ボローニャ「森の家」暮らし

新入りに、季節の催しに。豊かな秋に感謝する10月。

木の葉が色付きだしたころ、森に新しい家族がたくさんやって来た。

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チベットヤギの姉妹。ワイナリーをしていていろんな動物と暮らしている友だち、ダニエラが連れて来た。こげ茶の方は冬までうちにいたチベットヤギのクルミにそっくり。先代と同じ家から来たのできっと親戚。それでこの子もクルミと命名。茶色の子はクリ。

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ロバたちと外で暮らしていた先代のクルミは、残念ながら雪が積もったある夜、オオカミのディナーになってしまった。この二匹は夜には納屋に入れるようにしている。それで始めは連れ帰りやすいようにハーネスをつけたけれど、あっという間に大きくなって外した。今では陽が落ちてニワトリたちがニワトリ小屋に戻って来た少し後に、自分たちで納屋の近くまで戻ってくるので入れやすくなった。

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日中はよく敷地の一番高いところにいる。血だろうか、こういうところが落ち着くのだろう。

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ダニエラはチベットヤギだけでなくネコの兄妹も連れて来た。冬にはネズミたちが越してくるので、田舎の家にはネコは欠かせない。二匹のどちらでもどうぞ、と言われたけれど、仲良し兄妹を別れさせることなんて到底できない。それで二匹ともうちの子に。胸と前足が白いのが姉のミミ。気が強くて犬たちにシャーっと毛を立てて威嚇する。抱っこはあまり好きじゃない。おっとりの弟トトはすぐ喉を鳴らし、ネコを敵視していた犬たちにすり寄っていくマイペース。

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犬たちは呼んだらすぐ来るし、散歩に出るといつもついて来たがる。ネコたちは自由気まま。遊んで〜と寄って来たかと思ったら、もう飽きて去っていく。全然違って面白い。

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今月の新入り、最後はニワトリ。

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近所のトラットリアのオーナに、オタクのニワトリがここまで来てるよ、と言われ、見に行ってみたらうちの子ではなかった。でもとてもフレンドリーで、勧められるがまま連れて帰って来た。子どもたちにローズと命名されたたこのニワトリ、他と違うのは、人をまったく怖がらず、抱かれるのも大好き。暗くなるとニワトリ小屋ではなく、うちに入って来る。誰かの家の中で育ったのではないかと思うほど。

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かくして新メンバー五匹を迎えて、森の家はますます賑やかに。

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10月は末っ子たえの誕生月。幼児っぽさが抜けて来て、嬉しいやら寂しいやら。誕生日の朝、即席で作ったケーキは、ここのところ定番の蕎麦の実と豆の薄焼きパンのアレンジ版。

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基本は、蕎麦の実、乾燥豆(ひき割り赤レンズ豆かグリンピース)、チアシードを浸水して数時間。ミキサーにかけて一晩寝かし、自然発酵してきたものに塩やデーツで味付けして、フライパンで薄く焼く。

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そこに塗るのは、黒豆やひよこ豆がベースのスプレッド。ピーナツバター、タヒニ(ゴマクリーム)、デーツ、ハチミツ、カカオなどをミキサーにかけて作るこのスプレッドと薄焼きパン、どちらもプロテインや繊維が豊富で、ただパンにハチミツを塗っただけの朝食よりずっと栄養価が高い。

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薄く焼いてクレープのように巻いて食べたり、ベーキングパウダーを少し入れてふわっと仕上げてパンケーキにしたり。

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たえの誕生日の朝食にはパンケーキにして、カカオの風味を強めに仕上げた豆のスプレッド、バナナ、ココナッツクリームをホイップしたクリームに、姉たちがブルーベリーでデコレーション。夏前までオートミールがベースのポリッジが朝食だったけど、この朝食は学校に持っていくスナックにも使えるので、みんなが飽きるまで作り続けると思う。

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最近再び料理熱が上がっている長女のゆま。インターネットの料理番組を観て(観るのは英語でイタリア語字幕にしていることが多い)、パンやお菓子を連日のように作っている。

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これはNetflixで配信されているイギリスの料理番組『ナディヤのお助けクッキング』で紹介された、バナナ・タルト・タタン。カラメルを作ったフライパンに生地を入れてフライパンごとオーブンで調理。一回目はちゃんと剥がれなかったけど、2回目は大成功。天然酵母が見当たらず、ベーキングパウダーを天然酵母の量と同じだけ入れて焼いたピタパンは、ベーキングパウダーの味しかしなかったり、いろいろ失敗もしているけど、バターの代わりにココナッツオイルやオリーブオイルを代用したり、(まったく代用できないものもあるけれど)いろいろ工夫して作ってみている。ひとりでお釜でご飯も炊けるし、卵焼きも作る。片付けもちゃんとしてほしいけど、料理の基本がわかって自炊できるようになってくれれば何より。

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次女のみうは、よくスムージーを作っている。冷凍バナナ、オートミルクにヘーゼルナッツ。摘んで来たイチゴやラズベリー、リンゴにヨーグルト。自分で作ってみるのはいいけれど、これまたやりっぱなしなので片付けは大きな課題だ。

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上のふたりは本の虫でいつも何冊も一緒に読んでいる。みうはある日学校に迎えに行くと、漫画を描いたよと見せてくれた。なかなか上手だなぁと感心していたら、ゆまがこれには元ネタがあると言っていた。寝ている間にどこか遠くの国や別の次元にワープしていろんな冒険をするという話。学校の友だちも出て来て面白い。この間漫画のワークショップをしてくれたプロの漫画家ルーチョに見せたら感心していた。

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ルーチョの妻でカゾンチェッロの庭園の”妖精”ガブリエッラの畑を訪ねに行ったときのこと。門にはルーチョが描いた絵に、「私は庭にいます」の伝言が。

