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ボローニャ「森の家」暮らし

森のハチミツで、宇宙エネルギーを感じる7月。

3年ほど前のまだ肌寒い春の日、養蜂家の親子アドリアーノとルカがやって来て、養蜂箱を置かせて欲しいといった。ふたりの養蜂場があるのはここから40キロほど北上したところ。どうしてわざわざうちに? と聞くと、パパのおじいさんはかつてうちの洞窟(といっても、とても浅い)のカンティーナ(ワイン蔵)の管理人をしていたそう。森の家は私たちが買うまでかれこれ50年は放置されていたから、かなり昔の話。ご存命だったらいろいろ聞きたかった。

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それから毎年アカシアの花が咲く5月から、果物園の端っこにカラフルな巣箱が置かれる。

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たまにルカがやってきて、ミツバチたちの様子を見にくる。みんなで見守っていると、「味見してごらん」と巣枠を持ってきた。

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芸術的なハニカムの蜜ロウを壊すのが悪くて躊躇していると、「大丈夫、すぐ蜂たちが直すから」。恐る恐る指を押し付けると、とろ~り生暖かい蜜が溢れ出した。滴る黄金色のアカシアの蜜を指ですくい、垂れないように急いで口に運ぶ。それは、生命の輝きの味がして、口福に包まれた。
次にルカが来た時、巣枠をひとつ置いていってくれた。

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同じアカシアの蜜でも、味は別物。

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ミツバチが花から巣に持ち帰る花蜜は、まだ糖度は40%ほどしかなく、水分量は70%とかなり水っぽい状態。ミツバチは、これを体内の酵素で分解し、翅であおいで水分を蒸発させてじっくり糖度を高める。数日後、糖度75%ほどに凝縮されると蜜ロウでフタをし、やっとハチミツが完成する。先日の蜜はアカシアのネクターで、これがハチミツなのね! 黄金のとろ~りは、ハチたちの努力の結晶だ。

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以前オリーブを収穫してコールドプレスで搾りたてを飲ませてもらったことがある。ピリッと辛くて華やかな香りのエキストラバージンオリーブオイルは、身体中の細胞が浄化、再生される感じがした。この味も1週間もすると搾りたての強烈なインパクトはなくなり、少しまるくなる。これだけピュアな蜂蜜とエキストラバージンオリーブオイルがあれば、あとは何もいらないと思った。
7月初めがいちばん養蜂場にハチミツが集まる時期だというので、その頃お邪魔した。

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アプリコットやモモなど果物、ひまわり、ビーツ、麦畑が広がる平野の農地の真ん中に、親子の養蜂場はある。

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ルカは巣箱に新しい女王蜂を入れるために、働き蜂を採取していた。

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巣箱を開ける時は、燻煙器でミツバチに煙を吹きかけておとなしくさせて作業。

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中央にいる大きいのが女王蜂。ルカが養殖した女王蜂の成虫で、ここに働き蜂数匹を一緒に入れ、古い女王蜂を取り出した巣箱の巣枠と巣枠の間に数日入れておく。

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黄色い籠の中には砂糖が詰めてあり、ミツバチたちは新しい女王蜂のフェロモンを浴びながらこの砂糖を徐々に食べて行き、数日後には出口ができて外に出て来る。その時には新しい女王蜂のフェロモンにみんなが慣れて、働き蜂を支配できるようになる。

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女王蜂の作り方はさまざまある中、ルカはというと、巣から移虫針で採取した生まれたての幼虫を蜜蝋で作ったコクーン型の王台に入れ、これを女王蜂がいない巣箱の上部に逆さにして設置。そして働き蜂は王台の中の幼虫をロイヤルゼリーで育てる。初めは普通の雌バチの幼虫なのが、餌の違いで女王蜂が作られるのだ。ちなみに働き蜂は雌バチで、有精卵。無精卵は雄蜂になる。女王蜂は春から夏にかけて1日に1500~2000個の卵を産む。うち9割は働き蜂で、雄蜂は何もせず巣の中にいて、必要となった時に女王蜂と空中で交尾をし、そのまま死んでしまう。働き蜂の寿命は40日。ハイシーズンにはひとつの巣の中に常に5、6万匹の蜂がいることになる。女王蜂の寿命は3年ほど。でも養蜂家は通常1年、繁殖力の高い女王蜂は2年ほどで新しい女王蜂と入れ替えにする。昔に比べると、農薬や環境の変化で短命になってきたそう。いろいろ考えさせられることばかり。

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ルカたちは花盛りの季節に、計14箇所さまざまな場所に、それぞれ30ほどの養蜂箱を設置する。蜂は色を識別できるので、自分の巣を認識しやすいように巣はカラフルに塗られている。
養蜂ははるか昔から行われていて、紀元前2600年頃のエジプトでは養蜂が職業として成立していたことがわかる壁画も残っている。19世紀半ばにアメリカの牧師、ロレンツォ・ラングストロスが革命的な養蜂箱を開発する前までの養蜂、土や粘土、あるいは藁や草で編んだものを巣箱とし、その中にミツバチに直接巣を作らせるというものだった。ハチミツを採取する時は、養蜂箱のミツバチに煙をかけて追い出すか、殺してハチミツの溜まった巣を取り出し、巣を絞ってハチミツを採取していた。ラングストロス式養蜂箱は蓋がついていて、箱の下にある隙間には出入り口が。ポイントは、巣枠という木でできた枠で巣板を固定し、複数枚の巣板を養蜂箱に立てて差し込むことで、巣板を引き出して簡単に中の様子を観察できること。また、採蜜する時はハチミツを貯める貯蜜域の巣板を取り出し、同じごろ考案された遠心分離機で巣を壊すことなくハチミツを採取できるようになったことだ。

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巣箱からいよいよハチミツを採集。
ルカのパパ、アドリアーノが巣枠の外側についたロウを削って巣枠を機械にセット。

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この機械で巣枠の表面の蜜ブタを切り取る。

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それを遠心分離機に入れ、回転させてハチミツを振り出す。この遠心分離機、手動のものは森の家の屋根裏にもある。昔はワインもハチミツも自家製だったのだ。夢のよう!

