ボローニャ「森の家」暮らし

豊かさは気付きの中に。インスピレーションに満ちた6月

6月入って早々に学校は夏休みへ。

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イタリアの学校はこれから9月中旬までお休み。(幸い幼稚園は6月末から。)

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サマースクールは7月からあるようだけど、どれも(少なくともこの辺りでは)ほぼプライベートで補助はない(そしてきっとマスク着用)。それで、去年の年末に徒歩3分の近所にボローニャから越してきたラウラに企画をお願いした。

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ラウラは森の保育園で働いていて、子どもたちと青空の下でクリエイティブなことをするのは大の得意。ラウラがバカンスに発つ前の2週間、青空サマースキャンプを開催してくれた。パートナーのシモーネはシチリアの実家で作ったレモンやアヴォカドをボローニャのオーガニックファーマーズマーケットで売っていて、度々サマーキャンプに参加してくれている。ヒゲに苔をつけられて森の精にされてニッコニコ。

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ハンモックがあるところが基地。ここをベースに、気心知れた仲間たちと毎日冒険している。

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基地やラウラの畑、丘や水辺や秘密の場所の地図作り。

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暦に合わせて魔法の花とハーブの水作り。

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衣装を切ったり縫ったり。

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枝と毛糸で作ったのは、神の目。メキシコなどの先住民たちが魔除けとして作っている。

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みんなで作った神の目は、あちこちでみんなを守ってくれている。

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丘の向こうの砂のエリアまで山坂往復5キロのハイキングに行った後は、畑のホースでシャワー。一緒に行った犬たちもヘトヘトで帰って来た。

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満月の夜はテントでキャンプ。

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火を囲んで影絵をして、天体望遠鏡で月を見て、蛍が踊る森で寝る。子どもたちには忘れられない体験になったに違いない。森の家に来た当初から、将来ここでサマーキャンプができるね、とママ友たちと話していたのが確実に現実になってきている。

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ある日末っ子たえの絵を描きたいとメッセージをくれたアンジェラ。西安出身の画家のタマゴで、西安の美大を出てからボローニャの美大を出て、今はパートタイムでブティックで働きながら絵を描いている。

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それなら一度遊びにおいで!と誘ったら、小さなトートバッグひとつと子どもたちのお土産をたくさん抱えて2泊3日で遊びに来てくれた。ゆまは中国のスローライフの女王、李子柒の大ファンで、中国人のお友だちができて大喜び。李子柒の国のことはなんでも知りたい、というゆまに、いろいろな言葉を絵と漢字と発音を交えて教えてくれた。アンジェラのお母さんは料理人で、料理も上手。

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持って来てくれた麺で、地元の定番料理というトマト味の焼きそばをささっと作ってくれた。

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いつもニコニコ明るく、好奇心とポジティブエナジーに満ちたアンジェラと、餃子を一緒に作ったりさくらんぼを取ったり、蛍を眺めながら料理のこと、実家のこと、ボローニャの暮らしのこと、将来のことなど、たくさんおしゃべり。

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広~い森の家のたくさんある部屋の整備できたら、住み込みでお手伝いしてくれる子と文化交流できたらいいなと思っていた。これも少し輪郭が見えてきた。

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後日アンジェラが送って来てくれた絵。たえらしい一コマ。

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普段はボローニャに住み、週末と夏休みをうちの村から少し下った村の別荘で過ごすというアレッサンドラの素敵な家にお邪魔した夕暮れ。仕事がら、美術やクラシック音楽に携わることが多いアンジェラは、農学者でもあり、ギリシャ語が堪能でギリシャ神話にも詳しく、ハリーポッターの世界にも通じていて、ゆまは興奮気味に神話の神々のことやホグワーツ魔法魔術学校のことを話し続けていた。そこで次々ワインやらサラミやら持ってやって来たのは、いつものメンバーという、近所のおじさんたち。それがみんなユニーク。ガブリエレは庭師でハタヨガの先生。クラウディオは農家、ハンター、かつ野生の動物保護施設のボランティア。ディミトゥリは大工で10年前から自宅を改装していて、発酵が趣味。みんな知識も懐も深く、面白い!

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ある日の夕方、近くに行ったのでディミトゥリの家の前の広場を通ったら、いつものように玄関先に友だちが集っていておしゃべりしながら建材にワックスを塗っていた。仕事が終わってから自分の家の工事をしているのだ。

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広場の真ん中に車を停めて、誘われるがまま子どもたちは飲み物やジェラートをご馳走になり、家を見せてもらった。

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この家はもともとタバコを買ったりコーヒーを飲んだり、電話をかけたりみんなが集まるところだったそうで、映画にも出たそう。10年前に購入した時の状態は決してよくなく、石造りの外壁を補強して、内側はほとんど取り壊し、鉄筋を組み込み軽い構造にした。小さかった窓も大きくして、モダンな印象に。

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2年前に植えたというブドウの蔓は周りのみんなも驚くほどよく育ち、外壁を覆っている。蔓の支柱は鍛造風の既存の鉄枠。

