ボローニャ「森の家」暮らし

幸せは暖炉と雪の中に。寒くても心は暖かな1月。

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新しい年を迎えてあっという間に1カ月。今、森は雪に包まれている。

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暖かい日で迎えた元旦。いつものように犬たちを連れて散歩に。

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さらっとした野原に横たわり、大地に大空にいつものようにおはようのご挨拶。毎日が新しいスタートで、毎日がおめでとう。今日もよろしくね、と思っている。

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ふと思い立って作った二重の輪のゴールドのピアスをこの日初めてつけて散歩に出た。そよ風が吹くと笛のような音が聞こえて、まるで妖精が耳元で囁いているみたいでウキウキした。

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大晦日に夜遅くまでパーティをするイタリア人は、元旦は寝正月な人が多い。でも日本人の私にとっては、やっぱり特別な日。

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散歩から帰ると、数日前から仕込み始めたお節料理の仕上げにかかる。毎年子どもたちが「日本の料理を食べる日)と楽しみにしているのだ。遊びにきたニワトリのローズも興味津々。

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身近で手に入るものをアレンジして作るお節料理。今年はレンコンや里芋が見つかったので、それだけで何か得した気分。

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タラのすり身とローズたちの卵で作った伊達巻、焼き豆腐に自家製5年ものの味噌を使った甘味噌、暖炉の周りに干した柿には胡桃を挟んだ。昆布巻の中身はひとつだけうちにあった鯖の缶詰。田作りは小魚がなくてナッツだけ。毎年不評なオリジナル栗きんとん、今年はサツマイモとクリの粉で作って蒸してみたけれど、やっぱり不評。

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母が譲ってくれた漆器のお椀で食べるお雑煮の中身で子どもたちが楽しみにしているのは、焼き餅。

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日本から届いた貴重な餅を炭火で焼く。じーっと見守り、膨れた、くっついた、焦げた、落とした、お皿とって!と騒ぐ3姉妹。

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もうお腹いっぱいだけど、締めのお汁粉は絶対食べたい。お節で食べる餅は、年末に子どもたちと餅つきして作れたら、お節の楽しみが増えていい。

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1月6日はナターレのお祝いの締めくくり、エピファニア(公現祭)。バンビーノ・ジェズ(幼児キリスト)の誕生を知った東方の三博士が旅の途中で出会った女性、ベファーナをキリストに会う旅に誘ったものの、断った彼女。でも思い直して博士を追うも、結局キリストには会えず、後悔して、今でもキリストへの送りもののお菓子を持ってさまよっていると言う。

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今でもエピファニアにはホウキに乗って壊れた靴を履いた魔女、ベファーナが、良い子にはお菓子を、悪い子には炭を持ってくると言う。子どもたちは前夜の5日には靴下を暖炉の前に吊るしてベファーナを楽しみに待つ。

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今年も幸い炭が届いた子はいなかった。

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毎年エピファニアには仲良しの友だち家族が遊びにくる。ベルギー人のカテリーンは子どもたちといつもガレット・デ・ロワを作ってくれる。

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エピファニアの日に食べる「王様の菓子」。パイ生地にアーモンドクリームを挟んで香ばしく焼いたお菓子の中には、陶器のフェーヴが入っていて、それが当たった人はその日1日王様になれる。今年の当たりは……

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長女のゆま。うっかり王冠を作っていなかったので、ボールの冠でおめでとう。

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冬休み中、連日友だちが遊びにきてくれて賑やかだった。気のおけない友だちと囲むテーブルは、美味しいも楽しいも格別だ。

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いろんな料理を作った。うちの卵で作る野菜たっぷりのフリッタータは、いつもみんな喜んでくれる。

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鍋物はイタリア人にも人気。ナターレのお祝いで連日食べすぎたーと言う友だちも、野菜たっぷりの鍋をとても喜んでくれる。それに軽く焼いたおにぎりを入れていたのを見て、そうかなるほど、それはお美味しいよね、と私も真似っこ。

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1月中旬から雪が降って、文字通り暖炉の中で過ごすことが増えた。暖炉は残念ながら7割の熱が失われ、部屋中を温めることは至難の技。相当薪をくべ続けない限り、暖をとれるのは暖炉の近くに限られる。それで炭の熱を利用した料理をしたくなる。一番の定番は、コッチョと呼ばれるテラコッタの背の高い器を使って作る煮豆。水が絶えないように気をつけていれば、炭火の近くに半日置いておくだけで調理ができる。