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久々に訪れた庭園は、すっかり秋めいていた。庭園の一番奥にある畑には、お母さんが編んだという素敵なライラックのカーディガンを羽織ったガブリエッラ。

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カーディガンと同じ色の花を髪に挿して、いつものように庭仕事。今月は雨がほとんど降らず毎日暖かかったので、春に生えるはずの作物や雑草が生えている。雑草はともかくタネを落とした作物が今から育ってしまっては、冬の寒さで死んでしまい、本来育つはずの春に生えてこないのではないかと心配していた。実は私も同じ疑問を持っていた。植物学の教授の友だちに聞いたら、タネはたくさん落ちているはずだから、冬になって死んでしまっても、春になってから発芽するタネもあるはずだから心配ない、と言われたそう。

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人も動物も植物も順応力がある。気候や環境が変わっても、対応できる能力を備えている。変化を受け入れられず、耐えれば耐えるだけ苦しみは増す。変化は進化のチャンスだ。

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ある日、立ち話で友だちから野菜は季節になるとデリバリーしてもらっていると聞き、私もお願いしたい!と言うと、そろそろキャベツができるそうだから連絡してもらうね、と。それでいよいよその日がやって来た。デリバリーしてくれたパオロとは初対面。畑はどこにあるのか聞くと、カゾンチェッロの庭園の隣で、義理のお父さん、フランコが栽培しているのを手伝っているそう。

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車で5分のこの畑、前を何百回通ったことだろう。元市長の友だちパオロは、フランコから毎年トマトの苗をもらって、私にも分けてくる。冬にフランコがポリトンネルに牛の糞でホットベッド(糞が分解するとき発生する温度を使って苗床を温める方法)を作ったら見にいきたいので誘ってね、と頼んでいたけれどそれっきりだった。見に行きたければ午後は誰もいないからいつでも行っていいよと言われ、ひとりで誰もいない畑にお邪魔した。

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畑は下り斜面になっていて、道からは葡萄畑とポリトンネルの屋根しか見えない。中にはフェンネル、セロリ、ナス、トマト、ペペロンチーノ、レタスほかたくさんの野菜がぎっしり植わっていた。肥料は牛の糞のみ。この近辺の牛舎はどこもオーガニックの飼料を使っていて、そこから出た糞尿は畑に使われ、オーガニックの麦、牛の餌になるアルファルファ、土を肥沃にするソラ豆などがローテーションで育てられる。小麦粉、大麦、ファロ麦、ひよこ豆などはいつも近所で育てられたものを買っている。当たり前のようで、とても贅沢。

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うちに届いたキャベツはここから来たのね。キャベツのほかブロッコリー、カリフラワー、ロマネスコが植わっている。冬の間毎日食べるこれらの野菜、この2列分全部予約したいくらい。採りたては格別に美味しい。特にブロッコリーは鮮度が命。

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採りたてが食べたくて、うちにもたくさんブロッコリーや芽キャベツ、ケールなどを植えたけど、8月から9月にかけて植えたので出遅れている。

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フランコの畑を訪れる前日、車でうちの脇を通りがかった元市長のパオロが、畑仕事をしている私を見かけて寄ってくれた。幅広い知識と経験を持つパオロ、久々に訪れたうちの畑に関心しながら、いろいろアドバイスをくれた。

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冬にたくさん株分けしてくれたアーティチョーク。穴熊の被害にあったりして、3株しか残らなかった。でもそのうちのひとつにはふたつ小さな株ができていた。もう少し大きくなったら株分けできると言うので、楽しみ。

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パオロはカゴいっぱいにマルメロを分けてくれた。去年うちにも植えたけれどふたつしかできなかった。これだけあればジャムができる。時間がなくてまだ作っていないけれど、部屋中甘い香りが漂って幸せ。

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10月最後の日曜日には、地元の栗林で毎年恒例秋祭りがある。

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このあたりは栗林がたくさんあり、栗街道なるものもあるくらい。10月にはあちこちの集落で栗祭りがあり、ここでのお祭りが栗祭りを締めくくる。

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炭火で焼き栗。今年は暖かくてまだ一度も暖炉に火を入れておらず、いまだに美味しい焼き栗を食べていなかった。

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たくさん栗を拾ったりもらったりしたので、一度コンロで炒ってみたけれど全然美味しくなかった。焼き栗は炭火に限る。

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焼き栗の試食を配っていたチャーノに、これだけたくさん栗に切り目を入れるの大変でしょ、と言うと、一度に5キロ炒るので切り目は入れないよ、10個くらい爆発するけど近くにいなければ大丈夫、と笑う。うちでは危なくて絶対できない。

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フードの出店、お目当は栗の粉で作った揚げ菓子、フリッテッレ。

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ほくほくの焼き栗にアツアツの栗の揚げドーナッツを頬張り、この日から冬時間になり、午後4時半にもなっていないのにもう落ちそうな夕陽を拝み、いい秋だなぁと思う。

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名前を呼ばれて振り向くと、地元のイベントに欠かせないパオロが、今日は200枚ピッツァを焼いたと言う。もらったマルメロでジャムを作ったら、預かったカゴと一緒に持って行く約束をした。

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毎年このお祭りが終わると季節が変わる感じがする。ずっと秋晴れが続いた10月、来週末からは気温が下がり、ぐずついた天気予報。フォークソングに若者からお年寄りまで輪になって踊るのは、豊かな大地に感謝を捧げているよう。

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秋の恵みに感謝して作った作品。カボチャにキャベツ、リンゴ、クルミ、ザクロ、ケールにラディッシュ。栗やポルチーニ、どれもうちの森で採れるもの。

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旬のものをいただき、季節とともに生きる。こんな豊かな生活ができることに、日々感謝。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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