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家の周りに敷いたさまざまな色の石のモザイクなど、ディテールにセンスを感じずにいられない。

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これはサンブーコ、エルダーフラワーを発酵させているところ。これもバラが入っていたりして素敵。故郷ルーマニアではなんでも発酵させるそうで、これが健康の基本だという。

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常備しているという、自家製赤キャベツのザワークラウト。毎朝このつけ汁を一杯飲んで仕事にいき、帰ったら冷たくしたサンブーコのシロップを飲んで、家作りに励む。すごいパワーだ。

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玄関を入ると目の前には4段式のオーブン。一番上は燻製用、その下は野菜や果物を乾燥するのに適温、その下はグリル、一番下は薪を入れる。一度薪を入れれば3日は暖かいそう。自分で考えたというユニークな構造で、上の階も温められる配管。サウナもつけるそう。お金払うからサウナ使わせて!と言ったら、「わかってるだろうけど、ここじゃみんな無料だよ」と笑う。

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そうこうしていたら、仕事を終えたドナートがやってきた。

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ドナートもトラクターを広場の真ん中において、やぁ何やってるの?とやってきた。ディミトゥリは25リットル容器に入った、故郷トランシルバニアの自慢のグラッパをニコニコ振る舞う。それに、買ったばかりの電気フライヤーでポテトフライを揚げまくる。広場には、よく自転車に乗った子どもたちがきて、ディミトゥリはみんなにジュースやジェラートをあげるのだそう。

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「面白い子がいてね。」とある男の子の話しをしてくれた。上の階で工事をしていたら、「ディミトゥリ、いつもの、もらっていい? 今日は友だちも一緒なんだ。」「ああいいよ、冷蔵庫から持って行きな。」「あとね、トマトソースないかな。」「うーんトマトソースかぁ、わからないけど戸棚の下にあるかも。」「あったよ、もらっていい?」「いいよいいよ。」そんな会話をした少しあと、男の子のお母さんが慌ててトマトソースを持ってきた。何かと思ったら、男の子はお母さんが近所の人に電話でトマトソースがないか聞いていたのを聞き、どこにあるか知ってるよ!と、何も言わずにディミトゥリのところに来たそう。こんなひと昔前にあったようなことを笑いながら話すディミトゥリ。部屋の奥にはウェイトと、柔道黒帯が。

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柔道、空手ほか、いろんな武術で賞を取ってきたそう。近くに土地を買ったら屋根を作って、子どもも大人もいろんなスポーツをする道場を作りたいそう。土曜日の朝、トレーニングをした後、お昼はみんなでバーベキュー。トレンティーノに住むパートナーは体操の先生で、実際のそのような場所があるそう。もともと村にあったトラットリアをまた開けるプロジェクトも考えているそうで、知れば知るほど面白い。日本の映画好きで、中でも北野武監督の大ファン。特に『座頭市』に感激し、好きなシーンは50回も見直したそう。そんな彼をうちに招待した時、うちわに「美は細部に宿る」と筆で書いてあげた。家が完成したら額装すると、とても喜んでくれた。

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ジーナとの出会いも素敵だった。もと市長でなーんでも知っているパオロが、「ジーナはとっても可愛い庭の妖精だよ。」と連れて行ってくれた。村の教会のすぐ近くにあるジーナの家の前を通るたびに、なんて素敵なお庭だろう、どんな人が住んでいるのかな、と思っていた。

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ジーナはこの村で生まれて、この村の人と結婚して、ハネムーンはとなりのとなりの村に一泊しただけで、83年間ずーっとここに住んでいるそう。今はひとり暮らしで、毎日娘夫婦が尋ねてくるそう。

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お隣の庭も借りていて、ひとりで毎日庭仕事をしている。庭先の柵を直しにきていた娘婿は冗談まぎれに「庭はジーナの命だからね。何があっても離れないよ。」という。

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「あなたたちの家のこと、よく知っているのよ。」というジーナ。イラクサとボラジのフリットを持って話を聞きに行く約束をした。

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6月24日は、サン・ジョヴァンニの日。夏至の前後はいろいろな生き物のエネルギーが活発になると考えられていて、さまざまな庶民の信仰が生まれた。この日は太陽(火)と月(水)が結婚する日と言われ、焚き火を焚く儀式をして祝ったり、魔除けをしたり、23日の夜、泉の水に花やハーブを入れて月の光に当てた聖水で翌朝身を清めて自然のエネルギーを取り入れる習慣も。

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伝統では、23日の夜、乙女が夜露に濡れたセイヨウオトギリを摘みに行き、その花を水に浸して薬効を期待したり、花のリースを作り家の入口に飾ることで魔除けをしたりしたそう。セイヨウオトギリは、魔女の植物とも呼ばれ、さまざまな効能があることが知られている。その有効成分は、ウツ病、神経症、心配性などに効くことがよく知られていて、薬局で抽出液や錠剤で売られている。また、止血、火傷、傷のケア、皮膚炎などさまざまな皮膚の症状にも効果がある。サン・ジョヴァンニの日にオトギリソウ油を作るといいと聞き、わたしは夕暮れの後、カゴを下げて近所の土手や丘に生えたセイヨウオトギリを摘みに行った。

