ボローニャ「森の家」暮らし

移り変わる季節。日常を丁寧に生きる11月。

10月最後の週末に冬時間になり時計が1時間戻され、日の入りが急に早くなった。

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気温も下がり、霧や雨の日が増え、いよいよ秋も終盤に。

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畑は雨で潤い、生き生きしている。朝うっすら霜が降りる日もあり、サラダ系の葉野菜は寒さに弱いので、グリーンハウスに移動することに。

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ニンジンは移植を嫌うと聞いたけど、試しに鉢からグリーンハウスに新しく作った野菜のベッドに移動。

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次いで、ルッコラやサラダ、ビーツやマリーゴールドも。まだまだ畑に残った寒さに弱い野菜には、本格的に寒くなったら不織布をかけて、できるだけ長い季節野菜を収穫できるように対策。

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グリーンハウスの片隅に置いておいたヒラタケ栽培キット。暖かい日が続いたときは1週間でこんなに育った。

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豆乳にリンゴ酢を入れて作ったバターミルクにくぐらせ、アロールート(もしくは片栗粉)とさまざまなスパイスを混ぜたものをまぶし、カリッと揚げた。

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するとカリッカリに。食感はまるで鳥の唐揚げ。子どもたちはもっと作って!と大喜び。

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日照時間が短くなり、熟れなくなったトマト。4キロほど収穫して、しばらくおいて色づいたものはサラダに。その他はチャツネにすることに。

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チャツネは、スパイス、さまざまな野菜や果物などの材料の甘味や酸味などが交わった、いわばカレーの隠し味。今回は青いトマトをベースに、リンゴ、玉ねぎ、ニンニク、生姜、レーズン他さまざまなスパイスに、さとう、リンゴ酢を加えて作った。

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2キロの緑のトマトのほか、もう2キロ強の材料を加えてグツグツ煮ること3、4時間。

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私のキッチンアシスタント、たえのオッケーが出たら出来上がり。

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作ったばかりは酸味が強すぎかなと思ったけれど、翌日になったらバランスよくなった。

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レンズ豆と野菜のカレーにも味に奥行きが出て美味しい。カレーを作るとき直接鍋に入れることもあるけれど、子どもたちはそれぞれ好みがあるので、各々がお皿の上で加えられるようにサーブ。チャツネはカレーのほか乾物のひよこ豆を水で戻して撹拌し、スパイスと合わせて揚げたファラフェルやチーズにもよく合うし、オリエンタルなサラダや生春巻きのソースにも使えて便利だ。

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こんなに葉っぱが枯れて嬉しい作物はというと、秋の楽しみ、キクイモ。手のかからないキクイモは、畑の端っこに植えたらロバが柵越しに上を食べてしまい、小さなひまわりのような可愛い花を見られなかった。

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それでも、掘り起こしてみると地下にはたくさん出来ていた。古いウッドチップの中に植えたので、収穫も簡単だし泥もあまり付いていない。

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手で崩した豆腐に擦りおろしたキクイモ、餅粉、ニンニク、生姜に醤油を合わせて鍋の具に。

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味の記憶を頼りに作る創作料理、これは個人的に満足度の高い出来。

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白菜やスイスチャード、ラディッシュ、乾燥させたキノコなど畑の野菜をなんでも入れて煮込んだ鍋に、豆腐とキクイモ団子。鹿児島のお土産にもらった大好きな柚子胡椒が最高に合う。チャツネでも柚子胡椒でも、隠し味的なものがたくさんあると、料理の幅が広がって楽しい。

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そしてちょっとしたプレゼントにもなる。

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カゾンチェッロの庭園のガブリエッラは、緑のトマトと生姜でジャムを作る。今年も作ったらあげるわね、と言っていた。いつも庭園でとれた果物で作ったジャムをおすそ分けしてくれるガブリエッラに、チャツネを届けた。ガブリエッラはいつも広い庭園や納屋で仕事をしていて、固定電話しかないのでなかなかつかまらない。それでいつもドアの前に置き土産。あとから電話がかかってきて、緑のトマトのチャツネは初めてよ、と喜んでくれた。

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私のハタヨガの先生でもあるガブリエレは、庭師でもある。カゾンチェッロの庭園のすぐ近くには、ガブリエレが担当している畑があり、偵察にお邪魔した。ここも自然農法だけど、耕さない私の方法とは違い、毎年耕し、作物のローテーションもしている。それぞれの農法の良いところ、問題の改善方法などを経験者と照らし合わせるのはとてもおもしろい。

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そしてガブリエレはいつも太っ腹に庭の果物を分けてくれる。今年は柿が豊作で、枝が折れてしまうほどだったそう。あまり食べないからどうぞと大量にもらってきた。干し柿にして持っていくことに。

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ガブリエレはちゃんと枝を残して収穫してくれたので、紐で結んで吊るすのに完璧。

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遊びにきた友だちは、干し柿つくりを喜んで手伝ってくれた。

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去年までは皮を剥いたら伝統の作り方のようにお湯にくぐらせていたけれど、これがまた手間なので今年は省略。出来上がりは全く問題なかった。

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暖炉の周りに吊るすので1週間もすれば食べられる。

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皮も乾燥させて、果物のチップスのように食べたりお茶にしたり攪拌してミューズリーやお菓子に入れたりして利用。

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1週間乾燥させた柿をガブリエレにお届け。たくさんありすぎて全部一度には乾燥させられないので、次が出来次第持ってくるねと約束。こんな気持ちのこもった昔ながらの物々交換は、コミュニティの絆を深めるのに大切だと思う。

