Editor's Blog

名画の中の、可愛すぎる動物たち。

最近、というか以前から、版画や浮世絵が好きで展覧会へと出かけている編集MIです。今年2月に入り、「お、これは」と思う展覧会が続々とスタート、あらためてそれらの情報をチェックしていると、ある共通点に気付きました。

まず、どこかユーモアが漂っている。そして、なんとも愛らしい動物が登場する。という2点です。個人的に動物絵は好きで見入ってしまうのですが、今回私が惹かれた4つの展覧会では、可愛すぎる動物たちがそれぞれの絵師の筆の元、生き生きと描かれています。もちろんそれ以外にもリアリティのある風景画や人物画などもあるのですが、今回は私の独断と偏見で、4つの展覧会を“可愛い動物”という視点からご紹介したいと思います。

まず、あまりに愛らしすぎて悶絶したのがこちら。

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葛飾北斎『北斎漫画』 草筆之部(部分) すみだ北斎美術館蔵

なんですか!このフクロウは!! 赤い頭巾?をかぶって居眠りしていますよ。子どもみたいに安心しきった表情に、こちらまでほっこり気分です。
すみだ北斎美術館で開催中の、『北斎アニマルズ』展です。先日のブログでも北斎の展覧会『新・北斎展』をご紹介しましたが、こちらでは北斎の動物にフィーチャーしています。

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葛飾北斎『三体画譜』(部分) すみだ北斎美術館蔵

続いて、ひょうきんな表情でこちらを見つめてくる犬。ころんとしたフォルムと、目と口元のゆるさにやられます。北斎の絵は目に特徴があると言われていますが、半月型の真っ黒なつぶらな瞳がたまりません。さらに……

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葛飾北斎『略画早指南』初編(部分) すみだ北斎美術館蔵

いたずらっ子な表情で、枝に片手でぶらさがるお猿さん。雪だるまみたいに円と円が連なったディテールも、可愛さアップの一要因。デザイン的にも北斎ならではのアイデアが光っています。それでありつつ、毛並みは生き生きと写実的。実はこちらの絵は、「略画早指南」といって、定規とコンパスを使って絵を描く方法を説明したもの。オランダの画法が元になっているそうです。

天才と言われている北斎ですが、本人は常に現状に満足はしていませんでした。有名な逸話があります。80歳を超えた時、「猫一匹まともに描くことができない」と、涙を流しながら娘のお栄に語ったといいます。

さて、お次の動物はこちら。

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小原古邨『踊る狐』(個人蔵)前期

ん?キツネが葉っぱをかぶって踊っています。雨がうれしいのかしら? こちらは『小原古邨』展。ラフォーレ原宿の裏にたたずむ浮世絵専門の美術館、太田記念美術館にて展示がスタートしています。

小原古邨――私も少し前までこの名前を知りませんでした。昨年、茅ケ崎美術館で開催された展覧会へ出かけた際、その透明感とまるで水彩画のような美しさに、一瞬で虜になってしまいました。明治生まれの古邨は、海外ではたくさんのコレクターがいて人気の絵師だったのですが、日本ではほとんど無名だったそう。作品は木版画ですが、間近で見るほどに、その淡い色彩にため息がでます。そんな古邨の版画にも、ユーモアあふれる動物がいろいろ。

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小原古邨『猫と提灯』(渡邊木版美術画舗蔵)後期

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小原古邨『猿と蜂』(個人蔵)前期

いたずらな表情を浮かべながらネズミを捕まえる猫の躍動感。そして、猿が蜂を片手につかみながらなにやらうっとりしている表情に和みます。古邨は花鳥画も本当に素晴らしいので、ぜひそちらも会場で!

続いてこちらは……

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『鳥獣戯画 猫又と狸』河鍋暁斎 一面 19世紀 河鍋暁斎記念美術館 展示期間:3月6日~3月31日

河鍋暁斎です。猫と狸が踊る絵は、ユニークながらもどこか妖しげな雰囲気。これは暁斎の得意とする戯画。実は猫と見えるのは猫又です。ユーモアの中にもどこかおどろおどろしさも感じられますが、やっぱり可愛い。

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『虎図』 河鍋暁斎 一面 19世紀 東京・正行院 全期間展示

雄々しい虎も、その表情と手元にさり気ない愛らしさが漂います。そして、素朴な佇まいながら、どこか愛嬌を感じて惹かれてしまったのが、こちら。

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『枯木寒鴉図』 河鍋暁斎 一幅 明治14年(1881) 榮太樓總本鋪 展示期間:2月6日~3月4日

