ボローニャ「森の家」暮らし

毎日が新しいはじまり。自分が世の中に出来ることを考える1月。

いつものように朝が来て、新しい1日が始まった。昨日と違うのは、グレゴリオ暦で新しい年になったこと。

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今年は辰年。新年のお飾りは、登竜門など龍になると伝説がある鯉。

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7年前にミラノでの個展の時に作った、陰陽、ハーモニーをイメージした作品。その後結婚式などの贈り物にと、基本同じデザインでさまざまなサイズのものを作った。

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こんな小ぶりなものは、年明けすぐに結婚した友だちアルフレッドとクリスティーナへの贈り物。三輪の花は、ふたりのティーンの子どもたちと愛ネコ。

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お正月には、今年も子どもたちが毎年楽しみにしているおせち料理を作った。

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伊達巻は出汁卵と、いつもは白身の魚のすり身を入れるけれど、材料不足で豆腐に変更。そのせいか巻きが落ち着かなかった。昆布巻きは去年帰国の際に購入したカンピョウを初めて使ったら、しっかり縛れて大満足。セイタンで作ったローストビーフ風の中身はドライトマト。紅白なますは人参と庭のコールラビで。太巻きは鞠寿司よりお米を食べすぎなくて良いと思って作った。汁物は、ボローニャでナターレや新年に欠かせない詰め物パスタ、トルテッリーニ。

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見るのは大好きだけれど好物しか食べなかった子どもたちも、ほとんどみんな食べるように。作るのは手間暇かかるおせち料理、食べるのは一瞬。でも楽しい食の記憶が残ってくれればそれでいい。

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おせち料理で子どもたちが最も楽しみにしているのは、きっとお餅。炭火で焼くとなんでも美味しさが増す気がする。

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小豆もなかったので、赤い豆で作ったあんこのお汁粉風を、みんな満足げに食べているのを見て、年明け早々ひと仕事終わらせることができてほっとした。

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残ったおせち料理はわっぱのお弁当箱に入れて、カゾンチェッロの庭園のガブリエッラに届けることに。

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前世は日本人じゃないかと思うくらい日本好きのガブリエッラ。毎年6月にお友だちのももよさんが日本から来て、庭園で懐石料理の会などをしているけれど、おせち料理は初めてのはず。料理の内容と説明を添えて、いつもの扉の前に置き土産。

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翌日、「おかげさまでカゾンチェッロでも日本式に新年をお祝いできたわ!」とお礼の電話をくれた。

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カンピョウがとても気になったそうで、植物辞典ですぐに調べていた。タネが手に入るようだったら育ててみたい。

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毎年年末に買う『バルバネーラ(黒ひげ)』は、生活歴の本。畑や庭仕事、ホロスコープ、レシピ、家やウェルネスなどさまざまな実用的な提案に満ちていて、とても充実した内容。日の出日の入り、月の満ち欠けも時刻まで記してあり、自然農法やファスティングなどでも月のカレンダーは重要なのでとても重宝。カトリックの国イタリアでは、毎日が誰かの聖人の日。人の名前のほとんどが聖人の名前なので、自分の名前の聖人の日には誕生日のようにお祝いのメッセージが贈られる。多くのカレンダーには聖人の日の名前が書いてある。カレンダーを毎日見てはいないけれど、友だちの名前だった日にはおめでとう、元気にしてる?と連絡を取ってみるようにしている。

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この生活歴の歴史は、なんと1762年に遡る。ユネスコは2015年、『バルバネーラ』を何世紀にも渡って人々に知恵と理解を広めることに貢献してきた「世界の記憶」として表彰した。グラフィックも素敵で、書いていることもおもしろいので、機会があればイタリア語を勉強している人ほか、古くからある生活歴に興味がある人も手にとってみることをお勧めしたい。

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新年には一年の抱負を決めたりするようだけれど、私はそう肩に力が入った感じのことは続かない気がしてやったことがない。そして毎日が新しいはじまりで、思い立ったらやりどきで、いつはじめてもいいと思う。