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それに、青いクルミ。この日はクルミのリキュール、ノチーノを作る日でもある。ほぼ毎年作っていたノチーノ。今年はクルミの花が咲いた頃零下になる日が続き、花に被害があり残念ながら実はほとんどできなかった。

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なんとか6つ。仕方ない、分量を減らして仕込んだ。2年前は、玄関先の塀の上に置いた6リットルのノチーノの瓶をロバのモモが落とし、大変なことになったっけ。

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青いクルミを4つに切り、レモンの皮、シナモン、クローブを入れ、アルコールを入れる。日当たりのいいところに置き、一日一度瓶を回す。8月3日になったら(40日後)、越して、砂糖を水で溶かしたシロップを加え、瓶詰め。飲み頃はクリスマスごろ。

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セイヨウオトギリは、花と蕾を瓶に入れ、ひたひたより少し多いくらいの植物油を入れる。日当たりのいいところにおいて、毎日軽く降る。1カ月経ったら、布で漉して瓶詰め。

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毎年6月に仕込んでいるもうひとつ大事なものは、エルダーフラワーのシロップ。古くから家や人、動物を守る木として重宝されてきた。マスカットのような甘い香りのこの花は、妖精の花とも呼ばれ、妖精の女王が住んでいるとも信じられてきた。妖精、エルフなど、ベールの向こうの見えない世界にいる、光にあふれた存在たちが愛する木。木自体が魔法を持つとも言われている。童話にも出てくる魔法の笛は、エルダーフラワーの枝で作られていた。この木は、光の世界に繋がると同時に、闇の世界とも繋がっていると考えられてきた。

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芳醇な花の香りは、異世界への導き。この木の下で眠ると、魂は超自然的な存在に連れて行かれ、身体に戻ることができず、永遠の眠りにつく。毎年エルダーフラワーのシロップを作る時は、そんな魅惑的な伝説に思いを馳せる。

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伝統に従って、花を摘む時は一礼をして感謝を捧げてから。子どもたちは草花を摘む時はいつも「ありがとう!」と唱えている。花はスライスしたレモンと一緒に瓶に入れ、水を加えて数日置く。その後越して、砂糖と煮たら瓶詰めして冷蔵庫に。

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水や炭酸水で割って。スパークリングワインともよく合う。エルダーフラワーシロップにもさまざまな効能があり、発汗、利尿作用、関節痛、筋肉痛の暖和、粘液を浄化して呼吸器の気道を綺麗にすることから、風邪の治療、花粉症などのアレルギー緩和などにも使われる。夏の終わりには濃い紫色の実を集めて、シロップにする。風邪予防や免疫強化に効果的。自然と共に生きてきた先人が残した知恵に、敬意を抱かずにはいられない。

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大好きなアインシュタインの言葉を思い出した。

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人生にはふたつの生き方しかない。ひとつはまるで奇跡など存在しないかのように生きること、そしてもうひとつはすべてが奇跡であるかのように生きることだ。

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毎日ワクワクする出会いや発見であふれている。そんな体験は、遠くに求めずとも身近にたくさんあるのだ。頭で考えるのではなく、深呼吸して身体に戻り、心を思考から解き放てば、可能性は無限なことに気付く。すべては気付きから始まる。気付きは拡大し、フリークエンシーを上げる。すると選択の仕方、物事の捉え方も拡大する。

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インスパイア(触発)される(inspired)とは、in spiritということ。何かにインスパイアされるということは、スピリット(精神)と共同歩調をとっているということ。思考で道を隔たせるのをやめて、スピリットに道を選んでもらったら何も心配いらない。子どもたちにはそんなことを感じて日々過ごしてくれたらいいんだ、きっと。わたしは子どもたちにたくさんインスパイアされている。

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去年の今頃、畑で出会ったカエルに大はしゃぎした子どもたちにインスパイアされて作った、カエルの王子さま。

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2歳だったたえは、とっても喜んで遊んでいた。

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今年も畑で見つけた大きなカエル。たえは飽きるまで水をあげたり葉っぱをあげたりしていた。作ったカエルが本物になって帰ってきたのかと思うくらい大きい。先日、畑にアナグマかと思われる動物が侵入して、たくさんの作物が台無しになった。カエルはそれ以来、いつものレタスの下にいなくなったので、作品と紹介できないのは残念だけど、忘れられない思い出に。

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畑はお腹を満たすためというより、魂の糧になっていると思う。去年までの自分にはなかった考え方だ。ボラジの花にたくさんミツバチが来るのを見て、花を食べてみたけど美味しくなくて残念そうなたえ。大丈夫、来月トマトが赤くなったら、畑でおやつの楽しみが増えるのだ。

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夏はこれからが本番。ワクワクがたくさん待っている。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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