ボローニャ「森の家」暮らし

季節に寄り添って生きる。大切なことを確認する11月。

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季節は巡り、森はシックな色合いになってきた。

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朝の日課の犬たちとの散歩。いつもの丘の上や森の小道、畑のあぜ道を歩く。秋色の自然の風景は、どんな天気でもため息が出るくらい素敵。

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虫たちも冬支度。野生のビワのガクの内側にはたいていテントウムシがぎゅぎゅっと集まって、越冬しようとしている。

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熟すのは雪が降るころ。虫がいないのを見つけては(それは至難の技だけど)吸い付くように食べる。散歩の途中のちょっとした楽しみ。

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畑のあぜ道には、よく野生のカラシ菜が生えている。夏には麦やソラマメ畑に黄色い花を沢山咲かせ、やがて沢山の小さなタネを落とす。アブラナ科のこの植物で、一見雑草のようだけれど、土壌の微生物を多様化させたり連絡障害を軽減させたりと、緑肥としても大切な役割を果たしている。

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少し失敬。うちの畑に移植したいと、お裾分けしてもらった。

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こちらは畑と森の間、夏には小さなヒマワリのような黄色い花を咲かせるキクイモ。地上の部分が完全に枯れてから収穫。野生のものは売っているものより小さくて細長い。

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粘土質の土から、引き抜いては周りの土を崩してカゴいっぱいに収穫。泥を洗い落とすと赤紫色の美しい姿が。土をいじった手も泥パックしたみたいにすべっすべに。市販のキクイモと比べて苦味があり、薬膳を思わせる野生の味。食べる分だけ洗って、あとは泥付きで新聞紙に包んで保存。スープにカレーにパスタソースに、何にでも入れている。

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この日は玉ねぎやニンジンとキクイモを炒め、ジャガイモと煮て、ヒヨコ豆とオートミルクとブレンダーで回し、クリームにしていただいた。自分で収穫したものを自由な発想で調理して、みんなで美味しいね、と食べられるのは、滋味深く、本当にありがたい。

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ぬかるんだ畑のあぜ道を歩いた後は、ブーツに泥がべっとりついて重くなる。この泥を引きずって、息を切らせて坂を登りきった達成感と言ったら。

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汗ばむコートも泥んこブーツも脱ぎ捨てたら、大の字になってひと休み。身体から湯気が出て、頭は空っぽに。そして思い浮かんだのは、今までプログラミングされて堅苦しく生きてきたのが、解放され、自由を取り戻したというビジョン。最高に気持ちよかった。

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夏から月2度ほど、近所のガブリエレにハタヨガを教えてもらっていた。ガブリエレは車で20 分の町のスタジオでヨガを教えているけれど、自宅でもできるよ、と言ってくれたので、日曜の朝一に、ヨガとその2倍の時間おしゃべりをしにお邪魔していた。メディテーションのサハジャヨガ は10年前から、それにいろいろなメソッドを取り入れた独自のメディテーションは日々の習慣になっている。朝、息が切れるくらい散歩をしたあとはメディテーションに入る感覚が違うことに気づき、肉体的なアーサナ(ポーズ)と呼吸法に重点を置き、精神バランスを整えメディテーションに入るハタヨガも一度ちゃんと学んでみたいと思い、今月から週に一度レッスンとして通うようになった。

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ガブリエレの家の窓からの風景も素晴らしい。生まれも育ちもこの村で、ずーっとこの景色を見てきたけれど、毎日でも見飽きることはない、と笑う。その気持ち、よく分かる。

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昨日の強風で木々の葉はすっかり落ち、麦の若葉は育ち、2週間でこんなに景色が変わった。

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ヨガのあと、庭のザクロの実を絞ってくれる。

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ザクロは5千年以上も昔から「女性の果実」と呼ばれ、健康と美容への効果のほか、子孫繁栄や豊かさの象徴として世界中で重宝されてきた。縁起がいいので、私の作品にも良く使う大好きなモチーフ。魅惑的な朱色の果汁を、ヨガで整った身体に流し込むのは最高のご褒美だ。