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この日煮たひよこ豆は、一部はケイパーやマスタードとブレンダーで回してツナのクリームのように仕上げた。

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あとは暖炉で炒めたフェンネル、茹でたジャガイモ、クミンシード、ひまわりの種と合わせて温野菜のサラダに。

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トウモロコシの粉を水に振り入れあとは忍耐強くかき混ぜるだけのポレンタも、暖炉で作ると楽しいし、何だか特別。

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ポレンタにはレンズ豆やキノコ、クルミで作ったラグー風ソースやポルチーニのソース、ゴルゴンゾーラなどを添えて。余ったら天板に広げてオーブンでカリッと焼いて、さらに揚げるとまた美味しい。

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たくさん食べたら散歩に。裏山に登って家の向こうに沈む夕日を眺めたあとは、山のすぐ下に見える家を目指して、森の中の道なき道をまっすぐ降りる。私たちの声を聞いて家からやんちゃな犬、メリーナが駆け上がって迎えにきてくれたりもする。

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草原まで出たらもうこっちのもの。よーいドンで家まで競争。こんな景色、きっと忘れない。

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雪予報の数日前、ボローニャで期間限定で開催されたフォトグラファー、マルコ・オノフリのフォトセッションに行った。

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ポートレートを得意とするマルコは、売れっ子フォトグラファー。著名人のポートレートやファッションのキャンペーンの撮影に忙しい。そんなマルコ、年に何回かさまざまな都市で一般の人のポートレートを撮るフォトセッションを行なっている。去年の夏、マルコが拠点を置くロマーニャの町の大きな公園にいた時、そこにマルコと一緒にいた友だちが私たちに気づき、長女のゆまの写真を撮りたいと、インスタグラムのDMをもらった。そこで何度かやり取りをしてそれっきりになっていたところ、年末年始にボローニャでフォトセッションをしていることを知った。12歳、9歳、5歳と成長に大きな差があるこの時期の3姉妹の写真を撮ってもらいたいと思いたち、予約をしたのだ。

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やっと会えたね!とニコニコのマルコ。みんなユニークでいいね、とそれぞれの写真を撮ってくれた。真面目な顔の三女のたえ、初対面の人とは大抵こんな顔。しかも毎朝幼稚園に行くときも。先生は毎朝たえとにらめっこして、「今日もたえの勝ち!」と笑う。

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たくさん撮ってもらった中で額装してもらうのに選んだのは、家族写真。前回フォトグラファーに撮ってもらった家族写真は、次女のみうが生まれる前日。大きなお腹でパオロと当時3歳弱のゆまと、4本足の「長女」ゆずと撮ってもらったもの。

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高校の時は写真部で、白黒の写真を暗室で現像するのがとても楽しかった。昨今便利で高機能なスマートフォンで写真を撮らない日はないし、アルバムにしたいと思う写真もたくさんあるけれど、印刷して写真を手にすることはなかなか無いのは残念だ。本も雑誌も紙派で、手元に残しておきたいタイプ。長女が生まれてから次女が生まれて数カ月までの間の写真は編集して3冊のアルバムにしてあるけれど、それ以降は忙しいのを言い訳に、いつか作ろうと思いながら何年も経ってしまった。子どもたちは度々アルバムを広げては、小さい頃はこうだった、ああだった、と懐かしむのが微笑ましい。今年は2020年の2月末に森の家に越してきてからのアルバムでも作れるといいなと思う。

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マルコはゆまと私の写真をプレゼントしてくれた。

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マルコのこだわりトレンチコートのブランド、AVEC LE VENT(風と共に)は、ジェンダーレス、タイムレスなデザイン。型はひとつで、数量限定で一着ずつ仕立て職人が作っている。素敵なトレンチを着せてもらい、ふたりで緊張気味にカメラの前に立つと、マルコの後ろからみうが「ゆまかっこいいじゃん」とポーズをとっておどけていた。それがおかしくてふたりで吹き出して、自然なショットになった。思春期に入りかけのゆまとのこんな写真は、またいい記念に。

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お礼がしたくて、カメラを構えるマルコのポートレートを作った。するととても喜んでくれて、なんとポートレートのお返しが。

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さすがプロ。影の遊び方が最高。ありがとうマルコ!