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切り取った蜜ブタはプレスされ、蜜ロウとハチミツに分けられる。

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すべてのハチミツはここに溜まる。

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ん~美味しい! これはミッレフィオーリ、百花蜜。

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養蜂箱ひとつで、シーズンで20~40kgのハチミツが取れるそう。200ℓと400ℓの貯蔵タンク、左と右端にあるのが森のアカシアのハチミツ。

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遠心分離機にかけた後の巣枠は、また巣箱へ。

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新しい巣枠には、ミツロウで作った蜂の巣の基礎を貼り付けておく。

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これはプレスしたミツロウをこうして溶かしたものを専門業者に加工してもらう。

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ミツロウもハチミツも花によって色が違う。

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色が濃い方がミッレフィオーリで、薄い方がアカシア。この他に栗と菩提樹の蜂蜜を作っている。
ミツバチは半径2キロくらいの領域で花蜜を集めるけれど、ルカいわく「ハチたちは怠け者なので」、できるだけ一番近いところの蜜を集める習性がある。例えばうちなら、まずはアカシア、次いで栗が季節になると一斉に咲くので、その間に巣枠を入れ替えて、アカシアと栗、2種類のハチミツが取れるそう。あるところでは黒っぽいハチミツが取れて、味も何かに似ている、と思ったら、近くにコカコーラの缶が転がっていたという。安いハチミツは砂糖水を与えたものもあるというから要注意だ。
また、ハチミツは温度が下がると凝固する性質がある。スーパーなどで販売されているものはいつもクリアでサラサラな状態のものが多いが、これは加熱処理して凝固しないようにしてあるから。ルカたちは一部は直売用に生の状態のものを置いているものの、人手と手間の問題からほとんどは一斗缶に入れて業者に卸している。業者は瓶詰めするために加熱処理するので、酵素やビタミンなど良質な成分が壊れてしまう。なんて勿体無い! それなら森で取れたハチミツはうちに譲ってもらって「森のハチミツ」で売り出したい。どうだろう。

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うちの朝食に欠かせない森のハチミツ。幸せな1日はスプーンいっぱいのハチミツから。

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いま、世界中のハチの数が減っていることが深刻な問題となっている。

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調査によると、アメリカのミツバチは1940年代の半分にも満たない数になっていて、2010年から毎年40%近くずつ消滅している。受粉を行うハチがいなければ、多くの野菜、果物、ナッツのほか、油脂種子、綿花などの生産量は激減、ハチの受粉に依存したクローバーなどの植物を食べる放牧動物にも大きな影響が出る。

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森の家がある丘の上は麦や飼料用の牧草やそら豆畑が広がっていて、栽培は無農薬で行っている。森のハチミツもオーガニックの認証を得ている。先月、200種類もの麦の栽培、研究をしているアンドレアが来た時、自分たちはオーガニックで麦を栽培しているけれど、周りの農地では農薬を使っているのでもう何年も蛍を見ていないと、ここで夜遅くまで蛍狩りと天の川を楽しんでいた。昼間はミツバチが忙しく飛び交っていた庭で、瞬く星空の下、優しくシンクロしながらふわふわ点滅する蛍の光を眺める。短い命を一途に生きる虫たちに、何光年も向こうの星の光。揺らぎゆく無限の宇宙に思いを馳せると、小さな私の中の宇宙は浄化され、愛で満たされる。ふと、あの溢れ出す黄金色のハチミツを思った。

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ミツバチの世界と溢れ出すハチミツを思って、最終地点を考えずに手を動かし始めてうまれたカタチ。

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金色の真鍮で、神秘幾何学模様のハニカムの形を作りながら、八の字にダンスしながら蜜など資源の場所を教えるミツバチの知恵や、小さい身体でせっせとネクターを集めて作り上げたロイヤルゼリーやハチミツ、内から湧き出るエネルギーのことを考えた。

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そうしたら、エネルギーフィールド、トーラスのような形になった。

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植物、生き物、自然現象、宇宙、すべてがトーラスというドーナツ状のエネルギーフィールドの形をしていて、中央から出て上下に出てまた中央に戻って循環している。中心点が自分だとすると、自分が発したり与えたものは、自分に戻ってくる。また、マイナスな感情でいるとエネルギーフィールドは萎縮し、心身ともに不調が起きる。ということは、感情エネルギーを浄化しておくことが大事なのだ。そのためには、自分らしくいること、そしてリラックスした状態であることがとても重要。理論物理学者のアインシュタインは、「愛」こそがこの宇宙を支配する究極のエネルギーだと言っていた。とにもかくにも、愛なのだ。

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アインシュタインは、愛娘リーゼルに残した手紙に、「それぞれの個人は自分のなかに小さな、しかし強力な愛の発電機を持っており、そのエネルギーは解放されるのを待っている」と記した。

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2月下旬からまる5ヶ月、四六時中一緒にいる3姉妹に手を焼き、イライラのエネルギーを放電しがちな私は、ハニカムトーラスにロウソクを灯して宇宙エネルギーと繋がって、愛の発電モードになることが必要だ。
まずはスプーンいっぱい、森のハチミツで口福を味わうとしよう。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。

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