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先日この窓から見えた、たわわな柿を見てうっとりしていると「よかったら持っていって。ひとりじゃ食べきれないから」とガブリエレ。収穫した柿を快く持たせてくれた。今年はいつも分けてもらっていたお隣さんの柿が不作だったので、最高に嬉しかった。

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持って帰った柿を見て大喜びした子どもたち、自分たちも収穫したいというので、後日カゴを持ってお邪魔した。

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果物の収穫は特別な満足感がある。枝にハサミを入れる度に「ありがとう」を忘れずに言う子どもたち。来年も沢山実りますように。

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すっかり日が沈んだ後も、しばらく転げ回って遊んでいた。寒くなってきたから帰ろう、と言いながら、心の中では満足するまでいくらでも転げてればいいよとニコニコして見ていた。

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淡々とした作業は友だちとおしゃべりしながらが楽しい。遊びに来たシェフのフランコにも干し柿作りを手伝ってもらった。

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皮を剥いて紐でつって(枝の部分がないものは縫った)さっと湯がいて暖炉脇に吊るす。

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剥いた皮も湯がいて干した。チップスのようにかじったり、硬くなったら粉砕してポリッジや料理に加えたり。

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時々モミモミ。暖炉の熱のおかげで1週間もすれば出来上がり。

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このまま食べても美味しいけれど、これにナッツを入れたら立派な和菓子のよう。濃い抹茶とよく合う。

ファイバーアーティストのユリア一家が泊まりに来た時も、干し柿作りの続きを手伝ってもらった。

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柿を茹でた水が赤茶色になったので、柿渋染めっていうのがあるんだよ、と話したら、試しに染めてみようということに。染めながら調べてみると、柿渋は日本の柿を青い間に絞って発酵させたもので、英語で言う柿、パーシモンとはまったく別物。パーシモンは硬く重量のある木材として、長い間ゴルフクラブの主流として使われていたそう。染物にも詳しいユリア、京都で絞りを学んだこともあるけれど、柿渋は知らなかったそう。色が薄いかもね、というので、錆び付いた釘も入れて一晩おいた。

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翌朝。柿渋染め(もどき)は大成功。来年は子どもたちにも提案してみよう。

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今月仕込んだもの、もうひとつは、ザワークラウト。

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毎年少しずつガラスの容器に漬けていたけれど、今年は適当な焼き物の鍋を漬物樽に。

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千切りにしたキャベツ1キロに塩10~15グラムを力を込めて10分ほど揉みまくる。重石をして表面に水分が出てくるまでよく揉み、ローリエやキャラウェイシードなど香のものを好みで乗せ、キャベツの葉で蓋をして重石を置く。私は葉っぱの上に平皿を乗せてから重石を置いた。

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常温で5日から1週間くらいすると、ザワークラウトの出来上がり。ザワークラウトはビタミンCが豊富。植物性乳酸菌が作りだした乳酸は、腸内の善玉菌が増えやすい酸性の腸内環境にしてくれる。 発酵食品は免疫を上げることもよく知られているけれど、かさが減るので少量で身体に良いものが沢山採れるのも嬉しい。市販のザワークラウトは熱処理されていてビタミンや乳酸菌も失われてしまうので、自家製が一番だと、ドイツ人のユリア。発酵食品のセミプロのルーマニア出身のディミトゥリは、健康のために自家製ザワークラウトの汁を毎朝グビっと飲んでいるそう。今度味見させてもらおう。

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いい感じになったら、瓶詰めして冷蔵庫へ。毎日少しずつ食べてしまうので、もうひと周り大きい鍋でも仕込んだ。4キロの千切りキャベツを塩もみするのには時間と握力がそこそこ必要だけ ど、野菜をもみこむ時この手の常在菌が美味しい発酵食品を作るのに役立つのね、と思うと、こ のプロセスも楽しい。次はキムチを仕込もうかな。キムチは素手では塩と唐辛子がしみて痛いの で(特に私の手はいつも傷だらけなので)無理だけど、美味しいキムチは韓国のハルモニ(おば あちゃん)の手の常在菌が秘訣なんだと聞いたのが忘れられない。それは糠漬けも同じ。おにぎりだって素手で握ったのが美味しい。(そういえば、無くなった祖母が作った焼きたらこの艶々のおにぎりの美味しさと言ったら! 手もふっくらツヤツヤだった。)