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もう何年も朝晩ちょっとした儀式的なことを習慣にしたいなと思いながら、これでいいものかと疑問があったり、やったりやらなかったりで、なかなか続かなかった。それでも、もう半年以上、寝る前に1日にあった大小さまざまな感謝したいことを書き留めてきた。年末くらいから呼吸法、身体を使ったヨガ、メディテーション、ジャーナリングなどを朝行うのが習慣化して、今年に入ってからは毎朝誰よりも先に起きて、キャンドルを灯しお香を焚いて1時間ほど自分と向き合う時間を持つようになった。

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休日で天気が良い日は、裏の丘の上で朝日を浴びて朝ヨガ。

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毎朝1、2分日が昇る時間が早くなり、月末には早朝から黒鳴鳥が鳴くようになって、着実に季節が巡っているのが感じられる。

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野外でヨガをすると、呼吸もより深くなり、さまざまなポーズも大地としっかり繋がって、安定感が違う気がする。そしてとにかく気持ち良い。身体中の細胞が喜んでいるに違いない。朝日は心と身体の栄養剤のように潤してくれる。

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身体を動かした後はメディテーション。そして感謝していること、祈りの言葉、テレパシーのように降ってくる言葉を綴る。

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そして気のおもむくままタロットやオラクルカードを引いて、潜在意識からくるメッセージを受け止める。

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そして浮かんだイメージを描きとめる。

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学校がある日は子どもたちを送っていったあと、犬たちといつもの丘の上に。毎朝霜が降りて寒いけれど、冬らしい寒さは嫌いではない。

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大地に寝転がって、真冬の寒さに縮こまった植物を感じる。野生の枇杷やアザミのような枯れた花の房にはたくさんの虫たちがおしくらまんじゅうをして寒さをしのいでいる。今は引き締まった表情の野原も、春になるにつれどんどん新芽を出し、たくさんの生き物がやってきて、生命に満ち溢れる。

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植物も動物も虫たちも、ただ今を当たり前に生きていて、何も後悔したり嘆いたり先を思ってうなだれたりもしない。見習いたいことがたくさんある。

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家に帰ったら、スパイスが効いたお茶を入れ、暖炉に座って手足を温める。昔はこの辺りでも2メートルの雪が積もる冬もよくあったとか。昔の人は冬中暖炉を囲って生活をしていたのだろう、築200年ほどのこの家には各フロアに1、2個暖炉があり、特に二箇所のダイニングの暖炉前の床のレンガは擦り減っている。

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暖炉の前に椅子を並べて編み物や縫い物をしたり、暖炉の火で料理をしたりしていたのだろう。

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いまでも暖炉は大活躍。学校に行く前、子どもたちは暖炉を囲って朝ごはん。暖炉脇の木の収納箱の上には一日中発酵させて作る天然酵母のパン生地。

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地元のオーガニックの粉数種類に、麻の実の粉やさまざまな種を入れたり毎回アレンジして作るパン。少し酸味がありしっかりした生地になりがちなので、子どもたちは白くて柔らかいパンがあると大喜びする。

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それで時々白い粉を多めで癖のないビール酵母で作るけれど、そのうち天然酵母と粗挽きの粉で作った味わい深いパンの良さがわかってくれたらいいなと思う。

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意外と問題なく食べてくれるものといえば、冬中作るサワークラウト。薄くスライスしたキャベツに重量の2パーセントの塩をよく揉み込んで、水分がたっぷり出たら瓶詰め。

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切らなかった葉っぱで全体を押して、葉っぱの上まで水がくればオッケー。必要だったら重石を乗せて蓋をして、暑くなさすぎれば室温においておくだけ。

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初めの数日は毎日一度は蓋をあけガスを出してあげる。あとは置いておくだけ。5日もすればいい感じに発酵している。

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発酵を止めたければ冷蔵庫や寒いところに。乳酸菌が抱負で身体にとても良い発酵食品は特に冬場は日常的に食べたい。サワークラウトはこのまま食べるだけでなく、蒸したりグリルしたりソテーした野菜を加えても美味しい。

