ボローニャ「森の家」暮らし

夏だ海だロマーニャだ。小旅行でインスピレーションに満たされる6月。

6月に入ってすぐ、子どもたちは3カ月半の長すぎる夏休みに突入してしまった。

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幸い幼稚園は6月末まである。でも姉たちが学校に行かないので、末っ子のたえも園にあまり行きたがらず、ま、いっか、と行ったり行かなかったり。

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1週間は近所のサマーキャンプに。仲良しのミラとクロエも泊まりに来て、一緒に朝食べてお弁当を持って出かけて、夕方帰って来たらプールに入ったりおやつを作ったり、歌ったり踊ったり、とっても賑やかだった。

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次女のみうの誕生日には、プールでパーティー。連日猛暑でプールがあって本当に助かる。

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子どもたちがバカンスに入ると、ボローニャの人たちの多くがアドリア海に行く。家族親戚が海の家山の家を持っているのは一般的で、ボローニャの友だちの多くがリミニやラヴェンナ界隈にバカンスに出かけた。おじいちゃんおばあちゃんが健在の家は子どもたちを託して仕事をし、オフの日に会いに行くパターンが一般的。

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エミリア=ロマーニャ州は大きくふたつに別れている。ボローニャの西の町、イモラの手前までがエミリア、その先がロマーニャ。地図上のボローニャ南にある青い星は、うちがある場所。うちからリミニは渋滞がなければ車で1時間半。うちから20分も南下するとトスカーナ州。イタリアでは、数十キロ(時に数キロ)移動するごとに方言や人の気質も違い、パスタの形や呼び方も違ったりして面白い。

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リミニ近くの小さな宝石のような街、サンタルカンジェロ出身のヴェロニカは、リビエラ(地中海に面する海岸)界隈にある何十ものレストランなどのコミ ュニケーションやコンサルティングをしている売れっ子。10年前、ボローニャで勉強しながらレストランで仕事をしていた24歳だった彼女は、SNSで当時2歳の長女ゆまを見て、会いたい!と連絡をくれて、「ゆまみたいな子が欲しいから日本人の男の子紹介して!」と言った豪快な人。子どもたちはびっくり玉手箱みたいなヴェロニカが大好き。

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彼女のクライアントのワイナリーで企画した「海岸線に沿って」というグループ展に招待されて、ガラス張りのカンティーナに海にまつわる作品を展示することになった。

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兄弟、従兄弟の四人組がオーナーのこのワイナリー、セールス担当のマッシモ(写真左から二人目)はヴェロニカのパートナーで、この春初めて会った時にはヴェロニカからいろいろ聞いてるよと暖かく迎えてくれた。

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8年前に作ったマーメイドは、石造りのアトリエに吊るされていたのが、晴れてワイナリーの海をのびのび泳ぐことができて幸せそう。

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暗くなると照明で白く浮き彫りになり、鱗や唇のクリスタルが際立ちますますいい雰囲気に。

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大きなクジラは空調で揺らぎ、まるで生きているよう。

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ここで夏中ワイナリーを訪れる世界中からのお客さまを迎えるのだ。

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他にもムラーノガラス作家、マルティーノのクラゲやシェフ、マリアーノの魚拓、アーティスト、ジュリアのイラストや海藻で作った紙など、7人の作品が展示されている。機会があれば是非訪れてみて欲しい。

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このワイナリーは、マッシモのおじいちゃんのものだった。ワインは界隈のホテルやレストランのラベルで卸していたものを、 マッシモと農学者でワイン 学者の兄ダビデ、それに従兄弟たちと組んで自らのブランドを立ち上げた。ナパヴァレーにあるようなイメージのカンティーナができたのは、2019年。

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ブドウは有機農法でも使われれるボルドー液を殺菌、害虫予防などに使うのみ。オーガニック印をつけたワインもあったけれど、周りの畑で散布された薬品が飛んでこないこともないし、完全なオーガニックはありえないのと、そもそものオーガニック証明システムに疑問を持ち、印は捨てて養蜂を導入。