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先月から時々野菜を届けてもらっている近所で畑をしているパオロの畑は、ガブリエレが世話をしている畑のお隣。彼の畑のキャベツ6キロでサワークラウトを作った。

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キャベツの重量の2%の塩をよく揉み込み、瓶に漬け込み、キャベツの葉で蓋をし、重石を載せる。

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よく塩を揉み込んだキャベツからは水が上がってくる。この漬けた水にも乳酸菌がたくさん育ち、健康のために毎日飲む人もいる。

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1週間ほどするといい感じに発酵して酸味が出てくる。好みの味になったら、冷蔵庫で保存。これを特に冬の間は前菜のような感じで毎日少しずつ食べている。うちの畑の白菜が収穫できたら久々にキムチを作りたい。

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寒くて暗い季節は、こんな風にキッチンで過ごす時間が多くなる。それに暖炉の前で一服したりお茶を飲んだり本を読んだりするのは至福の時間。暖炉の前のレンガの床はすり減っている。築200年近くのこの家、昔の人もこんな季節を暖炉を囲って料理したり縫い物、編み物をしたりして過ごしてきたのだろう。

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11月最後の週末、友だちに誘われアドリア海方面の田舎にあるファームハウスにお邪魔した。

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海岸の町リミニに住んでいたオーナーのミケーレとジュリアは、大きな夢を抱いて今年3月に内陸にあるこのファームハウスに越してきた。

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ジュリアはリミニで会社員をしていた。祖父母は農家で、以前は牛を飼育し畑をやっていて、そこで過ごした記憶が自然のリズムで生きることへの誘いになったという。

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たくさんプロジェクトはあるけれど、まずはフラワーファームを作りたいそう。

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母屋の近くにある暖かな陽がさすアトリエには、植物のオーナメントや今年育てた花を乾燥させたお茶、自家製の果物のジュースなどの販売コーナーも。

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どこを見てもジュリアのセンスの良さが伺われる。

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ミケーレはお父さんと石打場の仕事をしていて、石畳や石の外壁など作ることを生業としている。ミケーレも祖父母は農家で、農業を見て育った。けれどこの仕事をする前までは、冒険船乗りで、全長6メートルのひとり乗り小型ヨットで大西洋を横断する伝統のレース、ミニトランザットで2度も大西洋を横断、イタリア人で初めての2位という記録をあげた。冒険の話を聞くのは鳥肌ものだった。

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ジュリアとミケーレはヨットレースが盛んなフランスに移住することも考えたけれど、いろいろあってルーツがある大地に戻ってきたそう。愛娘とここで3人暮らし。可能性は無限大。これからの冒険にワクワクしている。

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この日は元納屋でクリスマスマーケットが行われ、たくさんの人が訪れていた。

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焼き栗やスパイスの効いたホットワインが振る舞われ、子どもたちは動物たちに藁をあげたり駆け回って笑だらけ泥まみれになって遊んでいた。みんなジュリアとミケーレの新しい旅立ちをお祝いしているようだった。

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先日3姉妹の長女、ゆまが12歳になった。私も母になって12年。何か一巡りした感がある。ゆまの誕生日のリクエストは、私とボローニャで1日過ごすこと。思春期に入りかけている女子の可愛いリクエスト。嬉しかった。

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2020年2月まで住んでいたボローニャ旧市街。よく美術館や図書館に行っていた。すでに行ったことがある美術館でも、成長していろいろ知識を得てから訪れるとまた発見があっていい。

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音楽美術館では、ボローニャにもゆかりがあるモーツァルトや、ロッシーニやヴィヴァルディのオリジナルの楽譜を見て興奮。1755年に作られた現役のボローニャ市立劇場の模型も、どのあたりの席に座ったんだっけと見入っていた。

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お昼のリクエストは、小さい頃通っていたインド料理のレストラン。毎週水曜日の午前中にメディテーションのサハジャヨガを習いに行っていて、保育園にいかなかったゆまも一緒に連れて行っていた。食べ慣れたサモサやパコラ。スパイスの香りが懐かしい、幸せ! と大満足。

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いつも通っていたお茶屋さんで好きなお茶を選び(選んだのは「上機嫌」と名のついた、ハイビスカス、オレンジ、ローズヒップなどが入ったフルーティーなお茶)、楽譜屋さんで初心者向けのモーツァルトの楽譜を選び、昔からの友だちとも会いたくさん笑い、一日中歩き疲れて帰りの車では新しい本を開く間も無く眠りについていた。

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こんな母と娘の時間はこれが初めて。子どもたちはそれぞれ個性がまったく違う。ひとりずつじっくり過ごす時間を大切にしたいと思った。特にデリケートな時期に入る長女とは、機会を作って美術館もコンサートもデイトリップにも出かけたいなと思う。

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この1カ月を振り返ると、割と平穏で静かに過ごしたように思えるけれど、実はいろんな変化があった。それでも、何か嵐の前の静けさのような感じがする。世界的にもいろいろあるけれど、引き潮の時のような静けさが感じられる。今は自己をチューンアップして、この次にくる波に備えている感じがしてならない。何があっても波に呑まれるのではなく、波に乗る姿勢でいたい。全ての事は気づき、成長、飛躍に繋がる架け橋だという信念を持って、日々を丁寧に過ごしたいと思う。

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小さなことの中に美を見出す好奇心は、心身健やかにいるために欠かせない。ブロッコリーの葉に虹がかかっているのを見た時、何か大切なメッセージを受信した気がした。

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『彼女の羽は開いた』。どこかで読んで心に響いた言葉は、葉っぱの虹と同じ感動をくれた。毎日のこんなささやかな「ピピっと」来ることが、私を豊かにしてくれている。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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