だけが大きな心配、不安、不満を抱えて生きているようだ。
こうして自然の中にいると、ネガティブなことや空回りする想いは全部置き捨てて、いま、ここに生きていることだけを感じ、感謝して過ごそう。
後先ばかり考えて毎日不安に駆られていては、日々色濃くなる新芽の眩しさも、毎朝日の出が早くなるにつれ、より早起きする鳥たちの歌声にも気づかないで、もったいないよ!と思わずにはいられない。
日の出とともに起きよう。
野原や土手や裏山に、季節を感じに出かけよう。土の上、草の上、小石の上を裸足で歩こう。
野の草花を連れて帰り、愛で、料理して、大地のエネルギーを取り込もう。星空を見上げよう。月の満ち欠けに想いを馳せよう。
そんなことを思いながら作った作品。
この夏、日本での個展を企画し始め、描いたイラストをかたちにした。
延期した個展開催まで寝かせておこうかと思っていた制作中の作品だけど、いままさにこんな気分なので、お披露目することにした。
月と太陽は金色。
流れ行く雲の向こう、地平線の向こうから、日は登っては沈み、月は満ちそして欠け、季節は巡る。
朝焼けと夕焼け。
屋根裏の窓からこの作品を通して望む景色と鳥たちの歌声に、私は時を忘れ、手を合わせる。
そして、今日も子どもたちと野原に出かけ、小さな宝探しをする。
日々是好日。
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