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ハチを見れば周辺の自然環境が分かると言われる。環境の変化や薬品に敏感なミツバチをワイナリーに迎えることで、自然環境を把握する指針にしている。

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蜂蜜、スパイシーなオリーブオイル、香り高い酢などオリジナルの品々のほか、こだわりはたくさんある。

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力を入れているレボラは、リミニの丘土着のブドウの品種。この品種のワインにはオリジナルのRIMINI印のワインボトルを作り、界隈のワイナリーと協力してレボラのマーケットを広げている。

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細いステムのエレガントなワイングラスは、オーストリアのX-weinglas。ひとつずつ手作りで、ひとつ100g。驚くくらい軽く、そしてしなやか。グラスを支えるプレートを抑えてリムを押すと、ステムがしなるのだ。まさに職人技! オッタヴィアーニのグラスはすべてこれ。こんなワイナリー、なかなかない。

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ワイナリーは川沿いにあり、海岸線まで続く自転車専用レーンがある。ワイナリーを訪れるサイクリストも多く、ポンプ、調整道具ほか電動自転車充電機も完備。

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シャワーやサイクリスト用宿泊施設も、ワイナリー内に準備中。その他ワクワクする企画がたくさん控えている。

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スローガン通り、気さくでホスピタリティ抜群のオッタヴィアーニのワインは、日本でも取り扱いがあるそう。

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ワイナリーを影で支えているマッシモ兄弟の肝っ玉母さん、ロレダーナ。毎日朝10時から夜23時くらいまでオープンしているワイナリー、ロレダーナは開店から閉店まで、ほとんどの時間をここで過ごしている。忙しい時間にはキッチンで指揮をとり、高速道路の出口までお客さんを迎えに行ったり。一服する時は、大きなグラスにたっぷりワインを注いで。ここで手にしているワインはオッタヴィアーニでは扱われないロレダーナのオリジナル。樽に残ったワインをミックスしたハウスワインで、隣の州マルケにいる昔からの常連さんたちに届けている。顔なじみに会いに行っておしゃべりしたり、いつものレストランに食べに行ったりする外回りはとても楽しそう。

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週末は友だち家族が集まり長いテーブルを囲んでランチ。二十人前のパスタだってささっとあおってしまう。ロレダーナの料理はその辺のレストランで食べるより、格段に美味しい。

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ワイナリーは通常営業中。その一角で、身内のテーブルにはメニューにはない料理や、マッシモがどこぞから仕入れてきた美味しいものが並んだり、友だちシェフが腕をふるったり。(シェフじゃないけど私も餃子を振る舞った)これぞ特等席。

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ロレダーナの炭火焼のレベルの高さにはびっくりした。イカはバターのようにとろけるのだ。(あぁ今すぐまた食べたい!)

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私のウプパ(ヤツガシラ)もワイナリーに迎えられ、すっかりファミリーの一員になった気分。

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この日は電動自転車でワイナリーから27キロサイクリング。川沿いの砂利道を10キロ下ると海に。

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海岸線の道は自転車レーンも完備されていて、電動自転車でなくても快適ライド。

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途中の町リッチョーネでは、ヴェロニカの友だちのタパスバーで休憩。アルジェンティーナ出身のオーナー家族はこの近辺でこんなキッチュなテイストのお店を何軒もオープンしている。

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目的地リミニに到着。マッシモが友達とブランチしていたグランドホテルに合流。リミニ出身のフェデリコ・ フェリーニ監督が愛した五つ星のグランドホテルは、アカデミー賞を受賞した映画アマルコルド(ロマーニャの方言で「私は覚えている」の意味)の舞台にもなった。

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建築家のスティーブンと飲食店オーナーのピエトロはアトランタに住んでいて、イタリアンレストランを何軒も経営。ロマーニャを愛してやまないふたり、マッシモとロマーニャのツーリズモを、ますます盛り上げる壮大な企画を計画中。