真っ黒な一羽のカラスなのですが、ぷくっと膨らんだ胸もとと、なだらかな背中のフォルム。そしてまん丸の黒い瞳。この朴訥とした存在感が、私にとっては可愛く映るのです。こちらの作品は、第2回「内国勧業博覧会」で最高賞を受賞。戯画で人気を博していた暁斎が、狩野派仕込みの水墨技術で従来の評価を覆したと言われています。この作品に百円という高額な値段をつけたところ世間から非難されるも、「これは鳥(カラス)の値段ではなく、長年の苦学の値である」と答えたという、有名なエピソードもあります。

風刺画や妖怪画の印象が強い暁斎ですが、サントリー美術館で始まった『河鍋暁斎 その手に描けぬものなし』では、狩野派で学んでいたアカデミックな人、古い絵画をよく学んだ勉強家、という側面をクローズアップ。狩野探幽が描いた戯画図鑑を所有していたり、実はお寺で修行していたこともあるなど、知られざる暁斎がまだまだ潜んでいるようです。展覧会では、そんな暁斎の側面も、じっくり堪能してみてください。

そして最後は、斉白石(せいはくせき)です。斉白石は、中国近代絵画の巨匠。昨年末、 東京国立博物館 で展示され、現在、京都国立博物館へ巡回中。素晴らしい水墨画の数々が並びます。

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『松鷹図』 斉白石筆 北京画院蔵 通期展示

飄々とした顔で斜め上を見上げる鷹。どこかひょうきんな印象です。

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『葫蘆小鶏図』 斉白石筆 北京画院蔵 2月26日~3月17日展示

下の方を見てください。ころころとしたヒヨコがたまりません。まるでぬいぐるみのようなフォルム。

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『葡萄松鼠図』 斉白石筆 北京画院蔵 1月30日~2月24日展示

2匹のネズミがブドウに夢中です。つぶらな瞳が可愛すぎる……。取り合っているのか分け合っているのか? 墨の色とブドウの淡い紫の色合いも美しい。
いずれも、植物と動物の配置や余白の取り方も素晴らしく、一枚一枚味わい深い魅力にあふれています。

斉白石は現代の中国では誰もが知る巨匠。晩年には「人民芸術家」の称号が授けられ、国民的な存在に。かたや当の本人は、エビやニワトリを描くのが好きで、素朴で味わいのある画風を深めていったそうです。『中国近代絵画の巨匠 斉白石』は、日中平和友好条約締結40周年を記念した展覧会。その孤高の造形美と可愛らしい動物絵に出合いに、ぜひ京都へも訪れてみてください。

さて、4人の絵師の動物絵を見てきましたが、みなさんはどの動物がお好みですか? 心惹かれる動物絵に出合った時のワクワク感・至福感は、なんともいえません。ぜひみなさんもお気に入りを見つけてみてくださいね。

『北斎アニマルズ』
会期:開催中〜4月7日
会場:すみだ北斎美術館
開)9時30分〜17時30分 ※入館は17時まで
休)月(祝日の場合は翌平日)
入場料金/一般¥1,000ほか

●問い合わせ先:
tel:03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://hokusai-museum.jp


『小原古邨』
会期:開催中〜3月24日
前期 〜2月24日 後期 3月1日〜24日
※前後期で全点展示替え
会場:太田記念美術館
開)10時30分〜17時30分 ※入館は17時まで
休)月(祝日の場合は翌日)、展示替え期間
入場料金/一般¥700ほか

●問い合わせ先:
tel:03-5777-8600(ハローダイヤル)
ukiyoe-ota-muse.jp


『河鍋暁斎 その手に描けぬものなし』
会期:開催中〜3月31日 ※展示替えあり
会場:サントリー美術館
開)10時00分〜18時00分(日〜木) 10時00分〜20時00分(金、土) 10時00分〜20時00分(3月20日) ※入館は閉館の30分前まで
休)火(3月26日は18時まで開館)
入場料金/一般¥1,300ほか

●問い合わせ先:
tel:03-3479-8600
suntory.jp/SMA


『日中平和友好条約締結40周年記念 特別企画 中国近代絵画の巨匠 斉白石』
会期:開催中〜3月17日
前期 〜2月24日 後期 2月26日〜3月17日
※展示替えあり
会場:京都国立博物館 平成知新館2F 1〜4
開)9時30分〜17時00分(火〜木、日)  9時30分〜20時00分(金、土) ※入館は閉館の30分前まで
休)月(祝日の場合は翌火曜)
入場料金/一般¥520ほか

●問い合わせ先:
tel:075-525-2473
kyohaku.go.jp

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