ボローニャ「森の家」暮らし

心と身体をアンテナに。ひらめきをたくさんキャッチした2月。

一月に降った雪は、連日零下だった2月中旬頃までながらく残っていた。

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雪が溶け始めると、下から健気に花を咲かせる野花が顔を出す。

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陽があまりとどかないところで一日中凍ったままの草花を見ると、春が来るまでがんばって! と応援してあげずにはいられない。

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野の草花は、凍っても踏まれても刈られても文句もいわず、いつの間にか何種類もが重なりあい増え、ひとつの緑の絨毯を形成し、エコシステムができている。マクロもミクロもユニバーサルな法則は同じだ。人と動植物のいちばんの違いといったら、人にはエゴがあり、マインドが作り出す過去や未来のストーリーにとらわれがちで、今をあるがままに生きることが難しい生き物だということか。そんなことをよく考えるようになったのは、ここ1年くらい。森に越してきて2月末でまる3年になる。

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毎朝子どもたちを園と学校に送り届けたら、たいていいつもの場所まで散歩。靴をぬいで横たわりグラウンディング。ヨガやメディテーションをして大地のエネルギーをチャージ。

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インスピレーションはいつ降りてくるかわからない。アンテナを広げていると、思わぬところからひらめきがやってくる。

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自然は表情豊か。いつもの場所から臨む景色は、いつも何かしら違った表情を見せてくれる。

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この地に根をおろし、育てた野菜や摘んだ野草を使って家族や友だちに料理をしたり、降りてきたインスピレーションから作品を作って生活できる私は、本当に幸せだ。

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近くにあるカゾンチェッロの庭園のガブリエッラ。雪が溶けて、久々に訪れた。門をくぐると、日本の熊手を持って倉庫からひょっこり顔を出した。寒いのは苦手で氷点下の日は家の中で溜まった書き物をしていて、暖かかったこの週は庭仕事に大忙し。

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そんな中、着々と春めいてきた庭園を快く見せてくれた。イングリッシュガーデンに欠かせないスノードロップは、始めは数株だけ植えたものが、パッチワークのように庭園のあちこちに広がっている。

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北イタリアはトレンティーノの山の中で幼少期を過ごしたガブリエッラ、一面スノードロップが咲く景色は、子どもの頃の思い出の風景だとゆらゆら揺れるスノードロップを撫でながら目を細める。

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畑には、キャベツにドームが被されている。ノラジカが食べに来るので守っているそう。

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春の野花を描いたジョウロを持ってもらった。雪に夕日の黄金の光を浴びたガブリエッラはなんだか神々しかった。

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エプロンには野花の影が。このエプロン、なんと50年くらいもの。あちこち綻びたところには友だちが葉っぱのアップリケをしてくれたそう。

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渡したいものがあるからと、家にお邪魔した。バレンタインの前の日生まれのガブリエッラの誕生日は、いつも友だちが手の込んだサプライズをしてくれて、今年は「お誕生日おめでとう」とメッセージが入ったガーランドにたくさんの折り紙の花を飾っていてくれたそう。もう80をとうに超えている彼女はいつもとってもチャーミング。

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愛ネコジャンビーは、まるまるでふわっふわ。

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引き取った時は兄弟だったそうで、女の子は胸元と手足が白くて、うちのミミとそっくり。

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ガブリエッラの家は、まるで魔法がかった物語に描かれたよう。どんな作品もしっくりくる。ハーブや野草を施したポットは、こんな素敵な薪ストーブがとても似合う。

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ロシアの民話の魔女ババヤーガの、鶏の足の生えた家にインスピレーションを得た足の生えたハーブの家。ここほどしっくりくる場所はない。

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日常の風景や地元のユニークな人たちに感性を刺激されているのは私だけではない。

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三女のたえと畑の野菜を収穫して、すでに暗くなっていたので、「また外に行こうよ!」と言われた時は、もう暗いし寒いし明日にしようよと言ったら、「夕焼けと星を見に行くんだよ!」と言うので、あっと思った。

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夕焼けの後に西の空に輝く星は、上が木星、下が金星。南東にはオリオン座。その左下にはシリウス。携帯電話の星座票を確認しながら、たえと夜空を眺める。手も鼻も冷たくなったけど、心は温かいもので満たされた。

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春めいた日が続いた一週間。2月最後の日曜日はまさかの雪で、月初めに戻ったかのよう。この日三姉妹と約4年ぶりに日本に発った。

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門の外の花壇には膨らみだした水仙のつぼみ。雪があとからあとから降ってくるので、早めに空港へ。

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乗り継ぎ時間5時間近くの長旅もおかげさまで快適だった。東京到着の少し前、森の空で見たような橙色のグラデーションに染まった空に、凛とした富士山が見えたときには、思わず手を合わせた。

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刻一刻と変化するその風景に、心を打たれた。神聖なものを感じ、感謝で胸いっぱいになった。同じ空だけど、二度と同じ風景には出会えない。この世は奇跡の連続なのだ。

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森の家を出発してから実家のドアをくぐるまで、27時間。翌朝には小春日和のポカポカな庭に素足で降りた。そして甘い香りを放つ水仙に顔をうずめて、森に残してきた家族を想った。私はこんな風にあっと気持ちが上がる瞬間を重ねて生きているのだ。

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久々の帰国は、森で作ったたくさんの作品と。東京の素敵なブティック、Pale Juteと個展をすることになった。2019年に続き二度目の東京での個展となる。

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森の家のお土産、の文字通り、森の家の顔になっているものほか、春の大地のエネルギーを編み込んだ新作をたくさん連れて帰ってきた。

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会期は3月9日から3月12日まで。(3月9日は完全予約制。)
場所は渋谷区代々木上原TERRANOVA HOUSE。開催時間などの詳細はPale Juteのページまで。
森で生まれた作品のエネルギーと、訪れる人たちのエネルギーが混ざった会場でアルケミーが起きること、楽しみにしている。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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