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ホテルのすぐ外では、ヴェロニカがイタリアで一番斬新でイケてるフード系イベントだという、アル・メニが。発案者はモデナの三つ星、かつ世界ベストレストラン第1位にもなった、オステリア・フランチェスカーナのシェフ、マッシモ・ボットゥーラ。星付きシェフや今波に乗っているシェフたちが、二日間サーカスのテントの特設ステージで、エミリア=ロマーナ州自慢の食材を使ってショークッキング、試食、トークショーなどを行う。

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シェフ・マッシモは、2015年から飲食業界の食材廃棄の問題に取り組んでいて、去年から「Why Waste?」をスローガンに世界中の若いシェフたちと、レストランで廃棄されるような食材を使ったレシピのビデオを発信している。シェフは稀な遺伝子疾患を持った長男チャーリーの父親で、2018年には自閉症などの青少年にトルテッリーニなど、地元の生パスタを教えて社会への扉を開けるプロジェクト、トルテッランテを立ち上げた。

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フードスタンドには、サステイナブルな漁を推奨する魚屋、話題の発酵させた黒いニンニクブランド、星付きシェフの食品ほか、うちの地元のパン屋さん、 カルツォラーリも出店。店番をしていたシルビアに聞くと、この州を盛り上げるマッシモのイベントには出店せずにはいられないもの、第一回から参加してるのと言っていた。

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スターシェフたちのストリートフードも楽しめて、若いデザイナーなどの服や、セラミックやグラフィックのスタンドにワクワクしたり。来年も是非訪れたいイベントだ。

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ロマーニャの楽しいことを知り尽くしているヴェロニカ。ワイナリーとオリーブ園の中で行われるピクニックにも連れて行ってくれた。

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初めてこんなピクニックを見たのは、7年前のヴェロニカのブログで。当時は丘の上のワイナリーで行われていて、トラクターに引っ張られる台車に乗ってピクニックのカゴを抱えて行くのが楽しそう!と思っていた。

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イタリアでこのスタイルのピクニックを提供するのはスカンポレッラが初めてだそう。

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この日はリミニでトップのピアディーナ屋さん、レッラが焼きたてを振舞っていた。ピアディーナを焼いてくれたオーナーの娘、マリーナは、うちの子どもたちが鶏をTシャツの中に抱いて寝かせているのも知っていて、「秋になったら遊びに行くから鶏の寝かせ方教えてね!」と言っていた。

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居心地いいこんなコーナーでくつろぐたえ。うちでもやってみたいことだらけ。

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夏至のすぐ後、6月24日はサン・ジョヴァンニ。チェゼナの旧市街ではサン・ジョヴァンニを祝う夜市が立っていた。6月23日から24日にかけての夜は、古くから奇跡の夜だと言われ、さまざまな伝統が残っている。この夜、神の露が降りると信じられ、人々は野原に布を敷き、明け方、朝露に濡れた布を絞って神聖な水を集めたり、小さなボールに水を張って芝の上に置き、 翌朝その水で目や顔、身体を洗い、健康を祈り厄払いをしたものだった。自然が最も繁栄するこの時期に、この後にくる暗い季節に向けて気を整えるのだろう。

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森に住んでからサン・ジョヴァンニの前夜にはさまざまな野の花やハーブを集めて魔法の水を作っていた。今回は泊めてもらっていたヴェロニカのお母さんの庭にあった花やハーブで。

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庭にはなかったけれど、欠かせないのはイペリコ(セイヨウオトギリ草)。聖ヨハネの草とも呼ばれ、悪魔や魔女を遠ざけ、火傷や傷を直したり、喘息や鬱病の治療にも使われてきたとか。

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この夜は魔女や精霊が現れると言われていて、夜市では気さくな魔女たちがお守りにと、赤い紐を手首にくくってくれた。

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翌日、滞在していたヴェロニカの実家から徒歩数分にある「サンタルカンジェロの海」と名付けられたプールを訪れた。