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森に戻ると薪が届いていた。これから2週間は氷点下の予報なので、追加の薪を頼んでおいたのだ。

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薪を積んでいる間、みうとたえはこんな可愛いピクニックコーナーを作って遊んでいた。ふたりが食べ残したリンゴやフェンネルの葉っぱは、ニワトリたちがきれいさっぱり食べいった

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雪が降る前には、準備することがいろいろある。たえは畑の作物で寒さに弱いものを一緒に収穫して
くれた。

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パセリやフェンネル、ボラジやサラダ類などは不織布でカバー。芽キャベツ、ブロッコリー、ケールなどは寒さに強いので安心。

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11月末に植えたニンニクは、今まで暖かかったのでぐんぐん伸びてしまった。しかも策を飛び越えてくるニワトリがほじくりまくり、土がほとんどかかっていなかったり、芽が折れてしまったりでがっかり。ここも不織布でカバーして雪に備える。特に身軽な若いニワトリが柵を越えてしまうので、春夏の野菜を植える前に何かしら対策を考えないといけない。

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真冬に庭でこれだけ野菜や卵が手に入るのは、本当にありがたい。

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そして天気予報通り、雪は降った。

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本格的に降り出した翌朝。

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大抵除雪車が夜中でも出動して道をきれいにしていてくれるけれど、この日の朝は道にも雪がしっかり積もっていた。うちから学校のある町までの近道は急な山道で、車整備士で農家のドナートが除雪を担当しているけれど、除雪がどの道も追いついていなくて遠回りして学校に向かうと、ドナートがやっぱりせっせと除雪をしていた。

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見慣れた景色も雪化粧をすると別世界。

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ニワトリたちは雪で外に出られず、きっと退屈している。

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それでもせっせと卵を産んでいてくれた。藁を敷いた箱は6つ置いてあるけれど、ドアにいちばん近い箱が卵を産むのに人気で、代わる代わる座っている。5羽いる中、毎日3羽くらいが卵を産んでいるけれど、毎日同じニワトリが産んでいるのか、交互に産んでいるのかは不明。この時は二日卵をとらなかったので、お宝の山ができていた。

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うちのチベットヤギたち。雪を見るのはこれが初めてで、雪が積もっているとニワトリより外に出たがらない。一年前まで6年間いたチベットヤギのクルミは、ロバたちといつも一緒にいて、雨でも雪でも外にいて、冬の間は藁を食べていたけれど、ニューエントリーのこの二匹は濡れるのが嫌いで、藁には見向きもしない。しかも、ニワトリ小屋から餌を食べることを憶えて、ニワトリ小屋に住み着く勢い。気がつくと、よくヤギたちがニワトリ小屋にいて、ニワトリたちがヤギの家にいる。チベットヤギたちは残念ながら卵も産まないし、ミルクも出ない。ロバが食べなくて安心していたツバキの葉っぱも食べてしまう。でもなんだかひょうきんで面白いこのシスターズ。早く雪が溶けて草が食べられるようになりますように。

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誰より雪を楽しんでいるのは子どもたち。ソリで斜面を滑ったり、秘密の基地を作ったり、つららをかじったり、グラスに雪を盛ってオレンジを絞りかけて食べたり。それからかじかんだ手足を暖炉に突っ込んであっためて、ホットチョコレートを飲む。

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真っ赤なほっぺは子どもの勲章。

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昔は1.5メートルの雪が降ることも珍しくなかったそう。50センチくらいの雪はなんてことないし、大地には必要なこと。「雪の上では空腹、雪の下にはパン」というのは、麦畑のはなし。積もった雪はゆっくり溶けて、地下深くまで染み入る。猛暑で雨不足の夏が普通になってきている今、これくらいの雪が木々が花を咲かせる前に降ってくれるのは良いことだ。

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自然も動物も人間も思う以上に順応力がある。変化を恐れず感を信じて勘を信じて、いつも好奇心とコンパッションを忘れずにいたい。

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そしていつでも願うのは、この星に住むみんなの自由と平和と幸せのこと。みんなにとって、新しい1日がより良い日になりますように。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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