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先日パオロの仕事をたまに手伝ってくれているロマーノに誘われて、ロマーノの義理のお兄さん、トニーおじいちゃんの家に邪魔した。

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次女のみうのクラスメイト、マティルデのおじいちゃん(中央)は迷彩柄のピックアップトラックで孫たちを学校に迎えに行くのでよく見かける。去年トラック10台分のウッドチップを買いに来たのでここは何度も訪れているけれど、家の中にお邪魔したのは初めて。

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この家は古くて寒いし階段も急で不便だからと、20年前から町のアパートに引っ越したので、ここでは主に夏過ごし、あとは動物の世話に毎日来ているそう。古い家ならではの大きな暖炉があり、おじいちゃんの栗林で拾った売れ残りの栗を、女性軍がせっせと炒っていた。

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横に切れ目を入れた栗を暖炉で炒ってはジュートで包んで擦り、皮をむく。

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タイムトリップしたようだった。

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うちの敷地のことや、戦後うちにしばらく住んでいた農家の人たちのことを、私たちよりずっとよく知っているおじいちゃんたちから、貴重な話を聞ける機会は特別だ。ほくほくの甘い栗を頬張りながら、目を丸くして昔話をいつまでも聞いていた。

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この間、近所にガブリエレの車が道端に止まっているのを見かけて、車を寄せて見渡すと、向こうの方で庭仕事をしていたので声をかけに行った。週何日か、ミケーレの森整備と植樹の仕事をしていると聞いていたのだ。

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ミケーレとは初対面。向こうに見える白い家に数年前、ボローニャから越して来たそう。もともと ミケーレのおばあちゃんが住んでいた白い家、そこから眺めていたこの辺りの風景。農地に挟まれた雑木林3区画が売りに出された時、記憶の風景を手に入れたいと思い、3区画とも買い取った。退職してこの家に越して来て、この雑木林を自然に寄り添う形で手入れしたいと、ガブリエレに庭仕事を依頼したそう。元プロのフォトグラファーのミケーレには独自の世界観があり、一般的に厄介なアカシアの木も沢山残し、普通だったら切ってしまう、曲がって生えた木や通るのに邪魔な枝も残したりと、ユニークな庭仕事をしている。

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今年の春から沢山の果物の木や地域に根ざした木々、それに大好きなトスカーナの風景に欠かせないオリーブの木などを植樹してきた。夏には週一度、湧き水をペットボトルで汲んできて、一本一本水やりをしていたそう。彼もうちの敷地のことを知っていた。うちに大量に生えているワイルドプラムのジャムの作り方、摘み草料理の話などに花が咲き、今度遊びにきてね、とハグして別れた。

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11月も下旬になると紅葉した色とりどりの葉は落ちはじめ、冬めいた風景になって来た。去年、強風で倒れたうちの森のクスノキを近所のダニエレに切って割って運んでもらったおかげで、薪は準備オッケー。見通しのつかない昨今、田舎暮らしの素晴らしさを心底感じている。いつ何が起きるかわからない。光熱費やガス、ガソリンの価格も跳ね上がった。インターネットや流通などいつシャットダウンしてもおかしくないと思っている。

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食料が届かなくなっても、畑や自生しているのもので食べられるものがいろいろある。ニワトリは卵を産んでくれる(ここのところ3羽中1羽だけだけど)。薪があれば暖炉で暖を取り、料理もできる。

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聞くと、友だちもいろいろ準備していて、自然療法師のアンナマリアは簡易ソーラーパネルをいくつか買って、ストーブをつけたり洗濯機を回したり、携帯を充電したりできるのを確認したというし、定年した元レストランオーナーのグエリーノは、2カ月分の食料を常備しているそう。メカニックで農家のドナートはガソリンを蓄えていて、ジェネレーターを数台持っている。似たビジョンを持つローカルの友だちと情報交換して、いざとなった時に助け合えるネットワークを築いておくのは、とても大切なことだ。