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閉鎖した民間プールが、2年前からヴェロニカの友達が経営に入り、大人気のプールになった。

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町の若者のファンタジーや、ロマーニャの老人の記憶が交わりあった町中の夏の夢の海の村、がコンセプト。「夢をみる」「恋に落ちろ」なんて言葉が大きく描かれている。朝から夜遅くまでオープンしていて、家族連れ、おじいちゃんと孫、ティーンエイジャー、仕事を終えた友だちなど、町中の人たちが訪れる。

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ロマーニャの人たちは起業家が多く、働き者でホスピタリティも抜群だ。ヴェロニカも弟のジャンマリアも20代で起業した。ヴェロニカたちと兄弟同然のフェデリコは、プール経営のほか、9年前から町の肉屋だったおじいちゃんのあだ名を屋号にした、テイクアウトとデリバリーのこだわりバーガーショップを始め、事業を拡大している。若いスタッフもみんないい顔をしていて本当に気持ちがいい。みんな地元を愛し、ロマーニャを誇りに思っている 。

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大人気ブログからベストセラーのヘルシーレシピ本を出版し、さまざまなメディアで活躍するフェデリカ。夫は世界5本の指に入るグラフィティアーティストで、ここロマーニャにも沢山息を飲む作品が。

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兄弟で鍛造をしていたけれど、夏は暑いし危険だしと、父親の船を改造してアサリ漁業を始めたロレンツォ。砂を吐かせてパッケージに入れて冷凍し、レンジで温めるだけであっと言う間に潮の香りの新鮮なアサリの一品が出来上がる。ヴェロニカのアドバイスでさまざまなレストランに卸しはじめて、勢いついている。

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19歳で自分のバールをオープンし、いまでは15店飲食店を経営しているミルコ(写真は15年前にリミニにオープンしたお店)。妻のミケーラはミルコのお店を手伝いながら5頭の愛馬(それに犬も猫も何匹も!)の世話をし、週数回は障害を持った子と馬と過ごして「エネルギーもらってるの!」と最高の笑顔でいう。

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ロマーニャに行くたびにたくさんの出会いや発見があり、たくさんインスピレーションをもらっている。これもヴェロニカが扉を開けてくれたから。

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去年の秋に亡くなったヴェロニカのお父さん、ジャンニのポートレイトを今作っている。もう何年も調子が悪く、長らく別居生活をしていたけれど最後はヴェロニカの実家で暮らしていた。糖尿病に心臓疾患などから車椅子生活で、それでもフェデリコのプールに行ってはスタップみんなが手伝ってくれてプールに入ったりデッキチェアでくつろいだり、美食家だったので時に食べてはいけないものをこっそり楽しんだり、好きなことを最後までして過ごした。ヴェロニカは車椅子のお父さんを連れて外国にも旅行に行った。お父さんはまったく悔いのない人生を送ったから、亡くなっても全然悲しくなかった。だって今もここにいるもの、と言う。お父さんの部屋に泊めてもらいながら作品を作っている間、何度もぽろぽろ涙が流れた。静かな愛と感動の涙だった。

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夫のパオロは去年9月、ジャンニの具合が悪そうだから会いに行こう、と車を飛ばしてお邪魔した。ジャンニはヴェロニカのお母さんレッラが作ったイチヂクのカラメッラートをふたつペロリと食べたあと、もうひとついい?と、こそこそ聞いていたのが可愛らしかった。ジャンニのポートレイトはデッキチェアにいつものように横たわっている構図。表情がまだ納得できず、いまだ届けられていないけれど、横たわっているシルエットはそのままジャンニだと言われた。

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ロマーニャの人に、自然にすっかり魅了され、緑の森に帰ってきた。目に優しいこの景色にはほっとする。会いたい人のところにも行きたいところにも思い立ったらすぐ行きたい。ロマーニャはそれが気楽にできる距離。また来月、ワクワクを充電しに行こう。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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