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オーブンでカリッと焼いたキクイモ、カリフラワー、ブロッコリーは、スープやカレーのトッピングのほか、サワークラウトにもとても合う。

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アブラナ科の野菜、特にブロッコリースプラウトには、スルフォラファンという化合物が豊富で、特にガン予防、糖尿病予防、心臓血管の健康にも効果があるとして注目されている。この成分を活性型にする酵素は調理すると破壊されるものの、マスタードシードを加えることで酸素が活性化されるので、調理したブロッコリーやカリフラワーにはディジョンマスタードを加えることが多い。キクイモの甘さとサワークラウトの酸味もマスタードとよく合い、子どもたちもたくさん食べてくれる。

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畑では冬野菜が毎日のように収穫できる。収穫しながらウサギのようにもぐもぐかじる。ケールやホウレンソウなどは寒くなるにつれ甘味と旨味が増して、より美味しくなる。

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末っ子のたえもこの葉っぱは前より甘くなったとか、この野菜は寒いのが苦手みたい、などよく観察している。

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季節の野菜を意識して食べることも自然と身につけてくれたらいい。

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料理する水、飲み水は隣の村の森にある湧き水を使うようになった。うちの周りは古い水道管で、フィルターを使っていても少し黄色味かかっていて気になっていたのだ。

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5リットルのタンクを三つ、4、5日ごとに汲みに来る。苔が生える栗林の中、水が流れる音を聴きながら森林浴。心身清められるような豊かな時間。

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岩には誰かが掘った顔が。ここを守るお地蔵様のようで、来るたびにご挨拶。

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このお地蔵様に、先日親友のユリアも紹介した。ドイツ人ファイバーアーティストの彼女とは、一年先のプロジェクトに向けて準備を始めたところ。

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去年の夏にロンドンに行った時に見たスウェーデン女性アーティスト、ヒルマ・アフ・クリント(1862ー1944)にとても刺激を受け、ユリアに展示会の図録を見せたらやっぱり感激して、一緒に本を解読しながらいろいろイマジネーションを膨らませた。

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ヒルマは神秘主義者で、その作品は西洋美術史における最初の抽象絵画だと言われている。同じ思想を持った4人の女性芸術家と精神世界とチャネリングして描く芸術家集団を結成したり、とてもアヴァンギャルドな活動をしていた。ちなみにヒルマが大尊敬していた神秘思想家、哲学者、教育者のルドルフ・シュタイナーは、ユリアのひいお爺さんと交流があった。

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これから月に数日、ボローニャのユリアの家で一緒に作品を作っていきたいと思う。一緒に作品を作るのは9年ぶりくらい。人としても、アーティストとしても大好きなユリアと一緒に美しい世界を創造できると思うと、幸せすぎる。

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世の中にはまだまだ争いが絶えず、自然災害も各地であり、苦しみや悲しみもたくさんある。ボランティアや署名活動、物質的な援助など自分ができることはやるとして、世の中の苦しみ、悲しみに心を痛めたり、恐れ、怒り、分裂、批難などのエネルギーに参加する必要はない。ネガティブなエネルギーは伝染し、そこから物事を解決することはできない。

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みんなが個々にできることは、美しいこと、楽しいこと、好奇心をそそられることで胸をときめかせ、そのエネルギーを分かち合うこと。そんなポジティブなエネルギーの伝染力は計り知れない。世の中を良いエネルギーに変えたいなら、まずは自分から。唯一コントロールできることは、自分の精神状態のみ。だからこそ、己を知るために自分と向き合う時間が大切なのだ。

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私がどう世界に貢献できるか考える。それは、作品や写真を通して美しいものや風景、心も身体も喜ぶ食卓、楽しい時間のひとコマを表現したりシェアすることで、心が豊かになったりインスピレーションを振りまくことなのかもしれない。

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今年も自分流にいろいろなことを表現して、ワクワクのエネルギーを伝染させたい。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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