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しばらく鉛色の空で雨模様の日が続き、この日もまた深い霧の中、学校まで山を登っていった朝。うちより標高が130m高いこの町は、雲の上だった。

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あまりに綺麗だったので、雲の中に入ったり出たりしながら周りをドライブ。ラピュタやナルニアの世界を思い浮かべながら。

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裏山からの景色。うちはこの雲の下に。

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こんな景色を目の前にすると、心が洗われる。霧深く、見通しが悪くて不安になることがあっても、いつもその向こうにはいつでも青空が広がり、地球は廻り、太陽は毎日必ず昇ることを忘れない。

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美しいこと、あぁいいなぁと思うことを探すのが日々の習慣になっている。日常のごたごたや、まったく納得いかないプロパガンダに怒りや、やるせなさを覚え、負のループに入りそうになった時は、腕や身体を揺らして、犬たちを連れてひとまず外に出る。危険から全速力で逃げた動物は、身体を降って強度な緊張感や恐怖をシェイクオフ。文字通り振り落として、何もなかったかのように元の生活に戻る。

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動物が本能的に行う身体をシェイクする行動は、人のメンタルヘルスの向上にも非常に大切な役割があることが科学的にもわかっている。人は、不安や緊張感、辛い経験を身体にためる傾向があり、それはトラウマとなって細胞レベルで刻まれていく。昨今、大人も子どももメンタルヘルスの問題が深刻になって来ている。特にこれから、季節的にも暗く寒い冬に向かい、精神的にもより厳しい時期に入る。うちでは子どもたちと音楽をかけて身体をシェイクしたり、ジャンピングジャックをしたりして遊びながら、冬場も心と身体のバランスを整えてるようにしている。

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物事のすべてにはサイクルがある。冬は休む時期。いつもより頑張らないで、身体が休みたいというならたくさん休み、たくさん寝る。暗くなるのが早いので、夕食の時間は夏より1時間近く早くなった。そして早く就寝。お日さまが見えなくても毎朝「おはようおひさま!」と子どもたちは空を見上げてご挨拶。天気が悪くても、雲の向こうにある太陽を意識して、フルスペクトルの太陽光を浴びるようにしている。太陽光は免疫系を刺激し、心身の健康や成長にもとても大切な役割があり、曇っていてもその効果は健在だ。

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影があるのは光があるから。今、世の中の深い闇がどんどん表面化しているけれど、その影を認識してたくさんの人が光を照らせば、明るい未来が実現できる。そう信じて、自分の周波を、内なる光を上げることを意識して日々過ごしている。

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ti darei gli occhi miei per vedere ciò che non vedi
-私の目をあなたにあげられたら。あなたが見えないものを見られるように。

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60年代から活動するイタリアでもっともレコードを売った歌手のひとり、レナート・ゼロの歌「誰も知らない庭で」の歌詞から。おばあちゃんへのプレゼントとして依頼された作品の一部で、心に響いたフレーズ。自分の目で見て認識している世界は、ちっぽけな世界なんだろうな。純粋な子どもの目、心の眼を使って見えない世界をもっと感じたい。

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昨夜降った初雪で、今朝は車の窓が凍って長女のゆまは遅刻。次女のみうはクラスメイトでウイルス陽性反応が出たので2週間オンライン授業中。三女のたえは数日前に熱を出したので大事をとって今日までお休み。私の仕事もいろんなプランも思うようには進まない。毎日いろいろあるけれど、みんなの元気がいちばん大事。

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夏に青空サマースクールをしてくれた、ラウラたちが刻んだ<自由の地>の倒木ゲート。久々に来たけど、何か大事なポータルな感じがして深呼吸して祈る気持ちで通った。

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<自由の地>は自分の中に。何があっても自由でいることはできる。すべては自分次第。そんな心で世界を見たら、ワクワクせずにはいられない。今、この瞬間わたしはとことん自由で幸せだ。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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